GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TISSUE HARMONIC VERSUS CONTRAST-ENHANCED HARMONIC ENDOSCOPIC ULTRASONOGRAPHY FOR THE DIAGNOSIS OF PANCREATIC TUMORS: PROSPECTIVE MULTICENTER STUDY
Shunsuke OMOTO Masayuki KITANOMitsuharu FUKASAWAReiko ASHIDAHironari KATOHideyuki SHIOMIKazuya SUGIMORIAtsushi KANNOYasutaka CHIBAShinichi TAKANONaoki YAMAMOTOTakeshi EZAKIHaruo MIWAAkitaka YOKOMURAMasato HOSHIKAWATakamitsu TANAKAMasatoshi KUDO
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2022 Volume 64 Issue 10 Pages 2323-2333

Details
要旨

【背景と目的】この前向き多施設共同研究は,膵癌とその他の膵腫瘍の鑑別におけるティッシュハーモニック(Tissue harmonic endoscopic ultrasonography;TH-EUS)と造影ハーモニックEUS(Contrast-enhanced harmonic endoscopic ultrasonography;CH-EUS)の正診率を比較検討することを目的とした.

【方法】2013年8月から2014年12月の間にかけて,固形膵腫瘍の連続症例を前向きに登録した.TH-EUSとCH-EUSの正診率を評価するため,TH-EUSの4所見(境界不明瞭,辺縁不整,内部低エコー,内部エコー不均一)とCH-EUSの4所見(早期相および後期相のそれぞれでhypoenhancement, heterogeneous enhancement)を比較し,各手法のどの所見が最も膵癌の診断に適しているか検討した.また,TH-EUSとCH-EUSにおける膵癌の診断についての観察者間一致度も評価した.

【結果】204名の患者が本研究に登録された.膵癌の診断において,エキスパートと非エキスパートによる観察者間一致度は,TH-EUSではそれぞれ0.33-0.50と0.35-0.50,CH-EUSではそれぞれ0.72-0.74と0.20-0.54であった.TH-EUSの所見のうち膵癌の鑑別において最も正診率の高い所見は辺縁不整であり,感度,特異度,正診率はそれぞれ95.0%,42.9%,78.9%であった.CH-EUS所見のうち膵癌の正診率の高い所見は後期相hypoenhancementであり,感度,特異度,正診率はそれぞれ90.8%,74.6%,85.8%であった.CH-EUS(後期相hypoenhancement)の膵癌の正診率は,TH-EUS(辺縁不整)よりも有意に高かった(p<0.001).

【結語】CH-EUSはTH-EUSと比較して,膵癌診断能および診断における再現性を向上させた.UMIN(000011124).

Abstract

Objectives: This prospective multicenter study aimed to assess and compare the accuracy of tissue harmonic endoscopic ultrasonography (TH-EUS) and contrast-enhanced harmonic endoscopic ultrasonography (CH-EUS) for differentiating pancreatic carcinoma from other pancreatic tumors.

Methods: Consecutive patients with solid pancreatic tumors were prospectively enrolled between August 2013 and December 2014. To assess the accuracy of TH-EUS and CH-EUS, we compared four parameters of TH-EUS (fuzzy edge, irregular periphery, hypoechogenicity, and heterogeneous internal echogenicity) and four parameters of CH-EUS (hypoenhancement and heterogeneous enhancement in the early and late phases, respectively) to investigate which parameter of each method was most suitable to diagnose pancreatic carcinomas. Interobserver agreement and the diagnostic ability of pancreatic carcinoma using TH-EUS and CH-EUS were assessed and compared.

Results: A total of 204 patients were enrolled. For the diagnosis of pancreatic carcinoma, interobserver agreement by experts and nonexperts was 0.33-0.50 and 0.35-0.50 for TH-EUS, respectively, and 0.72-0.74 and 0.20-0.54 for CH-EUS, respectively. Irregular periphery was the most accurate diagnostic parameter among TH-EUS findings for differentiating pancreatic carcinomas, with sensitivity, specificity, and accuracy of 95.0%, 42.9%, and 78.9%, respectively. Late phase hypoenhancement was the most accurate diagnostic parameter among CH-EUS findings for differentiating pancreatic carcinomas, with sensitivity, specificity, and accuracy of 90.8%, 74.6%, and 85.8%, respectively. The accuracy of CH-EUS (late phase hypoenhancement) for diagnosis of pancreatic carcinoma was significantly higher than that of TH-EUS (irregular periphery) (p < 0.001).

Conclusion: In comparison with TH-EUS, CH-EUS increased the diagnostic ability and reproducibility for the diagnosis of pancreatic carcinoma. UMIN (000011124).

Ⅰ はじめに

超音波内視鏡検査(EUS)は小さな膵腫瘍を描出するのに有用な検査である 1),2.2つの新しい画像強調技術であるティッシュハーモニックEUS(Tissue harmonic endoscopic ultrasonography;TH-EUS)と造影ハーモニックEUS(Contrast-enhanced harmonic endoscopic ultrasonography; CH-EUS)がそれぞれ2003年と2008年に開発された 3),4.TH-EUSは音響陰影などの組織によるアーチファクトを減少させることが知られている 4.最近の報告ではCH-EUSで膵癌をhypoenhancementとすると,高い感度と特異度を示したものの 2)~15,CH-EUSにおける膵癌の読影方法は報告によって異なっており,標準的な診断基準はない.TH-EUSとCH-EUSの所見の評価は内視鏡医の主観的な判断によるため,これら既報についての再現性は不明であった.

今回の前向き多施設共同研究の目的は,TH-EUSとCH-EUSによる膵癌の診断能を評価し,最も膵癌の診断能の高い方法を決定することと,TH-EUSとCH-EUSによる診断の再現性と信頼性を比較検討することとした.

Ⅱ 方  法

研究デザインと対象患者

2013年8月から2014年12月にかけて,国内7施設(近畿大学,山梨大学,大阪国際がんセンター,岡山大学,神戸大学,横浜市立大学市民総合医療センター,東北大学)で固形膵腫瘍の疑いのある患者を前向きに登録した.登録されたすべての患者にTH-EUSとCH-EUSが実施された.

20歳以上で,固形膵腫瘍の大きさが30mm以下,Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG) Performance Statusスコアが0-2である患者が登録された.過去に胃の外科的切除を受けたことのある患者,放射線造影剤または超音波造影剤に対するアレルギーの既往がある患者,試験への参加を拒否した患者は本研究から除外された.

主要評価項目は,膵癌の診断におけるTH-EUSとCH-EUSの正診率を評価し,比較することとした.

研究プロトコルは,近畿大学病院の倫理委員会により承認され(承認番号:25-054),UMINに登録された(000011124).検査に先立ち,すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た.

超音波内視鏡検査

膵臓の観察は,超音波内視鏡(GF-UCT260またはGF-UE260;Olympus Medical Systems,東京,日本)を用いて100件以上のCH-EUSを行った経験のある内視鏡医が担当した.超音波画像はALOKA Prosound SSD α-10(ALOKA,東京,日本)を用いて解析した.TH-EUSは造影剤を用いず,Extended Pure Harmonic Detection(ExPHD) -THE modeで実施した.CH-EUSはExPHD-CHE modeで実施され,超音波造影剤Sonazoid(第一三共,東京,日本)が使用された.内視鏡医はまず膵臓全体を観察し,固形腫瘍(30mm以下)が検出された場合,TH-EUSで10秒間動画を保存してからCH-EUSを実施した.超音波造影剤(15μl/kg i.v.)投与後,注入から70秒以上膵腫瘍の動画が撮影,記録された.TH-EUSとCH-EUSの設定は,全参加施設において試験開始前に7施設間で合意を得た設定を使用した.

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)

膵全体の観察後にEUS-FNAを行った.使用した穿刺針は,Expect(Boston Scientific, Natick, MA, USA),EchoTip ProCore(Cook Medical, Bloomington, IN, USA),EchoTip Ultra(Cook Medical),SonoTip Pro Control(Medi-Globe GmbH, Rosenheim, Germany),またはEZ shot2(Olympus Medical Systems,東京,日本)22Gまたは25G針であり,EUS-FNAの穿刺回数,針の種類に関しては各施設の判断で決定された.

最終診断

最終診断は,EUS-FNAによる病理所見,手術,または経過観察による他の種類の画像診断に基づくものとした.それらの所見が陰性であった患者については,少なくとも36カ月の経過観察をもって膵癌の除外を行った.

定義

診断基準は7施設の専門家7名により,議論され以下の合意を得た.観測装置の設定と読影の標準化のため,TH-EUSとCH-EUSの動画72本を用いて議論し,CH-EUSではmechanical index,早期相,後期相を全施設で統一した.mechanical indexは0.3とし,腫瘍のエコー輝度がピークとなる時間を早期相,ピークから30秒後を後期相と定義した.各腫瘍のピークとなる時間は,Time intensity curve(TIC)解析を行い算出した.TIC解析は,ブラインドリーディングの際の観察時間(早期相と後期相)を標準化するために実施され,ピークとなる時間の測定にのみ使用された.

検討項目

TH-EUSの診断については,膵腫瘍性病変の内部エコーと構造を評価した.TH-EUSでは,内部低エコー,辺縁不整,境界不明瞭,内部エコー不均一の所見を悪性と定義した(Figure 12).CH-EUSの診断については,膵腫瘍性病変の早期相および後期相における造影パターンと内部構造を評価し,hypoenhancementおよびheterogeneous enhancementを悪性所見とした(Figure 13).TH-EUSとCH-EUSを用いた膵癌の診断について,エキスパートと非エキスパートの読影者による観察者間一致度をκ(kappa)係数にて評価した.

Figure 1 

TH-EUSとCH-EUSによる悪性所見.

TH-EUS: tissue harmonic endoscopic ultrasonography, CH-EUS: contrast-enhanced harmonic endoscopic ultrasonography.

Figure 2 

TH-EUSによる膵癌の典型例.

低エコー腫瘍として認められた小さな膵腺癌の1例で,Tissue Harmonic modeにより辺縁不整,境界不明瞭,不均―な内部エコーが認められた.

Figure 3 

早期相でisoenhancement,後期はhypoenhancementを示した小さな膵腺癌の1例.

a:造影による早期相の画像.Fundamental Bモード超音波内視鏡検査(EUS;左)では膵体部にやや低エコー域を認めるが,造影剤ハーモニックEUSモード(右)ではisoenhancementかつheterogeneousの染影を示す.

b:造影による後期相(ピーク時から30秒後)の画像.造影ハーモニックEUSではhypoenhancementかつheterogeneousの染影を示す.

TH-EUSとCH-EUSの正診率を評価するために,TH-EUSの4所見とCH-EUSの4所見を比較し,それぞれの方法のどの所見が膵癌の診断能が最も高いのかを検討した.最も正診率の高い所見を用いて,全症例,特定の大きさの腫瘍(≦10 mm,11-30mm),EUS-FNA所見陰性症例(真陰性と偽陰性を含む)の感度,特異度,正診率を求め,TH-EUSおよびCH-EUSの膵癌と他の腫瘍の鑑別診断能を評価し,TH-EUSとCH-EUSで比較した.

また,TH-EUSとCH-EUSを併用した場合の膵癌診断能も評価した.TH-EUS,CH-EUSの診断能の解析はエキスパートのブラインドリーディングによって得られた結果を用いて行われた.

画像診断

ブラインド・リーディングでは,TH-EUSとCH-EUSのデータを1,000例以上のCH-EUSを実施した経験がある3人のエキスパート(R.A.,M.K.,M.F.)と3人の非エキスパート(T.T.,A.Y.,M.H.)が動画の順序ランダムに入れ替えそれぞれの読影者が独立して確認した.非エキスパートの読影者は,CH-EUSの実施経験も100件未満であり,本研究の画像の収集に関与しなかった.すべての読影者はCH-EUSの動画についてはピークとなる秒数を知らされたが,患者の病歴や放射線所見に関する情報は与えられなかった.TH-EUSとCH-EUSの各所見の診断において読影者間で意見の一致が得られない場合は,多数決で所見が決定された.

統計解析

先行研究 2に基づき,最終診断がついた症例数に対する正診率の効果量の中央値を検出するための検出力が80%になるように,第一種過誤率(α)を0.05としてサンプルサイズを算出した.CH-EUSの正診率を93%とするために,この観察研究では少なくとも124例のサンプルサイズを目標とした.膵腫瘍の疑いのあるもの,特に小さな良性病変は最終診断を得ることが困難であり,本研究では除外せざるを得なかった.そこで,診断精度を向上させるために,最終的に232例を登録した.

また,膵癌の診断におけるTH-EUSとCH-EUSの観察者間一致度はκ係数を用いて評価した.得られたκ係数に基づき,観察者間一致度は,わずかな一致(<0.20),軽度(≥0.20および<0.40),中等度(≥0.40および<0.60),高度(≥0.60および<0.80),ほぼ完全な一致(≥0.80)と評価した.診断能は感度,特異度,正診率を評価し,それぞれ95%信頼区間を算出した.膵癌の診断におけるTH-EUSとCH-EUSの比較には,McNemar検定を行った.すべての解析は,R(ver 3.0.1)を用いて実施した 16κ係数はIRR package(version 0.83)を使用して評価し 17,95%CIは2,000個のブートストラップサンプルを使用して算出された.

Ⅲ 結  果

研究期間中7施設で連続232症例が膵腫瘍の疑いでTH-EUSとCH-EUSが実施された(Table S1(電子付録)).動画ファイルの処理不成功(n=19),囊胞性腫瘍(n=1),腫瘤なし(n=2),腫瘍サイズ>30mm(n=6)などの理由で28症例が除外された(Figure 4).合計204症例が本研究に登録され,その患者背景をTable 1に示す.平均腫瘍径は18.3±6.6mmであった.合計141名の患者が膵癌と診断され,そのうち78名は外科的切除により診断された.腫瘍の内訳は,膵腺癌137例,退形成膵癌1例,膵管内乳頭粘液性腺癌3例,炎症性偽腫瘍28例,膵神経内分泌腫瘍26例であった.超音波造影剤の静脈内注射は,本試験参加者に重大な副作用を与えなかった.

Figure 4 

本研究における患者組み入れのフローチャート.

28名の患者が除外された(動画ファイルの処理不成功,n=19;嚢胞性腫瘍,n=1;腫瘤なし,n=2;腫瘍径>30mm,n=6).

Table 1 

患者背景.

膵癌の診断におけるTH-EUSのエキスパート読影医の観察者間一致度は,軽度~中等度であった(κ,0.33-0.50;Table 2)が,CH-EUSの観察者間一致度は高度な一致を認めた(κ,0.72-0.74;Table 2).膵癌の診断におけるTH-EUSの非エキスパートによる観察者間一致度は,軽度~中等度(κ,0.33-0.50;Table 2),CH-EUSでは,軽度~中等度(κ,0.20-0.54,Table 2)であった.

Table 2 

TH-EUSとCH-EUSの各診断項目による膵癌診断の観察者間一致度.

TH-EUSの4所見のうち,膵癌の鑑別に最も有用な所見は辺縁不整であり,感度,特異度,正診率はそれぞれ95.0%,42.9%,78.9%であった(Table 3).CH-EUSの4所見のうち,後期相でのhypoenhancementパターンは膵癌の鑑別に最も有用な所見であり,感度,特異度,正診率はそれぞれ90.8%,74.6%,85.8%であった(Table 3).

Table 3 

TH-EUSとCH-EUSの各診断項目による膵癌診断能(全症例).

全症例におけるTH-EUS(辺縁不整)とCH-EUS(後期相hypoenhancement)の比較では,後者の正診率が前者に比べて有意に高かった(p<0.001)(Table 4).CH-EUSの正診率は,腫瘍径11~30mmの症例(p=0.004),EUS-FNA所見陰性例(p=0.005)ではTH-EUSより有意に高かったが,腫瘍径10mm以下の症例では両者に有意な差を認めなかった(p=0.15)(Table 4).

Table 4 

TH-EUS単独,CH-EUS単独,組み合わせによる全症例,腫瘍径10mm以下,腫瘍径11-30mm,EUS-FNA陰性症例での膵癌診断能.

TH-EUSとCH-EUSの所見を併用すると,TH-EUS単独(78.9%),CH-EUS単独(85.8%)に比べ,正診率が向上した(87.3%)(Table 4).TH-EUSとCH-EUSの組み合わせは,TH-EUS単独,CH-EUS単独での評価に比べ,腫瘍径10mm以下,EUS-FNA所見が陰性の症例において正診率を向上させた(Table 4).

Ⅳ 考  察

本研究は膵癌の診断においてTH-EUSとCH-EUSを比較した初の大規模な前向き多施設共同研究である.膵癌の診断において,3名のエキスパートによるCH-EUSの観察者間一致度はTH-EUSよりも優れていた.非エキスパートに関してはCH-EUSの後期相hypoenhancementの所見において,観察者間一致度が最も高かった.したがって,たとえ非エキスパートであってもCH-EUSを用いて膵癌を診断することは可能である.

TH-EUSとCH-EUSの所見のうち,膵癌の診断能が最も高い所見は,それぞれ辺縁不整と後期相のhypoenhancementパターンであった.したがって,これらの所見を膵癌の定義に使用した.全症例においてCH-EUS(後期相hypoenhancement)の所見がTH-EUS(辺縁不整)の所見に比べて有意に正診率が高く,CH-EUSが膵癌診断において信頼性が高いことが示唆された.

EUS-FNAの膵癌診断における感度と特異度はそれぞれ85-92%,96-98%と報告されている 18)~24.EUS-FNAは腫瘍が小さい症例,特に10mm以下の症例においては限界がある 24.このような症例ではTH-EUSの感度は高いが特異度は高くないため,TH-EUSで偽陽性を回避することは困難である.一方,腫瘍が小さく(10mm以下),EUS-FNAが陰性であった症例では,CH-EUSの正診率がTH-EUSより高かった.これらの結果から,CH-EUSは小病変の鑑別診断においてTH-EUSやEUS-FNAに対して補完的な役割を果たすことが示唆された.CH-EUS単独,TH-EUS単独と比較して,TH-EUSとCH-EUSの所見を組み合わせると,特に腫瘍が小さい症例(10mm以下),EUS-FNA所見が陰性の症例で正診率および特異度が向上しており,膵癌診断にはTH-EUSとCH-EUS所見を併用することが有用であることが示唆される.TH-EUSで腫瘍の辺縁が不整であり,CH-EUSでも後期hypoenhancementを示した症例においては,EUS-FNA所見が陰性の場合偽陰性である可能性があるため,EUS-FNAの再検査や手術を検討する必要がある.

Fusaroliらは膵癌の診断におけるfundamental BモードEUSによる低エコー腫瘤の正診率は57%であったと報告している 5.TH-EUSでは組織のアーチファクトが減少するため,fundamental BモードEUSよりも明瞭に腫瘍を描出できる.本研究で得られたTH-EUSの正診率(67.6-77.5%)はFusaroliらが報告したfundamental BモードEUSの正診率より高かった 5.したがって,TH-EUSとCH-EUSの併用をすることは,fundamental BモードとCH-EUSを併用するよりも正診率が高くなる可能性がある.

CH-EUSは膵癌のhypoenhancementパターンを高い感度と特異性で描出することが,これまでの研究で示されている 2),3),5)~15.しかし,これらの研究では,超音波造影剤注入後にいつ画像を解析したかは記しておらず,解析は内視鏡医の経験に依存した主観的なものとなる可能性がある.また膵癌の場合,早期相にはisoenhancementであるが,後期にはhypoenhancementとなることがある 25.造影所見をいつ評価すべきかが症例により不明瞭であったため,客観的評価のためにTIC解析を行った 25)~31.TIC解析では造影剤注入から60秒が膵癌の診断に最適なパラメータであり,CH-EUSでは正確な診断のため60秒間は観察することが必要であると報告されている 25),26.しかしながら,TICの解析には煩雑な手順が必要である.本研究では,エキスパートと非エキスパートの読影者によるブラインドリーディングにて,早期相と後期相の画像を評価した.この2相での画像評価は,日常診療で容易に行うことができる.本研究では,後期相におけるhypoenhancementは,高い感度と特異度が示された.したがって,日常診療ではCH-EUSによる膵腫瘍の評価はピークとなる時間から30秒間撮像した後,後期相で行うことが望ましいと考える.

本研究は,研究開始前に過去のTH-EUSとCH-EUSの動画を用いて,超音波観測装置の設定や読影方法の詳細について数回の議論を経て合意していたことが,先行研究への優位点である.読影は最終診断や他画像について盲検化されたエキスパートと非エキスパートの内視鏡医によって行われた.さらに,各膵腫瘍のTH-EUSおよびCH-EUS動画は,それぞれの読影医がランダムな順序に並べ替えられて診断した.このような厳密な読影方法によって実施されたブラインドリーディングにより,本研究では信頼性の高い結果が得られていると考える.

本研究にはいくつかの限界がある.第一に30 mm以上の大きさの腫瘍を研究対象から除外した.本研究開始時にわれわれは,より大きな腫瘍の深部観察は困難である可能性を懸念しており,研究に組み入れる腫瘍の大きさを統一した(≦30mm).第二に,TIC解析は,ブラインドリーディング時の観察時間(早期相・後期相)を標準化するためピーク時間の特定にのみ使用し,読影者には各画像のピークの時間を通知した.したがってそれぞれの読影者は同じタイミングで早期・後期相の画像を読影することができた.第三に,EUS-FNAの穿刺回数,針の種類は統一していない.第四に膵癌の診断におけるCH-EUSの精度は予想より低かった.その理由としては,膵癌の定義を厳密にして,画像を客観的に評価したことが原因の一つである.既報では,造影剤注入後,いつ読影を行うべきかという定義がなかった 2.また,多施設共同研究であり,各施設の画像を異なる施設の3人の読影医が評価したことも理由として考えられる.より厳格なプロトコルを用いて得られた本研究の結果は,これらの画像診断法の真の診断能力を反映している可能性がある.

結論として,CH-EUSにおける後期相hypoenhancementパターンは,膵癌の診断において最も診断能の高い所見であった.TH-EUSと比較してCH-EUSは,膵癌の診断能と読影の再現性を向上させた.

謝 辞

本研究は,公益財団法人内視鏡振興会より助成を受けている.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:M.K.とA.K.はDigestive EndoscopyのAssociate Editorである.M.K.はオリンパス株式会社から学会講演の謝礼を受けている.他の著者は,この論文に関する利益相反なし.

補足資料

Table S1 各施設の登録症例数.

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 198-206に掲載された「Tissue harmonic versus contrast-enhanced harmonic endoscopic ultrasonography for the diagnosis of pancreatic tumors: Prospective multicenter study」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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