GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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REOPENABLE CLIP OVER THE LINE METHOD: A NOVEL SUTURING METHOD FOR MUCOSAL DEFECT AFTER ESD(WITH VIDEOS)
Tatsuma NOMURA Shinya SUGIMOTOTaishi TEMMA
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2022 Volume 64 Issue 12 Pages 2516-2523

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要旨

ESD後の偶発症を予防するため,多くの粘膜欠損閉鎖法が考案されてきた.しかし特に胃のような壁の厚い臓器では,粘膜と筋層の間を死腔なく完全に閉鎖可能な方法は確立していない.われわれはナイロン糸とつかみ直し可能なクリップの歯の穴を利用した新しい粘膜欠損閉鎖法である,ロルム(Reopenable-clip over the line method:ROLM)を報告した.ROLMは粘膜欠損辺縁の粘膜と筋層をクリップで把持し,手元の糸を引くことで粘膜と筋層の間の死腔を減らし,完全な欠損閉鎖が可能な手技である.クリップを用いた既存の閉鎖法と大きく異なる点は,手元の糸を引くことで閉鎖を進める点であり,欠損辺縁の粘膜同士をクリッピングのテクニックで寄せる必要はない.糸を引いて閉鎖を進めるというこの特性により,スコープ操作性不良の深部結腸や管腔の狭い十二指腸のESD後粘膜欠損にも応用することが可能である.本項ではROLMの詳細について述べる.

Abstract

Various new methods have been devised for closing mucosal defects after ESD to reduce postoperative adverse events. However, no method has been developed for complete closure of the thick mucosa and muscular layer of the stomach without dead space between the mucosa and muscular layer. Here, we report a new method for defect closure, the reopenable clip over the line method (ROLM); this new method uses a nylon line and a hole in the tooth of a reopenable clip. This method reduces dead space and closes defects by grasping the clip at the edge of the defect and the nearby muscle layer and pulling the line by hand. Defect closure can be achieved by repeatedly placing a clip on the edge of the mucosal defect on one side and the muscle layer and then placing the next clip on the edge of the mucosal defect on the contralateral side and the muscle layer. ROLM is a simple method because it eliminates the need to clip both sides of the mucosal defect with a single clip. In addition, ROLM can be performed for post-ESD mucosal defects in the colon and duodenum, where endoscopic maneuverability is poor.

Ⅰ はじめに

消化管早期腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は本邦で報告されてから20年以上が経過した 1),2.切除の手技は確立されつつあるが,時に穿孔,出血などの重篤な偶発症が生じる 3),4.それらの偶発症を予防するため,粘膜欠損の閉鎖法が多く考案されてきた 5)~11.例えばクリップによる単純閉鎖を容易にする工夫として,先端系ナイフで辺縁の粘膜面に置いた切開をアンカーとする方法や,留置スネアを用いて粘膜欠損の辺縁同士を寄せる方法などである 12),13.一旦スコープを抜去し,引き続き閉鎖を行う方法としてはOver-The-Scope Clip(OTSC)を用いた方法や,特殊な専用デバイスで粘膜下層を縫合するOverstitchなどが実用化されてきた 14),15.しかし多数例での検証では効果が限定的であることや,本邦での均てん化のことも加味すると,ESD後粘膜欠損の閉鎖法は未だ確立されたとは言い難い.また胃,大腸,十二指腸など消化管部位ごとに粘膜,筋層の厚さ,スコープ操作性や管腔の狭さなどが異なり,それらも閉鎖の質に大きく影響する.さらに患者背景によって偶発症の頻度や閉鎖の重要性が異なり,どの消化管部位でも確実に閉鎖可能な方法の考案が望まれていた.われわれは胃,大腸,十二指腸のどの部位でもESDに引き続いてスコープを抜去することなく施行可能なロルム(Reopenable-clip over the line method:ROLM)を考案した 16)~19

Ⅱ Reopenable-clip over the line method(ROLM)の手順(Figure 1)
Figure 1 

a:粘膜欠損.

b:最初の糸つきreopenable-clipを粘膜欠損の辺縁と筋層を把持するように配置(ROLM).

c,d:片方のreopenable-clipの歯の穴に糸を通した状態で,鉗子口から挿入し,対側の正常粘膜と筋層を把持するように配置.

e~h:ROLMを繰り返すと,完全に欠損は閉鎖される.

ROLMでは糸(Nylon line,0.22mm)とReopenable-clip(SureClip 8mm or 16mm,MCメディカル)を用いる(Figure 1).最初に糸をReopenable-clip(以下クリップ)の片方に糸つきクリップの要領で結紮する.内視鏡の鉗子口を通して糸つきクリップを挿入する.続いて潰瘍底のもっとも遠位側の粘膜欠損辺縁の正常粘膜と筋層をまとめて把持するように配置する.この1個目のクリップで筋層も大きく把持することが重要である.その後,鉗子口から出ている手元の糸をクリップの片方の歯の穴にFigure 2のように通す.その状態で鉗子口からクリップを通す(以下ROLMを行うと略す).その後対側の粘膜欠損辺縁と筋層を把持するようにクリップを配置する.ROLMを行ったクリップを繰り返し対側欠損辺縁の正常粘膜と筋層に配置していくことで欠損を完全に閉鎖することができる.手元の糸を適宜引き,内視鏡視認下に粘膜と筋層の間の死腔を無くすことがポイントである.

Figure 2 

症例1:体中部後壁から体下部後壁の70mm大の欠損閉鎖.

a,b:体中部後壁から体下部後壁の70mm大のESD後欠損.

c:最初の糸つきクリップを肛門側の粘膜欠損辺縁と筋層を把持するように配置.

d:繰り返しROLMを行ったクリップを配置した後の欠損.

e,f:事前に配置したクリップと糸の距離が長い場合,クリップで仮つかみした後に,手元の糸を引くと図のようにクリップ同士が埋没することなく寄る.

g,h:筋層のみを把持するクリップを配置することで,粘膜下ポケットの死腔がなくなる.

i:完全に閉鎖された後の粘膜欠損.

Ⅲ ROLMを用いた胃ESD後粘膜欠損閉鎖の実際(電子動画 1

電子動画 1

症例1:体中部後壁から体下部後壁の70mm大の欠損閉鎖

この症例では体中部後壁から体下部後壁へ広がる長径70mmのESD後粘膜欠損となった(Figure 2).最初に最肛門側の欠損辺縁に糸つきクリップを配置し,その後手元の糸をクリップの歯の穴に通し(ROLM),1個目のクリップの対側に配置した.繰り返しROLMを行ったクリップを対側に配置していくと,徐々に粘膜欠損と死腔が閉鎖されていく.辺縁同士の距離がある場合は,ROLMを行ったクリップで粘膜と筋層を把持した状態で手元の糸を引くと,クリップが埋没することなく辺縁同士は十分に近接し,同時に死腔もつぶれていく(Figure 2-d~f).また筋層のみを把持するクリップを配置することで,粘膜下の死腔をつぶす方法も併用している(Figure 2-g,h).ROLMによって,長径70mmの粘膜欠損は完全に閉鎖された.

症例2:胃角部の70mm大の粘膜欠損:ROLMの介助者と実際の配置

胃角部に長径70mmのESD後粘膜欠損を認める(Figure 3).ROLMを行う際は,時間短縮及び,術者,第一介助者が内視鏡画面に集中できるように第二介助者も含めた3人体制で行うことが多い(Figure 3-b電子動画 1).術者と第一介助者がROLMを行ったクリップを配置している間に,第二介助者は次に使用するクリップに糸を通しておく.術者と第一介助者がクリップを配置し終わったら,第二介助者が待機していたクリップを術者の手元まで送る.術者はチャネル内で糸が絡まってしまわないように糸を左手の小指に巻き付けた状態にし,チャネルにクリップを通す.クリップが胃内まで挿入されたら,第一介助者がクリップを適切な角度に回転させる.糸が通っている歯を潰瘍底の中心に向けるようにすることで,粘膜下の死腔へのクリップ埋没を防ぐことができる.ROLMを行ったクリップを対側の欠損辺縁に繰り返し配置することで粘膜欠損は完全に閉鎖された(Figure 3-c~f).

Figure 3 

症例2:胃角部の70mm大の粘膜欠損:ROLMの介助者と実際の配置.

a:70mm大の胃角部のESD後粘膜欠損.

b:術者(右),第一介助者(中央),第二介助者(左).

c~e:潰瘍底側(黄色点線)にクリップの糸が通った側の歯を向ける(赤矢印)ことでクリップの埋没なく欠損が閉鎖されていく.

f:完全に閉鎖された粘膜欠損.

Ⅳ ROLM後の糸を胃内で切る方法(Modified locking-clip technique(LCT))(Figure 4)
Figure 4 

a:EZクリップの根元の歯と歯の間の隙間に糸が通る.

b:その状態で鉗子口からEZクリップを挿入する.

c,d:内視鏡の視認下に,歯と歯の間に糸が通っていることを確認し,EZクリップを展開する.

e:EZクリップを正常粘膜に配置した後に手元の糸を引くと,クリップの根元で糸が切れる.

f:予め,EZクリップの歯と歯の交叉する部分を細い糸で縛ると,鉗子口から入れた糸が外れない.

ROLM後は閉鎖に使用したナイロン糸が鉗子口から出た状態となる.ナイロン糸や手術糸はループカッターや,ESDに使用したデバイスでの通電で切ることが可能であるが,これらの方法で糸を切断することは時に非常に煩雑な作業となる.われわれは閉鎖に用いた糸を汎用クリップ(EZクリップ,オリンパス社)の根元に固定して切断するModified locking-clip technique(M-LCT)も併せて考案した 17.M-LCTではオリンパス社のEZクリップを用いる.完全に展開する前のEZクリップの根元には小さな隙間がある.この隙間に内視鏡の鉗子口から出ている糸を入れ,そのままEZクリップを鉗子口に挿入する(Figure 4-a,b).この時予め鉗子口のキャップは外しておくことが望ましい.胃内まで挿入したのちにEZクリップを展開すると,糸がEZクリップの根元で固定される(Figure 4-c,d).その後EZクリップを正常粘膜に固定し,最後に手元の糸をゆっくり引くとEZクリップの根元で糸が切れる(Figure 4-e).予めEZクリップの根元を糸(PEライン1.0号もしくはSurgical thread 4−0ナイロン)で縛っておくと,チャネル内で糸がEZクリップから外れてしまうことがなくなり,M-LCTの成功率が格段に上昇するので推奨したい(Figure 4-f).

Ⅴ 直腸RbのESD中の穿孔後の粘膜欠損閉鎖症例

直腸RbのESD後に長径40mm大の粘膜欠損となり,術中に筋層を損傷した症例(Figure 5-a,b).最初にクリップで筋層の損傷を補強した.潰瘍底にはクリップ5本があり,それらのクリップを死腔に埋没させることなく,ROLMで完全に閉鎖した.最初に病変の最口側に1本目の糸つきクリップを配置し,図のように,ROLMを行ったクリップを交互に配置し,一度糸を切った(Figure 5-c,赤ライン).この症例ではROLMを行ったクリップの死腔への埋没を防ぐため,潰瘍底の筋層を直接把持するクリップも配置した.次に2本目の糸つきクリップを,残存する閉鎖部を閉じるように図のように配置した(Figure 5-c,緑ライン).精確なクリッピングを要する際には先端が4mmと先細りしたCalibrated,small-caliber tip,transparent hood(CAST hood:TOP)を用いることで潰瘍底のクリップのフード内への侵入を避けることが可能となる(Figure 5-d,e 19.5本のクリップは埋没することなく粘膜欠損は完全に閉鎖された.

Figure 5 

a,b:40mm大のESD後粘膜欠損穿孔を疑う筋層損傷を潰瘍底に認め,同部を5本のクリップで補強した.

c:損傷部のクリップを埋没しないように1回目のROLMを黄緑ラインのように行い,2回目のROLMを赤色ラインのように予定した.

d,e:CAST hoodを用いて,潰瘍底のクリップがフード内に侵入するのを防ぐ.

f:損傷部の補強に使用したクリップを死腔に埋没させることなく粘膜欠損は完全に閉鎖された.

Ⅵ 胃ROLM後の粘膜欠損の離開症例

胃ESD後潰瘍をROLMで閉鎖し,その後離開した症例を提示する.体中部小彎と,前庭部前壁の早期胃癌に対してESDを施行し,粘膜欠損はそれぞれ長径55mmと45mmであった(Figure 6-a,d).ROLMで粘膜欠損は図の様に完全に閉鎖した(Figure 6-b,e).しかしESD後5日目に吐血し,緊急の上部消化管内視鏡で閉鎖部の離開と出血を確認した(Figure 6-c,f)この症例を経験したことで,われわれは欠損辺縁を把持するクリップとクリップの間に筋層のみを把持するクリップを複数箇所,ROLM閉鎖の途中に配置するように工夫した.そして,この方法をROLM-muscular layer grasping clip(ROLM-M)と名付け十二指腸ESD後の5襞をまたぐ80mm大の粘膜欠損を完全に閉鎖した症例を報告した 20

Figure 6 

a:体中部小彎の40mm大のtype0-Ⅱc病変.

b:ROLMで完全に閉鎖された後の粘膜欠損.

c:ESD後5日目の離開した粘膜欠損.

d:前庭部前壁の25mm大のtype0-Ⅱc病変.

e:ROLMで完全に閉鎖された後の粘膜欠損.

f:ESD後5日目の離開した粘膜欠損.

Ⅶ ESD後粘膜欠損閉鎖を維持するためのROLM Tips(電子動画 2

電子動画 2

・潰瘍底の筋層側にクリップを埋没させないように,糸が通っている側を潰瘍底に向ける.

・クリップを把持したまま糸を引くことで,クリップ同士を直立させ,潰瘍底側に倒れ込まないようにする.

・筋層のみを把持するクリップを使用(ROLM-M).

・潰瘍底の面積に比例し,クリップの本数を増やす.

Ⅷ 最後に

ROLMの理論を理解し,多くの症例を経験すれば,高確率でESD後粘膜欠損は閉鎖できる.片側の粘膜欠損辺縁のみにクリップを交互に打つだけであるため,ESDに引き続き,深部結腸や操作性が悪く,管腔の狭い十二指腸などでも使用できる.また厚い粘膜も筋層を把持し,途中に筋層のみにROLMを行ったクリップを加えることで可能なかぎり粘膜と筋層の間の死腔を減らすことが可能となる.本稿が読者の明日からの診療の一助になれば幸いである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

電子動画 1 胃角部70mm大の粘膜欠損のROLM閉鎖と実際の介助者の役割.

電子動画 2 ROLM Tips.

文 献
 
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