GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF PERCUTANEOUS ENDOSCOPIC GASTROSTOMY IN A PATIENT WITH VISCERAL INVERSION
Muneyuki KOYAMA Yoshihiro SHIRAIKazuo MATAISatoshi YAMAZAKIKen ETOH
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2022 Volume 64 Issue 1 Pages 50-54

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要旨

症例は66歳男性.脳梗塞と頸椎損傷から左片麻痺となり,誤嚥性肺炎を繰り返した.経口摂取不可能と診断され,当院に胃瘻造設目的で入院となった.入院時の胸部レントゲン,腹部CTにて完全内臓逆位症と診断し,経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した.その後特に合併症なく,問題なく胃瘻も使用可能となり,転院調整が整った術後27日目に無事転院となった.

完全内臓逆位患者は比較的稀であり,同患者に対する経皮内視鏡的胃瘻造設術は体位や胃内操作の手技が確立されていないため,報告した.

Ⅰ 緒  言

完全内臓逆位症は本邦では2,000~10,000人に1人の割合で認められる比較的稀な先天性疾患である 1.健常者と比較し臨床病理学的特徴や生命予後に違いはないが 2),3,左右鏡像の臓器配置に加え血管系の合併奇形を伴うことも多く 4,外科的手術や内視鏡治療の際は治療臓器及び周囲臓器の解剖学的イメージが重要となる.今回われわれは,本邦でこれまでに報告例のない成人完全内臓逆位症患者に経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した1例を報告する.

Ⅱ 症  例

症例:66歳,男性.

主訴:誤嚥.

既往歴:30歳 腸閉塞(腸閉塞解除術),65歳 脳梗塞,65歳 頸椎損傷(後方固定術),尿路感染症.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2019年7月,脳梗塞で入院中にベッドから転落し頸椎損傷となる.その後誤嚥性肺炎のために経口摂取困難となった.一時的に経鼻経管チューブでの栄養管理を行ったが,離脱は困難であり胃瘻造設目的で当院紹介となった.

入院時現症:身長167.0cm,体重47.0㎏,JCS1桁,血圧96/55mmHg,脈拍88/分,整,体温36.6℃,SpO2 97%(room air),眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし,雑音なし(右胸部で聴取),腹部(上中腹部正中切開痕認めた),腹部平坦・軟,圧痛なし,体幹・四肢を含め拘縮認めた.

入院時血液検査所見:特に異常所見なし.

入院時胸部レントゲン所見:右胸心認めた.胃管先端は右側に位置していた.左側横隔膜挙上を認めた(Figure 1).

Figure 1 

胸部単純X線像.

右胸心を認める.胃管は右側に位置している(矢印).

入院時腹部CT所見:完全内臓逆位.食道胃接合部は右背側,十二指腸は右側に局在した.胃壁‐腹壁間に介在する臓器を認めなかった(Figure 2-a,b).

Figure 2 

腹部単純CT像.

a:右側に十二指腸を認める(矢印).

b:右側に食道・胃接合部を認める(矢印).

内視鏡的胃瘻造設術の実際:体位は仰臥位で施行した(Figure 3).内視鏡施行医は患者左側,執刀医は右側に立ち,モニターは内視鏡施行医対側に配置した.配置は通常の配置と変えずに施行可能であった.スコープはQ260J(Olympus)を使用した.経口摂取中止から6カ月以上経過していたため,下顎の拘縮を認め,スコープの挿入にはやや難渋したが右梨状窩から挿入した.食道・胃接合部を通過後はスコープを左回転し,胃長軸に平行にポジションした.通常,左側に認める胃前壁が右側に認められた.胃内に粗大病変を認めないことを確認した.イルミネーションサインを確認し,Pull法にて胃体下部前壁に20Fr,2.5cmのバンパー・チューブ型カテーテルを留置した(Figure 4-a,b).

Figure 3 

胃瘻造設部位像.

×:胃瘻造設部位.

Figure 4 

胃瘻造設時内視鏡写真.

a,b:胃体下部前壁に胃瘻を造設した.

術後は尿路感染が再燃したため,抗生剤加療を行い,術後19日目より胃瘻からの経管栄養を開始した.その後は問題なく術後27日目に転院となった.

Ⅲ 考  察

内臓逆位症は,胸腹部の内臓の一部または全部が先天的に正常位に対して左右逆転し,鏡面的位置関係にあるものである.内臓全部が逆位である完全内臓逆位症と,内臓の一部が逆位である部分内臓逆位症に分けられ,完全内臓逆位症は2,000~10,000人に1人の割合で認められる 1.また,合併症に関しても様々なものが報告されており,心血管系,肝臓・脾臓,横隔膜,胆道などの先天的奇形や 2,近年では胃癌を主とする,大腸癌や肝胆膵腫瘍を含めた消化器癌の合併が報告されているが,因果関係は明らかでない 3

内臓逆位症患者に対する上部消化管内視鏡検査は治療も含め,一般的に定まった方法はなく,施設毎で異なるのが現状である 4.医学中央雑誌で「完全内臓逆位」「経皮内視鏡的胃瘻造設術」をkey wordとして検索しえた限りは,本邦では報告はなく,PubMedでも「Situs Inversus Totalis」「Gastrostomy」をkey wordとして検索しえた限りは1編のみであり 5,完全内臓逆位患者に対する経皮内視鏡的胃瘻造設術の手技の確立はされていない.

完全内臓逆位に対する内視鏡的治療時の体位は,通常通り左側臥位で施行する,左側臥位で開始し,胃内まで挿入後に右側臥位に体位変換を行う,最初から右側臥位で開始するなど様々である 3),4),6),7.左側臥位は,内視鏡施行医にとって慣れた体位ではあるものの,穹窿部に空気が貯留し胃内容物の逆流を誘発しやすく,更に前庭部が伸展しにくい特徴がある.一方右側臥位では,重力の方向が健常者と同じになるため,胃内容物の逆流や誤嚥のリスクは見られないものの,不慣れな体位であることから内視鏡施行医の操作時のストレスが大きく,精密な内視鏡操作は困難となる.加えて内視鏡挿入後に右側臥位に体位変換する場合は,誤嚥のリスクが高まる.

本患者は,脳梗塞既往後であり,全身に拘縮を認めたこと,更に頸椎損傷術後であることから迅速な体位変換が極めて困難であり,操作時の体位変換は更なる誤嚥を引き起こす危険性も伴うことから,開始時より仰臥位で施行した.

本患者は,長期間の経口摂取中止により下顎の拘縮を認めており,当初はスコープの挿入が1回で済むIntroducer法が検討されたが,短時間でより容易に施行することができ,バンパー埋没症候群や胃粘膜裂創などの合併症の頻度が少ないPull法を選択した 8.またIntroducer法は複数回の穿刺やダイレーターによる拡張手技が必要であり,胃内への送気が腹腔内に及ぶ危険性もあることから選択しなかった.

内臓逆位患者での内視鏡的処置や外科的治療においては,左右対称の解剖の理解,ミラーイメージテクニックが重要である.Leeらは完全内臓逆位患者は反転した内臓と共に各種臓器の形成異常及び血管の解剖学的異常も伴うことから,経皮内視鏡的胃瘻造設術を含む手術や消化管出血の止血を行う場合は,処置の前にそれら解剖学的変化の存在を確認するために徹底的な画像検査が必要であると述べている 7.また,完全内臓逆位患者に対しての内視鏡操作は胃内にスコープを挿入した後は内視鏡施行医のJターン操作が逆Jターン操作となるなど,内視鏡操作時の体の回転が本来とは逆回転になるため,内視鏡モニターの配置を内視鏡施行医の対面やや左側に設置することも内視鏡操作環境の配備に重要と考える.本症例では内視鏡挿入時に胃の前壁は通常ならば後壁を認める画面右側に認めており,術前の画像診断通りであった.イルミネーションサインを確認し,右肋骨弓下2横指下に問題なく胃瘻を造設した.胃瘻造設時に胆嚢貫通の報告例もあるが 9,術前のCTで周囲臓器との位置確認も行ったため,安全に施行できた.正常とは鏡面的位置関係にある解剖を十分に認識しながら慎重に行うことで,経皮内視鏡的胃瘻造設術は特に問題なく施行できることが示唆された.

Ⅳ 結  語

完全内臓逆位症患者での経皮内視鏡的胃瘻造設術の1例を経験した.

術前の画像検査にて胃の位置,周囲臓器との関係,及びミラーイメージを理解し,イルミネーションサインを確実に確認することによって,完全内臓逆位患者においても安全に胃瘻を造設することができると考えられた.

最後にイラスト作成にあたりご協力いただいた東京慈恵会医科大学基盤研究施設長田恵梨香氏に感謝の意を表します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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