GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF A PERSISTENT RECTAL BAROLITH TREATED CONSERVATIVELY WITH AN ENDOSCOPIC PROCEDURE
Kumiko YAMAMOTO Shigenao ISHIKAWATomoki INABATomo KAGAWAIchiro SAKAKIHARAKoichi IZUMIKAWASakuma TAKAHASHIShigetomi TANAKAMasaki WATOMasaya IWAMURO
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2022 Volume 64 Issue 10 Pages 2275-2281

Details
要旨

症例は64歳男性.生来健康で,3年前まで検診で定期的に胃X線検査を受けていた.食欲不振を主訴に当科を受診し,腹部CT検査にて,直腸に7cm大の糞石と思われる石灰化像を認めた.画像検査および臨床所見において腸閉塞や穿孔の所見を認めず,内視鏡治療目的に入院.スネアを用いて砕石することで糞石は除去可能であった.赤外分光法と走査電子顕微鏡にて解析を行い,バリウム糞石と診断した.バリウム糞石は腸閉塞や消化管穿孔をきたしやすく,重症化することが多い.内視鏡的に治療しえた症例を経験したので報告する.

Abstract

A 64-year-old man, in good health his entire life, was admitted to our hospital with anorexia. Until three years ago, he had undergone an upper gastrointestinal series on an annual basis. An abdominal CT scan showed a calcified lesion in the rectum measuring 7 cm, and no evidence of free air. There were no abdominal symptoms indicating intestinal obstruction or perforation. The patient was hospitalized for endoscopic treatment and the barolith was removed after crushing it with a polypectomy snare. The diagnosis was confirmed after examination of the removed samples using infrared spectroscopy and scanning electron microscopy. Baroliths are prone to causing intestinal obstruction and perforation of the digestive tract, leading to severe complications. We report a case of barolith treated endoscopically.

Ⅰ 緒  言

胃癌検診として胃X線検査は広く普及しているが,検査に使用される硫酸バリウムは腸管内で硬化し,糞石化することがある.バリウム糞石は腸閉塞や腸管穿孔を生じる危険性があり,腸管穿孔をきたすと重篤化しやすい 1.今回われわれは内視鏡治療が可能であった直腸のバリウム糞石の1例を経験した.過去の大腸バリウム糞石における内視鏡治療例を検討し,その臨床的特徴と内視鏡治療について報告する.

Ⅱ 症  例

症例:64歳,男性.

主訴:食欲不振.

既往歴:19歳時に痔瘻手術.

現病歴:生来健康,35歳時より61歳時まで,毎年胃X線検査を受けており,最終の検査は3年前であった.半年以上持続する食欲不振を主訴に当院を受診した.腹部単純X線検査で骨盤内に類円形のX線不透過陰影を認め,腹部造影CT検査では直腸に7cm大の高吸収域を認めた(Figure 1).明らかな腸閉塞や穿孔を疑う所見は認めず,糞石周辺の腸管の浮腫や強い炎症を疑う所見も認めなかった.以上の画像所見と臨床経過よりバリウムによる糞石を疑い,内視鏡治療目的に入院となった.

Figure 1

a:腹部単純X線所見.骨盤内に辺縁不整で類円形のまだらな石灰化陰影を認める.

b:腹部造影CT所見.直腸RSに7cm大の高吸収域を呈する腸管内容物を認める.

入院時現症:体温36.4℃,血圧130/76mmHg,脈拍78回/分.

心肺:打聴診上異常なし.

腹部:平坦軟,圧痛なし.

血液生化学検査所見:白血球6,200/μl,赤血球数4.99×106 μl,Hb 16.4g/dl,CRP 0.04mg/dlと貧血や炎症反応の亢進等の異常所見は認めなかった.

入院後経過:1日1回の排便があり,CT検査で通過障害の所見を認めないことより,内視鏡治療前に前処置を行う方針とした.

入院後絶食とし,腸管刺激性下剤は使用せず,ポリエチレングリコール電解質製剤(Polyethylene glycol electrolyte lavage solution:PEG)2Lを3日間かけて,分割投与した.排便状況,腹痛などの臨床症状を慎重に観察しながら前処置を行った.

大腸内視鏡検査:糞石は下部直腸から直腸S状結腸移行部を占拠しており,わずかながら可動性を有していた.観察時にS状結腸へ移動したが,糞石が接触していた直腸粘膜は暗赤色調で一部には白苔を有していた.糞石の口側粘膜は正常で,閉塞性腸炎の所見は認めなかった(Figure 2).

Figure 2 

内視鏡採石術時の直腸画像.

a:管腔をほぼ占める糞石を認めた.

b:糞石の肛側粘膜は浮腫を認め,発赤から一部黒色調(→)であった.

c:スネアにて処置時,糞石を口側に移動させた状態での処置となった.口側粘膜はほぼ正常で,糞石破砕面は白色調であった.

d:糞石と接していた粘膜には,白苔を伴う潰瘍が生じていた.

糞石は管腔をほぼ占拠しており,非常に硬く,27mm径のスネアProfileTM(Bostom scientific社製)にて分割不能であり,25mm径のスネアSD-210U-25と把持鉗子FG-6U(いずれもOLYMPUS社製)にて,周辺より徐々に削り取るように破砕した.破砕断面は白色調を呈していた.糞石の軟化を目的として炭酸水500mlを内視鏡下に注入したが,糞石全体を炭酸水に浸すことは不可能であった.少しずつ糞石を破砕したが十分縮小化できず,約1時間半処置を行ったところで1回目の治療を終了した.

翌日,2回目の内視鏡治療を施行した.前日同様にスネアを用いて,糞石を破砕した.約1時間処置を行い,縮小化した7×5.5cm大の糞石を回収ネットで摘出し,処置を終了した.処置後の腹部単純X線検査では,残石は認めなかった.治療翌日に37.5度の発熱を生じたが,保存的加療で改善し,治療2日後に退院となった.治療後,すみやかに食欲不振等の自覚症状は改善した.退院2カ月後に外来で全大腸内視鏡検査を施行したが,直腸の粘膜障害は治癒し,瘢痕化していた(Figure 3).

Figure 3 

内視鏡再検時の直腸画像.

粘膜障害は改善しており,軽度の潰瘍瘢痕(→)を残すのみであった.

摘出した糞石について,成分分析を行った.

糞石の赤外分光法分析:糞石は硫酸バリウムを主体とし,一部の成分は同定不能であったが,これは便の成分と考えられた.

走査電子顕微鏡検査/エネルギー分散型X線分光法による元素分析:糞石の切断面の広い範囲にバリウム(Figure 4),硫黄および酸素元素を検出した.一部にリン,カルシウム,マグネシウムを認め,これらは糞便由来の成分と考えられた.

Figure 4 

走査電子顕微鏡所見.

a:摘出した糞石の切断面.

b:元素マッピングにてBaの沈着を認めた.同部位にS,Oの沈着も確認し,硫酸バリウムの沈着に合致した.

以上より,周囲に糞便層を有する硫酸バリウム(BaSO4)を核とした糞石と診断した.本症例は,痔瘻手術の既往があり,肛門部に瘢痕と軽度狭窄があった.そのため胃X線検査後の下剤内服により,バリウムは直腸まではすみやかに移動したが肛門から排出されず,使用されたほとんどのバリウムが直腸での水分吸収作用により硬化したため,7cm大の巨大糞石になったと考えられた.また,本症例は長年の肛門狭窄により,直腸が拡張気味で慢性的に直腸に多くの残便があったため,糞石による症状を自覚しにくく,発見まで3年を要したものと思われた.

Ⅲ 考  察

検診を中心として,胃X線検査は広く本邦で実施されている.一般に150w/v%硫酸バリウムを用いて検査は施行されるが,本剤は腸管内で脱水により硬化し,糞石となる危険性がある.腸管に少量遺残したバリウムや,これによる虫垂炎,憩室炎の症例に日常臨床で遭遇することは稀ではないが,腸閉塞や消化管穿孔を発症する危険性があることは認識しておく必要がある.特に腸閉塞から穿孔を発症した場合は,便汁による汚染に加えバリウムによる異物反応を伴い重篤化するため,その対応は特に重要である 2),3

バリウム糞石は,問診と臨床症状により予測可能であり,腹部単純X線検査やCT検査で診断できる.ただし,高齢者など十分に問診が得られない場合や,本例のように検査から数年が経過し長期滞留している場合には注意を要する.

バリウム糞石には,下剤投与にて容易に排出されるもの,本例のように長期に滞留し自然排出が期待できず,穿孔や腸閉塞をきたす可能性のあるものに大別され,後者は積極的な糞石除去が必要となる.一般的な糞石と同様に,穿孔をきたしていない場合は内視鏡による処置が低侵襲で第一選択となる 4.岡田ら 5はバリウム糞石の治療について,検査後3日以内にバリウムの排泄がない症例で,少なくとも①症状を有しており,②炎症反応が陽性で,③明らかな穿孔が否定的であれば,迅速な内視鏡的アプローチが有用であると報告している.

しかしながら,バリウム糞石に対する内視鏡治療成功例の報告は少ない.医学中央雑誌(2002-2020年)で「バリウム」「治療」「糞石」「内視鏡治療」のKey Word で検索した結果,内視鏡治療が施行されたバリウム糞石の報告は,本邦では自験例を含め14例のみであった(Table 1 5)~16.処置に難渋する症例が多く,糞石を十分除去できず,糞石の遺残が原因と思われる穿孔症例が2例あった.治療経過中に5例で穿孔が生じており,14例のうち最終的に内視鏡治療で治療を完遂した症例は7例のみであった.

Table 1 

内視鏡治療が施行されたバリウム糞石の本邦報告例.

内視鏡治療の成功率が高くない理由は,バリウム糞石が硬く,穿孔を発生する頻度が高いことが原因と考えられた.糞石は,その組成成分等により硬さは異なり,通常の糞石は内部に空気成分や水分を含む層状構造をとることが多いと報告されている 17.一方,バリウム糞石は,主成分は硫酸バリウムであり,層状構造はなく,空気成分をほとんど含まない.糞石が穿孔をきたす機序としては,糞石自体が結腸に裂創を形成する説 18と,糞石による圧迫が腸管の阻血壊死を生じ穿孔する説 19が考えられている.本例では,糞石存在部に一致して白苔を伴う潰瘍を認め,糞石による虚血と慢性炎症をきたしていたことが推察された.また前述のようにバリウム糞石は硬く,ごく短時間で形成されるため,それに応じた周囲腸管の拡張など,腸管損傷回避のための環境順応などが十分にできない可能性がある 20),21.そのため,腸管の虚血や損傷は通常の糞石に比較して強く出現し,穿孔しやすくなることが推察された.

穿孔の有無についてはCT検査で診断可能だが,穿孔に至る前段階の腸管虚血や炎症の程度についてはアーチファクトのため,正確に評価することは難しい.過去報告例にて穿孔に至った5例の特徴は,①全例で腹痛などの症状を伴い,②4例は検査後3日以内の早期の発症,③穿孔部位はS状結腸であった.S状結腸は内腔が狭く,糞石の陥頓が発生し穿孔を生じやすい部位とされている 22),23

また,穿孔した5例中4例に,浣腸や刺激性下剤等の投与が行われており,前処置による腸管内圧上昇が穿孔の契機になった可能性は否定できない.前処置の可否については慎重に判断する必要があるが,緩徐に排便を促す方法として,Proutらは50%ラクツロース5-10ml/回の連日投与の有用性を報告している 24.本症例では,画像上,明らかな閉塞はなく,排便も得られていたが,前処置として腸管刺激性下剤は使用しなかった.7cm大の巨大な糞石であり,多量の残便の存在が内視鏡処置をより困難にする可能性があったため,入院にて腹部症状を確認しながら,3日間かけてPEGを少量分割投与した.前処置については,穿孔のリスクと前処置を行わない場合の内視鏡治療の難易度を考慮して,症例ごとの判断が求められる.

以上より,内視鏡治療に際して穿孔を回避するには,腸管の損傷を評価することが最も重要である.治療前の画像診断では正確に評価することが難しいため,腹部所見を丁寧にとり,他の臨床所見と併せて慎重に判断する.また,治療時には内視鏡的に粘膜損傷を十分に評価し,裂創や深い潰瘍などがあれば縫縮する等の穿孔予防処置が有効と思われる.

内視鏡治療法に関しては,確実性の高い方法や処置具の選択基準に関する報告はなかったが,糞石の硬さ等を考慮し処置具を選択する必要がある.加えて,内視鏡処置は破砕が困難なこともあり,長時間の処置時間になることが予測される.したがって良好な視野確保は処置成功の条件となる.穿孔の危険を最小限とした前処置を行うことができれば,治療成功率は上がると考えられる.通常の糞石と同じく炭酸水による溶解療法が有効な可能性もあるが,報告例は少なく 25),26,今後の検討課題である.

近年,内視鏡検査が普及し,胃X線検査は減少傾向ではあるが,胃癌検診においては主要な役割を担っている.一方で,使用する硫酸バリウムは糞石を生じうること,結果として腸閉塞や穿孔の偶発症をきたしうることを十分に認識する必要がある.胃X線検査後には,十分な水分摂取や排便コントロールなどの患者指導も含め,適切なバリウム糞石の予防対策が重要である.

Ⅳ 結  語

上部消化管造影検査後に生じたバリウム糞石に対し,内視鏡的に治療可能であった1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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