GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
Aggressive fluid hydration plus non-steroidal anti-inflammatory drugs versus non-steroidal anti-inflammatory drugs alone for post-endoscopic retrograde cholangiopancreatography pancreatitis (FLUYT):a multicentre, open-label, randomised, controlled trial1).
[in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 63 Issue 9 Pages 1673

Details
要旨

【背景】ERCPのもっとも代表的な有害事象はERCP後膵炎(PEP)である.PEPの4.7%は中等度~高度の膵炎に進展し,その死亡率は0.7%と報告されている.PEPのリスクを低減させる標準的方法は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の予防的直腸投与である.また,NSAIDsの直腸投与を行わない例において,積極的輸液によりPEPリスクが低下することがメタ解析とRCTで示されているが,NSAIDsの直腸投与に積極的輸液を上乗せした際の有用性は明らかにされていない.

【方法】18~85歳の中等度ないし高度のPEPリスク患者に対してNSAIDsの予防的直腸投与単独群(対照群)と積極的輸液を併用した群(併用群)の2群について,ドイツ国内の22施設が参加した多施設共同オープンラベル無作為化比較試験が実施された(FLUYT試験).併用群はNSAIDs(ジクロフェナクあるいはインドメタシン)直腸投与に加えてERCP開始後60分以内に乳酸リンゲル液を20mL/kg点滴静注,引き続いて3mL/kg/時間を8時間かけて点滴静注した.対照群はNSAIDs直腸内投与に加えて,最大1.5mL/kg/時間あるいは24時間当たり3Lの生理的食塩水を点滴静注した.プライマリーエンドポイントはPEPの発症とした.

【結果】2015年6月~2019年6月に登録された826例を1:1で割付した(併用群388例,対照群425例).年齢中央値は併用群57歳(範囲:44~71歳),対照群60歳(範囲:49~71歳),男女比は両群ともに3:2,ASA Class Ⅲは両群ともに16%が含まれており,両群間で患者背景に有意差を認めなかった.ERCPの難易度(Schutz分類 2)は両群共ともにGrade 2(単純な治療目的のERCP)が80%以上を占めていた.また,膵管ステント留置は両群共に16%併用していた.偶発症のうちPEPは併用群の30例(8%),対照群の39例(9%)が併発した(相対リスク0.84,95% CI 0.53-1.33,P=0.53).輸液関連合併症(同0.99,0.59-1.64,P=1.00),ERCP関連合併症(同0.9,0.62-1.31,P=0.62),ICUへの入院(同0.37,0.07-1.80,P=0.22),30日死亡率(同0.95,0.50-1.83,P=1.00)などの重篤な有害事象は2群間に有意差はなかった.また,併用群において積極的輸液に伴う死亡例は認められなかった.

【結語】中等度ないし高度のPEPリスク患者に対するNSAIDsの予防的直腸投与と積極的輸液の併用はNSAIDs直腸投与単独群と比べてPEPの発症を抑制しなかった.

《解説》

FLUYT試験 1の結果からはPEP予防としてNSAIDsの予防的直腸投与に積極的輸液を併用しても上乗せ効果は得られなかった.これまでに行われていた同様の試験ではサンプルサイズが小さく,その結果は必ずしも一致していなかった.サンプルサイズの多い本試験の結果より,ERCP施行予定患者にNSAIDsの予防的直腸投与を行った場合の積極的輸液の併用は現段階では不要と考えられる.なお,本試験の限界は非盲検化であること,NSAIDsと膵管ステントの併用はPEP予防として使用することは結論が出ていないこと,PEPのリスクを層別化していないこと,であった.また,積極的輸液単独の検証も行われていないことも限界と思われる.本邦のERCP後膵炎ガイドライン2015においてもNSAIDsはPEPの予防効果を有するとされているが,本邦では保険適応が認可されていない.また,本試験やエビデンスレベルの高い多くの研究におけるNSAIDsの使用量は本邦では適用外である100mgであり,副作用の観点からも,投与量にも注意を要する.今後の更なる検討が必要である.

文 献
 
© 2021 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top