2022 Volume 64 Issue 12 Pages 2496-2502
右上腹部痛と発熱を主訴として来院した30歳の女性.CT,MRI,上部消化管内視鏡および超音波内視鏡検査の結果,十二指腸重複腸管と診断した.血液・生化学検査と画像検査で悪性所見を認めないため,内視鏡的開窓術を施行した.術後翌日に出血したため,内視鏡的止血術を施行した.術後8日目から経口摂取を開始し,10日目に退院した.病理組織学的検査の結果,囊胞壁は正常十二指腸粘膜に覆われ,筋層を伴っていた.十二指腸内腔側と筋層を共有していたため,十二指腸重複腸管と確定診断した.十二指腸重複腸管は稀な疾患であり,本症のように,術前診断され内視鏡治療が成功した症例は少ないため,文献的考察を加え,報告する.
A 30-year-old woman with epigastric pain and fever was admitted to our hospital. Upper gastrointestinal endoscopy and endoscopic ultrasound revealed an oval cystic tumor. A diagnosis of duodenal duplication was made based on the endoscopic and endosonographic findings. Endoscopic fenestration of the cyst wall was performed on duodenal duplication. Because of the rarity of the disease, only a few cases of duodenal duplication have been reported till date. Herein, we present the details of this case along with a review of literature.
消化管重複症は舌根より肛門に至る全消化管に発生する先天異常であり,小児に多い疾患である.球状あるいは管状の形態を呈し,壁には平滑筋層を有し,内面が消化管粘膜で覆われるという特徴を有する 1).空・回腸に多く,十二指腸に発生することは稀である.また術前診断が困難であり,外科的切除により確定診断が得られることが多い,今回,われわれは術前に診断し,内視鏡治療にて軽快した十二指腸重複腸管の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.
症例:30歳の女性.
主訴:右上腹部痛,発熱.
既往歴:6歳時急性虫垂炎.
現病歴:幼少時から右上腹部痛を繰り返していた.受診前日より右上腹部痛を認め,第0病日,朝より発熱を認めたため,当院を受診した.精査加療目的で入院した.
入院時現症:身長163cm,体重52.4kg,BMI 19.7,血圧92/53mmHg.心拍94回.体温38℃.右上腹部に圧痛を認めた.
入院時血液検査所見:WBC 17,460/μl,RBC 413万/μl,Hb 12.3g/dl,Ht 36.1%,PLT 24.6/μl,TP 6.0Lg/dl,Alb 3.6g/dl,Na 135mEq/l,K 3.6 mEq/l,Cl 104mEq/l,BUN 12mg/dl,CRE 0.7mg/dl,T-Bil 0.6mg/dl,AST 30IU/l,ALT 26mg/dl,LDH 152IU/l,ALP 183IU/l,PAMY 34IU/l,CRP 5.1mg/dl,PT-INR 1.21,APTT 33.8秒,CEA 0.6ng/ml.
腹部CT所見:十二指腸壁の浮腫状変化ならびに十二指腸内腔に均一に造影される10×5cm大の囊胞性病変を認めた.また,左重複腎盂・尿管を認めた(Figure 1-a,b).
CT所見.
十二指腸壁の浮腫状変化ならびに十二指腸内腔に均一に造影される10×5cm大の囊胞様病変を認めた.また,左重複腎盂・尿管を認めた(a,b矢印).
腹部所見および腹部CT所見から感染性囊胞を疑い,絶食・補液・抗菌薬投与を開始した.第3病日には解熱し腹痛も改善し,腹部CTを再度撮影したところ,囊胞の縮小を認めた.上部消化管内視鏡ならびに超音波内視鏡検査を施行した.
上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸下行部から下十二指腸角にかけた十二指腸乳頭側に粘膜下腫瘍様隆起を認めた.表面は正常十二指腸粘膜に覆われ,Cushion sign陽性であった.乳頭開口部は隆起の肛門側に認めた(Figure 2-a,b).
上部消化管内視鏡検査所見.
十二指腸下行部から下十二指腸角にかけた十二指腸乳頭側に粘膜下腫瘍様隆起を認めた.表面は正常十二指腸粘膜に覆われ,Cushion sign陽性であった.乳頭開口部は腫瘍の肛門側に認められた(a,b).
超音波内視鏡検査(EUS)所見:囊胞壁は高エコー層,低エコー層,高エコーの薄い層の3層構造で囲まれ,内部は不均一な低エコーであった.また,囊胞壁ならびに内部に明らかな腫瘍性病変は認めなかった(Figure 3)穿刺吸引したところ緑色透明の漿液性液体を認めた.以上の所見から十二指腸重複腸管を疑い,胆管拡張症ならびに膵囊胞除外目的に磁気共鳴胆管膵管造影(magnetic resonance cholangiopancreatography:MRCP)を施行した.
超音波内視鏡所見.
囊胞壁は高エコー層,低エコー層,高エコーの薄い層の3層構造で囲まれた内部は不均一な低エコーであった.また,囊胞内に明らかな腫瘤性病変は認められなかった(矢印).
MRCP所見:十二指腸下行部の内側に腫瘤を認めた.膵臓との連続性は認めなかった.内部はT2強調像にて均一な高信号を示し,拡散強調像で低信号を示したため囊胞と考えた.囊胞壁に腫瘤成分を認めなかった.総胆管,総胆管,主膵管の拡張は認めなかった(Figure 4).
MRCP所見.
十二指腸下行脚の内側に腫瘤を認めた(矢印).膵臓との連続性は認められなかった.内部はT2強調像にて均一な高信号を示し,拡散強調像で低信号を示したため囊胞と考えられた.囊胞壁に腫瘤成分を認められなかった.総胆管,主膵管の拡張も認められなかった.
術前診断:十二指腸下行部の十二指腸重複症と診断した.癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen:CEA)正常値ならびに超音波検査所見,造影CT所見,MRCP所見から悪性所見を認めないが,反復する腹痛の原因と考え内視鏡的開窓術の方針とした.
手術:腫瘤の中央部をSBナイフⓇGXタイプ(住友ベークライト株式会社,東京)で切開したところ緑黄色漿液性の内容物が流出した(Figure 5-a).切開部から正常腸管壁を確認しスネアにて正常腸管壁を確認し,スネアにて正常腸管を挟まないように注意しながら,腫瘤を全周性に凝固切離し,開窓した.開窓し,腸管を確認したところ明らかな悪性所見を認めないことから開窓術のみで終了した(Figure 5-b).
手術.
腫瘤の中央部をSBナイフⓇGXタイプ(住友ベークライト株式会社,東京)で切開し開窓(a),緑黄色漿液性の内容物が流出した.開窓部をスネアにて凝固切離し開窓部を拡張した(b).囊胞壁の内部の粘膜は正常十二指腸粘膜に覆われていた.
病理所見:囊胞の内腔側および外壁側の双方に,腸型の円柱上皮に被覆された粘膜と粘膜筋板を認める(Figure 6).
病理所見.
腸型の円柱上皮に被覆された粘膜と粘膜筋板を認め,両面に粘膜および粘膜筋板を認める.
術後経過:術後1病日に出血するも内視鏡で止血した.術後8病日目に内視鏡で止血確認後に経口摂取を開始し,術後10病日に退院した.術後,腹痛の再燃なく経過している.
重複腸管は腸管と密に接し,腸管と栄養血管を共有していると定義されている.組織学的に囊胞壁に消化管粘膜,粘膜下層,固有筋層を認めることで確定診断される 2).近年では消化管に隣接しないものも報告されており 3),現在では組織学的検査のみにて診断されることも多い.
本症は形状により球状型と管状型に分類される.さらに,腸管との交通の有無により交通型と非交通型に細分される 4).発生原因は諸説あるが,確定しておらず.合併奇形として脊椎奇形,総腸間膜症,鎖肛,小腸閉鎖,腸回転異常,泌尿生殖器系奇形が報告されている 5).重複腸管は空腸が最も多く,ついで回腸,食道,結腸と続き十二指腸での発症は5%と稀である 6).齋藤ら 7)は本邦の十二指腸重複腸管を形態的にまとめ,①内腔型②壁内型③壁外型④膵内型に分類している.本症例は形状は球状型に分類され,形態的には内腔型であった.また左重複腎盂・尿管の合併奇形を認めた.
症状としては成人では上腹部痛が最も多く,小児では嘔吐,腹部腫瘤が多いとされている.本症例においても小児期から繰り返す腹痛を認めていた.異所性胃粘膜を伴う場合,消化性潰瘍を発症することも知られている 8).また,重複腸管内に胆管や膵管が開口している場合,胆管炎や膵炎を発症する 7).本症例において,腹痛が軽減した際に緊満が解除されたことから,重複腸管と正常腸管が交通していたと考えられる.
鑑別診断としては,脂肪腫,間葉系腫瘍,膵囊胞,先天性胆道拡張症囊腫型との鑑別などが挙げられる 2).本症例では超音波内視鏡にて囊胞病変であること,穿刺吸引にて囊胞内に液体が貯留していることから脂肪腫などの消化管由来の粘膜下腫瘍は否定的であった.また,MRCPにて腫瘤は膵臓外に存在し,胆管の拡張もないことから膵囊胞,先天性胆道拡張症囊腫型は除外できた.
内視鏡所見としては表面平滑でbridging foldを有する粘膜下腫瘤としての特徴をそなえ,かつcushion sign陽性となる.また,囊胞状であるか充実性であるかの診断はEUSで診断することが可能で,囊胞壁が高エコー層に挟まれた,内部低エコー層の3層構造を呈すとされる 9),10).本症例でも同様の所見が得られた.
治療としては,症状が認められる場合は原則外科的切除が検討されることが多い 7).医学中央雑誌にて1967年から2020年までの期間で「十二指腸」「重複腸管」で検索したところ本症例を含めて21例認めた(Table 1) 7),8),11)~28).男性7例,女性14例と女性が多く,年齢は若年で診断されることが多いが,成人症例も散見される.症状は嘔吐,腹痛が多く発熱を伴うこともある.若年では消化管の通過障害による嘔吐での発症が多く,成人例においては腹痛発症にて診断されることが多い.これは通過障害なく成長し,重複腸管の感染または急性膵炎を起こすためと考えられる.また無症状の症例もある.部位は下行脚が15例,形態としては球状が18例と多く,治療法としては重複腸管切除が8例,開窓術が5例,膵頭十二指腸切除が2例,十二指腸部分切除が1例,内視鏡下開窓術が4例,内視鏡的粘膜切除術(EMR)が1例であった.内腔型,壁外型の囊胞であれば囊胞切除による開窓術で治療されている 6),内視鏡治療は内腔型のみで行われている.一方,本症では悪性化症例の報告もあり 18),治療法選択には注意を要する.本症例ではEUS,MRI,CTにて明らかな悪性所見を認めないことを確認したため内視鏡治療を選択した.Gjeorgjievskiら 10)は十二指腸重複腸管29症例の文献報告をまとめ,治療として①ニードルナイフによる切開,②囊胞穿刺による減圧,③スネアによる囊胞切除を施行されていた.いずれの治療でも症状の改善が認められるものの,本症の確定診断では組織学的検査が必要なことから,自験例では③スネアによる囊胞切除を選択した.重複腸管の悪性化は稀であるが,重複腸管がmalignant potentialを有する可能性が示唆されている 18).そのため治療後,悪性化の可能性も念頭に置いて定期的な内視鏡検査ならびに腫瘍マーカーの変化に注意することが必要である.ただ,Gjeorgjievskiら 10)の25例の報告では悪性化症例は認めていない.内視鏡治療の利点には目に見える腹部の傷跡がないこと,膵頭十二指腸切除などの手術侵襲を回避できること,入院期間が短いことが挙げられる 29).しかし,内視鏡治療が適応となる症例は内腔型であることに加え,悪性所見を認めないことが必要である.
本邦における十二指腸重複腸管の報告.
本症例は悪性所見を認められず内腔型であったため内視鏡治療を選択され,施行後,術後出血を認めたものの術後早期に退院可能であった.
内視鏡治療を行った十二指腸重複腸管の1例を経験したので報告した.十二指腸重複腸管は稀な疾患であるが,特徴的な内視鏡所見を示し,多くは良性であるため,術前診断可能であれば低侵襲の内視鏡治療を考慮すべきと考える.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし