GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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REBLEEDING IN PATIENTS WITH DELAYED BLEEDING AFTER ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION FOR EARLY GASTRIC CANCER
Minami HASHIMOTOWaku HATTAYosuke TSUJIToshiyuki YOSHIOYohei YABUUCHIShu HOTEYAHisashi DOYAMAYasuaki NAGAMITakuto HIKICHI Masakuni KOBAYASHIYoshinori MORITATetsuya SUMIYOSHIMikitaka IGUCHIHideomi TOMIDATakuya INOUETatsuya MIKAMIKenkei HASATANIJun NISHIKAWATomoaki MATSUMURAHiroko NEBIKIDai NAKAMATSUKen OHNITAHaruhisa SUZUKIHiroya UEYAMAYoshito HAYASHIMitsushige SUGIMOTOMitsuhiro FUJISHIROAtsushi MASAMUNEHiromasa OHIRA
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2022 Volume 64 Issue 11 Pages 2421-2433

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要旨

【目的】早期胃癌に対するESDにおいて,術後出血は主要な有害事象である.術後出血の止血後,再出血を経験する患者もいるが,その詳細は不明である.われわれは,再出血の頻度とリスク因子を明らかにすることを目的とした.

【方法】2013年から2016年に日本国内33施設で早期胃癌に対するESDを施行された患者11,452症例のうち,術後出血を来した489症例について解析した.まず再出血の頻度を調査した.その後,15の共変量について,ロジスティック回帰分析により再出血のリスクへの影響を評価した.

【結果】再出血は解析患者の11.2%(55/489)で認められた.多変量解析では,ワルファリン[オッズ比(OR),2.71;95%信頼区間(CI),1.26-5.84]と40mmを超える切除標本径(OR,1.99;95%CI,1.08-3.67)が再出血の独立したリスク因子であった.初回術後出血後のワルファリンの対応別の解析では,ワルファリン非服用者と比較して,ワルファリン休薬(OR,3.66;95%CI,1.37-9.78)のみが再出血と有意に関連していた.しかし,再出血の多く(75.0%)が,ワルファリン再開後に発生していた.また,再出血率は,ワルファリン休薬時が6.1%,ワルファリン服用時(継続または再開時)が20.0%であった.

【結論】早期胃癌に対するESD後に術後出血を来した患者において,再出血は稀ではなかった.切除標本径が40mmを超えた場合,および,ワルファリンが再出血のリスク因子であり,特にワルファリンを休薬した症例で再開後の時期が,ワルファリン服用を継続した症例と同様に高リスクであった.

Abstract

Objectives: Delayed bleeding is a major adverse event in endoscopic submucosal dissection (ESD) for early gastric cancer (EGC). Some patients may experience rebleeding after successful hemostasis for delayed bleeding, yet the details of rebleeding remain unclear. We aimed to clarify the frequency and risk factors of rebleeding.

Methods: Among 11,452 patients who underwent ESD for EGC at 33 institutions in Japan between 2013 and 2016, we analyzed 489 patients showing delayed bleeding. The rate of rebleeding was investigated. Subsequently, 15 candidate variables were evaluated for their influence on the risk of rebleeding via logistic regression analysis.

Results: Rebleeding occurred in 11.2% (55/489) of the enrolled patients. Multivariate analysis revealed that warfarin [odds ratio (OR), 2.71; 95% confidence interval (CI), 1.26-5.84] and a resection size >40 mm (OR, 1.99; 95% CI, 1.08-3.67) were independent risk factors for rebleeding. In the analysis of themanagement of warfarin after index bleeding, only warfarin discontinuation (OR, 3.66; 95% CI, 1.37-9.78) was significantly associated with rebleeding in comparison with no use of warfarin. However, many rebleeding events (75.0%) occurred following the resumption of warfarin. The rebleeding rate during discontinuation status and that in taking warfarin (continuation or resumption) were 6.1% and 20.0%, respectively.

Conclusions: Rebleeding was not a rare event in patients experiencing delayed bleeding after ESD for EGC. In addition to having a resection size >40mm, warfarin usage placed patients at high risk for rebleeding, especially at the timing of its resumption following discontinuation as well as its continuation.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,リンパ節転移頻度が低い早期胃癌に対する低侵襲な治療として確立され,特に東アジア諸国において広く行われている 1)~3.しかし,穿孔や肺炎などの有害事象が発生する可能性がある 4),5.特に術後出血は早期胃癌に対するESDにおいて主要な有害事象で,近年のシステマティックレビューでの発生率は5.1%と報告されている 6.術後出血のリスク因子として,抗血栓薬,ヘパリン置換,血液透析などが報告されている 7)~10.実臨床では術後出血に対する止血が成功した後にも再出血を来す症例も経験する.しかし,この再出血に焦点を当てた報告はない.したがって,ESD術後の再出血の頻度,時期,リスク因子などの詳細は不明である.ESDの術後出血に関するこれまでの報告の多くは,比較的少数の症例による単一施設での研究であり,早期胃癌ESD後の再出血という稀な有害事象を評価することは困難であった.

近年,われわれは早期胃癌ESDの術後出血に関する全国多施設共同後方視的研究を行い,ESDの術後出血予測モデル(BEST-Jスコア)を開発・検証した 11.この研究では,開発・検証コホートを合わせ1万人以上の患者を対象としており,ESD後の再出血を評価できる可能性がある.本研究では,早期胃癌ESD後に術後出血を来した患者における再出血の頻度,時期,リスク因子を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ 方  法

対象

2013年11月から2016年10月までに国内33施設で早期胃癌に対してESDを施行した患者のうち,(1)ESDが完遂できなかった症例,(2)ESD後の経過観察期間が28日未満の症例,(3)ESD後の潰瘍を縫縮した,またはポリグリコール酸シートやフィブリン糊で被覆した症例,(4)患者の拒否により臨床データが得られなかった症例,(5)ESD後に光線力学的治療を行った症例,(6)病理学的に固有筋層以深への浸潤が認められた症例,(7)残胃にESDが行われた症例,を除外した後,ESD後の術後出血を認めた症例を抽出した(Figure 1).

Figure 1 

フローチャート.

ESD,内視鏡的粘膜下層剝離術.

本研究はヘルシンキ宣言のガイドラインに従って実施し,症例集積前に各施設の倫理委員会の承認を得た.また,ESDに先立ち,すべての患者から書面にてESDのインフォームドコンセントを得た.本研究のインフォームドコンセントの必要性は,各施設のウェブサイト上のオプトアウトにより免除された.

ESD,経過観察,病理学的評価

ESDの手技は,先行研究の論文に記載されている通りである 11.術後出血を防ぐため,病変切除後に電気凝固やクリッピングが行われた.ESD施行中および施行後に,プロトンポンプ阻害薬,カリウムイオン競合型アシッドブロッカー,ヒスタミンH2受容体拮抗薬が投与された.術後出血および再出血に対しては,出血点を確認した上で電気凝固,クリッピング,高張ナトリウムエピネフリン液の局注,またはそれらの併用が行われた.抗血栓薬服用患者においては,ESD前の抗血栓薬継続・休薬の判断,および休薬のタイミングやヘパリン置換について,2012年に本邦で刊行されたガイドライン 12に基づき対応された.また,術後出血後の抗血栓薬の管理における標準的な基準がないため,初回の術後出血後の抗血栓薬の継続・休薬,および休薬後の再開時期に関しては,各臨床医の判断に委ねられた.

定義

術後出血は,先行研究 13と同様に,ESD後28日以内に緊急内視鏡で確認され,かつ臨床症状(吐血,下血,あるいはその患者の直近のデータから2g/dL以上のヘモグロビンの低下)を伴う出血と定義した.さらに,再出血は,先行研究 7に従い早期再出血と後期再出血に分類した.早期再出血は初回術後出血後5日以内の出血,後期再出血は初回術後出血後6日以上経過後の出血とした.

また,術者の技量を評価するため,過去の報告 14),15に従い,ESD経験症例によって術者を初学者(50例未満)と熟練者(50例以上)に分類した.さらに,各施設をESD症例数ごとに大規模施設(年間ESD実施100例以上),中規模施設(50例以上100例未満),小規模施設(50例未満)に分類した.

評価項目

まず,早期胃癌ESD後に術後出血を来した患者を対象に,再出血の頻度と時期を調査した.次に,再出血に関連する因子を評価した.本研究では,早期胃癌ESDの術後出血に関する既報に基づいて,併存疾患[虚血性心疾患,肝硬変,血液透析を伴う慢性腎臓病],抗血栓薬[アスピリン,P2Y12受容体拮抗薬,シロスタゾール,ワルファリン,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)],切除関連因子(複数回切除,切除標本径が40mmを超える),および病変因子[局在胃下部(L),未分化型,深達度SM2(浸潤距離が粘膜筋板から500μm以上),潰瘍]が,再出血リスクに影響を与える可能性のある因子として選択された 6),16),17.内視鏡的な胃粘膜萎縮は,木村・竹本分類に従い評価された 18.さらに,早期および後期再出血を来した症例の臨床的特徴を比較した.再出血と術者の技量(初学者/熟練者)や施設規模などの技術的要因との関連も評価した.

統計解析手法

連続変数は中央値と25-75パーセンタイル(P25-P75)で示され,カテゴリー変数は数値と割合で示された.連続変数とカテゴリー変数は,Mann-Whitney U検定,カイ二乗検定,必要に応じてFisher正確確率検定を用いて比較した.ESD術後出血症例における再出血に関連する因子を特定するために,ロジスティック回帰モデルを使用した.多変量解析では,年齢,性別に加え,単変量解析で評価したすべての因子でオッズ比(OR)を調整した.p<0.05で統計的に有意とみなした.これらの解析には,SPSSソフトウェア(version 25.0 for Windows;IBM Corp., Armonk, NY, USA)が用いられた.

Ⅲ 結  果

患者背景

早期胃癌に対してESDを施行した患者11,452症例のうち,術後出血を来した489症例を解析した(Figure 1).出血点が確認された467症例は,内視鏡的止血術が施行された.再出血を認めた症例と認めなかった症例の患者背景をTable 1に示した.

Table 1 

患者背景.

再出血は,術後出血症例の11.2%(55/489)で発生した.初回術後出血と再出血の両者の出血点が特定できた45症例のうち,15症例は同じ出血点からの出血であったが,残りの30症例は出血点が異なっていた.再出血発生時期のピークは初回術後出血の1日後であったが(Figure 2),再出血発生時期の中央値(P25-P75)は初回術後出血から4日後(1-8日)であった.早期および後期の再出血の臨床的特徴をTable S1(電子付録)に示す.

Figure 2 

早期胃癌ESD症例における初回術後出血から再出血までの日数.

再出血までの中央値(P25-P75)は,初回術後出血から4(1-8)日後であった.

再出血を生じた症例の18.2%に相当する10症例で,早期胃癌ESD後に3回以上の術後出血を来した.これらの症例における最大切除標本径の中央値(P25-P75)は53(44-62)mmで,80.0%(8/10)の症例で切除標本径が40mmを超えていた(Table 2).

Table 2 

早期胃癌ESD後に3回以上の術後出血を来した症例.

術後出血後に,2例で脳梗塞を発症した.1例はワルファリン休薬中の発症,もう1例はワルファリン服用患者でヘパリン置換中の発症であった.しかし,再出血後の血栓塞栓症は認めなかった.

ESD術後出血症例における再出血に関連する因子

単変量解析では,虚血性心疾患とワルファリンが再出血と有意に関連していた(Table 3).多変量解析では,早期胃癌ESD術後出血症例における再出血の独立したリスク因子として,ワルファリン[OR,2.71;95%信頼区間(CI),1.26-5.84]および切除標本径>40mm(OR,1.99;95%CI,1.08-3.67) が抽出された(Table 3).P2Y12受容体拮抗薬(OR,2.16;95% CI,0.97-4.85)は再出血と関連する傾向があったが,統計的有意差はなかった(p=0.061).2種類の抗血栓薬を服用している症例の再出血率をTable S2-A(電子付録)に示したが,各抗血栓薬の組み合わせで交互作用は認められず(Table S2-B(電子付録)),この結果はこれらの薬剤の相乗的な再出血リスク増悪作用はないことを意味している.

Table 3 

早期胃癌ESD症例における再出血に関連する因子の検討.

再出血とワルファリンの服用状況との関連

われわれはさらに,再出血と初回術後出血後のワルファリンの対応との関連を,休薬,継続,ヘパリン置換に層別化し評価した.この解析では,出血前のワルファリンの服用状況にかかわらず,初回術後出血後にヘパリン投与を行った症例をヘパリン置換症例とみなした.この結果,ワルファリン休薬(OR,3.66;95% CI,1.37-9.78)のみが,ワルファリン非服用症例と比較して再出血と有意に関連していた(Table 4).ワルファリン継続も高いOR(3.65)を示したが,症例数が少ない(n=10)ため,統計学的に有意ではなかった(p=0.147).

Table 4 

初回術後出血後のワルファリン服用状況別の再出血リスク.

続いて,初回術後出血後のワルファリンの詳細な服用状況を評価した.初回術後出血後にワルファリンを休薬した患者のうち,休薬状態での再出血は2例のみであり,残りの6例では服用再開後に再出血が認められた.ワルファリン休薬中の再出血率は6.1%(2/33),服用中(再開後または継続時)の再出血率は20.0%(8/40)であった(Figure 3).ワルファリン服用再開例の再出血率は20.0%(2/10),継続時の再出血率は20.0%(6/30)であった.この傾向は,初回術後出血後にヘパリン置換を行った症例においても認められた(Figure 3).

Figure 3 

初回術後出血後のワルファリン服用状況ごとの再出血の有無.

ESD,内視鏡的粘膜下層剝離術.

ワルファリン再開後から再出血までの期間の中央値(P25-P75)は4(3-11)日であり,初回術後出血後からワルファリン再開までの期間は再出血群と非再出血群で有意差を認めなかった(中央値,2.5日vs. 3日,p=0.428).現在の服用状況にかかわらず,ワルファリン服用症例の再出血時のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)の中央値(P25-P75)は1.27(1.06-1.87)だったが,2例では初回術後出血後にビタミンKの補充を受けていた.

技術的側面

再出血率は初学者と熟練者の間で有意差はなかったが(10.3% vs 12.1%,p=0.568),初学者が施行した症例の多くは熟練者の監督下で行われた.再出血を早期再出血に限定した場合も同様の傾向を示した(6.7% vs. 7.5%;p=0.861).また,大規模施設,中規模施設,小規模施設の再出血率はそれぞれ14.3%,8.6%,12.3%であり,その差は有意ではなかった(p=0.413)(Table S3(電子付録)).さらに,ESDの手技時間(60分を超える/60分以下),リスク因子(ワルファリンの有無,切除標本径40mmを超える),術者の技量(初学者/熟練者)で層別し,再出血と施設規模との関連を検討したが,有意差は認めなかった(Table S3(電子付録)).

Ⅳ 考  察

術後出血は,早期胃癌に対するESD後に生じる有害事象のうち最も頻度の高いものの1つである 19),20.実臨床では,術後出血を来した症例の一部で再出血を認めるが,症例数が少ないためかそこに焦点を当てた研究はない.そこでわれわれは,多数の症例における再出血の詳細を解明するために,今回の全国多施設共同研究における検討を行った.

本検討では,早期胃癌に対するESD後の再出血の頻度と時期,および関連するリスク因子に関して,臨床的に重要な知見がいくつか得られた.第1に,再出血は,早期胃癌でESDを施行された症例のうち,わずか0.5%(55/10,320)に発生する稀な有害事象ということである.一方で,術後出血症例において,再出血の頻度は11.2%(55/489)と稀な事象ではないことが明らかになった.さらに,再出血を来した症例のうち,18.2%(10/55)で複数回の出血が繰り返し生じていた.早期胃癌ESD症例の術後出血率は4.1-8.5%と報告されているが 7),11),17),19),21)~23,出血の回数が増えるほど再出血を繰り返すリスクが高くなると考えられた.これらの知見は,早期胃癌のESDにあたる臨床医の一助となる有用な情報である.

次に,早期胃癌ESDの術後出血症例において,ワルファリンの使用は,再出血時点のPT-INRが延長していなかったにもかかわらず(中央値,1.27),再出血のリスク因子の1つであった.抗凝固薬は,胃ESDにおける術後出血のリスク因子の1つである 24.さらに,われわれの先行研究では,抗血小板薬を含む様々な因子の中で,抗凝固薬が最も強い出血のリスク因子であることを示した 11.DOACは再出血のリスク因子でなかった理由は不明だが,ワルファリンの出血作用が強力であるため再出血リスクが高くなった可能性がある.初回術後出血後のワルファリンの対応に関する解析では,予想に反して,ワルファリンの休薬のみが再出血と関連していた.しかし,統計学的有意差はないものの,ワルファリンを継続投与された症例における再出血のオッズ比は3.65と高く,その影響を無視することはできないと考えられた.さらに,初回術後出血後にワルファリンを休薬した症例においては,再出血のタイミング,すなわち,ワルファリン休薬中に再出血したのか,あるいは投与再開後に再出血したのかが重要であると考えた.そこで,初回術後出血後のワルファリン服用状況の詳細をさらに検討したところ,初回術後出血後にワルファリンを休薬した症例では,75%でその再開後に再出血が生じていることが明らかになった.ワルファリン服用状況ごとの再出血の頻度から,ワルファリン使用症例における再出血の多くは,ワルファリンを休薬し再開したタイミング,またはワルファリン服用継続中に発生している可能性が示唆された.

早期胃癌ESD後の再出血予防のため,ワルファリン服用症例はどのように管理すればよいのだろうか.Wittらは,消化管出血症例の検討において,初回の出血を生じてから7日以内にワルファリンを再開した場合,消化管出血の再発率が有意に上昇することを報告した 25.われわれの検討において,ワルファリンの再開までの中央値は初回術後出血から2.5日であったが,初回術後出血後にワルファリンを休薬した1例で,休薬の4日後に血栓塞栓症が発生していた.したがって,早期のワルファリン再開により再出血の発生率が高くなるが,血栓塞栓症のリスクを考慮すると早期再開が必要ではないかと考える.ワルファリンからDOACへの一時的な置換は再出血の予防に有効である可能性がある.実際,再出血に対するDOACのオッズ比は1.41と比較的低かった.しかし,本検討はDOACへの置換を直接評価したものではなく,明確な結論を出すためにはさらなる検討が必要である.

また,早期胃癌ESDの切除標本長径が40mmを超える症例では再出血のリスクが高いことが明らかになった.胃ESDにおける術後出血のリスク因子として,40mmをカットオフとした大きな切除標本径が報告されており 7,本研究ではこの因子を再出血のリスク因子の候補として評価した.消化性潰瘍出血症例を対象とした研究によると,より大きなサイズの潰瘍は再出血のリスク因子の1つであった 26),27.消化性潰瘍とESD後の人工的潰瘍では再出血リスクは多少異なる可能性があるが,消化性潰瘍出血に関するこの知見は,われわれの研究結果を一部支持するものと考えられた.さらに,ESD後に3回以上術後出血した症例の80.0%で切除標本径が40mmを超えていた.したがって,このような症例においては術後出血を繰り返すリスクに注意する必要がある.

本研究の強みは,最大のサンプルサイズを対象としていることである.また,抗血栓薬の種類ごとの検討がなされ,特にワルファリン症例については,初回術後出血後のワルファリン服用状況の評価も含めて,詳細な検討がなされた.

一方,本研究にはいくつかの限界がある.第1に,本研究は後方視的研究であることが挙げられる.第2に,再出血のサンプルサイズが十分ではなく,events per variableが適切なロジスティック回帰分析のために十分とはいえない(≧10) 28ことから,第二種の過誤の可能性がある.第3に,ESD後の管理(例:セカンドルック内視鏡,絶食期間など)が術者・施設ごとの対応であり統一されていない点である.特に,初回術後出血前後のヘパリン置換の期間が統一されていないことが,ヘパリン置換症例における再出血の結果に影響を与えた可能性がある.したがって,ヘパリン置換の結果を解釈する際には注意が必要である.第4に,不完全な止血や予防的止血の方法など,測定できない技術的な要因が再出血のリスクに影響を及ぼしている可能性がある.実際,メタ解析では,セカンドルック内視鏡検査時に予防的止血を行った症例の方が,行わなかった症例よりも術後出血が多いことが明らかになった 29.さらに,他の測定できない要因(例:凝固因子欠乏など)もそのリスクに影響を与えた可能性がある.最後に,複数の病変を有する症例では,切除標本径に相関する病変径などの病変因子が,それぞれの病変において再出血に異なる影響を与えたかもしれない.これらの限界点を克服するためには,良くデザインされた大規模な前向き研究が必要である.

以上より,早期胃癌ESDの術後出血症例では,その後の再出血が稀でないことが示され,ワルファリンと40mmを超える切除標本径が再出血のリスク因子であった.ワルファリン服用症例では,PT-INR値の延長がなくても,ワルファリン休薬後の再開時やワルファリン服用継続中に多くの再出血が生じる可能性がある.

謝 辞

患者登録とデータ収集にご協力いただいた,FIGHT-Japan study groupの以下のご施設の皆様に深く感謝申し上げます.城間翔先生(がん研有明病院),角嶋直美先生,小野裕之先生(静岡県立静岡がんセンター),小田切啓之先生(虎の門病院),松永和大先生,脇田重徳先生(石川県立中央病院),福永周生先生,大南雅揮先生,坂井大志先生(大阪市立大学大学院医学系研究科),三浦裕子先生(東京大学),中村純先生,渡辺晃先生(福島県立医科大学附属病院),有吉隆佑先生(神戸大学医学部附属病院),岡川泰先生,皆川武慶先生,藤井亮爾先生(斗南病院),前北隆雄先生,深津和弘先生(和歌山県立医科大学),日浅陽一先生(愛媛大学大学院医学系研究科),小池智幸先生(東北大学病院),珍田大輔先生,菊池英純先生,立田哲也先生(弘前大学医学部附属病院),五嶋敦史先生(山口大学医学部附属病院),丸岡大介先生,沖元謙一郎先生,明杖直樹先生(千葉大学医学部附属病院),山崎智朗先生,末包剛久先生,安井悠先生(大阪市立総合医療センター),西田勉先生,山本政司先生(市立豊中病院),橋口慶一先生,山口直之先生(長崎大学),赤澤陽一先生,小森寛之先生(順天堂大学医学部),辻井芳樹先生,飯島英樹先生,竹原徹郎先生(大阪大学大学院医学系研究科),村田雅樹先生(滋賀医科大学),山口真二郎先生,太田高志先生(関西労災病院),道田知樹先生(埼玉医科大学総合医療センター,大阪国際がんセンター),高林英日己先生(埼玉医科大学総合医療センター),矢田智之先生,板倉由幸先生(国立国際医療研究センター国府台病院),朝日向良朗先生,北村和哉先生(金沢大学附属病院),奈良坂俊明先生,圷大輔先生(筑波大学附属病院),栗林志行先生,浦岡俊夫先生(群馬大学医学部附属病院),清時秀先生(周東総合病院),間部克裕先生(国立病院機構函館病院).

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:藤城光弘は,武田薬品工業,EAファーマ,日本製薬から講演謝礼を受け取り,本研究外で,HOYAペンタックス,EAファーマ,エーザイ,大鵬薬品,アッヴィ合同会社,日本化薬,中外製薬,Gilead Sciences,杏林製薬,田辺三菱製薬から研究助成を受けていると申告している.正宗淳はEAファーマ,武田薬品工業,第一三共,マイラン製薬から講演謝礼を受け取り,本研究外で,大塚製薬,EAファーマ,Gilead Sciences,旭化成ファーマ,エーザイ,アッヴィ合同会社,武田薬品,第一三共から商業研究資金を受けていると申告している.他の著者は,競合する利害関係を宣言していない.

資金提供:本研究は,公益財団法人内視鏡医学研究振興財団に一部助成を受けた.

補足資料

Table S1 早期再出血症例と後期再出血症例の臨床的な相違点.

DOAC,直接作用型経口抗凝固薬;M,粘膜内;

SM1,浸潤距離が粘膜筋板から500μm未満;

SM2,浸潤距離が粘膜筋板から500μm以上;

ESD,内視鏡的粘膜下層剝離術.

Table S2 複数抗血栓薬服用症例における早期胃癌ESD後の再出血.

A:2種類の抗血栓薬併用時の再出血率.

B:2種類の抗血栓薬の交互作用.

ESD,内視鏡的粘膜下層剝離術;DOAC,直接作用型経口抗凝固薬.

Table S3 施設規模による再出血率.

ESD,内視鏡的粘膜下層剝離術.

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2021)33, 1120-30に掲載された「Rebleeding in patients with delayed bleeding after endoscopic submucosal dissection for early gastric cancer」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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