GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ENDOSCOPICALLY TREATED GASTRIC INTUSSUSCEPTION WITHOUT A LEAD POINT
Shinichi MIYAZAKI Aoi TOKIMATSUYuzuru KAIAyumi OSAKOTerumi MORITAHiroyuki NODA
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2022 Volume 64 Issue 2 Pages 153-158

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要旨

症例は97歳,女性.食思不振を主訴に当院へ救急搬送された.腹部腫瘤を触知したため腹部造影CTを撮影したところ,穹窿部が胃体部に陥入しており,胃重積と診断した.明らかな先進病変は認めず,内視鏡での整復に成功した.整復に伴い胃裂創を合併したが,保存的に軽快した.後日,再度胃重積をきたし,先進部は翻った穹窿部であることが推測された.先進病変を認めない胃重積の報告は稀であり,本症例はその機序を考える上で貴重な症例であると考えられた.

Ⅰ 緒  言

胃-十二指腸型胃重積の報告 1)~9は散見されるものの,そのほとんどが先進病変を伴うものであり,先進病変や胃外部からの圧迫も認めない胃重積の報告は稀である.今回われわれは,内視鏡的に整復でき,明らかな先進病変を認めなかった胃-十二指腸型胃重積の症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:97歳,女性.

主訴:食思不振.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:永続性心房細動,慢性心不全などで近医より訪問診察を受けていた.2~3日前からの食思不振を主訴に当院へ救急搬送された.

来院時所見:身長148cm,体重40kg.血圧113/ 80mmHg,脈拍113bpm・整,体温37.6℃.結膜貧血黄疸なし.頸部リンパ節触知せず.心音異常なし.両肺野にcoarse crackleを軽度聴取する.

腹部は平坦,軟,圧痛は認めないが,心窩部に手拳大の腫瘤を触知する.反跳痛はなく,肝脾は触知しない,手術瘢痕は認めない.

臨床検査成績:軽度の貧血およびBUN/Cre比の上昇を認めた.CRPは軽度上昇していたが,白血球の上昇は認めなかった.TPおよびALBが低値であった(Table 1).

Table 1 

来院時臨床検査成績.

腹部造影CT:水平断では胃内に同心円状の構造物を認め,target sign様となっていた.同心円の中央には血管と思われる造影効果のある構造物を認めた(Figure 1-a).

Figure 1 

腹部造影CT画像(入院時).

a:胃内に同心円状の構造物を認め,target sign様となっていた(矢印).

b:胃が翻り,十二指腸球部に入り込んでいた.陥入した部位近傍の粘膜において造影効果が減弱していた(矢頭).

前額断では穹窿部が胃体部に陥入している状態が明確となり,胃重積と診断した.陥入した部位の粘膜において造影効果が減弱していた.重積した胃の先進部は十二指腸下行部に達していた.少なくともCTで指摘できるような腫瘤や胃外部からの圧迫は認めなかった(Figure 1-b).

臨床経過:CT上,陥入部での虚血が疑われ緊急を要する状態であると判断したが,患者は心疾患を有する超高齢者であり,全身麻酔下での手術は危険性が高いと考えられた.CTで確認できるような先進病変も認めなかったため,十分な説明にて同意を得た後,まずは内視鏡的な整復を試みることにした.内視鏡はOLYMPUS GIF-HQ290を用い,送気には炭酸ガスを使用した.食道胃接合部の肛門側に重積による牽引で生じたと思われる管腔の狭小化を認めた(Figure 2-a).最小限の送気で愛護的に狭小化した部位を通過すると,十二指腸下行部で視野が開けた.内視鏡をゆっくり反転させると翻った胃粘膜は幽門輪を通過し,十二指腸下行部に達していた(Figure 2-b).反転した内視鏡で先進部である胃粘膜をゆっくりと引き戻したところ,幽門を越えることができた.幽門輪の損傷は認めなかった.胃内でゆっくりと送気したところ,翻った胃粘膜は胃が膨らむにつれほぼ正常な形態に戻った.整復後の観察で,穹窿部大彎の粘膜が発赤腫脹しており,同部が先進部になったものと考えられた.処置に伴い噴門部小彎に裂創を生じたが,内視鏡で確認できるような穿孔は認めず,出血がないことを確認し処置を終了した(Figure 2-c).治療効果および合併症の有無を確認するため腹部単純CTを撮影したところ,網嚢気腫および左後腹膜気腫を認めた(Figure 3).胃内容物がほとんどなかったこと,炭酸ガスを使用したため漏れ出たガスも早期に吸収されることが期待されたため,絶食,補液,抗生剤の投与による保存的治療で経過をみた.第2病日に37℃台の発熱を認め,第3病日にCRPが13.77 mg/dlまで上昇したが,整復後腹痛の訴えはなかった.炎症反応も低下し,腹部CTで漏れ出た炭酸ガスも減少してきたため,噴門部裂創の経過観察および先進病変となるような病変の除外目的に,第10病日に上部消化管内視鏡検査を再度行った.胃噴門部に生じた裂創は改善していた.胃の背景粘膜は高度の萎縮を呈していたが,先進部となったと思われる穹窿部を含め,胃内に明らかな病変は認めなかった.その後食事を開始したが全量摂取可能であった.経過観察目的に第16病日に腹部造影CT検査を施行したところ,網嚢気腫および後腹膜気腫は改善していたが,穹窿部が先進部となった胃−胃型胃重積を生じていた(Figure 4).しかし症状もなく経口摂取も良好であったため,処置は行わず経過観察とした.廃用に対するリハビリテーションを行った後,第36病日に退院となった.

Figure 2 

上部消化管内視鏡検査(整復時).

a:食道胃接合部の肛門側に牽引によると思われる狭小化を認めた.

b:十二指腸下行部で内視鏡をゆっくり反転させると,翻った胃粘膜は幽門輪を通過し,十二指腸下行部に達していた.

c:整復後の観察で,穹窿部の粘膜が発赤腫脹しており,同部が先進部になったものと考えられた.処置に伴い噴門部小彎に裂創を生じた(矢印).

Figure 3 

腹部単純CT画像(整復直後).

網嚢気腫(矢印)および左後腹膜気腫(矢頭)を認めた.

Figure 4 

腹部造影CT画像(整復16日目).

胃穹窿部が先進部となった胃−胃型胃重積を生じていた(矢頭).網嚢気腫は消失し,左後腹膜気腫をわずかに認めるのみであった(矢印).

Ⅲ 考  察

胃重積症例報告のほとんどが,胃内の病変が十二指腸に脱出することにより重積が惹起される胃-十二指腸型胃重積 2),3),5)~7),9や,何らかの胃内病変や外部からの圧迫に起因する胃-胃型胃重積 10)~14である.明らかな先進病変を認めない胃重積の報告は,「胃重積」をキーワードに医学中央雑誌で1983年から2021年までの期間を,「Stomach」「Intussusception」をキーワードにPubMedで1946年から2021年までの期間を検索し,先進病変を有した症例を除き関連論文を加えたところ,本症例を含め5例の報告 1),4),8),15のみであり極めて稀であった.また,内視鏡で整復し得た症例は本症例のみであった.過去の報告4例では,重積の発生部位は2例が幽門部,1例が胃体下部と胃の低位に存在しており,本症例の様に胃の高位に発生部位が認められた報告はなかった(Table 2).

Table 2 

先進部に病変を認めなかった胃重積の報告例.

本症例ではCTおよび内視鏡所見より,翻った穹窿部が先進部となったものと考えられた.患者は超高齢で血清アルブミン値も2.5g/dlと低値であり,加齢や低栄養による胃周囲支持組織の弛緩が予想された.それを背景に穹窿部が炎症や腸管による一時的な圧排など,何らかの影響で下垂し,軽度の重積を繰り返すうちに習慣化し,今回の胃-十二指腸型胃重積をきたしたことが推測された.また,一度重積が解除したにもかかわらず,第16病日の腹部造影CT検査において穹窿部を先進部とする胃−胃型胃重積を生じており,前述の機序を後押しする結果となった.

今回整復に伴い,網嚢気腫および左後腹膜気腫を合併した胃粘膜裂創を生じた.本症例の様に胃粘膜が高度に牽引された症例においては,内視鏡の接触で容易に裂創,ひいては穿孔を起こす可能性が高いと考えられた.内視鏡的な整復時には,①口側の狭小化した部位を越える際に抵抗があれば中止する,②重積した管腔内を通過する際には粘膜の損傷を避けるため,送気は最小量に留め,かつ粘膜になるべく接触しない様に内視鏡を進める,③重積部の肛門側に到達でき粘膜を引き戻す際にも(特に先進部が幽門輪を越えている場合),抵抗があって先進部の可動性が悪い場合には無理をせず,手術など別の治療に変更する必要があると考えられた.また今回は患者が超高齢で基礎疾患に慢性心不全があり耐術能がないと判断したが,頻繁に重積を繰り返す場合には,胃壁と周囲組織とを固定する手術などを検討すべきであると考えられた.

Ⅳ 結  語

今回われわれは,内視鏡的に整復でき,明らかな先進病変を認めなかった胃-十二指腸型胃重積の症例を経験した.本症例は整復後に再度胃-胃型胃重積をきたしており,先進病変を認めない胃重積の発生機序を考える上で興味深い症例であると考えられた.

本論文の要旨は,第110回日本消化器病学会中国支部例会(2018年12月,出雲)にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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