GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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OPTIMAL HANDLING OF PATHOLOGY SPECIMENS: TIPS FOR ENDOSCOPISTS
Eriko IKEDA Kozue ANDONoriyoshi FUKUSHIMA
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2022 Volume 64 Issue 11 Pages 2353-2363

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要旨

内視鏡診療において,正確な病理診断を行うことは必要不可欠であり,内視鏡医と病理医が協力して診療をしていくことが求められる.内視鏡医は,検体採取や検体処理など,病理診断全体における重要な役割の一端を担っている.“病理”とは,病理診断だけではなく,病理検体の処理から病理診断,病理診断書の解釈までの病理診断に関わるすべてを包括している.“病理”は,内視鏡医が関わる病理検体の処理から既に始まっているのである.そのため,内視鏡医も“病理”についての知識を深めることは,病理診断能の向上に役立つ.今回は,内視鏡医が覚えておくべき病理検体の取り扱い方について概説する.

Abstract

Accurate histopathological diagnosis is important in endoscopic practice. Effective coordination between endoscopists and pathologists is necessary for accurate results. Endoscopists play an important role in histopathological diagnosis, including in specimen collection and processing. Therefore, knowledge of “pathology” is essential to improve the diagnostic abilities of endoscopists. In this review, we discuss the key issues that endoscopists should consider regarding the handling of specimens acquired during endoscopic examinations.

Ⅰ はじめに

近年の内視鏡技術の進歩により,内視鏡診断・治療は目覚ましい発展を遂げている.しかし,より適切な内視鏡診断と治療を行うためには,内視鏡で採取された検体の正確な病理診断が必要である.内視鏡医は,検体採取や検体処理など,病理診断全体においても重要な役割の一端を担っている.“病理”とは,病理診断だけではなく,病理検体の処理から病理診断,病理診断書の解釈までの病理診断に関わるすべてを包括している.“病理”は,内視鏡医が関わる病理検体の処理から既に始まっているのである.そのため,内視鏡医も“病理”に関しての知識を身につけることが,病理診断能向上に寄与すると考える.今回は,内視鏡医が覚えておくべき病理検体の取り扱い方について概説する.

Ⅱ 病理診断における各々の役割

1.適切な病理診断をするために

内視鏡医の一部には「検体を提出さえすれば病理医が正確に診断してくれるはず.」と考える人もいるかもしれないが,それはとても“勿体無い”ことである.内視鏡医は,病理診断全体の中で大きな役割を担っている.内視鏡医と病理医がお互いの仕事内容を知り,連携し合うことでより正確な病理診断が可能となる.

また,内視鏡医は病理診断の限界も知っておくべきであろう.例えば,内視鏡で採取された検体は採取可能な検体量や内視鏡手技に伴う挫滅・熱変性(Figure 1-a,b)などの修飾を伴うことがある 1.内視鏡で採取された検体の特性を十分に理解し,得られた検体を最大限診断に活かせるよう,内視鏡医も病理診断能向上のために工夫をこらす必要がある.

Figure 1 

挫滅・熱変性.

a:悪性リンパ腫の胃生検.腺管や核の変形を認める.リンパ腫は挫滅の影響を受けやすい.

b:大腸腺腫に対するEMR検体.組織の断端に焼灼の影響による熱変性が見られる.

2.内視鏡医の役割

第一に適正な検体を提出することである.適正な検体が病理検査室に提出されなければ,正確な病理診断は困難である.内視鏡医が行う検体採取と検体処理が,正確な病理診断ができるかどうかの運命を左右すると言っても過言ではない.そのためには,画像診断や内視鏡診断を前もって十分に行った上で,目的の部位から,良質な検体を採取し適切な検体処理を行うことも必要である.次項以降で内視鏡医が知っておくとよい検体採取・検体処理の具体的な方法を記載する.

第二に病理依頼書を過不足なく記載することを心がけるべきである.内視鏡所見,検体採取位置の内視鏡情報だけでなく,既往歴,治療歴,臨床経過,ステント留置歴の有無など病理診断に必要な臨床情報を記載しておく.その上で内視鏡医が考える鑑別疾患を順位付けし列挙しておくのが望ましい.病理依頼書は内視鏡医と病理医を繋ぐ唯一のツールである.内視鏡医の求めることが病理医に伝わるように端的に明記することが大切である.

第三に病理診断がなされた後に,診断書を確認し,臨床情報を加味して最終的な診断を行うのも内視鏡医の役割である.想定されていない結果であった場合は,内視鏡所見の見直しや病理医への問い合わせを検討して欲しい.病理診断書の見方のポイントはⅦに記載する.

3.病理医の役割

病理医は,病理依頼書に記載された診療情報を参考にしつつ,病理診断を行う.病理標本作製の工程は検査技師が行うが,切除検体の切り出しは病理医が行うことが一般的である.想定外の悪性所見を認めた場合や内視鏡医が鑑別に含めていない疾患の所見であった場合は,病理診断書に記載するだけでなく,直接内視鏡医に連絡することもある.

内視鏡で採取される検体は,手術検体と比較すると小さな検体であり,病理診断時の病理医にかかるストレスも大きい.病理医は,その数mm程度の微小な検体で何とか診断に辿り着けるよう,深切りや免疫組織化学的な検索も駆使しながら病理診断を行っている.これらのことを知っておくと,病理医とのコミュニケーションに役立つだろう.

Ⅲ 病理診断の流れ

1.組織検体

検体は速やかに10%もしくは15%中性緩衝ホルマリン固定液で固定する.ホルマリンの固定時間は小さい検体であれば12~24時間,切除検体であれば24~72時間を目安としている.免疫組織化学的な検索やゲノム解析を考慮し,ホルマリン過固定とならないように留意する.

ホルマリン固定後には,切除検体は検体の肉眼所見を観察した上で切り出しを行う.内視鏡医が切り出しに立ち会い,どの位置で割面を作製するかどうかを病理医と相談することもある.切り出した検体や生検検体をカセットに詰めた後は,組織の脱水処理,パラフィン浸透,パラフィン包埋,薄切,染色,封入の工程を経て,病理組織標本が完成する(Figure 2-a~c 2.施設の体制にもよるが,生検検体であれば,1日~数日で病理組織標本ができる.詳しくは病理検査室に直接出向いてみるか,成書を参考にされたい.

Figure 2 

組織検体標本作製の流れ.

a:入割したESDの切片をカセットに移行.

b:ESDの切片のパラフィン包埋.細長い切片は倒れないように慎重に作製する.

c:生検検体の薄切.ミクロトーム(滑走台)でパラフィンブロックの表面を4μm程度に薄くスライスする.

2.細胞診検体

細胞診検体は,液状検体として提出されることが多い.遠心沈澱法で細胞を収集した後,沈渣をスライドガラスに塗布し,速やかに95%エタノールで10分以上湿固定する.細胞の塗布は引きガラス法が一般的であるが,フィルター法や自動遠心塗抹法など様々な方法がある(Figure 3-a,b).リンパ腫などの造血系疾患が疑われる場合には,ギムザ染色用の乾燥固定標本も作製するため,造血系疾患を疑う場合には病理依頼書に記載しておく必要がある.

Figure 3 

細胞診検体の標本作製の流れ.

a:胆汁・膵液は自己融解を防ぐために氷の容器に入れて速やかに病理検査室に提出する.

b:引きガラス法.

細胞診検体の染色方法は,一般的にはパパニコロウ染色を用いる.症例によって過ヨウ素酸シッフ染色(PAS染色)やギムザ染色も追加して検討する.

病理診断過程において組織検体と異なる点は,細胞診の診断では細胞検査士によるスクリーニング結果を基に,病理医が診断する点である.細胞検査士は細胞診に精通しているため,細胞診に関しては病理医のみならず細胞検査士に相談するのもよい手である.

Ⅳ 病理診断しやすい検体採取のコツ

1.消化管生検のコツ

消化管の生検検体では,粘膜筋板まで採取できている検体かどうかがポイントである.粘膜筋板まで採取できている検体は,消化管粘膜の全層の観察が可能となる(Figure 4-a,b).特に胃生検の場合は,粘膜全層の観察ができれば胃腺の種類に基づき,検体の採取場所や胃腺の萎縮具合もある程度予測することが可能になる.ただし,腫瘍性病変においては,上皮の良悪性判断が目的であれば,必ずしも粘膜筋板まで採取する必要はない.

Figure 4 

胃生検のルーペ像.

a:粘膜筋板(ピンク)を含む胃生検.

b:粘膜筋板を含まない胃生検.

挫滅のない良質な検体採取のためには,生検鉗子をスコープから少し出した状態で,生検鉗子を病変に対して垂直な角度になるように病変に近づけ,病変に押し付けるように生検鉗子を閉じるとよい 3.特に食道では,病変を正面視することが難しいため,スコープを使いこなす必要がある.

また,想定する疾患によって検体を採取すべき適切な部位が異なる.腫瘍であれば,浮腫や潰瘍の部位ではなく,腫瘍が表面に露出している部位を狙う必要がある 4),5.疾患毎の検体採取推奨部位は成書を参考にして頂きたい.その他の方法として,病変全体を視認できる外科切除標本を見慣れておくことで,内視鏡生検のイメージトレーニングをすることも有用である.

2.胆管生検のコツ

胆管・膵管生検の一番の問題は,透視下で盲目的に生検を行うことであろう.そのため,胆管生検の感度は48.1~67.0%に留まり,病理診断に苦慮することが多いと報告されている 6),7.直視で病変を観察しながら採取する方法として,経口胆道鏡を用いて狙撃生検を行う方法もある.経口胆道鏡を併用した胆管生検では,意図した部位の生検が採取できるため,感度は68.2~76.5%と改善はする報告はあるものの 8),9,経口胆道鏡で使用できる生検鉗子のカップの大きさは1mmと非常に小さいことが問題である.また,コストや設備の問題からはすべての症例で経口胆道鏡を導入することは困難であろう.

透視下生検では,スコープの位置を調整しながら,目的の胆管枝に生検鉗子を誘導し,胆管壁に生検鉗子を押し当てながら緩徐に閉じていくとよい.他にも生検鉗子の種類を工夫する方法やスコープの操作方法の工夫が報告されている 10

また,胆管の陰性生検を行う際には,腫瘍のコンタミネーションも懸念される.その対策として,陰性と想定される位置から採取していく方法やダイレーターカテーテルや胆管プラスチックステントのプッシャーなどをシースーとして用いて,シースー内に生検鉗子を入れて目的の胆管枝まで生検鉗子を誘導させる方法などの報告がある 11)~14.シースー生検は胆管穿孔や内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)後膵炎のリスクも軽減できると報告されている 10

3.EUS-FNA検体のコツ

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)の検体に関しては,穿刺針の改良で以前と比較して多くの検体量を採取することが可能となった.さらなる穿刺方法の工夫として,ドアをノックするように穿刺針のハンドルを素早く叩きつけるdoor-knocking法 15や腫瘍内を均一に穿刺できるように穿刺の方向を変えながら穿刺するFanning法 16などが報告されている.穿刺針は22Gが使用されることが多いが,検体の種類や穿刺部位によっては19Gや25Gの穿刺針を使用する場合もある.

穿刺の際には,一般的には10~20mlのシリンジで吸引圧をかけて穿刺するが,血液が多く採取されてしまう問題がある.そのために,腫瘍の性状に応じて吸引圧を調整する方法として,陰圧をかけないwithout style法 17やスタイレットをゆっくり引きながら弱い陰圧をかけるslow-pull法 18,穿刺針内腔を生食で満たしてから陰圧をかけるwet-suction法 19など様々な手技の報告がある.EUS-FNAの手技の統一化はされていないのが現状であるが,検体の採取状況に応じて,いくつかの穿刺方法を試してみるとよい.

また,穿刺後速やかに細胞検査士に検体が採取できているか否かを判断してもらう迅速細胞診(Rapid on-site examination:ROSE)を行うことも十分な検体量の採取や病理診断率向上に寄与する 20.ROSEは細胞検査士とのコミュニケーションツールともなり得るため非常に有用な方法であるが,細胞検査士の負担や検査時間の延長による患者負担の問題もある.従って,ROSEの導入には病理医,細胞検査士,内視鏡医が十分に相談する必要がある.

4.胆汁・膵液細胞診検体のコツ

内視鏡医が提出する細胞診は,ERCPや内視鏡的経鼻胆道ドレナージチューブ・内視鏡的経鼻膵管ドレナージチューブから採取される胆汁・膵液細胞診,ブラシ細胞診,EUS-FNA時に採取される穿刺吸引細胞検体など様々である.

特に膵液は消化酵素を含んでおり,細胞の変性が生じやすい.長期間放置された検体の提出を避け,検体採取後は直ちに氷で冷却し,速やかに病理検査室へ提出することが推奨される.

内視鏡的経鼻胆道ドレナージチューブや内視鏡的経鼻膵管ドレナージチューブの長期間留置の刺激による胆管・膵管上皮の変性が生じることもあるので留意が必要である.留置後早期(可能ならば3日以内)に細胞診を提出することを心がける.長期留置後に細胞診を提出する場合は,長期留置中のチューブから採取された検体であることを病理依頼書に記載しておく.

細胞量が多い方が診断に適しているが,特に膵液は少量しか採取できない場合もある.十分な細胞量を採取するために,ERCP施行時にダブルルーメンカテーテルと生理食塩水を用いた洗浄膵液細胞診やブラシ細胞診を併用することもある.

Ⅴ 病理検体の取り扱い

1.生検検体

1)生検検体の検体処理

生検検体は,微小検体のため紛失しないよう,検体を濾紙などに付着させて速やかにホルマリンの瓶に入れる.

2)生検検体の標本作製

採取された検体は網目の細かいカセットにそのまま詰める.パラフィン包埋の際に微小検体が判別しやすいように墨汁やヘマトキシリンで色をつける 1など工夫する(Figure 5).

Figure 5 

生検検体の標本作製の工夫.

消化管生検検体.微小検体を判別しやすくするようにヘマトキシリン液で目印をつける.

2.ポリープ切除検体

1)ポリープ切除検体の検体処理

コールドスネアポリペクトミー(Cold Snare Polypectomy:CSP)などの小さい検体で,内視鏡の吸引孔から吸引して検体を回収する場合は,ポリープを回収するキットを使用し検体を回収する.吸引孔を通過するため,検体が損傷して離断することもあるが,可能な限りすべての検体を回収してホルマリンの瓶に入れる.

内視鏡的粘膜切除術(EMR)などのある程度の大きさがある検体であれば,検体を引き伸ばしてピンで固定板に固定する.

2)ポリープ切除検体の標本作製

検体の大きさに合わせて分割しカセットに詰める.検体は丸まりやすいため,鑷子で抑えながら,ポリープの茎を通るように割を入れる.すべての面が表出しているかどうか,プレパラート標本で確認し,表出していない場合は,パラフィン包埋からやり直してプレパラート標本を再作製する.

3.ESD検体

1)ESD検体の検体処理

切除した病変を損傷しないように非腫瘍部分を把持したり,回収ネットを使用したりして内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)検体を回収する 5.回収後は,検体の断端を巻き込まないように留意しつつ,なるべく生理的な大きさに引き伸ばして固定板にピン固定する.粘膜は薄いため,強い力で引き伸ばすと切れてしまうので愛護的に扱う.ピンを刺した部位は小さな組織欠損となるため,ピンは病変を避けて刺すとよい.また,オリエンテーションがつきやすいように口側にダブルピンなどのマーキングをするとよい(Figure 6-a).

Figure 6 

ESD.

a:ESD検体のピン固定の1例.口側にダブルピンをつけ,オリエンテーションをわかりやすくする.

b:切り出し図の記載例.本症例は側方断端は偽の断端が割面になるように標本を作製した.

2)ESD検体の標本作製

治療の検体は,入割の前後で検体の写真を撮影する.切り出しの際は,標本や病変の大きさ,肉眼所見を記載した後に2,3mm間隔で入割する.切片をどの方向の面で標本にするかを切り出し図に記載しておくと,側方断端が真の断端で作製したか偽の断端で作製したか判断できる(Figure 6-b).

ESDを切り出した切片は非常に薄く,且つ細長い.カセットに詰める際に,切片が倒れないようスポンジで固定することも標本作製のコツである.

4.EP検体

1)EP検体の検体処理

内視鏡的乳頭切除術(Endoscopic Papillectomies:EP)検体も自然に近い大きさに引き伸ばして固定板にピン固定する.オリエンテーションがつきやすいように,口側にダブルピンなどでマーキングをしたり,胆管もしくは膵管にプラスチックカニューレ型滅菌済み穿刺針を貫通させたりすることもある(Figure 7-a,b).また,検体をピン固定する際,少し検体を浮き気味に緩く固定すると垂直断端の挫滅や変形の予防になる.

Figure 7 

EP.

a:EP検体のピン固定の1例.

b:胆管もしくは膵管にプラスチックカニューレ型滅菌済み穿刺針を貫通させて固定した1例.

c:切り出し図の1例.共通管の部位で観音開きになるように標本を作製した.

d:切片3の肉眼像.共通管(黄色矢印)が観察される.

2)EP検体の標本作製

胆管・膵管の開口部から入割し,共通管が標本内で観察できるような割面を作製する.共通管の観察が十分に評価できるよう共通管で観音開きになるように割面を作製することもある(Figure 7-c,d 21.胆管もしくは膵管にプラスチックカニューレ型滅菌済み穿刺針が挿入されている場合は,プラスチックカニューレ型滅菌済み穿刺針に沿って入割する.その他はESDの検体と同様に標本を作製する.

5.EUS-FNA検体

1)EUS-FNA検体の検体処理

スタイレットで採取した検体をプレパラートの上に押し出すと,血液と紐状の検体が確認できる.検体確認後は速やかに,紐状の検体を鉗子や注射針を用いてホルマリン容器の中に入れる.残った血液や微小な組織は,プレパラート2枚をすり合わせて95%エタノール容器に入れて細胞診用検体とする.この時に細胞診検体が放置され,乾燥してしまうこともあるため,速やかに95%エタノール容器に入れることを忘れないように注意する.また,スタイレットの内部にも組織が残存していることもあるため,生理食塩水で洗浄し,洗浄細胞診としても提出する.

紐状の検体は,赤い部分と白い部分が混在している.赤い部分は主に血液,白い検体は線維性組織などの検体が採取されている.血液内にも小さな検体が浮遊していることもあるが,主に白い部分が採取したい標的の組織であることが多く,白い部分が採取できているかどうか確認することが重要である 22.紐状検体はそのままホルマリン瓶に入れて固定する方法や赤い部分と白い部分に分けて提出する方法がある(Figure 8-a,b).

Figure 8 

EUS-FNA.

a:紐状の検体をホルマリン液に素早く漬ける.赤検体と白検体を鑷子や注射針を用いて分離させる.

b:EUS-FNAによって得られた組織診(赤検体・白検体),洗浄細胞診,細胞診.

c:赤検体のルーペ像.主に血液で構成され,一部で浮遊する膵組織を認める.

d:白検体のルーペ像.膵組織が主体である.血液が少なく,観察しやすい.

なお,リンパ腫などの造血器疾患を鑑別に含める場合は,組織の一部をフローサイトメトリー分析などの検査に提出する.フローサイトメトリー分析のためには,ホルマリン未固定の状態のまま,生理食塩水を湿らせたガーゼで覆うなどして乾燥をさせないようにして検査室に提出する必要があるので留意する.

2)EUS-FNA検体の標本作製

採取された検体は網目の小さなカセットに詰める.特に紐状のままホルマリン固定した場合は,検体は塊状になっているため,検体を薄く満遍なく広げながらカセットに詰める.しかし,処理の過程で形状が崩れてしまうことも多いため,パラフィン包埋の際に再度検体の薄切面が広くなるように伸展させることが標本作製のコツである.どうしても重なりが強く検体の一部しか観察できない場合は,深切り標本を作製して検討することもある.一方で,赤い部分と白い部分に分けて提出した場合は検体が重なることも少なく,診断ストレスの少ないプレパラート標本が作製できることも多い(Figure 8-c,d).

なお,EUS-FNA検体は,「組織標本のみ作製」,「細胞診と組織診を併用」「細胞診のセルブロック標本を作製」など,施設によって様々な処理がされており,統一されていない.いずれの方法も一長一短があり,お互いを補完しながら病理診断をしていくのがよいだろう.

6.胆汁・膵液細胞診

1)胆汁・膵液細胞診検体の検体処理

良質な細胞診検体作製の方法は,検体採取後は直ちに氷で冷却すること,速やかに病理検査室に提出することの2点につきる.特に膵液を採取する前には,氷を入れたカップを用意した上で採取に出向くとよい.病理検査室で速やかに検体処理(詳細はⅢ−2参照)する必要があるため,細胞検査士が勤務している時間帯に採取・提出することを推奨する.

2)胆汁・膵液細胞診検体の標本作製

胆汁・膵液細胞診検体の標本作製に関してはⅢ−2を参照されたい.

Ⅵ がんゲノム医療と病理

がんゲノム医療の重要性が増してきており,がんゲノム医療に対応可能な品質管理を行った病理組織標本の作製が必要となる.ゲノム診療用病理組織検体取り扱い規約では,10%中性緩衝ホルマリン液に6~48時間固定する体制を推奨している 23),24.概ね対応できている施設が多いが 25,連休前に採取された検体などはホルマリン過固定になってしまうため,連休前の検体採取は避けるなどの対応が必要であろう.

がん遺伝子パネル検査などの検索には多くの検体が必要になるが,生検検体やEUS-FNA検体は微小である.さらに,膵癌組織は間質成分の多い腫瘍であり,腫瘍細胞成分の含有率が低く,他の消化器癌と比較してもがん遺伝子パネル検査の解析成功率が低いという報告もある 26.今後は,がんゲノム医療に対応した検体採取量が求められる可能性もある.

Ⅶ 病理診断書の見方・フィードバック

当然のことではあるが,採取した検体の病理診断書は必ず確認する.“Adenocarcinoma”などの診断名や断端の結果など,冒頭に記載された必要最低限の箇所のみしか確認しない内視鏡医もいるだろうが,病理診断書全体も一読して欲しい.病理診断にも白黒つかない病変や診断に難渋する症例は多く存在し,その病理医の思考過程が病理診断書に記載されている.それらを含めた病理診断結果を参考にして,診断・治療を進めていくとより病理診断を臨床に活かすことができる.内視鏡医にとって内視鏡所見や臨床情報での鑑別疾患を基盤とするべきで,生検結果はあくまでも“補助診断”である.病理結果を安易に“確定診断”と考えるべきではない.

また,想定していない結果であった場合には,画像所見の見直しや病理医と議論をすることも推奨する.定期的に病理カンファレンスを開催し,内視鏡医・病理医で症例検討することも重要である.

Ⅷ おわりに

内視鏡医は検体採取や処理など,病理診断における重要な役割も果たしており,内視鏡医が適切に病理検体を取り扱うことが求められる.適切な病理検体の取り扱い方を習得するためには,まずは自らが採取・処理をした検体がどのような標本になっているか確認してみるとよい.「百聞は一見にしかず」である.ぜひ病理検査室に足を運ぶことをお勧めしたい.そして,内視鏡医と病理医が密なコミュニケーションを取り合い,協力しながらより良い内視鏡診療・病理診断を目指していくべきだと考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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