2022 Volume 64 Issue 12 Pages 2503-2508
B型慢性肝炎とアルコール性肝障害の57歳男性.1年半前にS3とS7の肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)をラジオ波焼灼術で治療し,経過観察のガドキセト酸ナトリウム造影MRIでS2に増大する2cmの腫瘍を認めた.早期相は濃染不明瞭で後期相は低信号を示し,HCCを疑ったが非典型的で造影USを予定した.体外式USは肺が遮るためEUSを行い,軽度低エコーの腫瘍は造影EUSで動脈優位相が濃染し後血管相がwashoutを呈し,HCCと診断した.低侵襲治療を希望したため,EUSガイドエタノール注入療法を選択して穿刺局所療法を行った.治療は合併症なく成功し,治療後1年8カ月の経過観察で局所再発は認めていない.体外式USが困難なHCCに対しEUSは診断・治療に有用である可能性がある.
A 57-year-old Japanese male with chronic hepatitis B and alcoholic liver disease underwent radiofrequency ablation for S3 and S7 hepatocellular carcinoma (HCC) one and a half year ago. Follow-up gadolinium-ethoxybenzyl-diethylenetriaminepentaacetic acid (Gd-EOB-DTPA)-enhanced magnetic resonance imaging (EOB-MRI) showed a growing 2-cm hepatic tumor in the lateral segment S2, without arterial phase enhancement but with low-intensity portal phase images. As typical findings of HCC, such as hypervascularity, were not found on MRI, contrast-enhanced (CE) ultrasonography was planned. However, performing extracorporeal ultrasonography was difficult because of left lung interference; therefore, EUS was employed. The tumor showed slightly hypoechoic, and CE-EUS using perflubutane showed early arterial phase enhancement and delayed phase washout. Thus, HCC was diagnosed. As the patient chose minimally invasive treatment for the HCC, EUS-guided ethanol injection was performed as ablation therapy. Treatment was successful and without complications, and no local recurrence was observed after 1 year and 8 months. EUS is useful in diagnosing and treating HCC when extracorporeal US is difficult to perform, such as in the lateral segment where lung air interferes with imaging.
体外式超音波検査(US)は肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)の診療に重要であるが,病変の解剖学的局在や障害物により描出困難となる.1980年から臨床応用された超音波内視鏡検査(EUS)は体外式USが困難な症例に有用である 1).HCCに対して体外式USを用いた造影US(contrast enhanced ultrasonography:CEUS)による診断とラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA)による治療は数多く行われているが,EUSも造影EUS(contrast enhanced endoscopic ultrasonography:CE-EUS)やエタノール注入療法(endoscopic ultrasonography guided ethanol injection therapy:EUS-EI)が可能である.今回,横隔膜直下左葉S2の2cm肝腫瘍に対して,CE-EUS診断とEUS-EI治療が有用であった症例を経験したので報告する.
患者:57歳,男性.
主訴:肝腫瘍精査.
既往歴:肝障害以外なし.
家族歴:母は肝硬変で50歳代で死去,ウィルス性肝炎の関連は不明.
生活歴:喫煙なし,アルコール20歳から日本酒1-3合/日.
現病歴:アルコール性肝障害を指摘され節酒を指導されていたが時々飲酒量が増加することがあり,5年前当院に肝障害で紹介された.
初診時血液検査:AST 1,333U/l,ALT 777U/l,γGTP 654U/l,ALP 737U/l,T-Bil 10.1mg/dl,D-Bil 7.5mg/dl,HBsAg 27.46IU/ml,HBsAb(-),HBeAg(-),HBeAb(+),HBVDNA 2.5 Log/ml,HCVAb(-).
アルコール性肝障害を合併したB型慢性肝炎の診断で12日間の入院加療後,テノホビルアラフェナミドフマル酸塩の内服と禁酒を指示した.1年半前にS3に2cmとS7に3cmのHCCを認めRFAで治療し,経過観察中に左葉に増大する腫瘍を認めた.
MRI:左葉S2に2cm腫瘍を認め,ガドキセト酸ナトリウム(gadolinium ethoxybenzyldiethylenetriaminepentaacetic acid:Gd-EOB-DTPA)造影MRI(EOB-MRI)で動脈相は早期濃染を呈さず,後期相は不均一な低信号を示し,HCCが疑われたが非典型的であった(Figure 1-a).
EOB-MRI門脈相画像.
a:治療前.
b:治療後1カ月.
c:治療後1年.
矢印は左葉腫瘍を示す.門脈相で不均一な低信号の増大する腫瘍はEUS-EI後に均一な低信号を示し,1年後縮小した.
血液検査:AST 27U/l,ALT 21U/l,γGTP 53 U/l,ALP 389U/l,T-Bil 1.3mg/dl,D-Bil 0.4mg/dl,HBVDNA<1.0Log/ml,AFP 2.4ng/ml,PIVKA-Ⅱ 17mAU/ml,CEA 3.0ng/ml,CA19-9<2.0U/ml.腫瘍マーカーは基準範囲内であった.
CEUSを計画したが,体外式USは左肺がエコーを遮り体位変換を行っても腫瘍を描出不能で,胃と近接しているためEUSを施行した.
EUS:境界明瞭な2cmの被膜を有する単結節型の低エコー腫瘍が描出可能で,ぺルフルブタンを注射してCE-EUSを行った.動脈優位相は不整な流入血管がバスケットパターンを示した後に肝実質に比し強く濃染を示し,後血管相は不完全な欠損のwashoutを示しHCCと診断した(Figure 2) 2).
肝左葉腫瘍に対するCE-EUS.
矢頭は腫瘍を示す.Bモード所見は境界明瞭な単結節型の低エコー腫瘤で(a),造影剤注入後24秒の動脈優位相で不整な流入血管がバスケットパターンを呈し(b),26秒で肝実質に比し強く濃染(c),600秒後の後血管相は不完全な欠損のwashoutを呈した(d).
治療経過:本人が低侵襲治療を希望したため,内科・外科・放射線科の合同カンファレンスで検討し,EUS-EIを施行することとなった.EUS-EI施行に際して低侵襲であるがEUSの適応外使用で報告が少ないことを説明し,施設長の許可を得て施行した.穿刺経路に脈管がないことを確認,穿刺直前に22G超音波内視鏡下穿刺針のスタイレットを抜去して無水エタノールで管腔内を満たし空気混入を予防した.穿刺針をHCC中心へ刺入し無水エタノール5ml注入したところHCCは高エコーへ変化した(Figure 3).その後穿刺部位をHCC辺縁に変更して無水エタノールを4ml追加注入した.終了前にHCC残存を確認するためCE-EUSを行い,動脈優位相で造影される部位がないことを確認した.治療後に合併症を認めなかった.EUS-EI治療後1年8カ月経過観察しているが局所再発を認めず経過良好である(Figure 1-b,c).
左葉HCCに対するEUS-EI.
矢頭はHCCを示し,矢印は穿刺針を示す.低エコーのHCCを穿刺(a),無水エタノール5mlを注入しHCCは均一な高エコーに変化した(b).
EUSは胆膵疾患に多く用いられているが,HCCに利用した報告は少ない.本症例はS2の横隔膜下で肺の空気に遮られるため体外式USが困難でEUSが有用であった.胃粘膜下腫瘍を疑い超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を施行してHCCを診断した報告があるが 3),HCCをCE-EUSで診断しEUS-EIで治療した報告はまだない.
ダイナミックCTやEOB-MRIの動脈相で高吸収域,門脈・平衡相で低吸収域のwashoutを呈した場合,典型的HCCとして治療するが,非典型的なCTやMRI所見を示すHCCも少なくない.EOB-MRIの乏血性結節には時間分解能に優れるCEUSを行うと多血性結節と判定される症例があり 4),本症例も診断にCE-EUSが有用であった.また,CEUSは空間分解能も高いことが報告され 5),本症例はエタノール注入後のHCC遺残評価にも用いた.
わが国のHCCにおけるCE-EUSの報告を検討するため,EUSが登場した1980年から2021年6月1日の期間で,“肝細胞癌”と“造影超音波内視鏡”,をキーワードとして医学中央雑誌で検索したところ2件の会議録が抽出されたのみであった 6),7).体外式USによるCEUSはHCCに対して多く行われているが,CE-EUSの報告はまだ少ない.消化管から遠い病変に限界があるが,造影CTやMRIで診断困難な症例では血行動態を高い時間分解能・空間分解能で得られるCE-EUSが肝腫瘍の正確な診断に優れていると報告されている 8).
HCCに対する低侵襲の穿刺局所療法はかつては経皮的エタノール注入(percutaneous ethanol injection therapy:PEI)が行われていたが,2004年からRFAが保険適応となり,局所再発の少なさから現在は3cmで3個以内のHCCは切除と同等にRFAが推奨されている 9).海外で超音波内視鏡下ラジオ波焼灼術(endoscopic ultrasonography guided radiofrequency ablation:EUS-RFA)の報告はあるが 10),わが国はEUS-RFAが認可されていないため,EUSを用いた穿刺局所療法はエタノールや酢酸の注入療法になる.本例もRFAを検討したが,HCCに接する肺や胃を保護するため人工胸水・人工腹水を作製する必要があった.PEIはRFAに比べ局所再発率が高いが,2cm以下はPEIとRFAの効果は同等であること 11),消化管に接している病変はRFAによる穿孔の危険性がありPEIも推奨されることから 12),胃に接した2cmの本例はEUS-EIの適応と判断した.
わが国のHCCにおけるEUS-EIの報告を検討するため,1980年から2021年6月1日の期間で,“肝細胞癌”,“超音波内視鏡”,“エタノール注入”,をキーワードとして医学中央雑誌で検索したところ5件が抽出された(Table 1) 13)~17).多くが会議録であるが,EUS-EIは尾状葉を中心とした40mmまでの病変に施行されている.海外のHCCに対するEUS-EI報告を1980年から2021年の期間で,“hepatocellular carcinoma”,“endoscopic ultrasound”,“ethanol injection”,をキーワードにPubMedで検索したところ左葉のHCCに対するEUS-EIの報告を1件認めた 18).また,HCCが対象でないが,再発性左葉肝腫瘍にEUS-EIを行った検討では10例中7例に再発を認めたが再治療可能で有用であったと報告している 19).わが国で左葉病変が少ない理由は根治性が高い腹腔鏡下肝左葉切除手術やFusion imagingと人工胸水を併用したRFAが選択されるためと考える.根治性の高い肝切除術を選択するか,低侵襲で繰り返し施行可能な局所穿刺療法を選択するか,そしてどのような術式にするかは,患者の希望と施設の内科・外科・放射線科を含めたカンファレンスで検討する必要がある.局所穿刺療法のEUS-EIは人工胸水が必要ないため低侵襲で再治療が容易であるが,RFAに比較し局所再発率が高いため,適応は消化管に近い尾状葉や左葉の2cm以内の単純結節型HCCと考える.低コストであり,体表からの穿刺経路で合併症リスクが高い症例にも有益と考えられる.本症例は治療後1年8カ月経過観察しているが局所再発を認めず経過良好である.
肝細胞癌に対するEUS-EI報告.
体外式USが描出困難な肝左葉横隔膜下のHCCに対して,CE-EUSによる診断とEUS-EIによる治療が有用であった.
謝 辞
本例に対しカンファレンスで助言をいただいた増田真木子部長をはじめ放射線科の先生方に深謝いたします.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし