GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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GASTRIC HAMARTOMATOUS INVERTED POLYP WITH ULCERATION
Shunsuke TAKAHASHI Risa IWAOChihoko ARATONONorikazu HASHIMOTOSoushi IMAMURAHitoshi HONMAHiroyuki KUWANOShinya UMEKITATaisuke SASAKIYoshinao ODA
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2022 Volume 64 Issue 10 Pages 2268-2274

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要旨

66歳,男性.検診の胃X線検査で異常を指摘され当科を紹介された.内視鏡所見では胃体上部大彎に24mm大,広基性,立ち上がりは粘膜下腫瘍様の形態を呈する隆起性病変を認め,頂部に発赤粘膜及び浅い潰瘍を認めた.生検では診断がつかず悪性腫瘍の可能性も否定できないため,診断的治療として内視鏡的切除術(EMR併用ESD)が施行された.組織学的に隆起はhamartomatous inverted polyp(HIP)の所見であった.HIPは癌合併の報告もあり,潰瘍を有する場合は良悪性の鑑別に難渋しうる.今回,術前診断が困難であった胃HIPに対してEMR併用ESDを行い一括切除及び病理診断が可能であった.

Abstract

A 66-year-old man was referred to our hospital for further evaluation of a polypoid lesion of the stomach detected on radiographic examination. Esophagogastroduodenoscopy revealed a broad-based elevated lesion (24mm) with a relatively steep but smooth surface and submucosal tumor-like morphology in the upper body of the stomach, with an edematous red apex and a shallow ulcer. Endoscopic ultrasonography revealed a lesion of low echogenicity with multiple aechoic images in the mucosal-submucosal layers, and we performed endoscopic resection using a snare followed by circumferential incision and submucosal dissection using ESD techniques. Histopathological examination of the resected specimen revealed that the polypoid lesion was composed of submucosal proliferation of cystically dilated gastric glands and fibromuscular elements. Based on these findings, we diagnosed the tumor as a hamartomatous inverted polyp (HIP). Only six cases (including the current case) of HIP with ulceration have been reported in Japan, which indicates the rarity of this form of HIP. The atypical ulcer observed in this case of HIP was probably attributable to mechanical stimulation. HIP is rare and is known to be complicated by cancer. Therefore, preoperative diagnosis is invariably challenging, and it is important to carefully devise the optimal treatment strategy.

Ⅰ 緒  言

Hamartomatous inverted polyp(HIP)は,粘膜下に異所性に腺管の増生を認め,胃内腔に膨張性に発育してポリープ状の形態を示す病変である 1.本疾患は自覚症状なく検診で発見されることが多い.癌合併は稀である 2が,その形態から組織生検での確定診断は難しく,術前診断は困難なことが多い 1.今回,われわれは潰瘍形成を伴う特異な形態を呈し内視鏡的に一括切除しえた胃HIPの1例を経験したので文献的考察も加えて報告する.

Ⅱ 症  例

症例:66歳,男性.

主訴:なし(検診にて異常を指摘).

既往歴:逆流性食道炎(44歳),高血圧症(45歳),高尿酸血症(50歳),2型糖尿病(50歳).

生活歴:喫煙なし,飲酒 ビール350ml/日.

内服薬:エソメプラゾールマグネシウム水和物20mg,テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩,アロプリノール100mg,メトホルミン塩酸塩750mg,ピオグリタゾン塩酸塩15mg,シタグリプチンリン酸塩50mg.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:20XX年12月検診の胃X線検査で異常を指摘された.その後近医にて上部消化管内視鏡検査を実施され胃体上部大彎に病変を認めたため,翌1月に当院を紹介され受診した.

入院時現症:身長170cm,体重96kg,血圧 164/93mmHg,脈拍 93/分,SpO2 98%(room air).腹部は平坦,腸蠕動音は正常,圧痛なし.反跳痛なし.

血液生化学検査所見:WBC 6,500/μl,RBC 469×104/μl,Hb 15.1g/dl,Hct 44.5%,Plt 17.9×104/μl,BUN 17.8mg/dl,Cre 0.97mg/dl,尿酸 6.0mg/dl,HbA1c 6.2%,CEA 1.4ng/ml,CA19-9 6U/ml.血中Helicobacter pylori抗体 3U/ml未満.その他,特記すべき所見なし.

胃X線所見:胃体上部大彎に20mm大の隆起性病変を認めた.基部は広基性,隆起頂部は結節状で淡いバリウム斑を伴う陥凹形成を伴っていた(Figure 1).

Figure 1 

胃X線造影像(立位第一斜位).

胃体上部大彎に20mm大の隆起性病変を認める.隆起は二段隆起を呈しているが1段目は表面平滑で粘膜下腫瘍様隆起を呈している.頂部には淡いバリウム斑を認め潰瘍を形成している.

上部消化管内視鏡検査所見:胃体上部大彎に,基部は正常粘膜で覆われたやや急峻な立ち上がりを呈しており,隆起頭部は発赤粘膜を伴う結節状隆起がみられ,頂部には白苔付着を伴う浅い潰瘍が認められた.発赤調領域に粗造粘膜は認めず,過形成性変化と考えられた.基部は胃大彎襞が腫瘤により圧排されているが襞のひきつれ所見はみられなかった(Figure 2).潰瘍辺縁は比較的整であり,Narrow band imaging(NBI)拡大観察においても不規則だが血管の拡張や口径不同は認めず,悪性を示唆する所見はみられなかった(Figure 3).尚,背景胃粘膜に萎縮性変化は認めなかった.

Figure 2 

上部消化管内視鏡像.

胃体上部大彎に24mm大の隆起性病変を認める.隆起頂部には白苔を有する浅い潰瘍がみられ,その周囲には過形成性変化と思われる発赤調粘膜を認める(a:水浸下観察).隆起基部は粘膜下腫瘍様の立ち上がりを有している(b).周囲粘膜のひきつれはみられない.

Figure 3 

NBI拡大観察像.

隆起頂部の白苔下には,不規則だが拡張や口径不同を伴わない微小血管が比較的均一にみられる.

超音波内視鏡検査(EUS)(12MHz)所見:病変は第2~3層を主座とした低エコー像を呈しており,内部に複数個の無エコー像を認めた(Figure 4).第4層の断裂や肥厚は認めなかった.

Figure 4 

超音波内視鏡像(ミニチュアプローブ,12MHz).

プローブを隆起根部(a)と隆起頂部(b)に当てて撮影.病変は第3層に大小不同・類円形の無エコー(矢印)を伴った低エコー腫瘤として認められる.

生検病理組織所見:潰瘍辺縁からの組織生検結果は過形成性変化を伴う胃粘膜が認められるのみで,悪性所見はみられなかった(Group 1).

以上より,頂部に過形成性変化及び潰瘍を伴う粘膜下腫瘍で,EUSにて内部に複数の囊胞性変化を呈する病変として過誤腫性ポリープ,リンパ管腫,異所性膵等が鑑別に挙がるが,生検にて確定診断がつかなかった.粘液癌等の粘膜下層浸潤を呈する悪性腫瘍の可能性も否定できないため,患者に十分なインフォームドコンセントを行い,診断的治療として内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を行う方針とした.病変の周囲切開及び可能な限り粘膜下層剝離を行うも著明な線維化を認め剝離完遂は困難と判断し,十分な局注をした後にスネアリングにて一括切除を行った(内視鏡的粘膜切除術(EMR)併用ESD).切除後,術後経過も含めて穿孔や出血などの偶発症は認めなかった.切除標本の大きさは24×21mm大であった.

病理組織学的所見:粘膜内及び粘膜下層内に大小不同の囊胞や拡張した腺管腔を多数,一部に胃固有線の増加を認め,紡錘形細胞と線維間質の増生もみられた(Figure 56).隆起表面には肛門側を中心に広い範囲に腺窩上皮の過形成がみられた.潰瘍領域の切片では頂部に肉芽組織を認めた.紡錘形細胞はαSMA及びdesmin陽性であり,CD34及びS-100,EMA,AE1/AE3,c-kit,DOG1,ALKは陰性であった.以上より,本病変は表面に過形成性変化を伴ったHIPと診断した.

Figure 5 

切除病変.

EMR併用ESD後ホルマリン固定標本(a)と黄線切片におけるルーペ像(b).粘膜~粘膜下層に多数の囊胞状腺管を認め,表層は房状・分葉状の形態を呈している.

(注:(a)左上の切片は追加切除した組織片だが組織学的に正常粘膜であり,追加切除検体に過誤腫成分は認めなかった.)

Figure 6 

Figure 5-bの枠に相当する組織像(×200).

病変内部に大小の囊胞状腺管の増生,その周囲に軽度リンパ球浸潤,粘膜筋板様組織の錯綜がみられた.

Ⅲ 考  察

HIPとは,1966年にAllenが直腸において異所性腺管が粘膜下へ逆行性,囊胞状に発育し,腸管内へ突出する形態をとる病変をhamartomatous inverted polyp(HIP)と報告し 3,胃でも同様の表現が用いられている.本病変には様々な呼称があり,過誤腫,胃粘膜下異所腺,submucosal heterotopia of gastric glands, submucosal heterotopic gastric glands, gastric gland heterotopia, gastric submucosal heterotopiaなどが報告されている 1.成因については,先天的に腺組織が粘膜下層に迷入するという先天性迷入説と,後天的に炎症の繰り返しで生じるという後天性炎症説があるが,後者を支持する報告が多い 4.本疾患は内視鏡所見上さまざまな形態をとりうるが,AokiらはHIPのうち有茎性のものをポリープ型,無茎性のものを粘膜下腫瘍型(SMT type)と分類している 5.有茎性の形態の成り立ちについては,粘膜下で増生した病変が大きくなるにつれ半球状から亜有茎状となり,腫瘍の重みで胃内に牽引されるようになると考えられる.表面は正常粘膜で覆われることも多く組織生検でも正常組織が採取されることが多い.小さなものでもびらんや発赤を伴うこともあり,大きいものでは本例のように潰瘍形成を来す例もあるため,形態によっては癌との鑑別が問題となる 6

1989年から2020年4月までの期間で「HIP」「胃過誤腫」「胃粘膜下異所腺」「submucosal heterotopic gastric glands」をkey wordに医学中央雑誌,PubMedより抄録を除いて検索したところ,癌を合併していたHIPの報告はわずか3例であり,そのうち1例はHIPとは異なる部位での発生 7で,1例はHIPの表層粘膜上の粘膜内癌 8,もう1例は内部の囊胞を構成する上皮内で癌 9が認められていた.尚,いずれのHIPにも潰瘍形成はみられなかった.HIPを疑う場合は,頻度は低いものの内部に癌を合併する可能性があることに留意し,症例に応じてではあるが,詳細な病理学的検討を行うためにも一括切除が望ましいと考えられる 2),10

本症例は隆起頂部の広い範囲に過形成性変化及び潰瘍を伴う病変であった.過去の報告において頂部に潰瘍を呈した例は,われわれが行った文献検索(前述)において自験例を併せてわずか6例のみであり 6),11)~14,稀な形態と考えられた.自験例を含めた6例をTable 1に示す.年齢は40~72歳(平均53.8歳),性別は男性3例,女性3例であった.3例に腹痛や吐下血などの症状を認めたが,3例は無症状であった.また,有症状の2例で貧血(<Hb 12g/dl)がみられた.5例が胃穹窿部~胃角部に存在しており,形態は4例がポリープ型,2例が粘膜下腫瘍型を呈していた.表層に潰瘍が生じる成因は明らかではないが,頂部に過形成性変化を有したHIPを報告した小沢ら 15は,粘膜下の異所性胃腺管群の一部が粘膜層に噴出し食物や蠕動運動による物理的刺激が加わることで炎症を繰り返した結果,腺窩上皮の過形成を来したと考察している.また,西㟢ら 13は形態変化を来し潰瘍を伴う孤発性胃粘膜下異所腺を報告しており,異所腺が周期的に分泌液を貯留して縮小と増大を繰り返し潰瘍が形成されたと推察している.本症例では,切除検体において組織学的には病変表層の広い範囲に腺窩上皮の過形成及び線維間質の増生がみられ,病変が胃体上部大彎に存在していることも併せて考えると,少なくとも表層への機械的刺激や酸暴露が潰瘍形成に大きく影響した可能性が考えられた.

Table 1 

潰瘍形成を伴うHIPの本邦報告のまとめ.

治療については自験例含め2例で内視鏡切除,1例で腹腔鏡・内視鏡合同手術,3例で外科手術が施行されていた.1989~2014年までの27例をまとめた松岡らの報告 2によると主にポリペクトミーが行われているが,大きさによっては外科手術が選択されている.本症例のHIPは24mm大の潰瘍形成を呈したHIPであったが,術前のEUSによる評価を経てESD適応病変と判断された.しかし,粘膜下層剝離を半分ほど進めた領域において著明な線維化を認めており剝離の完遂は困難と判断され,周囲の追加剝離を行った後にスネアリングにて一括切除(EMR併用ESD)を行った.既述のように本病変は長期間にわたり機械的刺激を受けていることが予想され,粘膜下の線維化を高度に生じている場合もあるため,治療法は途中変更する可能性も視野に入れ選択する必要があると考えられた.

Ⅳ 結  語

潰瘍を形成した胃hamartomatous inverted polypの症例を経験した.本病変は組織生検では診断が難しく,稀ではあるが癌合併の可能性があることも留意し,診断的治療目的の一括切除を選択することが望ましいと考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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