GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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COLD SNARE POLYPECTOMY FOR COLORECTAL POLYP IN PATIENTS TAKING ANTITHROMBOTIC AGENTS
Yoji TAKEUCHI Satoki SHICHIJONoriya UEDO
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2021 Volume 63 Issue 8 Pages 1538-1544

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要旨

現行のガイドラインではCold Snare Polypectomy(CSP)は出血高危険度の内視鏡処置に分類され,血栓塞栓症のリスクに応じた抗血栓薬のマネージメントが必要である.ただしCSPの出血リスクは低いと報告されており,抗血小板薬,ワルファリンは継続のまま,直接経口抗凝固薬(DOAC)は治療前に休薬せず治療後に1日休薬してCSPを安全に実施できる可能性がある.

CSP自体は,抗血栓薬非服用例と同様にポリープの周囲粘膜も十分含めてスネアで絞扼し,通電せずに切除する.切除後は出血が弱まる傾向がなければクリップによる止血を行う.切除直後の出血は可及的に洗浄,吸引し,患者には若干の赤みを帯びた液体が排泄される可能性があることを説明しておく.

本来のCSPの適応は10mm未満の腺腫であるが,10mmを超える病変でも状況に応じて適応になりうる.いずれにせよ,患者の予後と治療の利益とリスクを熟慮の上で治療すべきである.

Ⅰ はじめに

急性冠症候群に対するステント留置後には抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を一定期間服用し,その後も禁忌がない限り低用量アスピリンやチエノピリジン系抗血小板薬の継続的な投与が推奨されている 1.経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施しなかった症例においても抗血小板薬の継続投与は推奨されている.また,非弁膜症性心房細動症例における脳卒中の予防や深部静脈血栓症の予防のためのワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)の服用は一般的に行われており 2,特に社会全体の高齢化に伴い抗血栓療法が実施されている症例は増加傾向にある.

一方,大腸ポリープの切除による大腸癌発生,死亡の抑制効果は多く報告されており 3),4,特に2012年にNational Polyp Study(NPS)におけるポリープ切除の大腸癌死抑制効果が報告 5されてからは以前に比べて大腸ポリープを積極的に切除し,大腸癌の発生を予防するためにいわゆる“Clean Colon”を目指し5mm未満の小ポリープも切除する施設が多くなってきている.特に冠動脈症候群症例では大腸ポリープや大腸癌のリスクが高いことが知られており 6,インスリン抵抗性や肥満などの因子が関与している可能性がある 7

すなわち,抗血栓薬を服用し大腸ポリープ切除を必要とする症例は増加してきており,それに伴う出血のコントロールのための抗血栓薬のマネージメントは日々の診療で頻繁に遭遇する課題である.

Ⅱ ガイドラインにおけるポリープ切除時の抗血栓薬の取り扱い

本邦のガイドラインでは,ポリペクトミー,及び内視鏡的粘膜切除術は出血高危険度の消化器内視鏡と分類されている 8.また,抗血栓薬は抗血小板薬と抗凝固薬に分類され,病状に基づいた休薬による血栓塞栓症のリスクが評価され(Table 1),リスクに応じた休薬方法が推奨されている.なお,ワルファリン等抗凝固療法については,2017年に“抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン 直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017”が出版され,“抗凝固療法を受けている患者の休薬に伴う血栓・塞栓症のリスクは様々であるが,一度発症すると重篤であることが多いことから,抗凝固療法中の症例は全例,高危険群として対応することが望ましい”,とされている 9

Table 1 

休薬による血栓塞栓症の高発症群(文献より引用).

大腸ポリープ切除,すなわち出血高危険度の消化器内視鏡においては,抗血小板薬について“血栓塞栓症の発症リスクが高いアスピリン単独服用者では休薬なく施行しても良い.血栓塞栓症のリスクが低い場合は3〜5日間の休薬を考慮する(ステートメント5)”,“アスピリン以外の抗血小板薬単独服用の場合には休薬を原則とする.休薬期間はチエノピリジン誘導体が5〜7日間とし,チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬は1日間の休薬とする.血栓塞栓症の発症リスクが高い症例ではアスピリンまたはシロスタゾールへの置換を考慮する(ステートメント6)”とされている.また,ワルファリン内服者での出血高危険度の消化器内視鏡については,“ヘパリン置換の代わりに,INRが治療域であればワルファリン継続下あるいは非弁膜症性心房細動の場合にはDOACへの一時的変更で内視鏡処置を行うことも考慮する(追補版ステートメント2)”,“DOAC服用者は前日まで内服を継続し,処置当日の朝から内服を中止する.内服は翌日の朝から再開する(追補版ステートメント6)”とされている.

Ⅲ Cold Snare Polypectomyにおける出血リスク

Cold Snare Polypectomy(CSP)は,1992年にTapperoらが報告した後 10,2012年にRepiciらが多施設前向き研究でその安全性を報告して以降,前述の同じく2012年に報告されたNPSの結果に基づくClean Colonを目指す気運と相まって急速に普及した 11.CSPの出血リスクは低いと考えられるものの,ガイドラインの整備が追いついていないため現状としてはCSPを出血高危険度の消化器内視鏡として分類せざるをえず,前述のように血栓塞栓症の発症リスクが低い例では休薬の対応が必要となり,発症リスクが高い例でも薬剤の変更などが必要となる.病変の有無が不明な大腸内視鏡検査前から抗血栓薬の休薬や変更などを行うことを規則とすると,不要な休薬や休薬忘れによる検査の延期など患者の不利益が大きすぎる可能性がある.また内服を継続したままで検査し10mm未満の小さなポリープが発見された場合に抗血栓薬の休薬または変更を講じた上での再度の大腸内視鏡が必要となり,前処置が必要な大腸内視鏡を繰り返し受けることは患者にとって大きな負担となる.前述のとおりCSPは安全性が高く,他の出血高危険度の内視鏡と同等に扱うのは過剰な対応をしている可能性がある.すなわち,CSPにおける患者の血栓塞栓症の発症リスク及び処置に伴う出血リスクを増やさないような理想的な抗血栓薬のマネージメントを考案する必要がある.

Horiuchiらは単施設の無作為化比較試験でワルファリン継続下ではCSPは後出血がなく,Hot Snare Polypectomy(HSP)に比べて有意に出血が低いことを報告した 12.われわれは多施設無作為化比較試験(C-PAC trial)でヘパリン置換下でのHSPに比べて抗凝固薬(ワルファリン及びDOAC)継続下でのCSPが出血を増加させない(12.1% vs 4.7%)ことを報告した 13.どちらの報告でもワルファリン継続下でのCSPは後出血を認めなかったため,ワルファリンは継続してもCSPであれば安全に実施できる可能性がある.対して,C-PAC trialではDOAC継続下のCSPで7.3%の後出血がみられたためDOAC継続下のCSPは出血リスクが高いと考えられ,さらに現行のガイドライン(追補版)では血栓塞栓症のリスクが高い症例でもDOACを1日休薬することは許容されているため,DOACはCSPであっても1日休薬するのが妥当と考えられる.ただし,C-PAC trialではDOAC継続下でもCSPでは術中出血がコントロール可能であったためCSP前のDOAC休薬は不要な可能性があり,臨床的に問題となる後出血を考慮するとCSP後に1日休薬する方が理論的には後出血を抑制できる可能性がある.現在,DOAC服用中の症例を対象とし,大腸ポリープ切除後に1日休薬する新規治療の有用性を検証する多施設研究(MADOWAZU trial, UMIN000039418)が進行中である.

Ⅳ 抗血栓薬服用症例のCold Snare Polypectomyの実際

既報のCSPの出血割合から考えればCSPは従来のHSPよりも後出血のリスクが低く,他の出血高危険度の処置とはリスクが異なる可能性がある.例えば生検と同程度の出血低危険度の内視鏡処置と考えればガイドラインに従い“アスピリン,アスピリン以外の抗血小板薬,抗凝固薬のいずれも休薬なく続行しても良い(ステートメント4)”こととなる.

抗血小板薬服用症例に対するCSPのエビデンスはないが,米国内視鏡学会(ASGE)のガイドラインでは低用量アスピリンは継続,チエノピリジンは低リスク手技においては継続し,高リスク手技については5-7日間もしくはアスピリンへの切り替えが推奨されている 14.また欧州内視鏡学会(ESGE)のガイドラインでも大きな病変に対するEMR/ESD以外においてアスピリンは継続が推奨されている 15.特に血栓塞栓症の2次予防目的でアスピリンを服用している症例において,アスピリン休薬で出血のリスクは低減するものの血栓塞栓イベントの発生割合が高くなり予後が不良となることが報告されており 16),17,リスクベネフィットバランスからアスピリン継続下のCSPは妥当と考えられる.ワルファリンについては過去の報告から継続したままでも後出血はほとんど認めないため,実診療では抗血小板薬,ワルファリンについては休薬なしで大腸内視鏡検査を実施し,10mm未満のポリープが発見された際にはそのままCSPを行っている.10mm以上のポリープも含めてヘパリン置換とワルファリン継続のどちらが妥当であるかはわれわれの施設も参加している多施設無作為化試験(WHICH study, UMIN000023720) 18が現在進行中でありその結果を待つ必要があるが,実診療では患者さんにメリットデメリットを説明の上,ワルファリンを継続して処置を行っている.

DOACについては先述のとおりMADOWAZU trialが進行中なので臨床研究にご参加いただくことが多いが,不適格症例など実診療で実施する際にはC-PAC trialの結果とメリットデメリットを交えて説明し,書面による同意を得た上で治療当日はDOAC服用を継続し,治療後1日(翌日,1日2回服用の場合は当日夕方と翌日朝)休薬する方法を実践している.当日朝まで継続する場合は,当日朝6時頃にDOACを内服し,その後前処置を行い11時以降に内視鏡を開始することにより,DOACの効果がピークとなる時間帯を避けるよう心がけている.

実際の手技は通常のCSPと何ら変わることなく,CSPを用途として開発されたスネア(SnareMaster Plus 10mm,オリンパス/CaptivatorTM Cold,ボストンサイエンティフィック/Exacto,富士フイルム,など)を用いて遺残がないように周囲粘膜も含めて絞扼し,通電せず切除する(Figure 1 19.切除後は他のポリープを探したりしながら30秒ほど経過したのちに再度創部を観察し,出血の勢いが収まってきていることを確認する.S状結腸では内視鏡挿入時に発見したポリープをCSPで切除すると,抜去時に切除する場合と比べてポリープの見落としが少なく処置時間が短縮できることが多施設無作為試験で報告されている上,抜去時に止血を確認できるという点で挿入時に積極的に切除すると効率が良い 20.もちろん,CSP後に明確に拍動性の出血があればクリップによる止血を施すべきである.ある程度出血が収まってくるようであれば後出血の予防も期待したクリッピングは必ずしも必要としないが,安心感などのメリットとコストなどのデメリットを勘案し,出血の勢いが収まりそうになければ躊躇せず止血術を行えば良い(Figure 2).また,特に直腸S状結腸などで処置した場合には,治療直後の出血が排泄されることにより患者,もしくは医療従事者が判断に悩む要因にもなるため,切除箇所周囲の出血は洗浄し吸引しておくと良い.患者には,若干の赤みを帯びた液体が排泄される可能性はあるが,頻回に出て繰り返すうちに赤みが強まってくるようでなければ経過をみるように説明しておく.

Figure 1 

ワルファリン(3mg/日)継続下のCold Snare Polypectomy(CSP)の実際.

a:横行結腸.5mm大の0-Ⅱa病変.

b:CSP後の創部.若干の出血はあるが,特に止血術などは必要としなかった.

Figure 2 

リバーロキサバン(15mg/日)継続下のCold Snare Polypectomy(CSP)後にクリップ止血術を施行した例.

a:S状結腸.6mm大の0-Ⅱa病変.

b:CSP後の粘膜欠損.湧出性ではあるが出血が持続した.

c:クリップを2個用いて止血術を行った.

Ⅴ 適応拡大の可能性

一般的に,また現在作成されているCSPのガイドラインでも,CSPの適応は10mm未満の腺腫と考えられる病変とされている 21.ただし近年は10 mmを超える病変に対しても,分割切除を含めたCSPの有用性を報告する論文が散見される 22)~24.われわれの検討では,CSPは粘膜筋板を残すような浅い切除であることが多いため,粘膜筋板浸潤の危険性がある粘膜内癌に対してはCSPを避けるべきと考えており 25,10mmを超える腺腫は一般的に担癌割合が高くなるため積極的な適応とは考えていない.しかし,これはCSPに伴う出血リスク低減のメリットと,CSPが分割切除になることにより不十分な組織評価となる,もしくは遺残再発が多くなるリスクのデメリットとのトレードオフの結果で判断されるべきであり,メリットがデメリットを上回ると判断すれば10mm以上であってもCSPは許容できると考える(Figure 3).ただしその際には,CSPだと切除が不十分になる可能性や10mm以上であれば担癌病変が含まれる可能性,一括切除が分割切除に比較して病理診断,遺残再発のいずれにおいても優れていることや,通電による手間やリスクが増加することなど,正確な情報を患者に提供してinformed consentを得るよう,心がけるべきである.

Figure 3 

10mmを超える病変に対してワルファリン(4mg/日)継続下でCold Snare Polypectomy(CSP)を実施した症例.

a:盲腸.最大径14mm大の0-Ⅱa病変.

b:一括切除を狙いスネアで絞扼した.

c:切除後の粘膜欠損.クリップ止血術を施行せず,後出血も認めなかった.

Ⅵ おわりに

本稿では,抗血栓薬服用症例に対するCSPの背景と実際を紹介した.CSPは簡便であり,大腸内視鏡検査ができる施設であれば実施可能で,広く大腸がん予防に貢献できる.しかし,そもそも適応となる良性の10mm未満の腺腫が患者の予後にすぐに影響する可能性は高くなく,原疾患や患者背景などを考慮した治療方針の適応を熟慮することが臨床医にとっては最も大切であることを心に留め,治療の要否をご検討いただきたい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:竹内洋司(オリンパス,日本消化管学会)

文 献
 
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