GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF SUSPECTED CROHN’S DISEASE COMPLICATED WITH MULTIPLE EXTRAINTESTINAL MANIFESTATIONS
Masaki NISHITANI Masaki MIYAZAWASyogo MATSUDAUichiro FUCHIZAKIHirotoshi MIYAMORIYoshimichi UEDA
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2021 Volume 63 Issue 6 Pages 1255-1261

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要旨

症例は44歳,女性.発熱,腹痛,水溶性下痢を主訴に受診し上行結腸炎と診断した.治療反応不良のため行った下部消化管内視鏡検査では回腸終末部から全結腸に多発潰瘍を認め,上部消化管内視鏡検査では非特異的な所見のみだったが,生検でいずれの病変部からも非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めCrohn病(以下CD)が疑われた.経過で肝機能障害,高アミラーゼ血症,好酸球数増加を認め,肝生検およびEUS-FNAを行ったところCDの消化管外病変として肉芽腫性肝炎,膵炎,好酸球増多症を合併したと診断した.インフリキシマブ導入により消化管・消化管外病変は速やかに改善した.急激な経過で発症し消化管外病変の発症初期を捉え得たCDは稀であり,本症例はCD疑い病変ではあるが報告した.

Ⅰ 緒  言

Crohn病(以下CD)は再燃・緩解を繰り返す難治性炎症性腸疾患であり,内視鏡的には縦走潰瘍や敷石像,非連続性または区域性病変などが特徴的所見とされる 1.病変部から肉芽腫が証明されることはCD診断における主要項目の一つであるが,内視鏡所見が非典型的である場合や病変の分布によっては他の肉芽腫性疾患との鑑別に苦慮することがある.またCDは多彩な消化管外病変を合併することも知られているが発症初期の経過を追えた症例は報告がない.今回,非典型的な内視鏡所見,病変分布から診断に苦慮したがCDが疑われ,多彩な消化管外病変の発症初期を捉えることができた症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:44歳,女性.

現病歴:当科受診の4日前より38℃台の発熱,腹痛,15回/日以上の水様性下痢が出現し,近医で対処薬が処方されたが症状改善に乏しく当科を受診した.

既往歴,家族歴:特記事項なし.

生活歴:飲酒歴なし,喫煙歴なし.

初診時現症:身長160cm,体重58kg.体温39.4℃,血圧103/98mmHg,脈拍102/分・整.眼瞼結膜に貧血所見なし.腹部は平坦・軟,全体に圧痛を認めた.直腸診は非血性で肛門病変は認めなかった.口腔内病変,皮膚病変,外陰部潰瘍は認めなかった.

臨床検査成績:(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

腹部造影CT検査:上行結腸を主体とした腸管壁の肥厚,液体貯留を認めた.

入院後経過(Figure 1):上行結腸炎と診断し,絶食・補液・抗菌薬(FOM 1,500mg/日)管理を行ったところ第2病日には解熱傾向あり,腹部症状・下痢回数の改善を認めた.しかし第3病日より食事を開始したところ40℃台の発熱を伴う腹部症状が再発し,下痢回数の増悪を認め,原因検索目的で第7病日に下部消化管内視鏡検査(以下TCS)を施行した.回腸終末部には正常粘膜を介在して縦走傾向を認める多発潰瘍を,全結腸には不規則に配列する小潰瘍を認め(Figure 2),上部消化管内視鏡検査では胃体部小彎に縦列する点状粘膜出血を認めたが竹の節状外観などは認めなかった.生検で小腸,大腸,胃のいずれの病変部からもリンパ球・形質細胞,好酸球主体の炎症細胞浸潤や非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が認められ(Figure 34),大腸粘膜からの生検では裂溝の形成を認めた.小腸カプセル内視鏡検査では回腸終末部以外には病変を認めなかった.第7病日より抗菌薬を変更(CTRX2g/日)したところ第8病日より肝機能障害および皮疹の出現を認め,抗菌薬を中止したが肝機能障害は遷延した.さらに高アミラーゼ血症,末梢血中の好酸球数増加も伴ったため第14病日に腹部造影CT/MRI検査を施行したところ,門脈域の浮腫状変化を伴う肝腫大および膵腫大を認めた(Figure 5-a).原因検索目的の肝生検では胆管病変は目立たず門脈域,類洞内へのリンパ球・形質細胞および多数の好酸球浸潤を認め,類上皮細胞肉芽腫を認めたが,乾酪壊死はなく抗酸菌染色は陰性,肉芽腫性・壊死性血管炎所見は認めず異型リンパ球,IgG4陽性細胞も認めなかった(Figure 6).またEUS-FNAでは膵組織への好酸球・リンパ球浸潤を認めたが類上皮細胞肉芽腫は認めず,lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(以下LPSP),idiopathic duct centric pancreatitis(以下IDCP)は確認できなかった.

Figure 1 

入院後経過.

入院時のCTで上行結腸炎と診断し保存的加療を行ったが改善に乏しく,内視鏡検査結果からCrohn病(以下CD)が疑われた.第8病日に肝機能障害,皮疹を認め,高アミラーゼ血症,好酸球数増加も伴った.第14病日に施行したCTで肝炎/膵炎を疑う所見を認め,組織学的な検索を行いCDの消化管外病変として肉芽腫性肝炎,膵炎,好酸球増多症を合併したと診断した.第15病日よりインフリキシマブを開始したところ臨床症状は改善し,消化管病変,消化管外病変も改善し第31病日に退院した.

IFX:インフリキシマブ,5-ASA:5アミノサリチル酸製剤,ED:成分栄養剤,TCF:下部消化管内視鏡検査,EGD:上部消化管内視鏡検査,VCE:小腸カプセル内視鏡検査.

Figure 2 

下部消化管内視鏡検査.

回腸終末部(a)には正常粘膜を介して縦走傾向を認める潰瘍の多発を認めた.盲腸(b)やS状結腸(c)含めた全結腸に小潰瘍の多発を認めた.

Figure 3 

病理組織所見(下部消化管内視鏡検査).

回腸終末部からの生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.ラングハンス型巨細胞を伴い,周囲にはリンパ球,形質細胞,好酸球主体の炎症細胞浸潤を認めた.

Figure 4 

病理組織所見(上部消化管内視鏡検査).

胃からの生検でラングハンス型巨細胞を伴った非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.

Figure 5 

第14病日(a)および第228病日(b)の腹部造影CT検査.

a:第14病日の画像検査では門脈域の浮腫状変化(赤矢印)および膵腫大(黄矢印)を認めた.

b:治療に伴い第228病日にはこれらの所見は改善した.

Figure 6 

病理組織所見(肝生検).

肝生検では門脈域に高度の好酸球浸潤を認め,ラングハンス型巨細胞を伴った非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた(黄矢頭).

症状発症前に薬物服用歴や海外渡航歴はなく,複数回の便培養においても原因となるような細菌は検出されなかった.追加検査として行ったインターフェロンγ遊離試験,MPO-ANCA/PR3-ANCAは陰性,各種自己抗体,血中IgG4の上昇は認めず,胸部CTでの異常所見やACEの上昇を認めなかった.薬剤性腸炎や腸結核,エルニシアなどの感染性腸炎は否定的であり,喘息やアレルギー性疾患,腹水を認めず消化管への好酸球浸潤は高度ではなく,血管炎所見を認めなかったことから好酸球性胃腸炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は否定的と考えた.腸管型ベーチェット病(以下腸管型BD)や単純性潰瘍(以下SU)について,口腔内病変など主症状を伴わなかったこと,腸管病変が小腸のみならず大腸にも認められ,典型的な深掘れ潰瘍ではなく類上皮細胞肉芽腫を認めたことから否定的であった.サルコイドーシスは,呼吸器・眼・心症状を伴わず,両側肺門リンパ節腫脹やACE活性高値を認めなかったことから可能性は低いと考えた.以上から内視鏡所見は典型的ではなかったが急激な経過で発症したCDと診断した.肝炎に関して薬剤性肝障害が鑑別となったが,薬剤リンパ球刺激試験(CTRX)は陰性,薬剤性肝障害で肉芽腫形成を認めることが稀で,被疑薬による肉芽腫性肝炎の報告がなかったことからCDの消化管外病変が主体と考えた.さらに肉芽腫を証明できなかったが膵炎の合併や好酸球増多症による組織障害も加わった病態と考えた.

CDの重症度としてはCDAI 430,IOIBD4点(腹痛,1日6回以上の下痢,38度以上の発熱,腹部圧痛)であり中等症~重症に相当した.治療としてPSLの導入を検討したがCD診断時に肝炎・膵炎の合併を認め,肝炎や膵炎の報告があるPSL投与により病態が増悪する可能性が考えられ,またPSLの副作用を説明したところ本人が使用を希望されなかったことから第15病日よりインフリキシマブ(5mg/kg)を開始した.臨床症状は速やかに改善を認め,肝機能障害,高アミラーゼ血症,好酸球数増加を含めた血液検査所見も改善した.肝炎や膵炎が改善したことからメサラジン1,500mg/日,成分栄養剤を追加投与し,第28病日に施行したTCSで消化管病変の改善を確認でき第31病日に退院した.第228病日に施行した腹部造影CT検査では肝腫大・膵腫大は認められず(Figure 5-b),現在もインフリキシマブを継続し寛解が維持されている.

Ⅲ 考  察

CDの病変は全消化管に発症する可能性があるが小腸,大腸,肛門に好発し,非連続的に縦走潰瘍や敷石像といった特徴的な潰瘍形態を示す炎症性腸疾患である 1.内視鏡的に特徴的な所見を認めた場合は確定診断し得るが,多発するアフタや不整形潰瘍のみが不規則に配列することもあり 2,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を証明できても確定診断に至らないことがある.本症例の内視鏡像はCDとしては非典型的で,特に腸管型BDやSU,サルコイドーシスとの鑑別が必要であった.

腸管型BDの腸管病変は円形または類円形の深掘れ潰瘍で,局所性で多発せず,アフタ性病変はないことが多いとされ 3,SUはベーチェット病に相当する全身性の臨床症状を認めないが腸管型BDと類似した回腸終末部に限局した深掘れ潰瘍所見を有する症例と定義される 4.腸管型BDでは病理学的に類上皮細胞肉芽腫を認めることは稀でCDとの鑑別に有用とされ 5,本症例では主症状を認めなかったこと,病変の分布や性状,肉芽腫の存在からは否定的と考えた.

サルコイドーシスの診断において非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の存在は組織診断群として重要であり 6,本症例では小腸,大腸,胃,肝より類上皮細胞肉芽腫を認め,否定はできなかった.しかしながらサルコイドーシスの罹患臓器において消化管や肝は1.6%,5.6%と稀と報告されていること 7,消化管や肝は基本的には部分症であるため呼吸器・眼・心症状を伴わず,ACE活性高値などの特徴的な検査所見を認めなかったことは非典型的と考えられた.さらにCDで認められる肉芽腫は本症例でも認められた周囲と境界不明瞭で小型のものに対して,サルコイドーシスでは比較的大型で大きさの整った周囲と境界が明瞭である肉芽腫であることが多いとされている 8),9.以上から本症例は急激な経過で発症したCDの可能性が高いと考えた.

炎症性腸疾患は消化管外病変をきたすことが知られており,報告では21~44% 10),11とされ,潰瘍性大腸炎と比較してCDで高い傾向にある.CDの臓器別合併症について,櫻井らは肝胆道系が最も多く次いで皮膚・粘膜系が多いと報告しており,その他多彩な合併症が認められることも報告している 11.本症例では入院当初やCD診断時には消化管外病変は明らかではなかったが,経過で肉芽腫性肝炎,膵炎・高アミラーゼ血症,好酸球増多症の3つの合併症を認めた.肝炎に関してはCDに肉芽腫性肝炎が生じることは稀で1%未満と報告されている 12.原因の75%はサルコイドーシス,結核,原発性胆汁性胆管炎,薬剤性と報告されており 13,特に本症例では薬剤リンパ球刺激試験は陰性であったが抗菌薬(CTRX)の関与が疑われた.しかし薬剤性肝障害で肉芽腫を認めることは0.3%と極めて稀であること 14,被疑薬による肉芽腫性肝炎の報告がなかったことからCDの合併症が主体であったと考えた.膵炎・高アミラーゼ血症についてCDにおいて膵炎が6~12%,高アミラーゼ血症が15~25%と報告されており比較的高頻度で認められる 15.原因として胆石性や薬剤性,免疫学的異常などが報告されており 16,今回は自己免疫性膵炎との鑑別を要したが病理組織学的にIgG4陽性細胞は認めずLPSP,IDCPといった特徴的な所見を認めず,またPSLを導入することなくCDの加療で改善したことからも否定的であった.肝炎同様CDに肉芽腫性膵炎が合併することは報告されているが,症例報告程度であった 17.本症例において肝より肉芽腫が証明されたことやCDの消化管外病変であったことを考えると肉芽腫性膵炎であった可能性は考えられたが,組織診断前にCDに対する治療介入があったことも影響してか膵から肉芽腫を証明することはできなかった.さらに本症例では好酸球増多症の合併も認められ,CDに合併し肝炎・膵炎にも影響したと考えられた.炎症性腸疾患に好酸球増多症を合併することは一般的に知られており 18,CDでは14.9%に合併したとする報告がある 19.頻度の低い肉芽腫性肝炎を含めた多彩な消化管外病変の発症経過を追えた症例はこれまでに報告がなく,貴重な症例と考えられた.

本症例ではCDの中等症~重症に相当すると考えて治療を行った.CDの治療指針 1に従うと初期に5-ASA製剤やPSLの導入が検討されたが,CDの診断時に肝炎や膵炎の合併を認め,これらの原因が薬剤性かCDの消化管外病変であるかが明らかになっていなかった.特にPSLは肝炎や膵炎の原因になることが報告されており 20),21病態を増悪させる可能性が考えられ,またPSL自体の多彩な副作用を危惧し患者本人が使用を希望しなかったことから導入しなかった.そのためCDの治療として肝炎や膵炎の報告が少数である 22),23生物学的製剤を導入した.治療に伴い臨床症状は改善し,消化管病変・消化管外病変も速やかに改善傾向を認め,5-ASA製剤と成分栄養剤も導入して治療を継続している.本症例は多数の疾患との鑑別を要し,CDとしては内視鏡像が非典型的で観察期間も短期間であったことから,CDとして矛盾がないか今後も慎重な経過観察が必要と考えられた.

Ⅳ 結  語

急激な経過で発症したCDが疑われ,稀な合併症である肉芽腫性肝炎を含めた多彩な消化管外病変の合併を認めた症例を経験し,貴重な症例と考え報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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