GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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PROGRESSION OF RECTAL LYMPHOID FOLLICULAR HYPERPLASIA-LIKE LESIONS TO TYPICAL ULCERATIVE COLITIS: A CASE REPORT
Hidetaka OKUBO Mikiko FUJITARie KUREToshimitsu FUJIISyohei TOMIIMariko NEGIHiroshi IRIEKeisuke HATA
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2022 Volume 64 Issue 3 Pages 262-269

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要旨

症例は49歳男性.健診のFDG-PET検査で直腸に集積を認め,便潜血も陽性であり,全大腸内視鏡検査を施行した.直腸に限局する多発顆粒状粘膜を認め,病理組織では,非特異的な炎症所見であった.無症状のため経過観察していたが,5カ月後に軟便と腹痛が出現した.再度の内視鏡検査で,直腸の多発細顆粒状粘膜に加え,直腸から脾彎曲部に連続する粗造粘膜及び虫垂開口部周囲にもびらんを認めた.病理組織では,腺管密度や杯細胞の数が減少し,多彩な炎症細胞浸潤をびまん性に認め,左側大腸炎型潰瘍性大腸炎と診断した.本症例は,潰瘍性大腸炎の初期病変からの悪化,口側伸展が観察された貴重な症例であり,鑑別診断を含めて報告する.

Ⅰ 緒  言

近年,症例報告の増加とともにリンパ濾胞過形成様病変やアフタ様病変が潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の初期病変のひとつである 1)~4ことが認識されるようになってきている.しかし,直腸にリンパ濾胞過形成様の多発顆粒状粘膜を呈する場合は鑑別疾患も多く,また典型的なUC像と異なることから診断に難渋する症例も多い.今回われわれは,無症状の直腸多発顆粒状粘膜から半年の経過で典型的なUCへと進展した1例を経験したため,若干の文献的考察を含めて報告する.

Ⅱ 症  例

症例:49歳 男性.

主訴:なし.

既往歴:Helicobacter pylori菌除菌(47歳).

家族歴:特記事項なし.

内服薬:AGA治療薬.

生活歴:喫煙;15本/日,飲酒;なし.

現病歴:当院の健診で施行したF-18 fluorodeoxyglucose positron emission tomography(FDG-PET)で直腸に高度のFDG集積(SUVmax13.0)と骨盤左側のリンパ節に淡いFDG集積を認めた.また便潜血陽性(1/2)であり,健診から1カ月後に全大腸内視鏡検査による精査を施行した.

受診時現症:身長169.9cm,体重61.5kg,体温36.6℃,脈拍71/分,整,血圧117/75mmHg,表在リンパ節触知せず,呼吸音清,心雑音なし,腹部平坦,軟,圧痛なし,下腿浮腫なし.

初回血液検査所見:WBC 5,070/μl,Hb 13.6g/dl,Plt 31.0×104/μl,TP 7.2g/dl,Alb 4.4g/dl,高感度CRP 0.031mg/dlと炎症反応の上昇はなく,低蛋白血症や貧血はみられなかった.

初回全大腸内視鏡検査所見(Figure 1):下部直腸(Rb)に限局し,リンパ濾胞過形成様の多発顆粒状粘膜を認めた.背景粘膜は一部発赤を認めたが,虫垂開口部病変や非連続性病変は認めなかった.

Figure 1 

初回の全大腸内視鏡検査像.

a:直腸上部と比較し,直腸下部に顆粒状小隆起が広がっている.

b:直腸下部に限局して顆粒状小隆起が多発している.

c:肛門側になるにつれて,顆粒状隆起が明瞭となる.背景粘膜は浮腫状で,一部発赤を伴っている.

d:盲腸は血管透見が保持されており,虫垂開口部周辺には炎症所見を認めない.

初回病理組織学的所見(Figure 2):直腸病変部からの生検では陰窩の配列異常があり,上皮下に成熟したリンパ球,好中球,形質細胞,好酸球と多彩な細胞浸潤を認めたが,陰窩膿瘍や肉芽腫はみられず,非特異的な炎症所見であった.リンパ腫を疑うようなmonoclonalityはなく,クラミジア感染を示唆するような封入体などの感染体も認めなかった.

Figure 2 

初回の病理組織学的所見.

HE染色(強拡大).粘膜にはびらんと再生性変化があり,上皮にはgoblet cell depletionがみられ,cryptの配列異常を認める.

臨床経過:病理学的には高度の炎症であったが,無症状で内視鏡所見も軽度であったことから本人と相談の上,慎重に経過観察の方針となった.初回内視鏡から4カ月後より4~5行/日の軟便と腹痛及び残便感があり,近医を受診し,整腸剤を処方されたが改善なく,精査が望ましいと判断され,紹介となった.

 第2回全大腸内視鏡検査所見(Figure 3):初回検査と同様に直腸に多発の顆粒状隆起を認めたが,粘膜浮腫を伴い,隆起はやや平坦化していた.病変の範囲が口側腸管へ伸展しており,直腸から脾彎曲部に連続して,膿性粘液と小びらんを伴う血管透見像が消失した粗造粘膜を認めた.また,虫垂開口部周囲に微小なびらんの集簇を認めた.

Figure 3 

2回目の全大腸内視鏡検査像.

a:直腸下部に大小不同の顆粒状隆起を認める.初回内視鏡と比較し,粘膜浮腫が目立ち,膿性粘液の付着を認める.

b:自然出血を伴う血管透見像が消失した粗造粘膜が直腸から脾彎曲部まで連続している.

c:虫垂開口部病変.限局した浮腫と細顆粒状粘膜を認める.

第2回病理組織学的所見(Figure 4):直腸から下行結腸にかけての生検病理組織像では腺管密度や杯細胞の数は減少し,形質細胞,リンパ球,好中球,好酸球が混じた多彩な炎症細胞浸潤をびまん性に認めた.また陰窩炎,陰窩膿瘍も伴っていた.虫垂開口部周囲のskip lesionも同様の所見であったが,横行結腸や上行結腸の生検では炎症細胞浸潤は目立たなかった.

Figure 4 

2回目の病理組織学的所見(直腸生検).

HE染色(強拡大).腺管密度や杯細胞の数は減少しており,形質細胞,リンパ球,好中球,好酸球が混じた多彩な炎症細胞浸潤をびまん性に認める.陰窩炎,陰窩膿瘍,basal plasmacytosisを認める.

血液検査所見2:血液検査ではWBC 6,500/μl,Hb 14.2g/dl,Plt 38.9×104/μl,TP 7.2g/dl,Alb 4.1g/dl,CRP 0.11mg/dl,赤沈20mm/hとわずかな炎症反応を認めた.

診断・治療:典型的なUCの内視鏡所見で病理所見も活動期UCに矛盾しない所見であることから左側大腸炎型UC軽症と診断し,5-ASA 4,800 mgで加療開始となった.

Ⅲ 考  察

近年の複数の報告により,UCの初期像として典型的な所見を呈さず,リンパ濾胞過形成様病変やアフタ様病変,不整形びらんといった多様な初期病変が存在することが明らかになってきた 1)~4.しかし,UCの初期病変の内視鏡像は,いまだ十分に認識されておらず,本症例も病理組織学的には高度の炎症細胞浸潤を認めたものの,内視鏡所見との乖離から初回内視鏡検査ではUCと診断困難であった.

UCでアフタ様病変が出現する頻度は2.6~3.6% 5と比較的まれであるが,直腸連続性病変のみの典型例も27.7%にすぎなかったとの報告1)もあり,UCの初期内視鏡像は多彩であると考えられる.

本症例は初回検査から症状出現までは約半年であり,2度目の内視鏡検査では虫垂開口部周囲に不整形の小びらんが出現しており,病変範囲も直腸から下行結腸へと伸展していた.医学中央雑誌で「潰瘍性大腸炎の初期」及び「潰瘍性大腸,リンパ濾胞過形成」,PubMedで「“initial lesions of ulcerative colitis”」「ulcerative colitis,lymphoid follicular hyperplasia」をkeywordに2000年~2021年の期間で検索し,初期病変として直腸のリンパ濾胞過形成様病変のみを認め,典型的なUCに進展した症例を抽出すると自験例を合わせて10例であった(Table 1 2),6)~10.直腸に限局するリンパ濾胞過形成様病変からUC典型例へ進展するまでの期間は6カ月から54カ月と報告により幅があるが,平均は16.5カ月であり,本症例は比較的短い期間での進展であった.また,UCの初期病変として虫垂開口部病変は68.8%に認められ,直腸顆粒状粘膜を呈したUCの77.8%に虫垂開口部病変が併存していたとの報告 1があるが,本症例は初回内視鏡では虫垂開口部病変を認めなかったものの,2回目の内視鏡では虫垂開口部病変を認めており,直腸の病変だけでなく,虫垂開口部を含めて全大腸の入念な観察が重要である.また病変の口側伸展に関して,UC直腸炎型から28~30%が左側大腸炎型に,14~16%が全大腸炎型に伸展する 11と報告されているが,今回集計した症例のうち確認できた8例中2例(25%)で口側伸展を認めた(Table 1 2),6)~10

Table 1 

直腸に限局するリンパ濾胞過形成様病変から潰瘍性大腸炎の典型像へ進展した文献報告のまとめ.

なおHayashiら 12は,単施設のコホート研究でUCの初期像と考えられる急性炎症性細胞浸潤を伴い内視鏡的にも頂部に顆粒状変化やびらんを伴う直腸アフタ様病変をリンパ濾胞性アフタ病変(lymphoid follicular aphthous;LFA)と定義し,13例中11例(84.6%)が平均15.5カ月(2~51カ月)で典型的なUC像を呈し,7例(53.8%)が口側伸展を認めたと報告している.また直腸LFAより典型的なUCに進行した場合は,内科的な治療に難渋する可能性 4),12が指摘されている.UCにおいては早期の治療介入が病変範囲の伸展を予防するか否かは明らかになっていないが,UCの初期病変を疑う所見を認めた場合は適切な鑑別診断を行い,患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を損なわないよう最適な治療開始時期を判断する必要がある.

直腸に限局するリンパ濾胞過形成粘膜を認めた場合の鑑別疾患として,潰瘍性大腸炎の初期病変の他,直腸粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue;MALT)などの悪性リンパ腫,クラミジア直腸炎,リンパ濾胞性直腸炎(lymphoid follicular proctitis;LFP)が挙げられ,内視鏡的な鑑別はしばしば困難である.B細胞悪性リンパ腫のうち,濾胞性リンパ腫,マントル細胞リンパ腫,MALTリンパ腫では,粘膜下腫瘍様の類円形隆起が多発したポリポーシス形態を呈することがあり,多発リンパ腫性ポリポーシス(multiple lymphomatous polyposis;MLP)と称される 13.個々の隆起は大小不同で,癒合が高度であり,その分布は不均一であるとされる 13.特に直腸ではMALTリンパ腫の報告が多く,多発顆粒状や単発,結節状の形態を呈するなど隆起形態は様々であるが,背景粘膜は炎症を伴わないとされる.診断においては,IgH遺伝子の再構成の評価といった遺伝子検査を併用することが有用とされるが 14,異型性のあるリンパ腫細胞の増生やリンパ上皮病変(lymphoepithelial lesion;LEL)を伴った浸潤,monoclonalityといった病理学的に特徴的な所見を呈さず,診断に難渋する例もあるため生検の反復 14や内視鏡的粘膜切除術(EMR)で十分量の検体採取が必要な場合がある 15.クラミジア直腸炎はC. trachomatisが直腸粘膜に感染する性感染症で,若い女性に多く,比較的長期に粘血便や腹痛といった症状を引き起こす.内視鏡所見では下部直腸に半球状隆起が集簇する,いわゆる「イクラ状粘膜」が典型所見 13とされるが,その頻度はクラミジア直腸炎のわずか10.7%との報告がある 16.むしろ小隆起や発赤,アフタのみといった非典型所見を呈する場合が多い 16とされ,内視鏡所見のみでは診断が難しいことも多い.組織学的には非特異的なリンパ濾胞炎がみられるのみであり,確定診断には,病変部の擦過検体を用いた抗原検査や擦過及び生検検体によるPCR法によりC. trachomatisの存在を証明する必要がある 17.LFPは1988年にFléjouら 18が提唱した概念で,正常な粘膜を背景として直腸に限局する多発の顆粒状,小結節状粘膜を特徴とし,病理学的にはリンパ濾胞過形成が中心で,好中球や好酸球といった急性炎症細胞浸潤を認めないと定義されている.報告された当時は十分な鑑別がなされていなかったという否定的な意見 14があるものの,十分な除外診断のもと5年以上LFPとして経過観察していた報告 19HP除菌で改善した報告 20,リンパ腫やクラミジアなどの感染,UCの初期病変(関連病変)を適切に除外することで純粋なLFPが分類可能であったという報告 21もあり,LFPはひとつの疾患概念として認識されている.時にUCの初期病変とLFPとの鑑別が問題になることがあるが,LFPと異なり,背景粘膜を詳細に観察すると発赤や小黄色斑を伴う塑造粘膜や顆粒状の隆起が不均一であったり,癒合傾向を示すなど炎症を反映した粘膜所見が観察されたりすることが多い 10とされ,本症例も初回内視鏡所見を見直すと背景粘膜の一部に発赤を伴っており,炎症性変化を反映したものと考えられた.藤田ら 22は,UC初期病変の内視鏡所見では全例血管透見像が不明瞭で,色素内視鏡検査で微細な粘膜欠損があり,これらはLFP群ではみられなかったと報告しており,アフタ様病変を呈した初期像との鑑別に有用な可能性がある.

Ⅳ 結  語

内視鏡検査で直腸にリンパ濾胞過形成様病変を認めた場合,適切な鑑別のもとUCの初期像の可能性を考慮し,背景粘膜の発赤やびらんなどの急性炎症所見の有無や副病変の存在がないかを丁寧に観察する必要がある.特に多発顆粒状粘膜に炎症細胞浸潤を伴う場合にはUCの初期病変をみている可能性が考えられ,他にUCの内視鏡所見がその時点でみられない場合にもその後の症状の出現や悪化に注意し,慎重な経過観察が不可欠である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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