2022 Volume 64 Issue 10 Pages 2340
【背景】これまで,大腸憩室出血の治療法として内視鏡的バンド結紮術(以下EBL:endoscopic band ligation)とクリッピングの両方の有効性が報告されてきた.しかし,大規模な研究はなく,多施設での長期データについて有効性と安全性を評価した.
【方法】大腸憩室出血に対し2010年1月から2019年12月の間に施行されたEBL群638例とクリッピング群1,041例,合計1,679例のデータが日本の49施設から収集された.多変量解析でアウトカムが評価された.
【結果】ロジスティック回帰分析の結果,EBLはクリッピングに比べ早期再出血(30日以内の再出血)を有意に減少させた(調整odds比0.46;P<0.001).また,後期再出血(1年以内の再出血)も同様に減少させた(調整odds比0.62;P<0.001).初回止血成功率や死亡率は両群で差がなかったが,EBLはinterventional radiology(IVR)での止血を回避でき(調整odds比0.37;P=0.006),1週間以上の入院を有意に減少させた(調整odds比0.35;P<0.001).合併症については憩室炎がEBL後に1名(0.16%),クリッピング後2名(0.19%)で発生し,穿孔がEBL群で2名(0.31%)発生した.
【結論】本大規模コホート研究からEBLは憩室出血に有効で安全な治療であることが示された.EBLはクリッピングと比較して再出血のリスクを短期長期ともに低下させ,IVR治療への移行を要さず,入院期間も短い点で有利であった.
本論文は日本の49施設からデータが収集された大規模なコホート研究で,日常しばしば遭遇する憩室出血の治療法の選択に参考となる論文である.憩室出血は一時的に止血されても再出血がしばしば起こる.とくに高齢者では抗血栓薬の服用により再出血リスクも高いため,確実な初期治療が望まれる.本研究から,EBLはクリッピングに対し再出血予防効果が優れていることが示されており,今後EBLでの初期治療例が増加し,エビデンスが集積されることを期待する.