GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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HISTORY OF THE CHINESE SOCIETY OF DIGESTIVE ENDOSCOPY AND ITS RELATIONSHIP WITH JAPANESE ENDOSCOPISTS
Hisao TAJIRI
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2022 Volume 64 Issue 1 Pages 79-86

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要旨

1972年の日中国交正常化と同じ年の12月に北京協和医院において,日本人医師の支援により中国初の内視鏡検査が実施された.以来,日中の消化器内視鏡学会関係者の親交が続き,その交流の歴史は50年の長きに及びつつある.1999年には中国瀋陽にて,第1回中日内視鏡・消化器病学術交流会が開催された.中国の内視鏡技術の向上を図るため,日本消化器内視鏡学会丹羽寬文理事長(当時)と香港のWilliam Chao,中国の于中麟が交流会を企画したのが始まりである.1999年から2018年までに11回の学術交流会を行ったが,2020年4月杭州で開催予定だった交流会はコロナウイルス感染問題で延期となり,2020年11月にWebでの交流会を行った.日本消化器内視鏡学会は,中日内視鏡・消化器病学術交流会などを通じて,中国の内視鏡医療界の多くの方々と長い間,親密な交流を続けてきた.中国と日本の間には内視鏡医学の交流の長い歴史があり,先輩の諸先生方が築き上げてこられた厚い信頼関係がある.次世代を担う若い先生方におかれては,今後もさらに中国の内視鏡医療界の方々と交流を深めて,世界の内視鏡医学の発展のために貢献していかれることを期待している.

Ⅰ はじめに

1972年の日中国交正常化と同じ年の12月に北京協和医院において,日本人医師の支援により中国初の内視鏡検査が実施された(Figure 1,2 ,3).以来,日中の消化器内視鏡学会関係者の親交が続き,その交流の歴史は50年の長きに及びつつある.

Figure 1 

1972年 北京協和医院においての内視鏡検査の写真.

元衛生部長(当時,協和医院消化器科主任)陳敏章が藤田力也の指導の下,中国で初めての内視鏡検査を行った.

Figure 2 

左は北京協和医院,現在も旧館が保存されている.写真右は,陳敏章と干中麟(1970年代後半頃),藤田力也の訪中により内視鏡検査が開始した後,陳敏章は協和病院の研修グループを組織してその活動に心を砕いたばかりでなく,全国各地の消化器関連の著名な学者達を北京に招き,内視鏡診療ライブを見学させた.陳敏章の尽力で,研修会は開催の都度,100人を超す医師が参加したと記録されている.

Figure 3 

1972年に中国で初めて内視鏡が実施された際の記念写真が飾られている(北京協和医院内視鏡センター).

Ⅱ 中華消化器内視鏡学会の創設

中華消化器内視鏡学分会(The Chinese Society of Digestive Endoscopy:CSDE)は,当初中華消化病学分会の一つの学術グループとして,1985年に上海で創立され,組長は陳敏章であった.消化器内視鏡学の学術レベルをより一層発展させるため,また国際および世界関連学術組織との交流を目的として,中華医学会第20回常務理事会第7回会議により審議批准を得られ,中華消化器内視鏡学分会は正式的に中華医学会総会の下部の独立学会となった.その当時,衛生部部長(保健大臣)であった陳敏章のサポートの下,また香港のWilliam Chaoの支援をうけ,張錦坤,于中麟,周岱雲,張志宏,汪志,張斉聯,陸星華,魯煥章,夏玉亭らの各先生方がご尽力され,中華医学会消化器内視鏡学分会が批准された.分会の成立大会は1991年3月25日南京にて開催され(Figure 4),全国から334名が参加.第1回委員会を選出した.陳敏章名誉主任委員,名誉顧問として鄭芝田,呉錫琛,張学庸が就任された.張錦坤が主任委員(初代理事長),および于中麟,周岱雲,張志宏が副主任委員として選出された.

Figure 4 

1991年3月25日南京市で中国内視鏡学会が設立された時の会場.

Ⅲ 中日内視鏡・消化器病学術交流会の歴史

1999年には中国瀋陽にて,第1回中日内視鏡・消化器病学術交流会が開催された.その時は中国側から450名,日本側からは50名の医師が参加した.中国の内視鏡技術の向上を図るため,日本消化器内視鏡学会(Japan Gastroenterological Endoscopy Society:JGES)丹羽寬文理事長(当時)と香港のWilliam Chao,中国の于中麟が交流会を企画したのが始まりである(Table 1).当時は,日本で消化器内視鏡を学んだ中国人医師達の強い申し出があり,中国の先生方に日本の消化器内視鏡学の基本から最先端技術を紹介する場という色彩が強く,中国での開催時は,常に200名~300名を超える中国人医師の参加があった.その後も日中内視鏡医療界の良好な友好関係が続き,中国と日本と各年で両国の正式な学会合同事業として交流会が行われてきた.中国側の強い要請から始まった交流会であるが,回を追うごとに盛会になり,それぞれ母国語で講演し,その内容は逐次通訳により出席者に内容が良く分かる様な配慮が加えられ実施されてきた.これまでの主な講演内容は,「胆膵疾患の内視鏡的治療」,「大腸癌の内視鏡的診断」,「炎症性腸疾患の診断と治療」,「側方発育型大腸腫瘍(LST)の診断と治療」,「早期胃癌の内視鏡的診断」,「Barrett食道」,「経鼻内視鏡」,「バルーン小腸鏡」,「内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)」,「カプセル内視鏡」など,年度ごとにトピックスが選ばれてきた.

Table 1 

中日内視鏡・消化器病学術交流会発足当時の組織委員.

2010年8月に行われた日中交流委員会で,今後の日本開催については春の学会総会内で実施する方針が確認された.また,2011年9月に行われた第7回開催時の日中交流委員会で下記の提案がなされたが,翌年改めて検討することとなった.

①日本開催時は国際シンポジウムとして日中交流会を開催する.

②日本開催時は英語発表とする.

③2年に1回の開催を毎年開催にする.

さらに2012年5月の日中交流委員会で,下記が確認された.

①日本開催時は春の学会総会の国際シンポジウムとして開催する.しかも日韓シンポジウムと重ならない年に開催する.

②「日中内視鏡・消化器病学術交流会」から「日中消化器内視鏡シンポジウム」へ名称を変更する(日本開催時のみ,中国開催時はどちらでも可)

③日本開催時は英語発表とし,通訳は基本的に置かない(日本開催時のみ,中国開催時はどちらでも可).

④シンポジウムは毎年交互に日本と中国で開催する.

2012年10月のJDDW時に日中交流委員会を予定していたが,中国側の来日が適わず中止となった.さらに2013年3月,中国側役員の来日が適わず第8回の開催が中止された.当時は,尖閣列島諸島問題などで政治的な問題が生じたため,協議を重ねた結果,当面,日本での開催を取りやめることとした.その代案として,2013年からは,日本消化器内視鏡学会事業として日本人指導医が中国各地の病院に訪問して実地指導を行うハンズオンコースを提案して承認された.以後,毎年,継続的に開催するに至っている.さらに2012年からは,中国衛生部(当時)の対がん戦略に基づく上部消化管がんスクリーニング向上を目指したプロジェクト事業として,北京,福州,杭州をはじめとする各地の病院に日本人内視鏡医が講義と実地指導に訪問し,着実な成果を挙げてきている.

また,2016年4月9日,中国・揚州での会議で,ハンズオンについて下記が合意された.

①JGESから派遣する講師の往復航空券などをJGESが負担することは,9月の河南省人民医院2回目のトレーニングコースをもって終了とする.

②2017年度以降のトレーニングコースについて,講師を派遣することはJGESとして協力するが,講師の往復航空券ならびに謝礼金については中華消化器内視鏡学会で負担するように何らかの措置(例:財団や基金会のような公的団体の設置など)を検討する.

2018年2月13日,中華消化器内視鏡学会は張澍田(Shutian Zhang)理事長(当時)の提案によって,学会名のEndoscopyを Endoscopologyに変えたとの通知があった.

Chinese Society of Digestive Endoscopy(CSDE) → Chinese Society of Digestive Endoscopology(CSDE).

Ⅳ ハンズオントレーニングコースについて

ハンズオンコースについて,2014年~2016年に湖北省人民医院(2回)と河南省人民医院(2回)で行われ,湖北省人民医院には,2014年10月に藤城光弘を代表とした3名の先生が派遣された.指導活動の内容は,ハンズオン指導,講義,症例発表,早期癌診断クイズ,ブタの胃モデルによるESD操作である.9カ月後,同じ施設で2回目の活動を行い,トレーニング成果を検証している.湖北省人民医院の活動成果として,7名の育成対象ドクターは早期癌発見に著しい進歩を見せ,同時にESDの症例数も増加し,指導活動前183例,活動後半年で241例と31.7%も上昇した.内視鏡センター全体の早期癌発見率も21.7%から31.9%まで上昇していた.

原則として,同一施設の同じ先生が中国の同じ施設に2度訪問して,教育・指導の効果を確認する方式をとってきた.2度目の訪問時には,次回訪問する施設の先生が1名参加して,ハンズオントレーニングの方式を体験して,次のハンズオン施設でのトレーニングに生かしていくような“リレー形式”をとってきた.日本の多くの施設の先生に中国の内視鏡医療現場を経験していただき,中国の若い先生方と交流を重ねていただくという趣旨を兼ねていた.2016年揚州で開催された交流会では,2019年までの指導実施施設が決定された(2017年蘭州大学第二病院,2018年威海市立病院,2019年河北医科大学第二病院).2020年と2021年のハンズオントレーニングコースは,コロナウイルス感染拡大の影響で中止・延期となっている.

2018年4月7日,中国・厦門にて,第11回中日内視鏡・消化器病学術交流会が食道癌と胃癌をメインテーマに開催され,初めてライブデモを取り入れ,日中双方のエキスパートが実技を披露した.当日の開会式では,1999年から20年以上にわたる日中の学術交流に対し,中華消化器内視鏡学会(CSDE)の張澍田理事長(当時)から本学会の田尻久雄理事長(当時)とJGESへ感謝状が贈られた(Figure 5).

Figure 5 

2018年4月7日,中国・厦門での第11回中日内視鏡・消化器病学術交流会の開会式で中華消化器内視鏡学会の張澍田(Shutian Zhang)理事長から田尻久雄理事長(当時)とJGESへ感謝状が授与された(中文と英語の感謝状).

Ⅴ 今後の展開

2019年11月7日には,同年7月から中華消化器内視鏡学会(CSDE)理事長に就任された令狐教授(北京301病院消化器内科主任)と筆者が,北京市内で対談した.そのなかで,令狐理事長からは,「2013年までは,中国と日本で交互に学術交流会を開催していた.一時,政治的な問題が生じたため,日本での開催を止めていたが,今後は,毎年,中国と日本で交互に開催するようにしたい」との提案がなされた.この提案に基づき,2021年5月日本(第101回日本消化器内視鏡学会総会;広島),2022年5月日本(第103回日本消化器内視鏡学会総会,ENDO 2022;京都),2023年中国という順番の開催とすることが,JGES国際委員会ならびに理事会で承認された.Table 2は,中日内視鏡・消化器病学術交流会の開催地とテーマである 1.1999年から2018年までに11回の学術交流会を行ったが,2020年4月杭州で開催予定だった交流会はコロナウイルス感染問題で延期となり,2020年11月にWebでの交流会を行った. 中華消化器内視鏡学会(CSDE)歴代理事長の氏名と在任期間をFigure 6に示す.

Table 2 

中日内視鏡・消化器病学術交流会の開催地とテーマ.

Figure 6 

中華消化器内視鏡学会(CSDE)歴代理事長の氏名と在任期間.

a:Jinkun Zhang, The first president of Chinese Society of Digestive Endoscopy(CSDE), tenure 1991.03‒1995.05, Union Hospital affiliated to Tongji Medical College of Huazhong University of Science and Technology.

張錦坤,初代主任委員(任期:1991.03‒1995.05) 華中科技大学同済医学院付属協和医院.

b:Zhonglin Yu, the second and third president of Chinese Society of Digestive Endoscopy(CSDE), tenure 1995.05‒2003.10, Beijing Friendship Hospital Affiliated to Capital Medical University.

于中麟,第二回,第三回主任委員(任期:1995.05‒2003.10) 首都医科大学付属北京友誼医院.

c:Qilian Zhang, the fourth president of Chinese Society of Digestive Endoscopy(CSDE), tenure 2003.10‒2007.03, The First Hospital of Peking University.

張斉聯,第四回主任委員(任期:2003.10–2007.03) 北京大学第一医院.

d:Zhaoshen Li, the fifth and sixth president of Chinese Society of Digestive Endoscopy(CSDE), tenure 2007.03‒2016.01, Changhai Hospital of The Navy Medical University.

李兆申,第五回,第六回主任委員(任期:2007.03‒2016.01) 海軍軍医大学付属長海医院.

e:Shutian Zhang, the seventh president of Chinese Society of Digestive Endoscopy(CSDE), tenure 2016.01‒2019.07, Beijing Friendship Hospital Affiliated to Capital Medical University.

張澍田,第七回主任委員(任期:2016.01‒2019.07) 首都医科大学付属北京友誼医院.

f:Enqiang Linghu, the incumbent president of Chinese Society of Digestive Endoscopy(CSDE), tenure 2019.07‒, Chinese PLA General Hospital.

現任主任委員令狐恩強(任期:2019.07‒ ) 解放軍総医院第一医学センター.

Ⅵ おわりに

日本消化器内視鏡学会は,中日内視鏡・消化器病学術交流会などを通じて,中国の内視鏡医療界の多くの方々と長い間,親密な交流を続けてきた.さらに近年,中国では内視鏡トレーニングセンターの設立・運営など,若い医師の方々に,新しい内視鏡技術を習得するための努力が積極的になされている.

本稿で解説したように中国と日本の間には内視鏡医学の交流の長い歴史があり,先輩の諸先生方が築き上げてこられた厚い信頼関係がある.次世代を担う若い先生方におかれては,今後もさらに中国の内視鏡医療界の方々と交流を深めて,世界の内視鏡医学の発展のために貢献していかれることを期待している.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
  • 1.  中国との交流.Gastroenterol Endosc日本消化器内視鏡学会総会100回記念号 2020;62(Suppl 3):2890.
 
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