GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TECHNICAL TIPS ON HOW TO HANDLE DIFFICULT CASES OF ESOPHAGEAL ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION
Yasuaki NAGAMI Masaki OMINAMIYasuhiro FUJIWARA
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2022 Volume 64 Issue 2 Pages 181-194

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要旨

表在型食道癌に対するESDはCO2送気やトラクション法の普及に伴ってより標準的治療となってきている.しかし,頸部食道癌,全周性病変,瘢痕に接する病変,放射線化学療法後,憩室にかかる病変,食道胃接合部癌,食道静脈瘤合併症例などは治療困難とされ,その対策についてそれぞれ解説する.これらの病変ではより偶発症のリスクが高く,基本的な手技の習熟,経験を積んだうえで,偶発症に対しての対応や外科手術対応も想定,準備し行う必要がある.

Ⅰ はじめに

表在型食道癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は胃に引き続いて2008年に保険収載され,現在では多くの施設で行われている 1)~3.食道ESDは外科手術や化学放射線療法(chemo-radio therapy:CRT)と比べて低侵襲な治療であり,治療後のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)も良好である 4),5.食道は管腔が狭く,食道壁が薄いため,胃と比べると難易度が高いとされてきたが,CO2送気やトラクション法の普及に伴ってより標準的治療となりつつある 6),7.しかしながら,その中でもESDによる治療が困難とされる症例も存在し,その対策について解説する.困難症例は頻度が低く,また,難しい局面それぞれに合わせた異なる方法を取得するのは難しい.筆者は常に基本手技を大切にすること,いつも同じ状況を作りだすことが最も重要と考えている.例えば食道は円柱状であるが,常に病変を6時方向にもってきて処置をする.そのために,スコープにループをつくることで,無理な態勢をとることなくいつも通りに処置が可能となる(Figure 1).そこに少しの工夫を加えた対策について解説する.

Figure 1 

スコープの回転.

スコープ袂にループを作成することで,力なく180度以上の回転が可能で,処置が安定する.右手小指でスコープを保持しながらデバイスの出し入れも可能(G).

Ⅱ 食道ESD困難症例

これまで穿孔のリスクとして,3/4周以上の切除後粘膜欠損,深達度SM,病変の主座が左側壁,サイズの大きな病変,ESD後瘢痕にかかる再発病変などが報告されている 8),9.また,われわれは穿孔もしくは一括切除困難なリスクとして25mm以上の病変径,CRT後と報告している 10.Hazamaらは治療困難を治療時間120分以上,穿孔,縦隔気腫,不完全切除と定義し,そのリスクは病変の主座が左側壁,周在性1/2周以上としている 11.その他にもこれまでにESD困難とされてきた症例があるが,症例数が少ないもしくはhigh volume centerでexpertに治療されることが多いことからか,リスク因子には上がっていない.頸部食道癌,食道胃接合部癌,食道静脈瘤合併症例,憩室にかかる病変などが考えられ,これらについても個別に解説する.

また,穿孔のリスク因子として,多施設共同研究やDPCデータを用いた解析で,Low volume centerや症例経験30例未満などが報告されており,治療困難とされるような病変ではよりリスクが高くなる 12),13.穿孔に対しての対応や外科手術対応も必要になる可能性があるため,無理をせず,High volume centerでの治療を考慮することも大切である.

Ⅲ 食道ESDで使用する物品

1.デバイスはFlushKnife BT-S(2.0mmもしくは1.5mm,富士フイルム社)を基本的に使用し,線維化の強い症例ではHook knife(オリンパス社)を併用することもある.止血にはバイポーラ止血鉗子Tighturn(ゼオンメディカル),もしくは接合部癌や静脈瘤合併症例ではCoagulasper(オリンパス社)を使用するが,デバイスによるプレ凝固を行うことで,止血鉗子を使用しない場合も増えている.

2.スコープはGIF-Q260J,GIF-H290T(オリンパス社)を基本的に使用する.内視鏡治療後の狭窄などで管腔が狭い場合には,GIF-Q260,GIF-H290(オリンパス社)などを,さらに狭窄の強い際には細径内視鏡,EG-L580NW7(富士フイルム社)を用いることもある.先端フードはエラスティックタッチ(F-025,トップ社)を使用している.

3.局注にはムコアップ(ボストンサイエンティフィック社)を5%糖液で膨隆確認後に使用している.

4.高周波発生装置はVIO300D,VIO-3(エルベ社)を使用し,表のような設定で使用している(Table 1).Endocutを用いた方が狭窄のリスクが低くなる可能性が示唆されており,血管のない部位ではできるだけEndocutでの剝離を推奨する 14.また,太い血管に対してはFlushKnife BT-Sを使用したプレ凝固を行うことで出血の少ない剝離が可能となる 3

Table 1 

高周波設定.

5.鎮静

食道癌の患者は大酒家が多く,ベンゾジアゼピン系の鎮静薬で鎮静不良となることをよく経験する 15.これと比べてプロポフォールでは鎮静不良が少なく,安定した鎮静が得られることから 16,当科では血中薬物濃度を輸液ポンプの投与速度で調整できるTarget controlled infusion (TCI) systemを使用している 17.Bispectral Index(BIS)モニターで60前後を目安に適宜増減する.塩酸ペチジンを50mg/hを目安に併用する.また,誤嚥のリスクが高い食道入口部,穿孔のリスクが高い外科手術後の吻合部にかかる病変などでは全身麻酔を選択している.

6.トラクション

当科では食道ESD時にclip and snare method with the pre-looping techniqueを使用している 18.まずスネア(SD-210L-15;オリンパス社)をスコープの先端アタッチメント部で絞扼し(Figure 2-B),スコープを挿入,鉗子孔からエンドクリップ(オリンパス社)を粘膜下層に行うが,リリースを行わずに(Figure 2-C),スネアを緩めてスコープからはずし(Figure 2-D),クリップを絞扼することで準備が完了する(Figure 2-E).スネアのシースをスコープで持ち上げることによって粘膜下層を垂直方向に持ち上げることができ,良好な視野の確保とトラクションが得られる(Figure 2-F).全周切除で複数のトラクションが必要な場合などでは絹糸を用いてトラクションをかけている.

Figure 2 

clip and snare method with the pre-looping technique.

A:粘膜切開後.

B:スネアをスコープの先端アタッチメント部で絞扼.

C:鉗子孔からエンドクリップを粘膜下層に行い,クリップをリリースせずにおく.

D:スネアを緩めてスコープ先端からはずし,クリップ部まで押し出す.

E:クリップをスネアで絞扼し,クリップをリリースする.

F:スネアのシースをスコープで持ち上げることによって良好な視野の確保とトラクションが得られる.

Ⅳ 困難症例に対する食道ESD

1.頸部食道癌

頸部食道は食道入口部から胸骨上縁までで,管腔が狭く,椎体の圧排や輪状咽頭筋との干渉により,スコープの操作が難しい場合がある 19)~21.病変の上端が食道入口部から離れており,病変の視認が可能な場合には静脈麻酔下でESDが可能だが,食道入口部近くまで病変が存在する場合には,病変の視認も難しく,誤嚥の危険性もあるため,全身麻酔下にESDを施行している(Figure 3-A).

Figure 3 

頸部食道癌に対するESD.

A:全身麻酔,挿管管理下のESD.

B:入口部にかかる頸部食道癌.

C:デバイスが届きにくい部位がある.

D:局注を行うことで粘膜切開が可能となった.

E:病変の右側のアプローチが難しい.

F:局注により粘膜下層が良好に膨隆している.

G,H:トラクション法を併用すれば,剝離は容易になる.

I:切除後潰瘍.潰瘍途中から急激にダウン方向へのアプローチが必要なことがわかる.

輪状咽頭筋の肛門側ではダウン方向へのアプローチが必要だが,輪状咽頭筋との干渉により,左右への動きが抑制されるうえにダウンアングル+左右アングルをかけても粘膜にアプローチができないことがある(Figure 3-C).このような場合には脱気をして粘膜を引き寄せるか,もしくは局注を多めにすることで粘膜面にナイフがアプローチできるようにするかの工夫が必要である(Figure 3-D,E).それでもナイフが接しない場合にはスコープを90度もしくは180度回転させ,ナイフが粘膜に接する位置にもってきて切開を行う.切開後の剝離も同様にアプローチが困難なことがあるが,局注を多めに行う,スコープを回転させるなどの工夫で対応できることがある.トラクション法の併用で剝離は容易となる(Figure 3-G,H).

また,頸部食道は管腔が狭いため,狭窄をきたしやすく,当科では1/2周以上の切除後周在性の場合には狭窄予防としてトリアムシノロン80mgを20mLに溶解して局所注射するようにしている 22),23.頸部食道の粘膜下層は他部位と比べて厚いため,剝離深度も深くしないことが狭窄予防の観点から重要と考える.

2.全周性病変

全周性病変ではまず肛門側を全周に切開し,深切りを済ませておく(Figure 4-B 1),14),24),25.深切りをしていないと,トンネルを作成した際に肛門側切開ラインを越えて剝離を進めてしまうことがあるので注意が必要である.引き続いて,口側の切開を行い(Figure 4-C),2,3本の粘膜下層トンネルを作成していく(Figure 4-D~F).口側へのトラクション維持のため,糸付きクリップを2,3本適宜使用している.トンネル作成時には,筋層を認識することが重要で,粘膜面に剝離を進めてしまうと深部断端陽性や脈管侵襲評価が困難となってしまうので注意を要する.また,トンネル内で出血をきたすと視野の確保が難しくなるため,慎重にプレ凝固を併用して剝離する.また,肛門側切開ライン認識のために,肛門側粘膜下層に色の濃い局注を行うと認識しやすくなる.トンネルが作成されたのちに,この間の粘膜下層を剝離して終了する(Figure 4-H).全周切除後には狭窄のリスクが極めて高く,剝離時にEndocutをできるだけ使用すること,また,ESD後の狭窄予防処置が必須である.

Figure 4 

全周性病変に対するESD.

A:胸部食道の全周性食道癌.

B:肛門側切開とトリミング.

C:口側切開とclip and snare methodでトラクション確保.

D:トンネルを作成,血管を露出させてpre凝固.

E:トンネル作成.

F:肛門側に到達.

G:トラクション法を複数箇所で併用.

H:トンネルの間の粘膜下層剝離.

I:全周切除後.

3.亜全周性病変

全周性病変は亜全周性病変と比べて狭窄が必須であり,狭窄解除にも複数回のバルーン拡張術を要する 22),23),26.このため,亜全周性病変では,できる限り全周切除を避けて,1条でも正常粘膜を残すことに努めるべきと考える 24.できる限り広く粘膜を残し,凝固が加わらないように心がけることで,狭窄のリスクを減らせる可能性がある.

まず,マーキングを通常よりも病変のすぐ外側におき,切開時にマーキングの最外側を触れるくらいに切開を行う(Figure 5-A,B).このような局面で正確な切開をできるように普段からナイフをコントロールできるように意識し,細かい操作を心がけることが大切である.周囲切開やトリミングでは,粘膜がたわんでしまうと正確な切開を行えなくなるため,粘膜が張っている最初に左右の縦切開をまず行う(Figure 5-B).この際に深めに切開すると,もう一方の縦切開時に粘膜の張りがなくなってしまうため,浅めに切開を行う.引き続いて口側の切開を行い(Figure 5-D),粘膜下層も多めに残すことを考えて,口側から切開ラインの内側付近に抜けていくように剝離+トリミングを行うように心がけている(Figure 5-E).その他の剝離に関しても,トラクション法を併用し,深くなりすぎないように,食道腺の下側を剝離し,粘膜下層をできるだけ残すことを意識する.こうすることで,狭窄のリスクを低減するだけではなく,狭窄予防のステロイド局所注射が容易となり,より効果的になる可能性があると考える.

Figure 5 

亜全周性病変に対するESD.

A:横方向のマーキングは病変のすぐ外側におく.

B:左右の縦切開をマーキングの最外側を意識して浅く切開.

C:粘膜下層を軽くトリミング.

D:口側の切開.

E:口側から切開ラインの内側付近に抜けていくように剝離+トリミング.

F:切除後.

4.瘢痕に接する病変

逆流性食道炎に伴う瘢痕,食道静脈瘤結紮術(Endoscopic variceal ligation:EVL)後の瘢痕,アルゴンプラズマ凝固療法,内視鏡的粘膜切除術(EMR),ESD後の瘢痕などを経験する 1),25),27.逆流性食道炎,EVL後の瘢痕は線維化が限局的なことが多く,周囲の線維化のない部位を剝離したのちに,線維化部位の両側の筋層を確認しながら,そのラインをつないでいくことで対応できることが多い.

EMR後の瘢痕は線維化がそれほど強くなく,筋層を認識しながら剝離を進めていくことができるが,ESD後の瘢痕は線維化が高度であり,面状に存在するため,筋層の認識も難しく,穿孔や粘膜面への切込みの可能性が高い.線維化のない部位があれば,そこから剝離を行って(Figure 6-B),筋層ラインをつないでいく(Figure 6-C,D),もしくは少し筋層を削りとるような意識でないと,粘膜面に切り込んでしまう.粘膜下層への潜り込みも難しいため,可能な限り,トラクション法を併用しながら,ショートSTフード(富士フイルム社)を使用し,FlushKnife NS(富士フイルム社)や Hook knife(オリンパス社)などより細いナイフを使用して剝離が必要な場合もある(Figure 7).広範囲なESD後でステロイド局所注射後などでは,筋層が欠損していることもあるため,常に穿孔を想定し,穿孔時の対応についても考慮しておく.穿孔時にすぐにクリップを使用すると,その後の剝離が困難になるため,可及的速やかに剝離を進めて,縫縮できるスペースを確保したうえでクリップ縫縮を行う(Figure 8-A,B).われわれは以前,clip and snare method with the pre-looping techniqueを応用した穿孔縫縮について報告しているが,クリップで縫縮が困難な場合にはPGAシート(グンゼ)の貼付やN-Gチューブ留置での絶食,外科手術も想定しておく(Figure 8-C~F 28),29

Figure 6 

ESD瘢痕に接する病変に対するESD.

A:病変の前壁から右側壁方向にESD瘢痕を伴う病変.

B,C:まず,線維化のない口側,後壁側の剝離を進める.

D:線維化部位ではFlushKnife NSの先端のスパークで少しずつ剝離を進める.

Figure 7 

Hook knife を用いたESD瘢痕病変に対するESD.

A:線維化の強い病変.

B:Hook knifeの背側を線維化部位にあててスパークでとっかかりをつくる.

C:Hook knifeを上記にひっかけ安全な方向に向けてナイフを抜いていく.

Figure 8 

穿孔時の対応.

A:剝離時に穿孔をきたした.

B:縫縮できるスペースを確保したうえでクリップ縫縮.

C:穿孔と複数箇所で筋層切込み.

D:PGAシートの貼付.

E,F:大きな穿孔に対してclip and snare method with the pre-looping techniqueを使用し,穿孔部位を寄せたのちにクリップ縫縮した.

5.CRT後

CRT後の遺残,局所再発病変に対して,深達度が粘膜下層までと考えられた場合に,Salvage ESDを行うことがある 1),25),27),30.粘膜下層内に腫瘍が残存している可能性を考慮し,マーキングは不染帯よりも広めに行う.CRT前の深達度が粘膜下層までの病変であった場合にはESD後ほどの線維化を認めず,粘膜下層を視認しながら剝離が可能である(Figure 9).CRT前の深達度が筋層以深の病変では強い線維化を認めることもある.しかし,線維化は限局的なことが多く,線維化のないもしくは弱い部位から剝離を行い,線維化部位では両側の筋層ラインをつなげることで完遂可能と考える.しかし,線維化が強い際には,腫瘍の粘膜下層から筋層への残存の可能性もあり,その場合にはESDでは完全切除が不可能なため,他治療への移行も考慮すべきと考える.

Figure 9 

CRT後の局所再発病変に対するESD.

A,B:CRT後局所再発病変.

C:軽度線維化は認めるが,粘膜下層はlifting可能.

D:トラクションをかけて粘膜下層を視認しながら剝離.

6.食道静脈瘤合併病変

肝硬変などの患者で食道静脈瘤を合併する食道癌では,術中出血を考慮すべきである.静脈瘤の形態にもよるが,可能であれば食道静脈瘤硬化療法(Endoscopic injection sclerotherapy:EIS)やEVLを試みる(Figure 10-A~C 1),25),27.EVLは病変から十分に離して行わないと線維化の原因となる.粘膜を吸引して行う手技であるため,予想以上に病変に近づく可能性を考えてEVLを行う部位を決める.しかし,これらの処置を行っても,静脈瘤の血流は残存していることが多く,また,その他の粘膜下層の血管も通常よりも太いことが多い.

Figure 10 

食道静脈瘤合併病変に対するESD.

A:食道静脈瘤に表在型食道癌を認める.

B,C:病変の肛門側の静脈瘤にEVLを施行.

D:病変の肛門側を浅く切開.静脈瘤の残存を認める.

E:Coagulasparを使用して静脈瘤の血流を遮断する.

F:口側から切開,剝離.

G:トラクション法を併用.

H:以前のEVLによる線維化を認める.線維化の少ない部位から筋層に平行に剝離する.

I:切除後.

ESD時にはまず,肛門側の切開を浅く行い,粘膜下層を露出したのちに,静脈瘤の血流を肛門側で遮断する(Figure 10-D,E).Coagulasparの側面を静脈瘤にできるだけ広く接地させ,ソフト凝固を行うと,静脈瘤がしぼんでいく.最後にしぼんだ静脈瘤を周囲の組織と一緒に把持してvessel sealingを行う.静脈は動脈と比べてコラーゲンが少ないため,sealingが難しいことがあり,周囲の組織と一緒に把持することでsealing可能となる.出血をきたした際にも焦らず,出血点ではなく,肛門側,口側の静脈瘤を周囲組織と共にsealingさせることを心がけて止血を行う.静脈瘤をプレ凝固したのちに,トリミングを行う.同様の作業を口側切開でも行い,静脈瘤の下の粘膜下層に潜り込んでしまえば,その後の剝離は通常と同様である.剝離後に剝離面,特に肛門側に血管が残存していないか確認し,追加凝固を行う.肝硬変患者では血小板減少,凝固系異常に伴う出血傾向に注意を要し,必要あれば血小板輸血などが必要になることもある.また,出血した場合に胃内の血液吸引が不十分であると肝性脳症などを併発するため注意する.

7.憩室にかかる病変

食道癌の好発部位から中部食道の憩室にかかることが多い 27.その場合には牽引性のRokitansky憩室であり,筋層が存在しているはずだが,実際には一部欠損していることも多い.このため,術前に超音波内視鏡検査で筋層の走行について確認を行っておくことが望ましい.その他のZenker憩室や横隔膜上憩室では筋層は欠損しており,どの程度憩室内に病変が存在するのか,内視鏡的アプローチは可能なのかも含めて治療適応について判断する必要がある.また,治療を行う際には穿孔部位の縫縮も含めてストラテジーをたてておく必要がある.

治療方針としては憩室にかからない部位から切開,剝離を進めていき,最後に憩室内の切開を行い,トラクション法で牽引しながら剝離を進める(Figure 11-A~C).筋層が欠損していれば,縦隔気腫の可能性が高いので,CO2送気は必須であり,できるだけ短時間に剝離を完遂し,速やかに縫縮する必要がある(Figure 11-D~F).

Figure 11 

憩室にかかる病変に対するESD.

A:病変の2時方向で憩室にかかる病変.

B:憩室にかからない部位から切開,剝離を進めていく.

C:トラクション法で牽引しながら剝離を進める.黄色矢印部位の筋層が欠損している.

D:剝離完遂後.

E:筋層欠損部位は粘膜下層のみ(矢印).

F:クリップで速やかに縫縮した.

8.食道胃接合部癌

食道胃接合部は生理的狭窄部であり,下部食道括約筋を乗り越えるため,操作が難しい場合がある 31),32.また,扁平上皮に接する病変では扁平上皮下進展が存在することがあり,内視鏡的診断が難しいために,側方断端陽性となる可能性がある.このため,われわれは口側1 cmマージンを広くとることで,完全切除できるようにしている(Figure 12-A 4),31

Figure 12 

食道胃接合部癌に対するESD.

A:口側マージンを1cm広くマーキング.

B:反転による病変の肛門側の切開,トリミング.

C:口側から切開,トリミング.

D,E:剝離時に筋層の走行に注意する.

F,G:トラクション法を併用すれば剝離は容易に.

H:食道腺(黄色矢印)を残さないようにその下側を剝離する.

I:切除後検体.

噴門部のアプローチが困難となることがあるため,肛門側の切開から行い,病変を食道側にシフトする.可能であれば順方向で,病変が胃側に存在し,順方向でのアプローチが難しい場合には反転して切開,トリミングを行う(Figure 12-B).その後は,通常の食道癌と同様の手順で,口側から切開,剝離を順次行う(Figure 12-C).蠕動が強いことが多いが,トラクション法を用いて,粘膜下に潜り込めば,剝離は比較的容易である.下部食道括約筋から噴門にかけて筋層がせりあがり,それを超えると胃内に落ち込んでいくため,筋層の走行をしっかりと認識することが,穿孔や粘膜面切込みを行さないために重要である(Figure 12-D,E).接合部から胃側の血管は食道の血管よりも太く,動脈も多いため,適宜プレ凝固を行いながら進める.

9.左側壁病変

左側壁を主座にする病変は重力の下側であり,水没をしやすいため,治療時間を要することがある 11.そのような場合には右側臥位とし,重力の位置を変更することで通常の治療と変わらなくなる.また,トラクションの併用や浸水下でのESDなどで対応可能と考える.

Ⅴ おわりに

食道ESD困難症例に対する対策について解説した.治療困難とされるような病変ではより偶発症のリスクが高く,穿孔に対しての対応や外科手術対応も想定,準備したうえで行う必要がある.基本的な手技の習熟,経験を積んだうえで困難症例に対するESDを考慮すべきであるが,無理をせず,High volume centerでの治療を考慮する.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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