GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TWO CASES OF ULCERATIVE COLITIS WITH TUMOR-LIKE DENSE INFLAMMATORY POLYPS AND FOLLOW-UP
Satoshi KOBAYASHI Hiroyuki KITABATAKEMegumi MIYAZAWATakayuki MIYAZAWAJunichi SATOUChikara YAMAMOTONaohiro SHINOHARAYasuhide OCHIEtsuo HARAOsamu HASEBE
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2021 Volume 63 Issue 8 Pages 1508-1513

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要旨

症例1:62歳男性,潰瘍性大腸炎に対してメサラジン内服中.血便精査のため施行した全大腸内視鏡検査で上行結腸に20mm大の0-Ⅱa様病変を認めた.生検で悪性所見は認めず3カ月後の再検で病変はほぼ消失していた.症例2:84歳男性,潰瘍性大腸炎に対してメサラジン内服中.黒色便精査のため施行した全大腸内視鏡検査で上行結腸に結節が密集した厚みのある隆起性病変を認めた.悪性所見は認めず経過を見たところ3年後の再検では瘢痕と炎症性ポリープを残すのみとなっていた.病変は炎症性ポリープの集簇と考えられ,潰瘍性大腸炎に伴う一つの内視鏡所見である可能性もあり文献的考察を加えて報告する.

Ⅰ 緒  言

潰瘍性大腸炎の主な内視鏡所見として血管透見像の消失,粗ぞうまたは細顆粒状を呈する粘膜,易出血性,粘血膿性分泌物の付着,多発性のびらん,潰瘍あるいは炎症性ポリープ等が挙げられる.しかし炎症性ポリープが狭い範囲に密集することは稀であり,その自然経過を追った報告はない.今回,われわれは潰瘍性大腸炎で腫瘍に類似した限局性炎症性ポリープを2例経験し,消失に至るまで経過を追うことができたため報告する.

Ⅱ 症  例

症例1:62歳,男性.

主訴:血便.

既往歴:特になし.

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:飲酒なし,喫煙なし.

現病歴:1995年4月に血便を主訴に受診し全大腸炎型潰瘍性大腸炎と診断した.メサラジン2,250 mg内服で症状が改善したものの受診が途絶えた.1997年3月再び血便を主訴に他院を受診した.プレドニゾロン30mgを開始されたが改善せず当院を受診した.メサラジン2,250mg内服を再開し改善したためプレドニゾロンを漸減し終了した.1998年4月に再び血便を認めたため全大腸内視鏡検査を行ったところ上行結腸に20mm大の0-Ⅱaに類似した病変を認めた(Figure 1).悪性腫瘍を念頭に生検を施行したが陰窩膿瘍を伴う高度の炎症細胞浸潤を認めるのみであり(Figure 2),密集する炎症性ポリープと考えられた.なお,同部位以外は虫垂開口部と直腸にのみ軽度の炎症所見を認め,他は寛解期の所見であった.3カ月後に全大腸内視鏡検査を再検したところ病変の大部分は消失しており(Figure 3),以後潰瘍性大腸炎の増悪・寛解を繰り返すも同様の病変は認めていない.

Figure 1 

症例1の内視鏡所見.

a:通常観察像.20mm大の0-Ⅱa様病変を認める.

b:色素散布像.隆起内に著明な隆起や陥凹は認めず顆粒均一型側方進展腫瘍に類似した所見を認める.

Figure 2 

病理組織学的所見.

高度の炎症細胞浸潤,陰窩膿瘍や陰窩のゆがみ,杯細胞の減少を認め悪性所見は認めない.また肉芽腫や不釣り合い炎症も認めなかった.

Figure 3 

症例1の3カ月後内視鏡所見.

色素散布像.0-Ⅱa様病変は消失し周囲にポリープが残存している.病変があった部位の無名溝も周囲と著変ない.

症例2:84歳,男性.

主訴:血便.

既往歴:下行結腸癌術後(type 1,18×16mm,tub1,pT2,INF β,ly1,v0,pN0,pStage Ⅰ),うっ血性心不全,心房細動,慢性胸膜炎,慢性閉塞性肺疾患.

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:機会飲酒,喫煙20本45年間.

内服薬:メサラジン,ワルファリン,メチルジゴキシン,ベラパミル,カンデサルタン,トラセミド,クラリスロマイシン,カルボシステイン.

現病歴:2007年1月に下行結腸癌に対して左半結腸切除術が施行された.術後7カ月に血便を認めたため施行した全大腸内視鏡検査所見から全大腸炎型潰瘍性大腸炎と診断した.メサラジン2,250 mgの経口投与により臨床的寛解となった.2009年12月に虫垂開口部と直腸下部にMatts grade 3の再燃を認めメサラジンを4,000mgに増量し改善したため2011年12月から2,250mgに減量した.以後病勢は安定していた.2016年10月に黒色便を認めたため上部消化管内視鏡検査を行うも異常なく,全大腸内視鏡検査を行ったところ上行結腸に病変を認めた.約半周を占める平坦隆起性病変であり表面には結節の密集を認めた.病変の厚みや皺襞集中所見から深部浸潤を伴う癌を疑ったが,ポリープの大きさは比較的均一なこと,NBI近接観察で表面構造に明らかな異型がないこと,色素散布近接像でⅡ型に類似したpitが観察されること,これらの所見が腫瘍全体にわたって一様であることから非腫瘍の可能性も考えられた(Figure 4).組織確認目的にポリープ間の構造が確認できない部位から生検を採取したが陰窩膿瘍や陰窩のゆがみ,杯細胞の減少を伴う高度の炎症細胞浸潤を認めるのみで悪性を示唆する所見は認められなかった(Figure 5).なお,同部位以外は寛解期の所見であったが血液検査ではWBC 4,640/μl,Hb 11.7g/dl,Alb 3.7g/dl,CRP 2.43mg/dl,血沈 68mm/hと軽度の炎症や貧血を認めた.細菌培養検査では病原菌は検出されなかった.抗酸菌培養は施行していない.後日提出したT spotは陰性だった.悪性を示唆する所見を認めないため3カ月後に全大腸内視鏡検査を再検したところ前回と同様の部位に結節の密集を伴う平坦隆起性病変を認めるが前回より厚みは減少していた(Figure 6).表面構造や血管には前回同様明らかな悪性所見はなく,発赤の強い部位や結節の間から生検を採取したが前回同様の所見だった.以後病勢は安定しており2019年4月に全大腸内視鏡検査を再検すると,炎症性ポリープは残存しているものの病変の大部分は消失しており瘢痕を残すのみとなっていた(Figure 7).

Figure 4 

症例2の内視鏡所見.

a:通常観察.半周を占める隆起性病変で表面に顆粒状変化を伴う.病変の厚みや長軸方向にヒダを引くことから深部に至る病変と考えられる.

b:NBI近接像.円形腺管開口部を認める.血管は観察困難だった.

c:インジゴカルミン散布近接像.Ⅱ型に類似したpit patternが観察された.

Figure 5 

病理組織学的所見.

高度の炎症細胞浸潤とともに陰窩膿瘍,陰窩のゆがみ,杯細胞の減少を認める.肉芽腫や不釣り合い炎症は認めなかった.

Figure 6 

症例2の3カ月後内視鏡所見.

表面性状は著変ないが厚みが減少している.

Figure 7 

症例2の3年後内視鏡所見.

炎症性ポリープを伴う半周性の輪状潰瘍瘢痕を認める.

Ⅲ 考  察

医学中央雑誌で「潰瘍性大腸炎」「炎症性ポリープ」「集簇」「密集」をキーワードとし,1990年以降で検索すると本症例と同様と考えられる炎症性ポリープの集簇が2報 1),2,後述するlocalized giant inflammatory polyposis(LGIP)と考えられる巨大ポリープが8報 3)~10,悪性腫瘍2報 11),12を検索し得た.

炎症性ポリープが密集する原因は,鈴木ら 5は比較的長期の経過中急激な再燃を繰り返した症例に合併することが多いことから,急性期に深い潰瘍が形成されその治癒再生の過程で粘膜上皮と間質の過剰な増殖の結果形成されると説明している.自験2例とも消化管出血をきっかけに内視鏡検査が行われており,また初発時に虫垂開口部病変を有する潰瘍性大腸炎は区域型の割合が高いとの報告 13があることから,2例とも区域性に高度の炎症を生じ密集する炎症性ポリープが形成された可能性が高いと考える.しかし短期間で消失してしまう原因は不明であり,そのため報告例が少ないのかもしれない.

末兼ら 1の報告例は脾湾曲部に半周に及ぶ境界明瞭な結節状の多発隆起を認めた.悪性を疑って生検を行うも悪性所見は得られず,炎症性ポリープと考えられサラゾスルファピリジン4g継続の上で経過観察されている.入月ら 2の報告例は注腸造影で横行結腸中部に3cmにわたる境界明瞭な狭窄を認め,内視鏡検査を行うと5mm大の半球状小隆起が密集していた.メサラジン1.5gを継続し3カ月後に内視鏡検査を再検したところ狭窄は軽減し,半球状小隆起間の介在部に萎縮した平坦粘膜を認めたことから潰瘍底であったと考察している.更に1カ月後の再検で病変は小さな炎症性ポリープを残す程度に改善していたと報告している.いずれも横行結腸病変であり部位は自検2例とは異なるが潰瘍性大腸炎に対する治療のみで経過観察され,入月らの症例は短期間で改善する点も共通している.

同様の病変を生じ得る疾患として腸結核 14,Crohn病 15が挙げられる.症例1では結核の検索はされていないものの無治療で短期に消失する点が異なる.症例2はT-spot陰性であり生検で肉芽腫を認めないことから腸結核の可能性は低いと考えた.Crohn病については2症例とも縦走潰瘍はなく生検で類上皮細胞肉芽腫も認めていない.症例2についてはその他Crohn病に特徴的な消化管病変・消化管外病変を認めておらず組織学的に不釣り合い炎症もなく可能性は低いと考えた.

欧米を中心にLGIPと呼ばれる巨大な炎症性ポリポーシスの報告を散見し,炎症性腸疾患の稀な所見と報告されている 16.しかしLGIPはどの次元でも1.5cmを超える炎症性ポリープの集簇であると定義されており 17自験2例は病変の厚みが1.5 cmに満たないためLGIPの定義は満たさない.またLGIPは左側結腸に好発し,横行結腸に40%,S状結腸に15%,下行結腸に15%,盲腸に14%,脾湾曲に7%,肝湾曲に7%が発生すると報告されており 18上行結腸症例は少ないと考えられる.治療法は和唐ら 9によると18例中12例で手術が施行されたがプレドニゾロン及びサラゾスルファピリジンによる薬物療法で改善した症例も6例報告されている.本症例は検査時には出血症状は改善しておりメサラジン投与継続のみとしたが,メサラジンが特異的な効果を発揮するという報告はなく,下痢や血便など潰瘍性大腸炎増悪を示唆する症状があればプレドニゾロン投与などの治療強化を検討する必要があると考える.手術が施行された症例はポリープによる腸閉塞のため施行された例が多いものの,癌を否定できないとして手術された例 19),20も存在する.こういった病変は内科的治療のみで改善する可能性があることや,癌を検出できなかった可能性もあることを考慮して3カ月程度の短期間で経過をみるのが良いと考える.

Ⅳ 結  語

潰瘍性大腸炎の2例に腫瘍類似の密集する炎症性ポリープを認めたがいずれも潰瘍性大腸炎に対する治療継続で消失した.潰瘍性大腸炎に伴う一つの内視鏡所見である可能性もあり今後の症例の蓄積が待たれるとともに,LGIPとの異同も含め更なる検討を要すると考える.

本論文の要旨は第82回日本消化器内視鏡学会甲信越支部例会において発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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