GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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Masanori SUGIYAMA
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2021 Volume 63 Issue 5 Pages 1087-1098

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要旨

私は英文論文を執筆することの重要性を認識していたが,40歳まで執筆できなかった.その後初めて研究や英文論文執筆の楽しさを知り,80篇以上の論文を筆頭著者として発表することができた.本稿では臨床医にとっての研究の意義,英文論文作成の基本を述べた.昇進・就職のための義務として始めた研究でも,新しい知見を発見・発表するという喜びを見出せるようになる.研究を通して科学的姿勢を身につけることは臨床医にとっても重要である.よい論文の条件は新知見があり,論理的,簡潔・明快なことである.研究の目的,結論,意義,独創性を明確に述べることが重要である.最初はよい英文論文の模倣から始めるとよい.細かなことは気にしないで,とりあえず一気に書き上げて,あとで直せばよい.

【結論】不完全でもよいから,とにかく書いてみよう.あとはだれか(指導者)が直してくれるだろう.

Ⅰ はじめに

臨床医にとって英文論文作成はハードルが高い.多くの臨床医は英文論文を執筆することの重要性を認識しているが,「いつか書こう」と思いながらも,執筆できないまま時間が過ぎてしまっていることが多いのではないか?私自身も同様であった.しかし40歳になって初めて英文論文を書いて,執筆の楽しさを知り,その後80篇以上の英文論文を筆頭著者として発表することができた.

その経験をもとに杏林大学の大学院で10年あまり,英文論文作成法の講義を担当した.結構評判がよくて,他大学・病院や学会で何回も講演した.その理由として,若い時には英文論文を書けなかったが,40歳から始めても何とかなったという私の経験が,多くの若手医師を勇気づけているからであろうと考えている.

本稿では臨床医にとっての研究の意義,英文論文作成の基本を述べる.詳細は他誌で述べた 1)~7.ぜひ参照していただきたい.

Ⅱ なぜ研究をするのか?

1.研究の意義は?

1)知的好奇心

臨床医はもともと知的好奇心を持っている.したがって,どんな小さなことでも,新しい知見を発見・発表することは楽しい.その中から研究の楽しさ・喜びを見出せるようになる.

2)臨床への貢献

臨床・基礎研究で得られた新知見を臨床に還元して,臨床医学の進歩に貢献する.

3)科学的姿勢が臨床にも役立つ

臨床医でも科学的思考を行い科学的姿勢を持つことは必要である.研究を通してこのような素養を身につけることができる.論理的思考を訓練して,臨床判断に応用する.

4)義務

•必要に迫られて:学位取得では当然必要であるが,昇進・就職,専門医取得に際しても,研究業績が求められることがある.

•臨床医として,個人の経験を臨床研究として社会・学会に還元して,共有する義務がある.

2.英文論文作成にめざめたきっかけ

私は1977年に東京大学を卒業し,同第一外科に入局し膵・胆道グループに属して外科臨床・内視鏡を行いながら学位のための基礎研究を行っていた.いくつかの臨床研究テーマについても学会発表を続けていて,そのうちに英文で書こうと思いながら何年か経っていた.

1992年,40歳になる直前になって,業績がないということで助手(医局長)をやめることになった.大学とは英文論文の数で評価される世界であるということに初めて気づいた.その世界でもう一度頑張ってみようと,遅まきながら決意した.

論文テーマは「肝硬変に伴う総胆管結石の治療(ESTと外科手術)」に決めた.すでに何回か学会発表をしていたので,データは揃っていた.肝硬変に伴う胆嚢結石の英文論文はいくつか発表されていたが,英文誌・和文誌とも胆管結石の論文は発表されていなかった.植村研一著「うまい英語で医学論文を書くコツ」(医学書院)が初心者にとって面白く参考になる内容であり,これを読みながら,2週間かけて何とか初稿を書き上げた.そして参考書や引用論文の英語を何回も読みながら,原稿を20回以上修正した.これを外科のトップジャーナルに投稿したら,修正なしで1発で採用された(Ann Surg 1993).

ビギナーズラックであったのだろうが,「やればできるじゃないか.英文論文なんてチョロいもんだ」と思った.初めて英文論文を書いた経験から,論文作成は思っていたほど大変ではなく,むしろ楽しいものだと感じた.

翌年,関連病院へ移ったが,肝胆膵疾患の手術件数は少なかった.多く論文を書けば手術症例の多い施設に移れるのではないかと思い,論文の執筆を続けた.運良く杏林大学外科に就職し,教授昇任までの10年間で80本の英文論文を筆頭著者として執筆することができた.

3.最初は「不純な」動機でもよいのではないか

前述のように,私の研究は不純な動機から始まった.挫折を経験して何とか挽回したい,もっと手術のできる病院へ移りたい,という気持ちが契機になった.このように研究は高尚な理念から始めなくてもよいと思う.最初は,学位のため,昇進・就職や専門医を取得するため,研究費を獲得するため,あるいは単に知的好奇心を満たすために始めた「自分のための研究」も,研究を続けていくうちに達成感を感じるようになり,さらには生きがいにもなる.「自分のための研究」も,いつかは何らかの形で医学の進歩に寄与し社会に貢献することになると思う.

4.私の内視鏡研究

私は胆膵外科医として膵胆道癌,膵嚢胞性腫瘍(IPMNなど),手術術式開発,さらには胆膵内視鏡の研究を行ってきた.内視鏡の臨床・研究は,私が精力的に行っていた20年前と現在とでは大きく変化してきたが,私の経験が多少なりとも読者の参考になるだろうと思い紹介する(すべて筆頭著者).

外科医の視点から胆膵内視鏡(ERCPとEUS)の研究を行ってきた.外科の経験が胆膵内視鏡の診療・研究に役立った.外科解剖の知識が内視鏡診療に有用であり,また手術・標本所見を内視鏡診断へfeed-backでき,内視鏡所見を深く解析することができた.内視鏡治療後の長期成績や生理機能の変化にも注目した.従来,内科医が対象としてこなかった外傷症例や全身状態不良例にも,内視鏡を応用した.さらに手術後合併症の予防・治療にも内視鏡を用いた.内視鏡治療不成功・合併症例の外科治療を行うことで,内視鏡治療の限界を把握できた.手術的・内視鏡的治療を総合的に評価しながら,外科と内視鏡の協調・融合を図ってきた.単に症例数から言えば,内視鏡専門の内科医と比べれば適わないが,外科医の視点,新たな視点から研究を行うことで独自性を発揮してきた.

総胆管結石に対するESTとEPBDについて様々な観点から研究を行ってきた(Gastrointest Endosc 1997, Br J Surg 1998, GIE 1999, Am J Gastroenterol 2002, GIE 2003, Hepatogastroenterol 2003, GIE 2004).肝硬変併存例の総胆管結石の外科治療は,出血しやすく,腹水・肝不全を合併しやすく,死亡率は非常に高率(44%)である.一方,ESTは低侵襲で安全に施行でき死亡率は低く,ESTの有用性を初めて報告した(Ann Surg 1993).超高齢者(90歳以上)の胆管結石は,全身状態不良,併存疾患が多く,治療が困難である.ESTは手術と比べて低侵襲であり,さらに予防的気管挿管,長期胆管ステントの併施により,安全であることを示した(GIE 2000).EST後の再発結石の治療も内視鏡が有用であることを初めて報告した(Gut 2004).

EST後の乳頭・胆道機能の変化についても研究を行った.EST後は胆嚢が憩室化して,胆嚢機能が悪化するため,胆嚢炎が起きやすいとの理由で,従来は予防的胆摘術が推奨されていた.そこで私はEST施行後の胆嚢機能について超音波を用いて5年間にわたり経時的に調べると,胆嚢機能はむしろ増強することがわかった.実際に胆嚢炎の発生率は低いことも示した.したがって乳頭切開後の一律的な予防的胆摘術は不要であると結論づけた(Gut 1996).EPBD後の胆嚢機能についても検討した(GIE 1999, GIE 2001, Dig Dis Sci 2004).

膵胆管合流異常症例や外科的乳頭形成術の術後では,膵管胆管逆流によって胆管癌が発生する.ESTは乳頭機能に影響を与えるので,同様に膵管胆管逆流による胆管癌の発生が危惧される.私はEST後5年にわたり,胆管胆汁のアミラーゼ濃度を測定した.EST直後一過性に膵管胆管逆流が見られたが,1年以内に逆流は消失した.したがってESTは胆道癌発生の危険因子とはならないことを理論的に証明し,臨床的にも頻度が低いことを示した(AGE 1999).

内視鏡的胆管・膵管ドレナージの研究も行った.このドレナージ治療は閉塞性黄疸や急性胆管炎の減圧のために行うことが一般的である(Arch Surg 1997, AGE 1999).私は従来,報告がなかった手術後や外傷後の胆汁漏出・膵液漏出の予防および治療のためにも内視鏡的ドレナージを行った(HGE 1999, GIE 2000a, GIE 2000b, GIE 2001, HGE 2001, Am J Surg 2002).

EUSはおもに胆膵腫瘍の診断に用いられている(Radiology 1995, AJR 1995, Abd Imaging 1997, GIE 1998, Surgery 1999, Ann Surg 1999, Gut 2000, GIE 2002).私は初めて急性膵炎や膵外傷にも応用した(AJR 1995, GIE 1996, Surgery 1998).膵・胆管合流異常の診断にも用いた(GIE 1997, Br J Surg 1998, Abd Imaging 2002).

5.よい研究とは?

テーマ・研究手法が独創的で斬新であり,概念を変革・統一するような研究であれば素晴らしいが,臨床医にはハードルが高い.次善の策として以下の点に心がけている.

1)新しい切り口を探す

これまで行ってきた研究テーマや既存のデータを,異なった観点から見直してみると,新しい事実が見つかることもある.

2)少ない事実の中からも真理を見出せる

多数例での研究や前向き研究が,エビデンスレベルの高い優れた研究であることに異論はない.しかし,多くの臨床医はこのような研究を行える環境にいないが,研究のチャンスがないとあきらめてはいけない.RCTを行う前の段階の研究や,少数例の検討,症例報告にも優れた価値を持つものもある.問題意識を常に持っていれば,「少ない事実の中からも真理を見出せる(こともある)」と思っている.

Ⅲ なぜ論文を書くのか?

論文を書くことには様々な意義がある.

1.論文作成は自分の知識・思考を整理するのに役立つ.論文をまとめることによって,その内容をいつまでも忘れなくなる.そのような観点からも症例報告は臨床医にとって重要である.

2.臨床論文は,自分の診療成績を客観的にみて,その内容を反省することにつながる.臨床医は何となく,自分の診療成績は優れていると思いがちである.しかし論文作成を通じて,自分の診療成績をあらためて見直すと,思っていたより悪かったと気づくことも多い.

3.論文を作成すると,他者へ情報を伝達することができる.他者から意見や助言をもらえる.特に英文論文にすると世界中の研究者に伝えることができる.

4.いくら研究を行っても成果を形にしないと,研究していないことと同じになってしまう.一生懸命に研究したことが,まわりからは全く評価されない.ぜひ英文論文にしよう.

Ⅳ よい論文とは?

よい論文の条件は以下の3つである.

1.新知見がある

読者が結論を知りたくなるような問題を提示することが重要である.

2.科学的である

論文の構造が論理的であること,研究デザインが科学的であること,推論・考察が論理的であることが求められる.

3.理解しやすい

論旨が簡潔・明解であり,読みやすいことが重要である.誤解を恐れずに言えば,「短い論文」がよい.臨床医は忙しい.短時間で読める,優れた情報が求められる.

Ⅴ 論文の構成

論文執筆の具体的なコツはすでに他誌に詳述したので,ぜひ参照していただきたい 3.本項では他の参考書に記載されていないような事項を中心に述べる.

1.執筆の順序

実際の掲載論文の形態とは異なり,図表→Resu­lts→Methods→Discussion→Introduction→Abstr­actの順番で執筆している.すなわち書きやすい部分から書き始めている.

2.Results

•ResultsとMethodsの部分は定型的であるので,引用文献などを参考に記述する.

•まず,簡単でよいから図(グラフ)・表を用意する.この時点では手書きでもよい.

•図表を見ながら結果を簡潔に記載する.

•複雑なデータはむしろ図表にする.複雑な内容を英語で説明するのは厄介である.図表にすれば一目瞭然であり,詳しい説明は不要である.

3.Methods

結果を得るための方法であるから書きやすい.方法と結果は「対」になっている.Resultsを記述すれば,自ずから記載するべきMethodsも明らかになる.

4.Figure

1)グラフ

•シンプルで,わかりやすいグラフがよい.

•3Dグラフは避けたほうが賢明である.3Dグラフは目を引きやすいかもしれないが,グラフから数値を読み取ることが難しく,科学論文にはふさわしくない.雑誌によっては,投稿規定に「3Dグラフは禁止」と書かれているものもある.

2)写真

病変を矢印・記号で示す.著者は病変の部位をよくわかっているが,査読者・読者は迷うこともある.

5.Table

•単純すぎる表は避ける.データは最低2×2以上が必要である.表を掲載するのには大きなスペースを要するので編集者が嫌う.

•%表示だけではなく,実際の数字も記載する.「45例」あるいは「45例(3.4%)」と記載する.

6.Discussion

IntroductionとDiscussionの内容は一貫性を持たせるが,重複を排除する.

1)Discussionの構成

まず第1段落に結果の要約を書く.以降の各段落でそれぞれの新知見について考察する(Figure 1).そして本研究の臨床的意義とstudy limitationを述べる.最後の段落で結論を述べる.

Figure 1 

Discussionの構成.

2)段落の組み立て

•1つの段落に1つのテーマについて書く.

•段落の第1文に最も重要な内容・要約を記載する(Figure 2).それ以降の文では,その理由を述べる.スムーズに論理を展開させる.

Figure 2 

段落の構成.

•新知見Aについての段落では,まず第1文に「新知見Aがわかった」と述べる.

•次に,新知見Aについて正当性・妥当性を論証する.

-結果を解釈する.結果が生まれたメカニズムを分析する.

-もちろん新知見そのものに事実として価値があるが,その事実が理論的にも納得できれば,さらに新知見の価値が増す.

-客観的事実に基づいて主張する.推測だけではなく,自分のデータを提示したり文献を引用する.

-先行研究が発表されていれば,それとの異同を検討する.

-新知見Aを支持するような論文がすでにあれば,新知見Aの補足的証拠となる.

-一方,新知見Aと対立する論文を無視しないで,なぜ異なる結果になったのかを考察する(方法,分析方法,解釈の違いなど).さらにその論文を論破できれば,新知見Aの価値が高まる.

-新知見Aのsales pointを強調する.独創性,意義を述べる.

3)新知見の意義づけ

•新知見の独創性,臨床的意義を明確に述べる.読者が読めば自ずから独創性・意義に気づいてくれるだろうと考えがちであるが,著者自身が独創性・意義をアピールしよう.

•新知見を一般化すると,あるいは発展させていくと,どのような成果が得られるか?新たにどのような研究を行うことができるか?について記載する.

•今後の展望・応用,治療への貢献,発展性,「夢」を述べる.

•ただし,紋切り型に「今後さらなる検討が必要である」と述べるのはやめたほうがよい.「現段階では不完全な研究」であることを示している.査読者からは「それならば,あらためて『さらなる検討』を行ってから論文を投稿してくれ」と言われかねない.

4)Limitation

•どんなに優れた研究であっても,必ずいくつかの弱点・限界・問題点(limitation)がある.特に後向き研究では,重要なデータを測定していなかったなどの研究の不備や様々な問題点が挙げられる.

•査読者には気づかれないだろうと思っても,優れた査読者には見破られてしまう.

•むしろ査読者に指摘される前に,自分からその弱点を表明したほうがよい.

•弱点を挙げながらも,何とか研究の結果・結論の妥当性・信憑性を裏付けるような努力をしよう.

5)結論

•結論を明確に言い切る.

•結論は,Introductionの最後に書いた研究目的と対応させる.

•結論を読むだけで,研究の全体が把握できるように記載する.

•結論には,具体的内容と抽象的内容(一般化.最終的結論)の両者を述べる.

単に「治療法Aは有用な治療法である」と述べるのでなく,「治療法Aは治療効果が高く副作用が少なく(具体的内容),今後治療法Bに代わり得る治療法となろう(抽象的内容)」と書いたほうがよい.

7.Introduction

IntroductionはDiscussionよりもさらに難しい.研究の背景と目的を示す.

1)Introductionの構成

3つの段落に分けて書く(Figure 3).

Figure 3 

Introductionの構成.

•第1段落は「どこまで解明されているのか」を書く.

論文の内容を理解するための基礎的知識と背景を示す.

•第2段落には「何が解明されていないのか」を書く.

どのようなことがわかっていないのか,どのような問題点があるのか,改善すべき点は何なのか,などを書く.

•第3段落には「研究目的,仮説」を書く.

研究目的,検証すべき仮説を明確に書く.研究の新規性,独創性,重要性(意義)も記載する.たとえば,「今回初めて○○について研究を行った」「多数例での検討を行った」などと記載する.

2)Introductionの重要性

•研究目的を設定した理論的根拠(なぜ研究を行ったか)と,研究目的の重要性・意義を提示する.これが非常に重要である.

•長すぎてもいけないし,短すぎてもいけない.

Introductionは総説ではない.教科書的な基礎的知識を記載する必要はない.研究の背景を示すために必要な内容のみを記載する.

8.References

•自説を支持する論文はもちろんのこと,自分の研究結果と相反する論文も引用する.考察で相反する論文を論破できれば,自分の研究の価値がさらに高められる.

•論文を公平に引用する.

-同じような内容ならば,第1報,重要なものを引用する.

-自分のものばかり引用しない.

-査読者の論文を引用していない可能性もある.

査読者は投稿論文と同様な専門分野の研究者であり,それに関連する論文をすでに発表している可能性がある.もちろん査読者は公平な立場から査読を行うことが求められているが,査読論文に自分の重要な研究論文が引用されているか否かは,査読者の印象に影響を与える可能性がある.したがって公平に論文を引用しておいたほうが,「査読者の論文を引用していない」という危険性を減らすことができる.

9.Abstract

•セールスポイントを明確に書く.

•重要なことのみに絞って記載する.短い文章(200~250語)でわかるように書く.あれもこれもと詰め込んで中途半端に記載すると,読者には疑問が残り理解できない.

•結果の項では,重要なものは具体的(数量的)なデータを記載する.たとえば,「物質Aを投与すると物質Bの血中濃度が上昇した」ではなく,「前値の185%に上昇した」と具体的に書く.

10.Title

•タイトルを見ただけで論文の結論がわかるように書く.

•やや具体的に書いたほうがよい.

•無意味な言葉は除く.

•Phrase(句)でもsentence(文)のどちらでもよい.疑問文は,注意を引くが,結論(yesなのかnoなのか)がはっきりしない.

•たとえば「当科における膵癌手術症例に関する検討」のようなタイトルをよく見る.題名にはインパクトがなく,論文を読もうという気持ちが起こらない.「当科における」「に関する検討」は無意味な言葉である.これを削除すると「膵癌手術症例」が残る.しかし,これでは何のことかわからない.そこで「長期成績からみた膵癌の手術適応」というタイトルにすると,論文の内容が想像できて読んでみたくなる.

•「Non-pancreatic neoplasms in patients with intraductal papillary mucinous tumors of the pancreas」は私の論文の初回投稿時につけたタイトルである.IPMNの患者には他臓器腫瘍を高頻度に合併する.これを発表した初めての論文である(Am J Gastroenterol 1999).これも,そう悪くはないと思う.しかし査読者に「Extrapancreatic neoplasms occur with unusual frequency in patients with intraductal papillary mucinous tumors of the pancreas」と直すように言われた.確かにタイトルを読んだだけで論文内容がよくわかる.このようなタイトルをつけたいものである.

Ⅵ 英文論文執筆における心理的ハードルと対処法

やはり英文論文を書くことを難しく感じることもあろう.私自身も冠詞,単数・複数,時制などの文法について迷うことがある.さらにもっと困るのが,英語の用法・表現・ニュアンスの微妙なところがよくわからない.自分の書いている英語が和製英語ではないかと心配になってくる.

その「心理的ハードル」に対する対処法は,「初めから完全をめざさない」と割り切ることである.細かなことは気にしないで,不完全でもよいから,「とりあえず最後まで一気に書く」ことが大事である.あとで英語を直そう,あるいは直してもらおう.

Ⅶ 論文の完成まで

1.とりあえず最後まで一気に書く

1〜2週間をめざそう.引用論文の優れた英文を参考にするとよい.「まずは模倣から」である.

Collocation(英単語の慣用的な繋がり)も重要である.この名詞を目的語とする動詞は何を使えばよいか?などである.英和活用大辞典(研究社)や英語用例の参考書がよい.あるいはInternetで英語の用例を調べることもできる.

2.引用文献の英文を参考に修正する

一旦,初稿ができたら,再度,引用文献を活用する.重要なものを5-10篇程度読み直す.その際に英語表現・語法に注意して読む.一流誌への掲載論文ならば,英文としても優れている.初稿ができていると,気持ちの余裕が生まれるため,最初読んだ時には気づかなかった引用文献の英語表現・語法にも注目できて,自分の論文の英語を修正できる.ただし長い文章の完全な引用は盗用とみなされるので,少し表現を変える必要がある.

3.だれかに見てもらう

次に研究内容を理解できて,英語が得意な人に見てもらう.おそらく皆さんの指導者であると思う.少なくとも英文校正のプロが誤訳しない程度にまで英語を修正し,論旨の通った文章にしてもらえるであろう.また論文の構成や考察なども指導してもらえる.

4.最後はnative speakerや英文校正業者に任せる.

 

Ⅷ 査読者の立場から

査読者の立場から,論文作成について考えてみたい.

1.査読者になって,わかったこと

•名誉であり嬉しく感じる.知的興味を刺激する作業である.

•しかし,必ずしも楽しいことばかりではない.

•丁寧で公正な査読を行うのは時間がかかる.

•専門外の論文も読まされることがある.

私自身は胆膵疾患を専門にしていて,この領域の大部分の論文は内容を理解できて,客観的な評価をできる.しかし胆膵でも非常に基礎医学的な論文がまわってくると,研究の背景がわからず論文の重要性が判断できないことがある.

2.査読者に好印象を与える

このように査読者,特に多数の論文の査読を行っている研究者は,査読作業を必ずしも楽しく感じていないことが予想されるので,投稿者としては査読者に好印象を与えるような論文を書いたほうがよい.

•研究目的・意義がはっきりしている.

•読みやすい文章・英語.

•簡潔・明解であること.

•見やすい.

査読者は高齢で老眼が進んでいる可能性がある.若い執筆者では何でもないような細かな文字が,査読者には見にくくなっているかもしれない.見やすい論文にしたほうがよい(Figure 4).

Figure 4 

見やすい論文にする.

-12ポイント(大きなフォントで).

-TimesではなくCourierで(空間が多くて読みやすい).

-Double spaceで(行間が広い).

-左寄せ.

•略語が多い場合は略語一覧をつけたほうがよい.

•「A群,B群」.

A群と出てくる度に,前に戻って確認しなければならない.たとえば「A群」と書く代わりに「ステント留置群」とすればわかりやすい.

•投稿規定に従う.

これに反する論文は,他誌でrejectされた論文をそのまま投稿してきたのではないかと疑われる.査読者へ与える印象が悪い.

•理解しやすい.

「超専門家」でなくても,一般的な研究者(査読者)ならば,内容が理解できて研究の重要性を評価できるように論文を書くべきである.また引用文献や参考文献を読まなくても理解できるように記述するべきである.査読者はいちいちすべて読んでいるヒマはない.研究背景などは,ある程度詳しく記載したほうがよい.

3.査読者はどこを見ているか?

•査読者は論文の最初から順番に読んでいるわけではない.

•まずはタイトルを読む.どんな内容かなと想像する.

•次に「Introductionの書き出し」である.いわゆる「つかみ」の部分である.これに引き込まれると,「どれどれ」と読んでみたくなる.

•次に「Introductionの最後」である.研究目的が書かれている.

•最後に「Discussionの最後」を読む.結論が書かれている.

•上記の部分がきちんと書いてあると,特にじっくり読みたくなる.

•次にAbstractを読む.

•以上の部分は特に念入りに書く必要がある.

•超一流誌では投稿論文のすべてを外部の査読者にまわしているわけではない.

以下のように査読している雑誌もある.編集部で,まず投稿論文の「Introductionの最後」だけを読んで,研究目的が明確に書かれているか?研究の意義があるのか?を判断する.これが駄目ならば,論文内容を読まないで,この時点で約50%をrejectする.次に研究背景を読んで残り半分をおとす.最後にAbstractをざっと読んで,数パーセントの論文のみを外部査読にまわすという.

4.『外見上の』科学性が重視される

論文は科学的でなくてはならない.査読者はどのように「研究の内容が科学的であるか否か」を判断するのであろうか?

査読者は研究のすべての過程を実際に見ることはできない.研究室でどのように実験が行われているのかはわからない.実験の精度もわからない.したがって,論文の記載だけから,すなわち外見からしか,研究内容の科学性を判断せざるを得ない.著者としては,査読者に「科学的である」と判断されるように記載する必要がある.例を挙げる.

•「科学的な研究デザイン」で研究が行われている.

•「論理の一貫性」がある.

•「有効数字」を適切に用いる.

私の投稿論文で「平均年齢75.5歳」と記載したら,査読者にこの記載は誤りであると指摘された.連続変数である年齢を整数値データとして収集したのならば,平均(標準偏差も)は整数値で表し,有効数字を揃えるべきである.

•表の中の数字を正確に計算・記載する.

単純な計算ミスでも,データの捏造が疑われる.これだけでrejectされる可能性がある.

5.査読結果への対応(特にmajor revisionの場合)

•Major revisionの際の修正論文の投稿は初回の投稿と同じくらい重要であり難しいと考えている.

•たくさんの厳しいコメントが出されることが多い.意気消沈してしまう.

•しかし実はチャンスである.その分野の専門家(権威者)から貴重な助言を受けて,二流から一流の論文に化けることができるチャンスなのである.

•修正可能なコメント・指示のみが出される.査読者が「修正不可能」と考えていれば,初めから「不採用」と判定する.

•指示の通りに修正すれば,採用される可能性が高い.

•査読者の意見をすべて尊重する.

査読者は客観的立場から査読して,論文改善に協力したいと考えている.したがって基本的には査読者の意見の通りに修正するべきである.

•査読者のコメントのすべてを,letterだけではなく論文に反映させる.

•Letterで修正点を詳しく説明する.

Letterでは「何頁何行の『------(文章をcopy & pasteする)』を『xxxxxxxx(copy & paste)』に修正した」というように詳しく説明したほうが,修正内容が査読者にわかりやすい.

•再投稿は1回のみしか許されない.

「もう一息」程度に改善されたとしても,まだ不完全ならば「不採用」である.再投稿時には特に念入りに修正し,完全な論文に仕上げよう.

Ⅸ とにかく書いてみよう

「英文論文を書くことは思ったほどは大変ではない.ぜひ書いてみよう」と言ってきた.しかし,英文論文を書こうと思っても,初めて書く時は心理的なハードルを高く感じたり,忙しい臨床の中で執筆作業がなかなか進まないこともあるだろう.

でも,とにかく始めよう.自分の代わりに論文を書いてくれる人はだれもいない.

1.1日目にこれだけはやろう

Figure 5はEUSとERCPによる胆石性膵炎の診断・治療の論文(Surgery 1998)を書いた時の1日目の原稿である.1日目はたいしたことは書いていない.メモ書き程度である.しかし,始めることが重要である.これでも,何となく論文のような感じであり,やる気が出てくる.このあと1週間で第1稿を書き上げた.

Figure 5 

第1日目の原稿.

•まず表・グラフを作る.

手書きでもよい.

•項目を書く.

Introduction, Methods, Results, Discussionと項目を入れてみる.

•Key wordを入れてみよう.

Introductionでは,研究目的の“comparison of EUS with ERCP”(EUSをERCPと比較する)を書く.Discussionでは,考察事項であるEUS・ERCPのrole(役割),detection of CBD stone,non-invasive(低侵襲性)を入れる.

•箇条書きでもよい.

最初から,きちんとした文・文章で書くのは大変である.箇条書きの形で書いてもよい.不完全な文,あるいは上記のようにkey wordだけでもよい.

•既出論文の模範文を入れてみる.

難しい英語表現は,すべてを自分で考えるのではなく,よい文章を真似したほうがよい.既出論文の模範文を入れてみる.模倣から始めよう.最終的には少し修正する.

•書きやすいところから書こう.

Results→Methods→Discussion→Introduction→Abstractの順で書いていくとよい.

•Titleを決めよう.

仮のtitleでもよいので題名を書くと,方向性が定まり,やる気が出てくる.

•Headerに日付と頁を入れる.

2.一旦書き始めたら

1日目にメモ書き程度のものを書いた.これから毎日,少しずつ書き加えて,1~2週間で初稿(不完全な形でよい)を仕上げよう.

•とりあえず最後まで一気に書く.

•Key wordを文の形にする.よい論文の英語表現を真似する.

•英語の文法・語法は,あまり気にしない.

•途中でも印刷してみる.

印刷すると,論文らしく見えて気持ちがよい.少しずつ長くなってきて,やる気が出てくる.論文全体が把握しやすい.

•紙の上で推敲する.

コンピュータの上で推敲するよりも,印刷した文章を赤ペンで直すほうがやりやすい.

•初稿作成後に主要文献を読み直して修正する(前述した).

3.でも,やっぱり論文を書くのは面倒だなと思ったら

•毎日,コンピュータを開く.

臨床医は毎日,忙しい.しかし少しの時間でもよいから,毎日コンピュータを開くことを習慣にしよう.

•毎日,新しいファイルを作る.

上書き保存をしないで,毎日新しいファイルを作る.論文作成の過程が目に見えるようになり,努力の成果を実感できる.

•未完成でも,紙に印刷する.

毎日,さらに作成過程ごとに,印刷する.そして赤ペンで修正する.印刷物を捨てないで残しておく.これも「努力の可視化」である.

•自分を褒めよう.

「ここまで形になっている.あと一息だ」「こんなに修正を繰り返している」と,自分を褒めよう.

•大きな封筒に入れておく.

すべての資料・文献・印刷済み原稿を大きな封筒に入れる.これを毎日持って歩く.少しの時間でも有効に使って,論文を書こう.

Ⅹ おわりに

1.不完全でもいいから,とにかく書いてみよう.

2.あとは,だれか(おそらく,皆さんの指導者)が直してくれるだろう.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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