2021 Volume 63 Issue 4 Pages 481-483
当院は,1971年に開所されたがん検診センターにがん診療機能を付加する形で,1986年に開設された.「学問に裏付けられた最高の技術を愛のこころで県民の皆様に提供する」という理念のもと,都道府県がん診療連携拠点病院として栃木県のがん医療を担っている.2016年には地方独立行政法人となり,より地域のニーズに根ざした包括的ながん診療を提供するために,全診療科が協力し合いながら,高度で専門性の高い診療を提供すべく,日々の診療に取り組んでいる.
組織内視鏡センターとして独立しており,専従の消化器内科の医師が消化管に関するほとんどすべての検査・治療を担当しているが,兼務している消化器外科や呼吸器内科/外科の医師が行う検査も一部含まれる.看護師は内視鏡,放射線エリア全体を16名で担当しており,内視鏡技師の資格を有するスタッフも4名含まれる.
検査室レイアウト

もともと検診センターであったこともあり,開院時から検査部門が充実していた当院では,内視鏡部門と放射線部門がひとつの診療部門(画像診断部)として永らく診療を行ってきた.そのため内視鏡と放射線の設備が同じフロアーに混在しているのが特徴である.独法化に伴う再編で画像診断部は消化器内科,放射線診断科,IVR科に分割されたが,看護師や放射線技師,事務員などの人員は,現在でもいくつかのエリアを兼務している.内視鏡センターの総面積は354m2となり,上部専用,下部専用の検査室各2部屋に加えて,ESDや緊急内視鏡時に使用する広い処置用検査室を備えている.また,透視を要する手技に関しては,同じフロアーにある放射線エリアの放射線透視室を使用可能であり,合併症時の対応や内視鏡処置からIVRへの移行なども,比較的スムーズに行うことができる.
なお,検査精度を重視して下部内視鏡検査の前処置は全例センター内の前処置室で行っていたが,新型コロナウイルス対策で患者が密集するのを避けるため,約半数を在宅での前処置に切り替えたところである.
(2020年7月現在)
医師:【消化器内科】消化器内視鏡学会 指導医2名,消化器内視鏡学会 専門医1名,その他スタッフ2名,研修医など2名
内視鏡技師:Ⅰ種4名
看護師:【放射線部門と兼務】常勤11名,非常勤5名
事務職:3名
その他:【看護助手】3名
(2020年7月現在)

(2019年1月~2019年12月まで)

地域がんセンターという性質上,新専門医制度における専攻医は現在在籍していないが,日本消化器内視鏡学会指導施設として,様々な形での研修を受け入れている.
長期の研修を希望するものは,基本的にはレジデント(3年間)あるいはシニアレジデント(2年間)として採用することとなる.がん専門病院の使命として,1)EBMに基づいた最先端の高度な医療を提供する,2)診療の役に立つ先進的な研究を行う,3)県内医療機関の教育・研修活動に助力する,の3つを目標に,消化器内科の一員として,内視鏡検査・治療に特化した診療を行う.まったくの内視鏡初心者からESD経験者まで,様々なレベルの研修医を受け入れているため,研修内容は個々の技量に応じて設定される.臨床においては,基本的には毎日内視鏡室での検査・治療に参加し,専従内視鏡医3名(指導医2名,専門医1名)のバックアップのもと,多くの症例を経験することが可能である.また常時15件程度の臨床試験に参加しているため,その活動を通じて,臨床試験の方法論や意義について理解を深めることができる.さらに,学会,研究会等での発表も積極的に行っており,研修医にも多くの発表の機会が与えられている.研修期間中には他科へのローテーションも可能であり,特に消化器内視鏡診療と密接な関係にある病理診断や化学療法に関して,数カ月の研修を推奨している.
コメディカルスタッフにも内視鏡技師資格の取得を勧めており,内視鏡技師会と関連した活動にも力を入れている.部内でも定期的に勉強会や機器取り扱いの講習会を開催しており,医師と看護師が合同で臨床研究を立案し,実施することも少なくない.これらの取り組みは研修医にとっても貴重な経験となるだけでなく,良好な職場のコミュニケーションにもつながっている.
このほかにも,県内の診療水準の向上を目的に,他施設からの研修も受け入れている.週1回など可能な範囲で検査に参加して,内視鏡に関する基本的な知識や技術を取得することも可能であり,「来るもの拒まず」の精神で,様々なニーズにできる限り対応するようにしている.
多くの施設同様,慢性的な人員不足が大きな問題となっており,「働き方改革」に対応するためにも,医師,看護師の勤務形態を見直す必要に迫られている.がん専門病院の特性上,スクリーニング検査が少なく治療が多い傾向にあるため,内視鏡医の肉体的,精神的負担は大きく,従来のように「時間の許す限り検査枠を設定する」という考え方ではオーバーワークになる恐れがある.また内視鏡診療の高度化により,より専門的なスタッフが必要とされる状況において,当センターでは看護師が内視鏡部門と放射線部門を兼務しており,専門性よりも作業効率を優先した配置となっている.看護師数を増員できれば解決する問題ではあるが,内視鏡分野に限らず多くの病院が直面している課題であり,簡単には解決しない.現実的には,業務のスリム化が必要であり,病院の特性を考えて精密検査や治療に特化した体制をとることが,今後のあるべき姿と考える.
ハード面でも施設の老朽化が進んでおり,またレイアウトに関しても30年以上前の発想で作られていることから,業務の効率や患者の快適さの面で改善が望まれる.しかし,病院の大幅な改修あるいは立替が必要な案件であり,すぐに対応することは困難である.
今後予想される大腸癌の増加と胃癌の減少を念頭に,それに対応するための体制を整えることが今後の診療における課題であり,検査件数を増やす方向性だけでなく,必要の無い検査を減らす勇気も求められる.ただし,検査を希望する患者に「検査の必要はありません」と説明するためには,国や学会レベルでの推奨が必要であり,より大きな視点での取り組みが求められる.
がん専門病院として何を求められているのかを理解し,地域のニーズにあった形で診療体制を整備していく必要がある.研修医の受け入れや指導を通じて,地域との良好なコミュニケーションを維持していくことが当センターの任務であり,そうした信頼関係が結果的には地域患者の利益へとつながるものと考えている.