GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ENDOSCOPIC DIAGNOSIS AND TREATMENT OF SUPERFICIAL PHARYNGEAL CARCINOMA: THE ROLE OF GASTROINTESTINAL ENDOSCOPISTS
Yuichi SHIMIZU
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2021 Volume 63 Issue 6 Pages 1207-1217

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要旨

近年の内視鏡診断技術の進歩により,咽頭領域においても食道癌の内視鏡診断技術を応用することにより,多くの表在癌が発見されるようになった.患者背景は食道癌と類似しており,効率的に咽頭表在癌を発見するためには,高リスク群の絞り込みが重要である.これらの咽頭表在癌症例は,消化器内視鏡医と頭頸科医との協力により,低侵襲に内視鏡治療が可能であるが,喉頭浮腫など,この領域独特の合併症に留意する必要がある.現時点で内視鏡治療の明確な適応基準は定められていないが,術後リンパ節転移症例の蓄積により,転移リスクは明らかになりつつある.咽頭領域は,頸部リンパ節転移が明らかになってから郭清手術を行っても,しばしば根治可能である.

Ⅰ はじめに

中下咽頭癌は,従来,進行癌で発見されることが多く,その予後は不良であった.また,手術可能症例であっても,拡大郭清手術は咽頭喉頭全摘術となってしまい,高侵襲であるばかりでなく,発声機能の消失や嚥下障害,容貌の変化を伴い,患者のQOLを大きく損なう 1)~3.保存的治療としての化学放射線療法も,粘膜障害の結果として,しばしば唾液分泌障害,味覚障害などの後遺症をきたす 4),5.一方,最近の狭帯域光観察(Narrow band imaging:NBI)などの内視鏡診断技術の進歩により,咽頭領域にも多くの表在癌が指摘されるようになった 6)~10.これら咽頭表在癌に対して,消化管での治療技術を応用し,内視鏡治療が行われるようになり,近年,大きく普及してきた 11)~15

内視鏡治療の最大のメリットは,臓器温存が可能な点であり,特に咽頭領域においてはその恩恵は大きい.一方,局所治療であるため,その適応はリンパ節転移のリスクが少ない症例に限られる.咽頭表在癌は,まだ,その歴史は浅く,症例数も多くはない.現在は症例を集積し,リンパ節転移との関係など臨床病理学的な背景を検討及び整理している段階であるため,消化管の早期癌のように明確な適応は示されていない.本稿では,咽頭癌の内視鏡診断法について概説し,また,咽頭癌に対する内視鏡的治療の現状を概説,治療成績について論文報告をレビューする.

Ⅱ 咽喉頭領域の内視鏡観察

これまで咽喉頭領域は,上部消化管内視鏡の通過領域であるにも関わらず,注意を払われないことも多かった.しかし,咽頭表在癌に関する報告が蓄積されるにつれ,同部位も上部消化管内視鏡で観察しなければならない領域であるとの認識が一般化しつつある.ただし,咽喉頭領域の内視鏡観察は嘔吐反射などの苦痛を伴うことが多いため,被検者の忍容性も考え,リスク群の絞り込みが大事である.

ⅰ)リスク群

咽頭癌は食道扁平上皮癌と同様,中高年男性に多く,飲酒と喫煙が二大危険因子であるという特徴がある 16),17.したがって,まず50歳以上の男性の場合,リスク群として疾患頻度の高い亜部位である左右梨状陥凹,中~下咽頭後壁はしっかりと観察すべきである.咽頭領域観察におけるNBIの有用性はコンセンサスが得られているため 7),8,NBIやblue laser imagingなどの光デジタル画像強調を併用すべきである.

ⅱ)高リスク群

多量飲酒者,多量喫煙者,習慣飲酒者でフラッシャー(飲酒時の顔面紅潮反応),食道扁平上皮癌合併既往患者,頭頸部癌既往患者は高リスク群として,咽喉頭全域を詳細に観察すべきである 16),17.スコープ抜去時には唾液の貯留や咽頭麻酔効果の減弱があるため,観察は原則,スコープ挿入時に行う.具体的には,挿入後,軟口蓋→右口蓋弓,中咽頭右壁→口蓋垂→左口蓋弓,中咽頭左壁→中咽頭後壁→喉頭蓋舌面→喉頭蓋谷,舌根→下咽頭後壁→右梨状陥凹→喉頭声門周囲,披裂→左梨状陥凹の順で観察するとスムースである(Figure 1).輪状後部及び対側の下咽頭後壁は死角になりやすく,観察の最初か最後にバルサルバ法を行うことが望ましい.バルサルバ法は,経鼻内視鏡観察時に口を閉じて息をつめてもらう方法,経口内視鏡をマウスピースを使わずにくわえてもらう方法,バルサマウスを用いる方法がある.なお,上記の他にも口腔(歯肉,舌,口腔底,頬粘膜)の観察が望ましいが,耳鼻咽喉科医にスクリーニングを依頼するのが効率的と考える.

Figure 1 

高リスク群におけるNBI咽喉頭観察(推奨).

a:軟口蓋.

b:右口蓋弓,中咽頭右壁.

c:口蓋垂.

d:左口蓋弓,中咽頭左壁.

e:中咽頭後壁,舌根.

f:喉頭蓋舌面,喉頭蓋谷.

g:下咽頭後壁.

h:右梨状陥凹.

i:喉頭声門周囲,披裂.

j:左梨状陥凹.

k:輪状後部(バルサルバ法施行).

Ⅲ 咽頭表在癌の内視鏡所見

咽頭粘膜は食道と同様に重層扁平上皮からなるため,表在癌の所見も食道表在癌の所見と類似している.よって,食道表在癌における通常白色光内視鏡所見やNBI内視鏡所見,拡大観察時の微細血管構造所見 18),19が応用できる.白色光内視鏡所見では領域のある発赤,正常血管網の消失,粘膜の凹凸などの所見に注意が必要である.NBIでも咽頭表在癌は食道癌同様にbrownish areaとして認識され,正常部と腫瘍部の境界がより明瞭となる.NBI観察でbrownish area を認めた場合は,拡大機能を用いて微細血管構造の変化を観察する.蛇行,拡張,大小不同などの異型血管の増生をもって,癌と診断する.咽喉頭領域の各亜部位における表在癌の写真(すべて切除標本組織診断は上皮内癌)を供覧する(Figure 2).

Figure 2 

咽喉頭領域の各亜部位における表在癌(すべて切除標本組織診断は上皮内癌).

a:右梨状陥凹(白色光).

b:同(NBI).

c:左口蓋弓.

d:右喉頭蓋舌面~喉頭蓋谷.

e:舌根.

f:下咽頭後壁.

g:右披裂.

h:輪状後部.

Ⅳ 内視鏡治療について

現時点で主に行われている内視鏡治療手技は,食道癌と同様の手法で行われるESDと,佐藤,大森らにより開発されたendoscopic laryngo-pharyngeal surgery(ELPS)である 20)~25.ELPS は彎曲型喉頭鏡にて喉頭展開し,内視鏡によるモニタリング下に術者が経口的に鉗子と電気メスを挿入して,上皮下層剝離を施行する手技である(Figure 3).ESD,ELPSともに,特徴として,①治療中に,誤嚥,窒息合併するリスクがあるため気管内挿管,全身麻酔が必要,②適応の判断,術視野の確保,治療後の気管切開,合併症への対応など頭頸科や耳鼻科との協力体制が必須である点が挙げられる.

Figure 3 

ELPS術中風景.

ESDに関しては,Hanaokaらが,咽頭表在癌症例54例を対象とした前向き第二相試験の結果を報告している 26.観察期間中央値は27カ月(範囲:6~55カ月)で,重篤な合併症はみられなかった.1例(1.8%)に頸部リンパ節転移を認めた.3年全生存割合は97.7%,3年疾患特異生存割合は98.1%であり,ESDは安全で有用な低侵襲治療であると結論付けている.

Ⅴ ESD及びELPS手技の実際

中下咽頭領域においては,厳密には粘膜下層(submucosa)ではなく,上皮下層(subepithelium)と呼ぶが,便宜的にESD(endoscopic submucosal dissection)の言葉が使われている.

・治療は,全身麻酔下に,体位は仰臥位で行う.

・頭頸科・耳鼻科医により佐藤式彎曲型咽頭喉頭直達鏡(永島医科器械株式会社)を用いて,内視鏡画面を観察しながら喉頭展開をしてもらい治療のための十分な視野を確保する.

・通常光及びNBI内視鏡を用いて病変の観察を行った後に,1~1.5%のヨードを用いて染色し,病変の範囲を確認する.ヨードは中下咽頭全体に散布し,別病変の有無を確認しておく.

・内視鏡下に病変周囲にマーキングを行い,局注針を用いて,マーキング周囲の上皮下組織に十分な局注を行う.局注液には,一般的にエピネフリン加生理食塩水を用いる.食道入口部にかかる場合を除いて,原則,穿孔のリスクを考えなくて良いので,ヒアルロン酸などの使用は必ずしも必要ない.

・ESDの場合,先端アタッチメントを装着し,切開剝離用のデバイスを用いて,マーキングの外側を全周切開する.食道と同様に,反転での操作が難しいので,特に大型の病変では,肛門端は最初にしっかりと切開しておく.切開剝離に用いるデバイスは,消化管癌で用いているデバイスと同様,ITナイフ(insulation-tipped diathermic knife)とそれ以外の先端系ナイフ(フックナイフ,フラッシュナイフ,デュアルナイフなど)に分類され,それぞれ消化管の治療で慣れているデバイスを用いて行う.全周切開後,病変の上皮下組織に局注を追加する.先端アタッチメントを上皮下組織に押し当てながら潜り込み,直視下に剝離操作を行う.梨状陥凹の披裂側には,しばしば上喉頭神経が走っており,発声に影響が出るために,できるだけ損傷しないように心がける(Figure 4).

Figure 4 

糸付きクリップ併用咽頭癌ESD.

a:左梨状陥凹病変(ヨード染色,マーキング後).

b:全周切開.

c:糸付きクリップにて牽引後,上皮下層剝離.

d:切除後潰瘍.温存された上喉頭神経が視認できる.

・ELPSの場合,術者は内視鏡医と同一のモニターを見ながら,経口的に挿入した鉗子で病変を把持し,適切なカウンタートラクションをかけ,もう片方の手に持った電気メスにて上皮下層を剝離して病変を一括切除する.

・切除後,標本を回収し,出血の有無を確認する.後出血予防のために露出している血管をAPC (アルゴンプラズマ凝固)や止血鉗子などを用いて処理することが望ましい.

・なおESDの場合,剝離時に,頭頸科医,耳鼻科医による鉗子把持,挙上によりカウンタートラクションをかけてもらうと,剝離がよりスムースに進む 27.マンパワーの問題などで医師一人によりESDを行う場合は,消化管ESDで用いられている糸付きクリップ法 28)~30を応用すると,治療時間が短縮できることが多い(Figure 4).

Ⅵ 術後処置及び偶発症とその対応

ⅰ)術後処置

・内視鏡切除後,抜管前に頭頸科,耳鼻科医あるいは麻酔科により喉頭浮腫の程度を確認してもらう.

・翌日,耳鼻咽喉科内視鏡で喉頭浮腫の程度や出血の有無を確認する.

・喉頭浮腫,痛みが軽度で,発熱や出血がなければ,水分を摂取し,むせがなければ,食事を五分粥程度から開始する.ただし,広範囲切除を行った場合は,早期に食事開始すると誤嚥リスクが高まるために慎重に対応,必要に応じて嚥下機能内視鏡を行う.

・経口摂取が安定して得られ,誤嚥の症状がなければ退院は可能である.

ⅱ)偶発症とその対応

a)出血

術中出血については,その都度APCや止血鉗子で止血していれば大きな問題になることはないが,帰室後の後出血への対応は極めて重要である.後出血で,最も懸念されるのは凝血塊による窒息である.軽度の出血であれば,意識下鎮静のもと,内視鏡的にAPCや止血鉗子での止血や,ボスミンガーゼでの圧迫止血を行うこともあるが,高度の出血で,予防的気管切開がされていない場合は,再挿管や気管切開を行ったのちに止血処置を行う.

b)喉頭浮腫

最も頻度の高い偶発症である.後述する頭頸部表在癌全国登録調査によると,抜管困難な喉頭浮腫などを理由に9.3%に気管切開が行われている 31.梨状陥凹や輪状後部など,喉頭に近い病変を広範囲に切除した場合に生じやすい.抜管時の判断を誤ると致死的な結果になりかねないために,前述のとおり必ず頭頸科,耳鼻科医あるいは麻酔科医に確認してもらう.高度の喉頭浮腫がある場合は,予防的な気管切開を行う,もしくは翌日まで挿管のままとする.喉頭浮腫に対してはステロイドの吸入や静脈注射を用いることもある.術前のICでは,帰室時に気管切開された状態になっている可能性について強く説明しておく必要がある.

c)皮下気腫,縦隔気腫

下咽頭梨状陥凹や頸部食道に及ぶ病変の切除では,深く切開すると皮下気腫,縦隔気腫をきたすことがあるが,基本的に抗生剤投与と絶飲食で改善する.

d)嚥下障害,誤嚥

下咽頭では,梨状陥凹を全周近く切除すると,治療後の癒着で梨状陥凹が潰れてしまう.片側のみであれば,術後の嚥下機能への影響は少ないが,両側になると狭窄をきたして嚥下障害が高度になるので,両側に及ぶ広範な病変の切除は慎重に行うべきである.それ以外の場所では,嚥下障害が問題になることは少ないが,口蓋垂や口蓋弓を含む部位を広範に切除すると,咽頭鼻腔逆流をきたすことがある.また,複数回の治療例,放射線治療後の症例ですでに嚥下障害を有する症例では悪化することがある.

e)声帯損傷

彎曲型喉頭鏡が深く入りすぎたり,術中にずれることによって声帯を損傷することがあるが,軽度であれば経過観察で改善する.

f)頸部膿瘍

切除後潰瘍から細菌感染をきたし,膿瘍を形成することがある.通常の咽頭ESDで起こることは稀であるが,放射線治療後の遺残病変や,照射野内の異時性多発病変では,粘膜内の微小循環障害からESD後潰瘍治癒が遷延し,膿瘍の原因となることがある.極力,術中の軟骨損傷を避けることが重要と考える.

Ⅶ 内視鏡治療の適応

咽頭表在癌は,消化管癌のように病変の大きさや深達度とリンパ節転移の関係が十分に検討されていないため,内視鏡治療の明確な適応基準は確立されていない.2018年にまとめられた頭頸部表在癌取扱い指針(日本頭頸部癌学会homepage内にリンク: http://www.jshnc.umin.ne.jp/pdf/toriatsukaishishin.pdf)にも記載のあるとおり,咽頭表在癌は粘膜筋板がないために,食道のような腫瘍細胞が浸潤をきたしている“層”にもとづく深達度診断が現状では行えないとされ,腫瘍の厚さ(tumor thickness)で代用すると述べられている.上皮内癌のみならず,上皮下浸潤咽頭癌に対しても内視鏡治療は行われてきており 32,その成績として,Satakeらは上皮下浸潤咽頭癌内視鏡治療症例47例(tumor thickness 200 - 10,000μm,中央値1,000μm)の長期成績を後ろ向きに解析した 33.観察期間中央値は71カ月で,リンパ節転移症例はtumor thickness 1,750μmの1例(2%)のみであり,頸部リンパ節郭清術のみで寛解,全体の5年全生存割合は88.1%,5年疾患特異生存割合は100%と報告している.Imaiらは上皮下浸潤咽頭癌内視鏡治療症例32例(tumor thickness 170 - 10,000μm,中央値750μm)の長期成績を後ろ向きに解析,tumor thickness 1,600 - 6,000μmの4症例,及び7分割切除後,遺残再発症例にリンパ節転移をきたしたが,5症例とも頸部リンパ節郭清術のみで寛解,5年疾患特異生存割合は100%と報告している.この結果をもとに,リンパ節転移が明らかになってから追加治療を行う,いわゆるwatch and resectの治療戦略の有用性について報告している 34.転移をきたさないtumor thicknessについては,後述する頭頸部表在癌全国登録調査に登録された症例の中央病理組織診断結果から,tumor thickness 1,000μmが一つの目安となりそうであるが,今後の症例の蓄積が必要である.自験例として,下咽頭表在癌(tumor thickness 1,500μm)ESD後,頸部リンパ節転移をきたした症例を供覧する(Figure 5).本症例は頸部リンパ節郭清後,8年間,無再発生存中である.

Figure 5 

下咽頭表在癌ESD後,頸部リンパ節転移症例.本症例は頸部リンパ節郭清後,8年間,無再発生存中である.

a:左梨状陥凹表在癌.

b:ESD切除標本組織像(tumor thickness 1,500μm).

c:ESD後18カ月,PET-CT像.左頸部リンパ節転移を認めた.

現時点での内視鏡治療適応は,術前の画像診断でリンパ節転移の所見がなく,厳密には内視鏡的に上皮内癌,もしくは上皮下への軽度の浸潤にとどまると診断される病変が妥当と考えられるが,現実には上皮下に多量浸潤している癌に対して内視鏡治療を行い,上述のwatch and resectを行う治療法も選択肢に入ってくると思われる.消化管癌ではあまり考えられない治療戦略であるが,咽頭領域においては現実的で,最も低侵襲な治療法である.深達度診断を含めた内視鏡診断法に関しては,現在,咽頭表在癌においては確立されたものがないため,食道癌の内視鏡診断法を参考にしているのが現状である.

Ⅷ 治療後経過観察の方法

咽頭癌内視鏡治療後の異時性多発咽頭癌発生率について,Mutoらは咽頭癌内視鏡切除症例104例の長期成績を後ろ向きに検討し,5年発生割合22%と報告している 13.また,Hanaokaらは,前述の前向き第二相試験の結果,3年発生割合18.4%と報告している 26.食道癌と同様に咽頭領域も異時性多発癌発生率は高く,NBIを用いた内視鏡を6カ月~1年に1回程度は行う必要があると考える.なおKimuraらは,下咽頭表在癌内視鏡切除症例362例の術中背景粘膜ヨード染色像について後ろ向きに検討を行っている 35.臨床情報を知らない消化器内視鏡医2名が,食道癌JEC分類に準じて,咽頭ヨード不染の程度をA,B,Cに分類した結果,最も程度の高いgrade C症例(いわゆる,まだらヨード不染多発症例)132例の異時性多発頭頸部癌発生は,2次癌3年発生割合29.3%,3次癌5年発生割合19.6%,3次癌7年発生割合13.2%と,grade A,B症例と比較してそれぞれ有意に発生率が高いことを示した.今後は術中のヨード染色像を評価し,経過観察の間隔を考慮するというストラテジーも考えられる.

tumor thickness 1,000μm以上の上皮下浸潤癌症例については,リンパ節転移リスクを伴うために,6カ月に1回程度,NBI内視鏡に加えて,頸胸部CT,頸部エコーや頭頸科・耳鼻科医による頸部触診を含めた慎重な経過観察が推奨される.

Ⅸ 頭頸部表在癌全国登録調査結果

日本頭頸部癌学会理事長の林隆一らが中心となり,頭頸部表在癌全国登録調査が行われたので,その概略を紹介する.全国27施設より頭頸部表在癌経口的手術(Trans oral surgery:TOS)施行症例が登録され,中央病理判定の後,568例,899病変(初回治療癌665病変,異時性多発癌234病変)について解析された.最終解析結果が2018年に開催された米国臨床腫瘍学会で発表された(現時点で論文投稿中) 31.病変部位は,下咽頭660病変(73.3%),中咽頭202病変(22.4%),喉頭23例(2.6%),その他14例(1.5%)であった.腫瘍径中央値は12mm,病変の深達度は,上皮内癌536病変(61.7%),上皮下浸潤癌333病変(38.3%)であった.総治療数768回における有害事象を12.2%に認め,生命に関わる有害事象を0.9%に認めたが,治療関連死はなかった.抜管困難な喉頭浮腫などを理由に72例(9.3%)に気管切開が行われた.その他の有害事象の主な内訳は,皮下気腫3.1%,誤嚥性肺炎2.0%,止血術を要した後出血1.7%,外科的手術を要した出血0.5%であった.観察期間中央値は46.1カ月(範囲:1.1-113.3カ月)で,局所再発率は5.9%であった.26例(4.6%)にリンパ節転移を,3例(0.5%)に遠隔臓器転移を認めた.3年全生存割合は88.1%(95%信頼区間:84.0 - 90.6%)であり,3年疾患特異生存割合は99.6%(95%信頼区間:98.5 - 99.9%)あった.これらの良好な長期成績が根拠となり,頭頸部表在癌に対する経口的手術の有効性と安全性を検討する介入試験として「頭頸部表在癌に対する経口的手術の第Ⅱ/Ⅲ相試験(TOS-J trial)」が開始された.現時点で目標症例数の登録が完了し,予後追跡期間に入っている.

Ⅹ 咽頭表在癌診療の今後の課題

前述のとおり咽頭表在癌は粘膜筋板がないために,消化管のような深達度診断が現状では困難であり,腫瘍の厚さ(tumor thickness)で代用される.したがって,tumor thicknessとリンパ節転移の関係や,予後を左右する因子が何かを検討し,治療の適応をより明らかにすることが急務と思われる.また,食道癌においては粘膜下層浸潤癌に対し内視鏡切除を行い,予防的化学放射線療法を行う治療法の有用性が示されたが(JCOG 0508) 36,咽頭上皮下浸潤癌に対し化学放射線療法や外科手術などの追加治療を行うべきか否かは今後の課題である.化学放射線療法については,治療中及び晩期の合併症も多いこと 4),5,また,食道癌と違って転移リンパ節の診断やリンパ節郭清が比較的簡単であることもあって 33),34,その適応は慎重に判断すべきである.現時点では,前述したwatch and resectの治療戦略,すなわち追加治療を行わず厳重経過観察し,転移が明らかになった時点で適切な治療を追加する方針が,広く受け入れられている印象である 37.咽頭癌においては,消化管癌の様な微細な深達度診断基準は定まっていないのも今後の課題ではあるが,消化管癌ほどには深達度診断の意義は大きくないかもしれない.

さらに,広範囲切除後の嚥下機能への影響も大きな問題である.食道癌と同様の狭窄予防法 38)~42,すなわち切除時のステロイド局注やPGAシート貼付,全身ステロイド投与,下咽頭バルーン拡張の有用性が想定されるが,未だまとまった検討結果は報告されていない.術後に誤嚥をきたしやすくなることは大きな問題であり,早急にエビデンスの構築が求められる.

直接,実臨床に関わることではないが,現状の頭頸部癌取扱い規約のT分類 43も,いずれ解決されなければならない問題と考える.咽頭上皮下浸潤癌は単純に最大径のみでT分類が決められ,径2cmを超えるとT2,径4cmを超えるとT3に分類される.咽頭癌内視鏡治療症例は,しばしば径4cmを超えるが(Figure 6),これだけでⅢ期,消化管癌でいえば漿膜浸潤進行癌と同じ病期になるということには違和感がある.予後解析など,より正確な疫学研究のためにも,実態に即した分類が必要と考える.

Figure 6 

下咽頭表在癌(T3)ESD症例.

a:左梨状陥凹表在癌ESD施行.

b:切除標本マクロ像.腫瘍径は43×33mmでpT3と診断された.

Ⅺ おわりに

20年前には概念すらなかった咽頭表在癌であるが,本邦を中心に,診断,治療に関して目覚ましい進歩を遂げた.本稿の副題である「消化器内視鏡医の役割」に関してまとめると,耳鼻咽喉科医との間に線引きできるものではなく,協力体制は不可欠であるが,やはり使用する内視鏡の精細さに違いがあり,かつ,消化器内視鏡医は早期食道癌の診断に習熟していること,また何よりも,消化器内視鏡医は健診などでリスク群の咽頭を詳細に観察できる機会が圧倒的に多いことより,多くの咽頭表在癌症例を発見することが最大の役割と考える.咽頭癌は,内視鏡治療で済むか,拡大外科手術が必要になるかのQOLの落差が,消化管癌の比ではない.咽頭は消化管の一部である,という認識が,何よりも重要と考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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