GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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OBSERVATION METHOD AND SIGNIFICANCE OF THE DEEP DUODENUM
Kunihiko OGURO Yoshimasa MIURATomonori YANO
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2021 Volume 63 Issue 6 Pages 1271-1280

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要旨

Helicobacter pylori除菌率が上昇し,胃酸分泌機能が改善したことにより,十二指腸粘膜の環境が変化している.それに加え,内視鏡機器や技術の開発などにより,十二指腸病変の検出は年々増えている.十二指腸の病変は,下行部に最も多くみられるが,ルーチンでの上部消化管内視鏡検査(EGD)では詳細な観察が困難な深部十二指腸である水平部・上行部でも様々な病変が存在する.上部消化管用スコープでも深部十二指腸へのアプローチは可能であるが,同部位はバルーン内視鏡(BAE)やカプセル内視鏡(CE)の普及で,より確実なアプローチや観察が可能となった.スクリーニングのEGDでも可能な限り観察すべきであるが,全例で詳細な観察ができるとは限らないので,それぞれの検査目的を明確にし,適切なモダリティを選択する必要性がある.

Ⅰ はじめに

近年,十二指腸腫瘍をはじめとする十二指腸病変の検出が増えている 1Helicobacter pylori除菌率が上昇し,胃酸分泌機能改善による十二指腸粘膜の環境変化が影響していると考えられ 2,今後も十二指腸病変の増加が見込まれる.一方で,様々な機器や技術の開発により,十二指腸病変の内視鏡的治療も可能な時代となった.しかし,検診や一般診療でもよく行われる上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy;EGD)では,下行部までの観察はルーチンとして観察されるが,それ以深の深部十二指腸,すなわち水平部から上行部は,通常のEGDでは患者負担の面からも積極的に観察されているとは言い難い.幸い十二指腸では,球部から下行部に病変が多く存在するため,その多くはルーチンEGD検査で検出できるが,深部十二指腸にも様々な病変が存在する.ルーチンEGDでは指摘されず,腫瘍性病変が進行してから有症状で見つかる場合も多い.現在,十二指腸を観察できる内視鏡的モダリティとして,上部消化管用スコープの他に,バルーン内視鏡(balloon assisted endoscopy;BAE)やカプセル内視鏡(capsule endoscopy;CE)などがある.特にBAEとCEは上部消化管用スコープと比較するといずれも深部十二指腸観察で有用なモダリティと考えられるが,医療経済的な問題も考慮しつつ,その利点・欠点を理解して使い分ける必要がある.本稿では,深部十二指腸の様々なモダリティにおける観察法と,その意義について概説する.

Ⅱ 深部十二指腸を観察できるモダリティ

十二指腸を観察する目的で使用されるモダリティとして,スクリーニングとしてもよく使用され,内腔を観察できるものは上部消化管用スコープである.しかし,上部消化管用スコープの通常操作では水平部・上行部に到達するのは難しい症例が存在するため,深部十二指腸の観察には操作の工夫が必要で,その方法については後述する.BAEやCEは,深部十二指腸を含め,全小腸の内腔評価が可能なモダリティである.この二つは,スクリーニングとして使用するには,費用面や患者への負担が大きいため,十二指腸水平部以深の病変の存在を想定した場合に選択すべきモダリティである.また,かつては小腸内腔の評価は難しいとされていたCT・MRIも,液体で腸管を拡張させてenteroclysis/enterographyとして撮影することで,小腸内腔の評価と壁外病変の評価が可能となり,深部十二指腸を評価するモダリティの選択肢としてあげられる.

上部消化管用スコープによる観察

通常のEGDをスクリーニングとして行う場合には,下十二指腸角までの観察が一般的であるが,挿入方法の工夫で,水平部・上行部まで観察可能となる場合がある(Figure 1).

Figure 1 

上部消化管用スコープで観察した水平部,上行部.

a:水平部~上行部.

b:上部消化管用スコープで到達した最深部.

まずは幽門挿入後,上十二指腸角(superior duodenal angle;SDA)を確認,次にアップアングルを操作しつつ,右回旋で下行部へ挿入する.その後,下行部でスコープを直線化し,右回旋を保持した状態でゆっくりとプッシュしながら,ダウンアングルで適宜スコープのたわみを取りつつ水平部を進めることで上行部に到達できる(Figure 2).しかし,通常径スコープは胃内でスコープがたわみやすい.特に滑脱型食道裂孔ヘルニアや瀑状胃の場合はスコープがたわみやすく,水平部以深に届かないことも多い.鎮静がない状態では無理な深部挿入は控えるべきであるが,胃内のエアを完全に脱気した状態で十二指腸へ進めれば,胃内でスコープがたわみにくくなり,深部十二指腸まで到達しやすい(Figure 3).検診やスクリーニングの際,十二指腸をより深部まで観察できるようにするには,胃内のエアを可能な限り吸引し,胃より先に十二指腸から観察する方が良い.

Figure 2 

下行部でスコープを直線化し,右回旋を保持した状態でpushしながらダウンアングルをかけ,たわみを取りながら水平部へ進めると上行部へ到達できる.

Figure 3 

胃内の空気が多いとスコープが容易にたわむが,胃内の空気を最小限にすると,胃内の大彎側のたわみができにくく,胃内でもスコープを直線化しやすくなり,深部十二指腸への挿入が可能となる.

スクリーニングEGDにおいて偶然に遠景で深部十二指腸に病変が疑われた場合や,CTなどの他の画像診断などですでに病変が疑われている場合で,さらに詳細な観察が必要なときは,鎮静下で観察を試みる.しかし,アプローチが難しいときは2チャンネルスコープや下部消化管用スコープなどの太い径のスコープを用いるか,ショートタイプのBAE用スコープなどの有効長の長いスコープを胃でループを形成させたままpush操作で水平部以深への到達を試みる.しかし,太径や有効長の長いスコープを用いても水平部・上行部への到達が困難な際には,後述するBAEを用いる方が良い.上部消化管用スコープでは深部挿入が難しい要因について,Table 1にまとめた.

Table 1 

上部消化管用スコープで深部挿入が難しくなる要因.

適応と意義

スクリーニングのEGDにおいては,無理な深部十二指腸の観察は必ずしも必要ではないが,近年は十二指腸の上皮性腫瘍の検出率の増加と共に,内視鏡的治療の件数も増えているため,可能な限り深部十二指腸の観察も試みる.当院で2006年から2015年に施行した十二指腸ESD43例のうち,水平部の病変は5例(11.6%)であった 3.水平部以深の十二指腸腫瘍であっても,BAEを使用することで安定的な内視鏡操作ができればESDを行うことも可能であり,高侵襲の手術を回避できる.よって,スクリーニングEGDでも患者の負担にならないように配慮し,できる限り水平部から上行部も観察すべきである.そういう意味で,スクリーニングでのEGDで深部十二指腸を観察することは,大きな意義をもつと考える.

CEによる観察

CEは,カプセル型の小型内視鏡を絶食にした患者が嚥下することで,消化管内腔の撮影ができ,低侵襲で苦痛なく容易に全小腸観察が可能な検査である.ただし,十二指腸においては,CEの通過速度が速いことが多いため,病変が撮影できずに見落とされる可能性がある 4ことに留意すべきである.そのため,十二指腸の病変を見つける目的というよりも,上部消化管用スコープで到達し難い,深部小腸への病変の拡がりを観察するために有用なモダリティである.消化管の狭窄または狭小化を疑う場合は,パテンシーカプセルで消化管開通性を評価する必要がある.当院ではPillCamTM SB3(コヴィディエンジャパン社)のカプセル内視鏡を使用している(Figure 4).

Figure 4 

PillCamTM SB3(コヴィディエンジャパン社).

適応と意義

CEは,obscure gastrointestinal bleeding(OGIB)の診断においてCTで有意所見を認めない場合の,第一選択となる検査である.また,十二指腸に好発する濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma;FL)では,空腸・回腸に病変が拡がることも多く,CEが病変分布の把握に有用である 5.全消化管にポリープをきたしうるPeutz-Jeghers症候群などのポリポーシス疾患のスクリーニングや経過観察目的にCEは良い適応となる.しかし,現在日本で用いられている小腸用CE,PillCamTM SB3ではカメラが一方向で撮影間隔も1秒間に2~6枚であるため,正常の十二指腸乳頭の検出率は42.7%と報告されている 6.つまり,通過速度の速い十二指腸の単発病変は半分以上が撮影できずに偽陰性となる可能性があるため,単発病変の検出には向いていない.十二指腸のみでなく,小腸全体に病変が疑われ,観察を目的として行う場合に良い適応となる.確定診断目的の生検や治療が必要な場合はCEでは対応できない.

BAEによる観察

BAEは,スコープにオーバーチューブを組み合わせ,オーバーチューブ先端のバルーンにより腸管を把持することで腸管の伸展を防ぎ,より深部の腸管への挿入が可能である.BAEにはスコープ先端にもバルーンが付いたダブルバルーン内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)と,スコープ先端にはバルーンの付いていないシングルバルーン内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE)があり,それぞれ有効長や外径,鉗子口径の異なる様々なモデルがある(Table 2 7.ショートタイプのEI-580BT(富士フイルム社)は,鉗子口径が大きく,操作性も良いので,深部十二指腸の観察と処置に有用である(Figure 5).

Table 2 

国内で市販された小腸バルーン内視鏡(BAE)の諸元表(文献より引用一部改変).

Figure 5 

EI-580BT(富士フイルム社).

有効長が1,550mmと短く,先端の小回りも利き,旋廻性能が高いので操作性が良い.

十二指腸水平部・上行部を観察する際は,オーバーチューブ先端を十二指腸球部か下行部に位置させることで,胃内のスコープのたわみを抑制しスコープ先端に確実に力を伝えることができるため(Figure 6),病変の詳細観察や生検・治療も比較的容易に行うことができる.しかし,下十二指腸角を越えてすぐの屈曲内側は,元々解剖学的に固定されている部位のためオーバーチューブの位置を調整しても死角となりやすい他,スコープの操作性が不安定になりやすく,観察・治療が難しい部位であることには留意が必要である(Figure 7).バルーンの制御は圧制御でコントロールされているが,観察したい部位の管腔径に応じて観察しやすいように,ポーズ機能を使用して意図的にスコープ先端のバルーンサイズを適宜小さめに調整することで,状況が改善する場合がある 8.先端フードは場面に応じて使い分け,生検を含む診断目的の際はノーマルフード,ポリープ切除や阻血処置を行う際はロングフード,クローン病などの狭窄を拡張する場合にはキャストフードを使用する(Figure 8).

Figure 6 

DBEで深部十二指腸を観察する方法.

スコープ先端を上部空腸まで進め,オーバーチューブを深部十二指腸まで進めたところから口側に戻りつつ観察する.観察時は,オーバーチューブ先端のバルーンを下行部から球部に固定して,スコープ先端に確実に力を伝えられる状態を作る.SBEの場合は,短縮操作の際にスコープ先端で腸管を把持する.

Figure 7 

下十二指腸角の屈曲内側は観察・処置が困難.

Figure 8 

先端フード.

a:ノーマルフード DH-14EN(富士フイルムメディカル社).

b:ロングフード D-201-10704(オリンパス社).

c:キャストフード(トップ社).

適応と意義

BAEは,上部消化管用スコープよりも深部十二指腸での操作が安定していることから,ミニプローブを用いたEUSや様々な内視鏡治療が可能であり,Peutz-Jeghers症候群(Peutz-Jeghers syndrome;PJS)や家族性大腸腺腫症(Familial adenomatous polyposis;FAP)の十二指腸ポリープや,血管性病変に対する内視鏡治療が可能である.しかしながら,オーバーチューブ外径が11~13mmあり,上部消化管用スコープやCEに比べ侵襲性があるため,生検や治療が必要となる症例など,目的を明確にして行うべきである.当院では,DBEで深部十二指腸のPJSのポリープの阻血治療や,小腸血管性病変の止血処置などを行っている.

Ⅲ いつ深部十二指腸の観察が必要か

十二指腸は他消化管臓器に比較すると病変の絶対数自体が少ない.病変の多くは球部から下行部に存在し,水平部以深の病変数は相対的にさらに少なくなる.また,この部位は通常のスクリーニングEGDでは詳細には観察されない部位であるので,まずはこの部位に病変があるかもしれないという意識をもつことが重要である.そして,CTなど他のモダリティで深部十二指腸に病変が確認されている場合や,背景疾患や下行部までの内視鏡所見から十二指腸深部に病変の存在を疑う場合に積極的に深部十二指腸の観察を行うべきである.具体例を表にまとめた(Table 3).

Table 3 

積極的に深部十二指腸を観察すべき例.

当院で2005年1月~2020年1月に施行したDBEで観察された十二指腸水平部・上行部の病変(172例)をTable 4にまとめた.ポリポーシスの症例が多くみられ,十二指腸に病変が出現しやすいこれらの疾患を念頭にいれておくことは重要である.次いで,OGIBの精査で発見された小腸血管性病変や十二指腸憩室などの良性疾患が多くを占めた.

Table 4 

当科のDBEで観察された十二指腸水平部・上行部の病変(2005年1月~2020年1月).

Ⅳ 深部十二指腸の観察時に留意しておきたい疾患

・十二指腸癌

原発性十二指腸癌は,全消化管悪性腫瘍の0.3%と稀な病変である 9.十二指腸癌全体に対して水平部は19.1%,上行部は8.6%との報告があり 10,深部十二指腸でも十二指腸癌の約3割を占める.特に家族性大腸腺腫症(FAP)やLynch症候群では十二指腸腺腫や十二指腸癌が合併しやすいため,積極的な深部十二指腸の観察が望ましい.一方,散発的に発見される表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial nonampullary duodenal epithelial tumor;SNADET)に対しては,腺腫の段階で積極的切除を推奨する根拠はない.しかし大腸腺腫切除により大腸癌による死亡率が53%減少したNational polyp studyの最終結果を受けて 11,現在大腸腺腫は積極的に切除が行われているように,SNADETに対しても同様に積極的に内視鏡的治療をする方針がとられるようになっていくものと考える.そのためには,早期に病変を見つけることが重要であり,スクリーニングEGDでも容易にアプローチできる症例では深部まで観察するよう心がけたい.

・悪性リンパ腫

十二指腸に生じる悪性リンパ腫は,濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma;FL)の割合が多いとされている.好発部位は下行部で,乳頭部を中心とした部位に白色顆粒の集簇あるいは散在で認め,偶然に発見される症例が増加している 12.FLは,発見された部位のみでなく,小腸全体に病変が拡がる可能性があり,十二指腸下行部で発見されたとしてもその先の水平部以深,空腸,回腸の検索についてもBAEやCEで行う.FLは比較的予後良好で,長期間経過観察の方針をとられる場合もあり,その際に定期的なBAEやCEでの観察が必要である.

・Gastrointestinal stromal tumor(GIST)

GISTは,全消化管のうち3~5%が十二指腸に発生すると報告されている 13.粘膜面の変化に乏しい粘膜下腫瘍はCEでは診断が困難であり,CTなどでその存在が疑われている場合には上部消化管用スコープやBAEを用いて観察することが望ましい.血流が多いため,生検は避けた方が安全であるが,内視鏡の観察で潰瘍形成を伴う場合やダンベル状あるいは結節状の形態であることや,EUSで筋層と連続するやや不均一な低エコー腫瘤として描出されることから診断できる 14ため,内視鏡での観察が必要である.

・ポリポーシス疾患(PJS,FAPなど)

この疾患では若年から継続的に観察・治療が必要である.PJSでは十二指腸でも大小様々な多くのポリープを生じ,切除した110個の小腸ポリープのうち,21mm以上のものでは3.3%に癌化を認めた報告があり 15,切除が必要となる時期を見極めることが必要で,BAEやCEでこの部位を定期的に観察することは重要である.FAPでは,十二指腸癌が大腸癌に次ぐ癌死の原因とされており 16,予防的大腸切除後も十二指腸全体の定期的なサーベイランスが必要である.

Ⅴ おわりに

本原では,深部十二指腸の観察法や留意すべき点について解説した.今後,十二指腸全体の病変が増加することが見込まれ,これまでは観察・治療が難しいとされていた深部十二指腸も,対応が必要となる場面が増えると思われる.すべての症例にスクリーニングでこの部位を観察するのは困難ではあるが,上部消化管用スコープで到達可能な症例は積極的な観察を行うと共に,深部十二指腸の観察が必要な症例を適切に抽出し,個々に応じてモダリティをうまく組み合わせて観察することが望ましい.今後もこの部位の観察・診断方法について検討を重ねていくべきである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:三浦義正(富士フイルム国際光学医療講座兼務),矢野智則(大塚製薬工業,富士フイルム,富士フイルムメディカル)

文 献
 
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