GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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DIAGNOSIS AND TREATMENT OF HAMARTOMATOUS POLYPOSIS SYNDROMES
Naoki OHMIYA Masanao NAKAMURATomoyuki SHIBATA
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2021 Volume 63 Issue 7 Pages 1323-1335

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要旨

過誤腫性ポリポーシスを来す疾患にはPeutz-Jeghers症候群(PJS),若年性ポリポーシス症候群,Cowden症候群,結節性硬化症がある.その中でPJSは口唇,口腔,指趾の色素沈着と小腸ポリープ重積や慢性貧血を特徴とする.従って,早期に診断しバルーン小腸内視鏡により小腸全域のポリープを摘除することで開腹手術を回避することが可能である.他にCowden症候群,結節性硬化症も皮膚所見が特徴的であり,詳細な身体診察が診断に結びつく.過誤腫性ポリポーシスは消化管のみならず消化管外の悪性腫瘍合併リスクが高いため,消化管の検索をするのと同時に,定期的な全身のサーベイランスが必須である.本稿では各疾患の臨床病理学的特徴,診断,治療について概説する.

Ⅰ はじめに

消化管に多数のポリープが発生する疾患を消化管ポリポーシスという.原因には遺伝性ポリポーシスと非遺伝性ポリポーシスがある.遺伝性ポリポーシスには腫瘍性ポリポーシスと過誤腫性ポリポーシスがあり,非遺伝性ポリポーシスにはCronkhite-Canada症候群がある.腫瘍性ポリポーシスには家族性大腸腺腫症,Turcot症候群,serrated polyposis syndromeが,過誤腫性ポリポーシスにはPeutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシス,Cowden症候群(PTEN過誤腫症候群),結節性硬化症がある.特にPeutz-Jeghers症候群,Cowden症候群,結節性硬化症は皮膚・粘膜に特徴的な所見を有し,身体診察のみでその疾患を疑うことが可能である.中でもPeutz-Jeghers症候群はしばしば小腸重積を合併し,以前は頻回の外科手術が必要であったが,カプセル内視鏡とバルーン小腸内視鏡のおかげで小腸ポリープの正確な診断と内視鏡治療が可能となり,手術を回避できるようになった.また,消化管のみならず消化管外にも悪性腫瘍合併リスクが高いため,定期的な全身のサーベイランスが必須である.本稿では,過誤腫性ポリポーシスを来すPeutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシス,Cowden症候群,結節性硬化症の臨床病理学的特徴,診断,治療について概説する.

Ⅱ 過誤腫性ポリポーシスの分類と特徴

Table 1に過誤腫性ポリポーシスの分類と特徴を示す.

Table 1 

過誤腫性ポリポーシスの分類と特徴.

Ⅲ Peutz-Jeghers症候群(PJS)

Ⅲ-1.概要

①食道を除く全消化管の過誤腫性ポリポーシス,②口唇,口腔,指趾の色素沈着を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である.1921年にPeutz,1949年にJeghersらが報告した 1.家族歴は約半数で認められるが,残り半数は家族歴のない発端者である.発生率は12~20万人に1人,国内の患者数は約600~2,400人と推計される 2

Ⅲ-2.責任遺伝子

LKB-1STK-11)が同定されている.LKB-1は癌抑制遺伝子で,第19番染色体短腕(19p13.3)上に存在するセリン・スレオニンキナーゼ遺伝子である 3),4LKB-1の遺伝子異常としては変異,欠失,プロモーター領域のメチル化異常が発見されている.PJSの96%にこの遺伝子異常が認められたという報告もある 5LKB-1遺伝子の変異が確認されれば診断は確定するが,本邦ではLKB-1遺伝子検査は保険適用外であるため一般化されていない.この遺伝子検査は発症年齢,ポリープの増殖速度,重症度などの推定には有用ではなく,同じ遺伝子異常を持つ家族間でも同一の発症様式とはならず個人差が大きいとされる 6.また,上記96%以外の少数例ではLKB-1遺伝子の異常が見つからないため,他の責任遺伝子が存在する可能性がある.

Ⅲ-3.臨床的特徴

1)皮膚・粘膜色素沈着

出生時から幼少期に色素斑が発生し,思春期までは増加するも,加齢とともに退縮や消失することが多い.色素斑は暗青色~暗褐色であり,1~5mmほどの大きさで,口唇,口腔粘膜に最も多く認められ(Figure 1-a),指趾,顔面,手掌,足底,陰部,稀に腸管内にも認められる.組織学的には,表皮基底層でメラニン色素の増加とメラノサイトの増加が認められる.色素斑の悪性化は知られていない.色素沈着がない場合は不全型PJSと言われる 7

Figure 1 

Peutz-Jeghers症候群.

16歳女性.腹痛(小腸重積),下痢にて来院.1歳時血便と肛門からのポリープ脱出あり,大腸ポリープ摘除,開腹下小腸ポリープ摘除にてPeutz-Jeghers症候群と診断.

a:口唇の色素沈着.文献11より転載.

b:15mmの有茎性分葉状ポリープ(空腸,経口的ダブルバルーン小腸内視鏡).文献11より転載.

c:bの内視鏡摘除標本の病理.過形成様の上皮の乳頭状増殖と粘膜筋板のポリープ内への樹枝状増生.

2)消化管ポリポーシス

食道を除く全消化管に散在性に発生するが,ポリープの発生する頻度は小腸が最も高頻度で,数も多い.大きさは様々で大きくなるに従い,分葉状,有茎性となる(Figure 1-b).ポリープの組織像は過誤腫であり,上皮の過形成と粘膜筋板のポリープ内への樹枝状増生を特徴とする(Figure 1-c).上皮の過形成が重層し,深部浸潤しているようにみられることがあるが(偽浸潤:pseudoinvasion),悪性像と見誤らないよう注意する必要がある 7

Ⅲ-4.合併症

1)ポリープによる腸重積・出血・腹痛(前期合併症)

ポリープは上述の如く有茎性であるため,腸重積や,潰瘍出血,腹痛発作を引き起こす.腹痛の大部分は慢性閉塞症状に起因し,食後間歇的に起こる疼痛で嘔気・嘔吐を伴う場合があり,比較的軽く数カ月から1年ぐらいの間隔で長期間繰り返すという.重積によって腸管の梗塞や壊死を来した場合はゼリー状の血便を認める場合がある.また重積した腸管や拡張した口側の腸管等を触れることがある.好発年齢は若年であり,1/3は10歳前,50~60%は20歳前に起こると言われる 8),9

2)悪性腫瘍の発生(後期合併症)

悪性腫瘍の合併は30歳以降が多い.消化管過誤腫性ポリープに腺腫や腺癌が発生することがあり,hamartoma-adenoma-carcinoma sequenceが考えられている.消化管のみならず消化管外(乳腺,膵臓,卵巣・子宮,精巣,肺)にも発生する.64歳時までの臓器別の発癌率は高い順に乳腺(54%),大腸(39%),膵臓(36%),胃(29%),卵巣(21%),肺(15%),小腸(13%),子宮(9%)である.20,30,40,50,60,70歳代の各年代の発癌率はそれぞれ2%,5%,17%,31%,60%,85%と一般成人と比べ高率で相対危険度は約4倍と言われている.消化管癌の30,40,50,60,70歳代の各年代の発癌率はそれぞれ1%,9%,15%,33%,57%で一般成人と比べた60代での相対危険度は33倍で,最も大腸癌が多い.乳癌の40,50,60,70歳代の各年代の発癌率はそれぞれ8%,13 %,31%,45%であり,一般成人と比べた70代での相対危険度は6倍である.膵臓癌の40,50,60,70歳代の各年代の発癌率はそれぞれ3%,5%,7%,11%である 10.Peutz-Jeghers症候群の女性に特徴的な腫瘍は性索間質性卵巣腫瘍(sex cord tumors with annular tubule:SCTAT),粘液性卵巣腫瘍,子宮頸部の最小偏倚性腺癌(minimal deviation adenocarcinoma:MDA)がある.性索間質性卵巣腫瘍の20%は悪性で,症状としては不規則な月経や過多月経を認め,思春期早熟症を伴うことがある.PJSに関連するSCTATは多病巣性,両側性,石灰化を伴う小型の腫瘍であることが多く,良性の経過をたどるのが特徴である.組織学的には,輪状細管は明らかな集塊を作らずに卵巣間質に広範囲に散在する傾向があり,顕微鏡的にしか捉えられないこともある.PJSに関連しないSCTATは片側性,大型,悪性の経過をたどることがある.最小偏倚性腺癌(minimal deviation adenocarcinoma:MDA)は悪性腺腫(adenoma malignum)とも言われ,大量の粘液性帯下,子宮頸部の腫大や嚢胞性病変を特徴とする.細胞異型が乏しいまま浸潤性に発育する予後不良の疾患であるため注意が必要であり,帯下の増加について問診することが大切である 7.男性の9%に精巣の間質細胞から発生するセルトリ細胞腫(大細胞性石灰化セルトリ細胞腫large cell calcifying Sertoli cell tumor:LCST)が認められることがある.この腫瘍の10~20%は悪性で,エストロゲン産生性のため女性化乳房を合併する 11

Ⅲ-5.診断・サーベイランス

遺伝歴,身体所見と上部消化管内視鏡・大腸内視鏡,小腸カプセル内視鏡,バルーン内視鏡,小腸X線検査,CT(CTエンテログラフィ),MRI(MRエンテログラフィ)による画像診断ならびに摘除病理所見より総合的に診断する.生涯にわたる検査が必要であり放射線被曝を避けるためにカプセル内視鏡やMRI(MRエンテログラフィ)による検査が勧められる.ただし,10歳前後までの小児ではカプセル内視鏡を内服できないことが多いため,アドバンスカプセル内視鏡挿入補助具(保険未承認)やスネア,回収ネット等で挿入し,十二指腸でカプセル内視鏡をリリースする必要がある 12

治療後のサーベイランスをTable 2に示す 13.摘除後の小腸ポリープの経過観察には苦痛や放射線被曝がなく,小ポリープも検出できるカプセル内視鏡が有用である 14.消化管外(乳腺,膵臓,卵巣・子宮,精巣,肺)の悪性腫瘍のサーベイランスには,定期的な頸部~骨盤部造影CT,MRI,マンモグラフィー,婦人科検診等の定期的な検査を行うことが勧められる.

Table 2 

Peutz-Jeghers症候群のサーベイランス.

Ⅲ-6.治療

消化管ポリープの治療の原則は内視鏡摘除である.近年,バルーン内視鏡の開発 12により深部小腸の内視鏡的ポリープ摘除が可能になった 15)~17.筆者らの94個の小腸ポリープの病理学的検討で,腺腫成分の合併は16mm以上で認められ,20mm以下のポリープの腺腫合併率は1/68(1.5%),20mmを越えるポリープの腺腫・腺癌の合併率は8/30(26.7%)と有意差が認められた(P<0.001).また,重積はそれぞれ13個の孤発性ポリープと3カ所の密集ポリープで生じていた.重積していた孤発性ポリープの最小値は15mmであった.つまり,大きさ15mm以上から小腸重積,腫瘍の合併頻度が高くなることから,摘除するポリープの大きさの目安は10mm以上とした 14.ただ,絞扼性イレウスを合併している場合は緊急外科手術が必要である.しかし,開腹歴が多くなると癒着が生じ,特に2回以上の開腹歴を有する場合ではダブルバルーン内視鏡を以てしても小腸全域の挿入が困難になる 14.そのため,たとえ腸重積による腸閉塞が生じていても絞扼症状がない限りバルーン内視鏡を保有する施設に速やかに搬送し,内視鏡的整復後にポリープ摘除を試みるべきである.重積ポリープは茎部に漿膜が引き込まれており,重積状態でのポリープ摘除は穿孔の危険があるため,筆者らはすぐ肛門側までダブルバルーン内視鏡を挿入し送気とガストログラフィンの併用で重積を整復し,数日絶食後にポリープを摘除するようにしている 18.広基性病変,平坦型病変はもちろん,通常粘膜下局注による膨隆を要しない有茎性病変でも深部小腸のポリペクトミーの際は,穿孔・後出血予防のためにポリペクトミー前に極力粘膜下局注を行う.小腸腫瘍・ポリープの内視鏡的摘除の注意点は深部小腸での内視鏡操作は時に難しく時間と労力を要すること,2回以上の腹部手術歴があると癒着が強く深部挿入が難しいことである 14.長時間の無理な経口的深部挿入が急性膵炎の発生につながることもあるし,癒着剝離に伴い穿孔することもあるので,開腹歴のある癒着症例では慎重な操作が求められる.筆者はポリープ1個ずつ高周波電流を通電しながら内視鏡切除を行い,小さなものは切り捨て,大きなポリープのみ病理学的検索のため回収しているが,坂本・Khurelbaatarら自治医科大学では出血予防のために留置スネアまたは阻血クリックをポリープ基部にかけ,自然脱落を期待する阻血治療を提唱している 19),20.外科切除の適応は5cmを越えるような重積ポリープで漿膜がポリープ頸部まで巻き込まれ内視鏡摘除が不可能と推測されるものなどが挙げられる.ただ,筆者は10cm大の小腸ポリープでも分割切除で内視鏡摘除を行っている.癒着等で挿入不可能な部位に摘除目標の腫瘍がある場合は,内科外科合同で,癒着剝離術を行いながらバルーン内視鏡を行う方法も報告されているが 21,近年,単孔式腹腔鏡下手術が広く行われており,バルーン内視鏡挿入不可能症例の治療の際はこちらも勧められる.

Ⅳ 若年性ポリポーシス症候群

Ⅳ-1.概要

若年性ポリポーシス症候群(juvenile polyposis syndrome:JPS)は,全消化管に過誤腫性ポリポーシスを認める常染色体優性遺伝疾患で,1964年にMcCollらが報告した 22.ここでの「若年性」はポリープ発症年齢を指しているわけではなく,ポリープの形態を表現した用語である.常染色体優性遺伝疾患であるが,約67%は家族歴のない発端者である 23.発症率は10万人に1人,国内の患者数は約80~1,200人とされている 24.ポリープの分布によって全消化管型,大腸限局型,胃限局型に分類される.臨床的には,①大腸に5個以上の若年性ポリープを認める,②全消化管に多発の若年性ポリープを認める,③近親者にポリポーシスの家族歴があり,個数を問わず若年性ポリープを認めるという上記3つのいずれかを満たした場合にJPSと診断される 23

Ⅳ-2.責任遺伝子

Transforming growth factor(TGF)-β経路による細胞増殖抑制のシグナル伝達系を介して,細胞の増殖やアポトーシスを制御する腫瘍抑制遺伝子である第18番染色体長腕に存在するSMAD4Sma genes of Caenorhabditis elegans and the Mad gene in Drosophila melanogaster-4)遺伝子と第10番染色体長腕に存在するBMPR1ABone morphogenetic protein receptor type-1A)遺伝子の変異が認められる.28%にBMPR1A変異が,27%にSMAD4変異が同定されるが,残り45%は原因不明である.SMAD4変異を有する患者の約20%で遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT)の合併を認め,その場合には鼻出血,肺動静脈奇形など伴う(JPS/HHT syndrome) 23

Ⅳ-3.臨床的特徴

1)消化管ポリポーシス

主な症状はポリープ表面からの出血による血便,貧血,肛門からのポリープ脱出,腹痛,腸重積であり,20歳までに初発症状が出現することが多い.蛋白漏出性胃腸症,低蛋白血症,成長障害などを伴うこともある.消化管ポリポーシスの個数は多くても300個ほどであり,生涯ポリープ発生数が4~5個という症例もある.直腸~S状結腸が好発部位であり,直腸(約40%),S状結腸(約30%),下行結腸(約20%)の順に多くみられる 25.肉眼的には発赤が強いのが特徴で,びらん・粘液を伴うと苺ミルク様外観となる(Figure 2-a).柔らかく,有茎性~亜有茎性であり,分葉傾向に乏しく表面平滑であることが多い(Figure 2-a,b).組織学的には,異型のない腺管が嚢胞状に拡張し,拡張した腺管内は粘液を貯留する.粘膜固有層間質は浮腫状で,非特異的な炎症細胞浸潤を伴う(Figure 2-c).単発性の若年性ポリープと同様の所見である.

Figure 2 

若年性ポリポーシス症候群(大腸限局型).

4歳男児.肛門からのポリープ脱出にて来院.

a:苺ミルク様外観の9mmの有茎性ポリープ(S状結腸).

b:5mmの亜有茎性ポリープ(直腸).その他横行結腸に2個,下行結腸に1個の合計5個の若年性ポリープを指摘され,若年性ポリポーシス症候群と診断された.

c:aの内視鏡摘除標本の病理.表層のびらん,腺管の嚢胞状拡張,粘膜固有層間質の浮腫,好中球やリンパ球を含む非特異的な炎症細胞浸潤,微小血管の増生と拡張.

2)悪性腫瘍

大部分の若年性ポリープは良性であるが,稀に癌化すると考えられており,生涯の消化管癌の発生リスクは9~50%と報告されている.特に大腸癌のリスクは高く,35歳までに17~22%,60歳までに68%に発生し,年齢中央値は43.9歳とされている 23),26.本邦では胃限局型が多く(Figure 3),胃癌を合併することが多い.他に小腸癌,膵臓癌の合併の報告もある 26.発癌リスクは早期のスクリーニングやポリープ摘除により低下する.

3)消化管外合併症

ばち状指,多指(趾)症,巨頭症,脱毛症,口唇口蓋裂,先天性心疾患,重複腎盂尿管,(双頸)双角子宮,停留精巣,過剰歯,知的障害などの合併の報告がある 24

Ⅳ-4.治療,サーベイランス

定期的な消化管内視鏡検査が重要であり,内視鏡的ポリープ摘除が有効である.蛋白漏出性胃腸症を呈するほどポリープ数が多く内視鏡摘除が困難な場合や,悪性腫瘍を合併した場合は外科的切除が必要となる(Figure 3).その際は,ポリープが再発することが多いため,胃の場合は胃全摘術,大腸の場合は肛門機能を温存した大腸亜全摘術も考慮すべきである.

Figure 3 

若年性ポリポーシス症候群(胃限局型).

48歳女性.39歳頃から下肢浮腫に気付く.貧血(Hb 9.0g/dL),蛋白漏出性胃症による低蛋白血症(4.1g/dL)・低アルブミン血症(1.9g/dL)精査目的で来院.

a:多発性若年性ポリープ(胃).発赤した絨毛状,乳頭状,舌状ポリープが密生.

b:胃X線.胃全体に無数の隆起性病変,粘液過剰産生によるバリウム付着むら.

c:腹腔鏡下胃全摘術標本.胃癌の合併はなかった.

Ⅴ Cowden症候群

Ⅴ-1.概要

Cowden症候群は,皮膚・粘膜,消化管,乳腺,甲状腺,泌尿生殖器などに過誤腫性病変が多発する常染色体優性遺伝疾患で,PTEN過誤腫症候群(PTEN hamartoma tumor syndrome:PHTS)の1つである 27.Cowden症候群の名称は1963年にLloydとDennisが最初に報告した家系の姓名に由来している 28.家族内発症は多くても50%程度で,孤発例が多いとされている.有病率は20~25万人に1人,国内の患者数は約500~600人と推計される 29.National Comprehensive Cancer Network(NCCN)に準じたCowden症候群の診断基準を示す(Table 3 30),31

Table 3 

Cowden症候群の診断基準.

Ⅴ-2.責任遺伝子

PTEN(phosphate and tensin homolog deleted on chromosome ten)遺伝子が認識されている.PTEN遺伝子は第10番染色体長腕(10q23.31)上に存在する癌抑制遺伝子であり,Cowden病患者の約85%にPTEN遺伝子変異が認められる.ナンセンス変異,ミスセンス変異,欠失,挿入,スプライス部位の変異などの様々な変異が報告されている.PTEN遺伝子産物の機能不全によりPI3K-Akt-mTOR(mammalian target of rapamycin)経路の活性化などが生じて過誤腫性病変が発生し,その他の遺伝子異常が加わることにより癌化すると考えられている 31

Ⅴ-3.臨床的特徴

1)PTEN過誤腫症候群(PHTS)

PHTSには,Cowden症候群,バナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群(Bannayan-Riley-Ruvalcaba syndrome:BRRS),Proteus症候群(PS),Proteus様症候群が含まれる.PTEN遺伝子変異の存在が診断の基本となるが,変異を認めない症例も散見される.

BRRSは先天性重症型のPHTSで,巨頭症,過誤腫性大腸ポリポーシス,皮下脂肪腫,陰茎亀頭の色素斑,精神遅滞を特徴とする.

Proteus症候群(PS)は結合組織母斑,表皮母斑,骨化過剰症,先天奇形や過誤腫性過剰増殖など多彩な臨床像を有する疾患である.

Proteus様症候群は定義づけられていないが,PSの診断基準は満たさないが,PSの臨床的特徴を顕著に示す場合に使用される.

2)粘膜・皮膚病変

顔面の多発性外毛根鞘腫,全身の角化性丘疹(Figure 4-a),口腔粘膜の乳頭腫(Figure 4-b)などが特徴的で,30歳代までに認められる.

Figure 4 

Cowden症候群.

42歳女性.貧血にて来院.腺腫様甲状腺腫,乳腺腺腫も指摘された.貧血の原因は中部空腸に発生したgastrointestinal stromal tumorと判明(文献33の症例).その後乳癌(48歳),子宮頸部扁平上皮癌(47歳)が発見され手術.

a:耳介後部の小さな散在性角化性丘疹.

b:歯肉の乳頭腫(矢印).

c:食道グリコーゲンアカントーシス.

d:空腸過誤腫性ポリポーシス(経口的ダブルバルーン小腸内視鏡).

3)消化管ポリポーシス

食道を含めた全消化管に過誤腫性ポリポーシスを合併しやすいが,通常は軽微であり症状もほとんど現れないとされる.中でも食道は病変合併率が高く,グリコーゲンアカントーシス(glycogenic acanthosis,Figure 4-c)が多発し,診断の一助となりうる.胃では幽門前庭部に密生する小隆起を,小腸,大腸では多発する小隆起を認める(Figure 4-d).

4)悪性腫瘍

消化管ポリポーシスの癌化は稀とされるが,大腸癌は40歳から発生し,生涯の発生率は9%との報告がある 32.GISTの合併も報告されている 33

乳癌は,女性患者で30歳台から発生し,生涯の発生率は85%である.またPTEN遺伝子変異陽性の男性で乳癌発症の報告がある.甲状腺癌は,生涯の発生率は35%である.組織型は通常は濾胞癌であり,稀に乳頭癌が発生するが,髄様癌は認められない.子宮内膜癌は,25歳から発生し,生涯の発生率は28%とされる.腎癌は,40歳から発生し,生涯の発生率は34%とされる.組織型は乳頭状腎細胞癌が多いとされる 32.その他に,皮膚癌,膀胱癌,卵巣癌,脳腫瘍,血管奇形などが発生しうる.

Ⅴ-4.サーベイランス

上述のように多臓器に悪性腫瘍が発生するため,定期的な全身のサーベイランスが必須である.Cowden症候群におけるサーベイランスを示す(Table 4 31

Table 4 

Cowden症候群のサーベイランス.

Ⅵ 結節性硬化症

Ⅵ-1.概要

結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)は1835年にPFO Rayerによる顔面の血管線維腫(Facial angiofibroma) 34,1862年のvon Recklinghausen 35,1880年のBournevilleによるてんかんを伴う知的障害者の3剖検例 36,Pringle による先天性の脂腺種の報告 37にはじまる 38.原因遺伝子は第9染色体のTSC1 39,第16染色体のTSC2 40が同定されており,その産生蛋白であるハマルチンhamartin,チュベリンtuberinの複合体の機能不全により,下流のPI3K-Akt-mTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1)の抑制がとれるために,mTORC1が活性化しててんかんや精神発達遅滞,自閉症などの行動異常や,上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA),腎血管筋脂肪腫,肺リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM),顔面の血管線維腫などの過誤腫を全身に生じる常染色体優性遺伝疾患である.古典的には①知能低下,②てんかん発作,③顔面の血管線維腫が三主徴としてきたが,てんかんや発達遅滞を伴わない症例も増加している.家族歴は40%で認められるが,残り60%は孤発例である.国内の患者数は約4,000~12,000人と言われる 38),41.TSCの診断基準をTable 5に示す.

Table 5 

結節性硬化症の診断基準.

合併症として,10歳未満では,心血管系の異常(心臓の横紋筋腫Cardiac rhabdomyomas)による心不全が死因となる.10代では脳の腫瘍,特にモンロー孔付近の腫瘍(SEGA)が急速に増大し,モンロー孔をふさいで水頭症を呈するのが主な死因である.10歳以上では血管成分の多い腎の血管筋脂肪腫が増大すると,時に自然破裂し腹痛,貧血,出血性ショックを来し,腎臓摘出しなければならないことがある.また,腫瘍が増大すると時に悪性化することがあるし,腎不全にもなる.40歳以上では特に女性において腎病変と並んで肺LAMによる気胸を繰り返すことがある.てんかんが関与する死因は40歳未満がほとんである 38

Ⅵ-2.消化管ポリポーシス

食道を含めた全消化管に過誤腫性ポリポーシスを合併するが,通常は軽微であり症状もほとんど現れないとされる.以前の診断基準で直腸過誤腫性ポリポーシスHamartomatous rectal polypsはminor featuresの1項目に取り上げられていたが 42,現在の診断基準では消化管病変の記載はない.当院には1988年から現在まで94人のTSC患者が来院し,現在は多科・多職種からなるFUJITA TSCチームを設立し患者の治療に取り組んでいるが,そのうち消化管の精査を行ったのは4例のみでいずれも小病変だった(Figure 5).

Figure 5 

結節性硬化症.

43歳男性.生後7カ月時に点頭てんかん,2歳時脳CTで結節性硬化症と診断.25歳から左腎血管筋脂肪腫の圧迫症状出現,34歳時左腎臓摘出術.生体腎移植スクリーニングのために大腸内視鏡施行.

a:顔面の血管線維腫.

b:直腸の多発するポリープ.他には,盲腸~S状結腸にかけて5mm以下の過形成ポリープ10個,12mmの鋸歯状腺腫1個,5mmの腺管腺腫1個を認めた.

c:直腸ポリープの病理.軽度の過形成変化,腺管拡張,粘膜筋板の増生.

Ⅵ-3.治療

現在確立されている治療法はほとんどが対症療法である.てんかんに対しては抗てんかん薬や時に病巣の外科的切除が行われる.皮膚の腫瘍に対してはレーザー,液体窒素を用いた冷凍凝固術や外科手術を行う.脳腫瘍に対しては手術またはmTORC1阻害剤(エベロリムス)による薬物療法,腎血管筋脂肪腫に対してはmTORC1阻害剤(エベロリムス)による薬物療法,カテーテル治療(動脈塞栓術)または手術が行われる.肺LAMに対してはmTORC1阻害剤(シロリムス/ラパマイシン)が保険承認されている.

謝 辞

若年性ポリポーシス症候群・胃限局型の胃切除標本写真を提供いただいた藤田医科大学病理診断学講座・塚本徹哉教授,結節性硬化症の顔面写真を提供いただいた藤田医科大学腎泌尿器外科学講座・佐々木ひと美教授に深謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:大宮直木(総務省,日本消化器病学会,日本消化管学会,アッヴィ合同会社,第一三共株式会社,磁気健康科学研究振興財団,国立大学法人宮崎大学,ブリストルマイヤーズスクイブ,日本イーライリリー,田辺三菱製薬,武田薬品工業,日本化薬),中村正直(ヤンセンファーマ株式会社)

文 献
 
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