GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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MANAGEMENT OF EARLY PEDUNCULATED COLORECTAL CANCER
Masakatsu FUKUZAWA
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2022 Volume 64 Issue 10 Pages 2255-2267

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要旨

有茎性早期大腸癌の病理組織学的特徴として粘膜筋板が錯綜する場合も多く,早期大腸癌の治療方針を決定する上で重要な粘膜下層(submucosa:SM)浸潤度の評価法において,他の肉眼型と区別が必要とされる.実際のSM浸潤度の測定法は,粘膜筋板の走行が同定または推定可能な症例は,病変の粘膜筋板下縁から浸潤最深部を測定する.また,粘膜筋板の走行が同定・推定できない部分は病変表層から測定するとされている.しかし有茎性病変の場合は,粘膜筋板が錯綜し,同定できないことがある.その場合,SM浸潤距離は頭部と茎部の境を基準線とし,そこから浸潤最深部への浸潤距離を測定するとしているが,この粘膜筋板の同定・推定においては病理医間でも評価にばらつきがあるのが実際である.一方,現在の大腸癌治療ガイドラインでは,cTis癌・cT1軽度浸潤癌(SM垂直浸潤距離が1,000μm未満の浸潤)と診断できれば内視鏡治療の適応となり,cT1高度浸潤癌(SM垂直浸潤距離が1,000μm以深の浸潤)と診断した際は,リンパ節郭清を含む外科的手術が推奨されているが,有茎性早期大腸癌を含む隆起型病変の深達度診断の精度は表面型病変に比較し劣るとする報告が多い.同時に,有茎性T1b癌のリンパ節転移リスクにおいては,非有茎性pT1b癌と比較し,転移リスクが少ないとの報告もある.実際,有茎性早期大腸癌は他の肉眼型の早期大腸癌と比較し,内視鏡による一括切除は容易ではあり,内視鏡治療が先行して行われる機会も多い.今後は無茎性大腸癌と区別した,有茎性大腸癌における内視鏡診断,治療適応とともにSM浸潤度評価法を含めたさらなる検討が必要と考える.

Abstract

The histopathologic characteristics of early pedunculated colorectal cancer often include a disrupted muscularis mucosae. Distinguishing such cases from other macroscopic types by measuring submucosal (SM) invasion depth is important in determining the treatment strategy.

When the muscularis mucosae can be identified, the depth of SM invasion is calculated as the distance between the deeper edge of the muscularis mucosae and the point of deepest invasion. When the muscularis mucosae cannot be identified, the depth of SM invasion is measured as the distance between the surface of the tumor and the point of deepest invasion. In polypoid tumors (0-Ip) with disrupted muscularis mucosae, the depth of SM invasion is considered the distance between the point of deepest invasion and the reference line (the fictitious line separating the tumor head and the pedicle). However, there is some discrepancy in these identification and estimation methods of the muscularis mucosae, even among pathologists.

Nonetheless, according to the current colorectal cancer treatment guidelines, endoscopic treatment is indicated if cTis or cT1a (SM invasion less than 1,000μm) is diagnosed, and surgical treatment including lymphadenectomy is recommended if cT1b (SM invasion deeper than 1,000μm) is diagnosed. However, some reports suggest that the invasion depth of protruded lesions, including early pedunculated colorectal cancer, is lesser than that of superficial lesions. It also reported that the risk of lymph node metastasis in pedunculated T1b cancer is lower than that in non-pedunculated T1b cancer. As pedunculated lesions are easier to endoscopically resect en bloc than other macroscopic lesions, endoscopic treatment is often performed first. Further research is needed to distinguish pedunculated from non-pedunculated lesions, including endoscopic diagnosis, indications for treatment, and methods to evaluate SM invasiveness.

Ⅰ はじめに

早期大腸癌の肉眼型は大腸癌取扱い規約に準じて判定されているが,有茎性病変か否かの判別には,内視鏡所見が最も重要となる.大腸癌取扱い規約 1には「表在型(0型)の肉眼型の判定は内視鏡所見を優先し,組織発生や腫瘍,非腫瘍の違いを考慮せずに,病変の形を全体像として捉える.肉眼型分類は病理組織学的検索の結果によって変更しない.」と記載されている.有茎性病変(0-Ⅰp)は隆起型に分類されているが,病理組織学的特徴として粘膜筋板が錯綜する場合も多く,早期大腸癌の治療方針を決定する上で重要なSM浸潤度の評価法について,他の隆起型病変(0-Ⅰsp,Ⅰs),及び表面型病変(0-Ⅱa,Ⅱb,Ⅱc)と区別されている.「大腸癌治療ガイドライン医師用2022年版」 2では内視鏡的摘除後の大腸pT1癌深部断端陽性例は追加手術の適応(強く推奨)とされるが,追加手術を考慮する(弱く推奨)基準として①T1b(SM浸潤度1,000μm以上,②脈管侵襲陽性,③低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌,④浸潤先進部の簇出(budding)BD2/3のうち一因子でも認められた場合としているが(Figure 1),有茎性病変においてはSM浸潤度の評価法,リンパ節転移リスク,長期予後含め他の肉眼型の早期大腸癌と異なる報告も多く,未だ検討すべき課題が多いのも現状である.本稿では有茎性早期大腸癌の取扱いについて述べる.

Figure 1 

内視鏡的切除後のpT1癌の治療方針.

Ⅱ 早期大腸癌の肉眼型

大腸癌の肉眼型は大腸癌取扱い規約 1の基本分類により,0型:表在型,1型:腫瘤型,2型:潰瘍限局型,3型:潰瘍浸潤型,4型:びまん浸潤型,5型:分類不能の6型に分類され,その中で「Tis,T1癌と推定される病変を表在型(0型)に分類する.」と記載されており,さらに表在型は0-Ⅰ型:隆起型(0-Ⅰp:有茎性,0-Ⅰsp:亜有茎性,0-Ⅰs:無茎性)と0-Ⅱ型:表面型(0-Ⅱa:表面隆起型,0-Ⅱb:表面平坦型,0-Ⅱc:表面陥凹型)に亜分類されている.0-Ⅰ型は隆起型で,従来ポリープと総称されている粘膜内隆起性発育を呈する病変である.その中には大きく分けるとⅠp(有茎性)とⅠs(無茎性)の病変があり,その中間にⅠsp(亜有茎性)病変がある.内視鏡診断の際には,重力・ひだ・空気量などの影響を十分に考慮し,観察することが推奨される.先にも述べたが,内視鏡的切除後に組織標本では,種々の修飾を受け,本来の肉眼型形態が表現されないことがしばしばある.よって,プレパラートからの肉眼型の類推は慎むべきであると考えられる.

Ⅲ 有茎性早期大腸癌の内視鏡診断

大腸癌治療ガイドライン2022年版における「cTis癌またはcT1癌の治療方針」をFigure 2に示す 2.cT1癌はcT1軽度浸潤癌(SM浸潤度1,000μm未満)か,cT1高度浸潤癌(SM浸潤度1,000μm以深)かを判断し,cTis癌またはcT1軽度浸潤癌の場合には内視鏡的摘除(一括摘除不可能であれば外科的治療)を,cT1高度浸潤癌の場合には外科的切除を行うことが推奨される.また大きさ,肉眼型は問わないとされている.そのためにこれまではcTis癌+cT1軽度浸潤癌とcT1高度浸潤癌との鑑別が議論されてきた.このcTis癌+cT1軽度浸潤癌とcT1高度浸潤癌の鑑別には通常内視鏡所見 3)~9や色素拡大内視鏡観察 10),11,pit pattern診断 12),13,NBI(narrow band imaging) 14)~17やBLI(blue laser imaging) 18などの画像強調観察(image-enhanced endoscopy)の有用性が報告されており,実臨床においてもこれらの診断法を使い,腫瘍内の組織多様性を正確に術前診断し,治療法を選択していく.現在,拡大内視鏡は広く汎用化されているが,早期大腸癌における拡大内視鏡を用いた深達度診断は,概ね表面型病変においては有用であるが,有茎性病変を含む隆起型病変の深達度診断に対する正診率が,表面型病変と比較しやや劣るとする報告が多い.その理由としては,隆起型病変は粘膜内病変を保ちつつ,深部に浸潤することがあり,あくまで腫瘍表層を観察する拡大内視鏡や画像強調観察では正確なSM浸潤度が捉えきれないことがあるためである.

Figure 2 

cTis癌またはcT1癌の治療方針.

通常内視鏡による深達度診断の指標を明確にする目的で大腸癌研究会「内視鏡摘除の適応」プロジェクト研究班でpT1癌180病変について出現している内視鏡所見を検討した結果では,隆起型早期大腸癌におけるSM浸潤度1,000μm以深の浸潤所見として,腫瘍の表面性状では緊満所見,内視鏡的硬さ,凹凸不整,粗造所見,さらに腫瘍周囲の性状として皺襲集中,ひきつれ,孤の硬化が隆起型早期大腸癌のSM浸潤度1,000μm以深の有意な内視鏡所見として報告された 3.有茎性の腫瘍性病変の多くは,頭部の表面が分葉し,ドーム状を呈する.小さな病変の場合は腺腫であることが多いが,腫瘍径が増大するにつれ粘膜内癌となり,粘膜下層に浸潤していく.癌が粘膜下層に浸潤した有茎性病変では,表面の崩れや茎部の太まりなどの所見が現れる.池原らの報告 8でも通常内視鏡所見として,57例の有茎性早期大腸癌において“腫瘍径20mm以上”,“分葉の消失”,“表面不整”,“境界を伴う陥凹”,“pit pattern”,“茎の太まり”の6つの所見を上げ,SM高度浸潤癌の因子となる所見について検討しているが単変量解析でのみで,“境界を伴う陥凹”以外の5つの所見がSM高度浸潤癌の指標として抽出されたと報告されている.

またIkegami 19),20が提唱したPG(polypoid growth)/NPG(non polypoid growth) typeの概念を用いた診断も,有茎性病変における悪性度を推察する上で有用と考える.この概念は,隆起型早期癌と表面型早期癌の発生・発育・進展形式を明らかにするために病理割面形態から腺腫及び癌の粘膜内での増殖様式に着目し,“PG typeは粘膜内で発生した腫瘍が辺縁正常粘膜部よりそれに接する腫瘍粘膜の厚さが明らかに厚いもの,NPG typeは周囲正常粘膜あるいは過形成性粘膜と腫瘍部粘膜との間の移行がスムーズで,腫瘍部粘膜の厚さが辺縁正常あるいは過形成性粘膜の厚さと比べてほぼ同等かむしろ薄いのもの”と定義した.さらに,この分類に基づいて検討すると,NPG typeではPG typeよりも腫瘍径が小さい病変が多く,担癌率,SM癌率,SM浸潤度,脈管侵襲率いずれも高い傾向にあり,腺腫成分を伴わないことが多いことからde novo癌由来の可能性が示唆された.したがって,PG type由来かNPG type由来かを内視鏡で推察することは,悪性度を予見する上でも重要である.厳密には通常内視鏡観察で判断できない可能性も示唆される 21が,PG/NPG typeの鑑別における内視鏡診断での重要な所見は病変の辺縁立ち上がり部分でのⅠ型pitの介在である.有茎性病変においても“Ⅰp+Ⅱc”と言われるような病変の辺縁立ち上がり部分に正常pitが観察され,頂部は陥凹を呈するようなNPG typeの有茎性早期癌については,stalk invasionをきたしている可能性が極めて高いと考える(Figure 3 22),23

Figure 3 

NPG typeの有茎性早期癌.

病変の辺縁立ち上がり部分に正常pitが観察され,頂部は陥凹を呈する.病理組織像ではstalk invasionを呈していた.

Ⅳ 早期大腸癌における病理学的な深達度評価の変遷

以前より,大腸T1癌の深達度に関する判定法は,Haggittの分類 24,工藤の分類 25),26,Kikuchiの分類 27などが報告されていた.Haggittの分類は,解剖学的な位置関係から領域を設定し,腫瘍がどの領域まで浸潤しているかを,Levelを用いて判定する(Figure 4 24),28.腫瘍の形状と粘膜筋板の状態をあわせて,粘膜内癌をLevel 0とし,粘膜下層をLevel 1~4に分類する方法であり,Level 0~3をリンパ節転移の低リスク,Level 4を高リスクとした.しかし有茎性病変と無茎性病変を同じLevelで扱うことや,Level 2をどこに設定するかなどの検討を要する点も認めた.Kudoの分類は,深達度については,粘膜下層を3分割し,sm1,sm2,sm3とし,横への広がりの程度から,a,b,cと評価した(Figure 5 25),26.Kikuchiの分類は,level of invasionという用語を用いて,sm1をslight submucosal invasionと呼称し,粘膜筋板下端からSM浸潤距離が200~300μmとした.sm3は,固有筋層上端近傍への浸潤とした.sm2は,sm1とsm3の中間を呼称することとしている(Figure 6 27),28.しかし,固有筋層のない内視鏡切除検体での分類に用いることができないことや,粘膜筋板が不明瞭や消失している場合の対応が問題となった.そして肉眼型により,浸潤距離の測定が異なることは臨床上の取扱い方にも大きな影響を与えることとなった.そこで,大腸癌研究会「sm癌取扱いプロジェクト委員会」で,大腸SM癌865例について解析が行われ,①非有茎性pSM癌では,SM浸潤距離が1,000μm未満であればリンパ管侵襲の有無に関係なく,リンパ節転移の可能性が低い,②有茎性pSM癌では,リンパ管侵襲が陰性かつSM浸潤距離が3,000μm未満の症例にリンパ節転移例がないとの結果が2004年に報告された(Table 1 29.その上で,2005年には大腸癌治療ガイドラインが改定され,内視鏡的切除pT1癌の根治判定条件として,①垂直断端陰性,②高・中分化腺癌,③脈管侵襲陰性に加えて,さらにSM浸潤距離が1,000μmを超える場合には外科治療を考慮するという項目が加えられた.また2006年には大腸癌取扱い規約第7版が発刊され,『SM癌の浸潤距離の測定法』が示され,浸潤距離を測定し記載することが明記された.

Figure 4 

大腸T1癌の深達度に関する判定法(Haggittの分類).

腫瘍の形状と粘膜筋板の状態をあわせて,粘膜内癌をLevel 0とし,粘膜下層をLevel 1~4に分類する.

Figure 5 

大腸T1癌の深達度に関する判定法(工藤の分類).

sm1:粘膜下層表層1/3.

sm1a:B/A ~1/4.

sm1b:B/A 1/4~1/2.

sm1c:B/A 1/2~.

sm2:粘膜下層中層1/3.

sm3:粘膜下層深層1/3.

Figure 6 

大腸T1癌の深達度に関する判定法(Kikuchiの分類).

sm1:粘膜筋板をわずかに(200~300μm)越える浸潤.

sm2:sm1とsm3の中間.

sm3:固有筋層に接する程度の浸潤.

Table 1 

sm浸潤距離と肉眼型別のリンパ節転移リスク.

Ⅴ 肉眼型と浸潤距離の測定法

大腸癌取扱い規約第7版以降,T1癌の浸潤距離の測定法の変更はなされていない.実際の測定法は,まず肉眼型にかかわらず,粘膜筋板の走行が同定または推定可能な症例は,病変の粘膜筋板下縁から浸潤最深部を測定する.また,粘膜筋板の走行が同定・推定できない部分は病変表層から測定するとされている.さらに大腸癌治療ガイドライン2009年版 30以降には「ここで言う「走行が同定または推定可能」とはSM浸潤による「変形」,すなわち走行の乱れ,解離,断裂,断片化などがない粘膜筋板を指す.変形した粘膜筋板を起点とするSM浸潤距離を過小評価する可能性がある.「変形」の判定は必ずしも容易ではないが,粘膜筋板周囲にdesmoplastic reaction 31を伴うものは「変形あり」と判定する.」と追記された.

一方,有茎性T1癌では,粘膜筋板の錯綜などで判定が困難な特殊な症例があり,浸潤度評価に施設間でばらつきが出る可能性があると考えられた.そのため,これらの特殊な症例では基準線を設け,“head invasion”と“stalk invasion”に分類しSM浸潤度を評価することとした.有茎性病変に対しては「有茎型病変では,粘膜筋板が錯綜し浸潤実測の始点となる粘膜筋板が同定できない場合がある.この場合のSM浸潤距離は頭部と茎部の境(粘膜における腫瘍と非腫瘍の境界)を基準線とし,そこから浸潤最深部への浸潤距離を測定する.浸潤が頭部内に限局する有茎性病変は「head invasion」とする」とされている(Figure 7 1

Figure 7 

大腸T1癌におけるSM浸潤距離実測法.

a:粘膜筋板の走行が同定あるいは推定可能な症例は,粘膜筋板下縁から測定する.

b,c:粘膜筋板の走行が同定・推定できない症例は,病変表層から測定する.無茎性病変(b).有茎性病変(c).

d:有茎性粘膜筋板錯綜例では,頭部と茎部の境界を基準線とし,基準線から浸潤最深部への距離を測定する.

e:有茎性粘膜筋板錯綜例で,浸潤が頭部内に限局するものは「head invasion」とする.

この測定法に従い,有茎性T1癌のSM浸潤度判定を行っているが,大腸癌研究会「1,000μm以上のSM癌のリンパ節転移リスクの層別化プロジェクト研究」(2012年)の中央診断予備的検討では,粘膜筋板錯綜例か非錯綜例かの評価一致率は低く(κ値0.55),現行の判定基準ではSM浸潤度判定に高い再現性は期待できないとする意見もある 32.有茎性病変のSM浸潤度判定の標準化・均霑化を考慮した場合,Matsudaら 33の検討でも用いた,有茎性病変はすべて頭部に限局するhead invasionか,頭部と茎部の境を越えるstalk invasionに二分する判定法への変更も検討の余地があると考える.

Ⅵ 有茎性早期大腸癌におけるリンパ節転移リスクと予後

大腸T1癌のリンパ節転移率は5~20%で10%程度とする報告が多い 34)~45.さらにリンパ節転移のリスク因子の検討では深達度,組織型,脈管侵襲,簇出が挙げられている 35),36),40),45)~50.有茎性病変におけるリンパ節転移リスクは過去の報告では3.5~7.5%との報告がある 51)~55.Kitajimaら 29の報告によると,外科切除された大腸T1癌865例におけるリンパ節転移率は10.1%(87/865)であり,有茎性病変では7.1%(10/141)であり,肉眼型別の差は認めなかった.その有茎性病変でリンパ節転移陽性だった10例のうち,head invasion症例は3例認めたが,すべての症例が脈管侵襲陽性例であり,さらに3例中2例で浸潤先進部の低分化傾向を認めた.一方,松田らは有茎性早期大腸癌384例,平均44カ月観察期間の多施設検討の結果 33,有茎性T1癌におけるリンパ節転移率は3.5%であり,過去の報告の無茎性病変 51と比べて有意に低い転移率であったと報告している.また有茎性病変を茎部に基準線を引いて,その線よりも頭部に腫瘍細胞を認めるものをhead invasion,基準線を越えて腫瘍細胞の浸潤を認めるものをstalk invasionと二分して検討した結果ではリンパ節転移陽性率は,それぞれ0%(0/101),6.2%(8/129)で,再発率は0%(0/219),0.8%(1/121)であったとした.さらにリンパ節転移の危険因子の検討では浸潤度(head vs stalk),脈管侵襲(ly and/or v(+)/(-)),低分化腺癌(por(+)vs(-)),腫瘍径(20mm≦ vs <20mm),NPG/PGにおいてリンパ節転移のリスクと考えられたのはstalk invasionのみであり,これらの分類の有用性を報告している.そのリンパ節転移をきたしたstalk invasion症例8例中,深達度以外のリスク因子を認めたのは38.5%(3/8)だった.

Asayamaらの報告 56では14施設176病変の有茎性T1癌のリンパ節転移率及び長期予後成績の結果では,4.9%(4/81)にリンパ節転移を認め,その4例中1例はhead invasion症例であったが簇出grade2/3であった.またstalk invasion3例は共にリンパ管侵襲陽性だった.長期予後としてはJSCCR治癒切除基準 57における治癒切除例においては,局所・遠隔転移再発は認めなかったが,非治癒切除例において1例遠隔転移再発を認めた.

Kimuraらの報告 58では単施設の76例の有茎性T1癌の検討では,11.8%(9/76)にリンパ節転移を認め,head invasion(4/30,13.3%)とstalk invasion(5/46,10.9%)でのリンパ節転移率には差はなかったと報告している.さらにhead invasionを認めた4例すべてでリンパ管侵襲,2例で簇出grade2-3を認めた.一方,stalk invasionを認めた5例中,深達度以外のリスク因子を認めなかったものは1例だった(Table 2 56

Table 2 

有茎性早期大腸癌のリンパ節転移リスクと再発率.

大腸T1癌のリンパ節転移率は大腸T1癌全体でも約10%程度であるが,浸潤先進部の組織学的分化度などを考慮した一定条件の下では,SM浸潤度1,500~2,000μm程度までのT1癌はリンパ節転移のリスクが低いことが報告されている 59)~61.大腸癌研究会「1,000μm以深SM癌転移リスクの層別化プロジェクト研究(味岡洋一委員長)」において,計2,057例(pT1b癌 1,675例,pT1a癌 382例)のを対象とし,癌の組織型を主組織型ではなく最も低い分化度成分で評価した場合の検討では,pT1b 癌であっても脈管侵襲陰性,簇出軽度,低分化胞巣陰性であればリンパ節転移陽性率は1.3%(9/672例,95% CI:0.6~2.5)と低いことから,SM浸潤度1,000μm以上の1因子のみが陽性である症例に対しては内視鏡治療適応が拡大できる可能性が示された.この結果は追加外科手術症例を減少させ,効率のよい高リスク群の絞り込みに大きく貢献することが期待される 62.さらに,粘膜筋板の状態がリンパ節転移のリスクと有意に関連しているとの報告もされている 63),64.これらの報告から,有茎性病変に関して言えば,stalk invasion症例はSM浸潤度以外のリスク因子がなかったとしてもリンパ節転移リスクがあること,head invasion症例においてもSM浸潤度以外のリスク因子がある場合はリンパ節転移リスクがあることは理解する必要がある.

一方,再発リスクにおいて,Yoshiiら 65はSM浸潤度1,000μm以上でも他のリンパ節転移リスク因子を有さない低リスク群の累積再発率は,内視鏡的摘除単独群3.4%,追加手術群2.3%で両群とも低くpropensity-score調整後ハザード比が1.2と報告している.またKesselsら 66は,1,656病変(有茎性/非有茎性:963/693)の早期大腸癌を対象とした有茎性及び有茎性以外をLow risk(以下のリスク因子に該当せず:(1)低分化傾向,(2)SM浸潤度(>1,000 mm or sm2-3:非有茎性,Haggitt 4:有茎性),(3)脈管侵襲陽性,(4)断端不明/陽性),High risk(上記リスク因子が1個以上該当あり)に分けた場合の治療後再発率の検討では,High risk因子を持つ有茎性・非有茎性病変の比較ではリンパ節/遠隔転移率及び局所/遠隔再発率において有茎性病変が有意に少なかったと報告した.現時点では有茎性早期大腸癌が非有茎性病変と比較し,転移・再発リスクが低いと言えるエビデンスは十分ではないのが現状であるが,今後さらなる研究の成果が待たれる.

Ⅶ 有茎性cT1癌に対する内視鏡治療適応拡大

大腸癌治療ガイドライン2022年版 2に準じると,cTis癌・cT1軽度浸潤癌と診断できれば内視鏡治療の適応となり,cT1高度浸潤癌と診断した際は,リンパ節郭清を含む外科的手術が推奨されている.しかし,実臨床においては深達度診断に苦慮する症例や,患者の併存疾患,パフォーマンスステータス(performance status:PS)などの総合的評価をした上で,cT1高度浸潤癌でも内視鏡治療を行うことはある.そしてcT1癌に対して行われた内視鏡治療 67),68において,治療後の予後に影響を与えないことも報告され 69)~73,今後,さらにcT1癌に対する内視鏡治療適応拡大は進んでいくものと考える.そのために解決しなくてはならない課題としてcT1癌の摘除生検は,完全一括摘除が必須であることが挙げられる.cT1癌に摘除生検として内視鏡治療をアプローチしても,組織学的に完全一括摘除でなければ,正確な病理組織評価が得られないためである.中途半端な深部断端陽性pT1癌は,その組織学的悪性度を評価できないまま,エビデンスのない中,今後の方針を決定せざるをえなくなるのである.大腸T1癌の悪性度を規定しているのは実際に脈管を破壊し浸潤しつつある浸潤先進部であり,この浸潤先進部の組織学的因子がリンパ節転移に密接に関連するが,それが評価できなくなるためである.その中で有茎性早期大腸癌は内視鏡的完全摘除が比較的容易であり,cT1癌であっても摘除生検の適応と考える.実際の治療においては,stalk invasionの有無に十分注意して癌の深部断端が陽性にならないよう注意する必要がある.病変のheadが大きくスネアリング困難な場合には,stalk部分を内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)用ナイフで切除すれば安全に一括摘除も可能である 74

Ⅷ おわりに

大腸T1癌の評価において,肉眼型が予後評価を行う上で重要な要因の一つであると言える.肉眼型の評価は,病理組織標本上の判断ではなく,内視鏡診断が最も重要になる.内視鏡施行時には,重力,ひだ,空気量などの影響を十分に考慮して詳細な観察を行うことが望まれる.そこで課題とされるのが,適切に有茎性病変を診断できるかどうかの内視鏡診断の精度である.現在,有茎性病変においての診断基準は明文化されていない.同時に無茎性病変同様に,有茎性病変における内視鏡診断学の構築も必要である.拡大観察や,画像強調観察も有用であるが,有茎性病変においては通常内視鏡所見が深達度診断においてより重要な所見が多いと考える.

一方,内視鏡摘除T1癌症例が増加した場合には,有茎性病変のSM浸潤度の評価基準の精度管理も課題として挙げられる.消化管専門病理医が不足している中,現状でも,大腸T1癌の病理診断基準が標準化しているとは言い難く,不完全な病理診断によって根治性のない病変が根治と誤診され患者が不利益を受けるようなことはあってはならない.そのためにも臨床側,病理側ともにさらなる検討が必要であると考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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