2022 Volume 64 Issue 3 Pages 270-276
症例は65歳,男性.胆囊管癌に対して胆囊床肝切除,肝外胆管合併切除,Roux-en-Y再建術後に胆管・空腸吻合部の局所再発による閉塞性黄疸と挙上空腸閉塞に対してEUS-guided hepaticogastrostomyおよびEUS-guided transmural drainageを施行し,良好なドレナージが得られた.
癌再発による小腸閉塞に伴う病態は外科的介入による生存率やQOLの向上が得られることが困難な例が多く,可能であれば低侵襲な内瘻化が望ましい.本例はEUSガイド下ドレナージによりQOLの向上が得られた.今後,同様の症例に対して,処置具の適応拡大や専用処置具の開発が期待される.
癌再発に伴う小腸閉塞に対する外科的介入は生存率の改善をもたらさないため 1)~3),可能な限り低侵襲治療が望ましい.なかでも内視鏡的治療が果たす役割は大きい.
今回,われわれは,胆囊管癌術後に胆管・空腸吻合部の局所再発に伴う閉塞性黄疸と挙上空腸の閉塞に対して超音波内視鏡検査(EUS)ガイド下ドレナージを施行し,内瘻化による良好なドレナージ効果とともにクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上が得られた1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
患者:65歳,男性.
主訴:発熱,黄疸,心窩部痛.
既往歴:なし.
現病歴:2016年2月に近医にて急性胆囊炎に対して腹腔鏡下胆囊摘出術を施行された.術後病理組織検査により胆囊管癌を指摘され,3カ月後に当院外科を紹介となった.血液検査ではがん胎児性抗原(CEA)は3.4ng/mLであった.精査後に胆囊床肝切除,肝外胆管合併切除,胆管・空腸吻合術,Roux-en-Y再建を施行された.術後病理組織診断はGnC,flat-infiltrating type,circ,tub1,pT3b,int,INFb,ly1,v0,ne3,pN1(#12b),pDM0,pHM1,pEM1,pPVX,pAX,pT3bN1M0,pStage Ⅲb(胆道癌取扱い規約第6版) 4)と診断された.R1切除であったため,術後化学療法としてTegafur/Gimeracil/Oteracil(TS-1;大鵬薬品,東京)(120mg/日,4週投与2週休薬)の内服を開始された.流涙の出現により,6コース目から100mg/日へ減量投与となった.術後18カ月目に施行された腹部造影CT検査により,胆管・空腸吻合部に腫瘤が認められ,両側肝内胆管と挙上空腸の拡張もみられた.同時期にCEAが151.1ng/mLと著明に上昇していることから胆囊癌局所再発として矛盾がないと診断された.二次化学療法の導入を予定されていたが,入院1週間前から心窩部痛が出現し,発熱と黄疸も出現したため,精査加療目的に当科に紹介入院となった.
入院時現症:身長 172.2cm,体重 54.7kg,体温 38.2℃,血圧 112/65mmHg,脈拍 64/min.眼瞼結膜:貧血なし,眼球結膜:黄染あり,腹部:心窩部は膨満し,弾性軟で鼓音を呈し,軽度の圧痛を有していた.四肢:浮腫なし.
入院時血液検査:炎症反応(WBC 8,900μL,CRP 9.5mg/dL)と肝胆道系酵素(T/D-bil 5.2/3.5 mg/dL,AST/ALT 64/78IU/L,γ-GT/ALP 930/1,904IU/L),CEAの上昇(CEA 151.1ng/mL),アルブミンの低下(Alb 3.0g/dL)を認めた.
腹部造影CT所見(Figure 1):胆管・空腸吻合部に不均一な造影効果を有する腫瘤を認めた.腫瘤により挙上空腸の盲端,さらに吻合部の肛門側にもループ状の腸管拡張がみられた.また,両側肝内胆管の拡張も認めた.
入院時腹部造影CT検査所見.
a:拡張した挙上空腸を認めた.
b:胆管と空腸の吻合部に不均一な造影効果を有する腫瘤を認めた.
入院後経過(Figure 2):血液とCT検査所見より胆囊管癌局所再発による閉塞性黄疸,急性胆管炎(Tokyo guidelines(TG18) 5):中等症)と診断した.腹部膨満は挙上空腸閉塞による腸液貯留に伴う症状と診断した.いずれも経皮的ドレナージや小腸内視鏡あるいはEUSガイド下ドレナージの適応と考えられた.十分なインフォームドコンセントの下,一期的な内瘻化希望と小腸鏡に比べ,手技時間がより短時間である可能性より,EUSガイド下ドレナージを承諾された.なお,拡張空腸に対するEUSガイド下ドレナージに際しては当院倫理委員会の迅速審査で承認を得た.
入院後経過.
まず,閉塞性黄疸に対して,入院第3病日にEUSガイド下胆管胃吻合術(EUS-guided hapaticogastrostomy:EUS-HGS)を施行した.コンベックス型EUSを用いて,拡張したB3胆管を同定し,19G穿刺針で穿刺を行った.胆汁の吸引を確認した後,ガイドワイヤ(VisiGlide 2;0.025インチ,アングル型,オリンパス社,東京)をB3から吻合部狭窄を突破させ,最終的に拡張した挙上空腸内に留置した.次いで,瘻孔部を内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)カテーテル(no. 0120211;MTW-Endoskopie社,Wiesel,Germany)を用いて拡張した後,プラスチックステント(plastic stent:PS)(Through & PassⓇ TYPE ITTM;7 Fr,有効長15cm,ガデリウス・メディカル株式会社,東京)を留置した(Figure 3).留置後に肝右葉に胆道気腫がみられたため,両葉に対するドレナージ効果が得られたと判断した.EUS-HGSのステント先端部は拡張空腸内に位置しており,空腸のドレナージ効果も得られる可能性があると判断した(Figure 3).しかし,拡張した挙上空腸の改善はEUS-HGSのステントのみでは得られず,入院第9病日にEUSガイド下経消化管ドレナージ(EUS-guided transluminal drainage:EUS-TD)を施行する方針とした.十二指腸球部より吻合部肛門側の拡張腸管を描出し,EUS-HGS同様に19G穿刺針により穿刺後,ガイドワイヤを留置した.ERCPカテーテルによる瘻孔拡張が困難であったため,ESダイレーター(ソフトタイプ,ゼオンメディカル株式会社,東京)により拡張を施行したものの,ERCPカテーテルの通過は困難であった.Soehendra biliary dilation catheter(7 Fr,Cook Medical,Bloomington,USA)による追加拡張も困難であり,Cysto-Gastro-Set(6 Fr,Endo-Flex社,Voerde,Germany)による通電拡張を行い,PS(Through & PassⓇ Double PigtailTM;7 Fr,ループ間7cm,ガデリウス・メディカル株式会社,東京)を留置した.排液性状は黄色透明であった.胃体中部大彎からのEUSでの観察では挙上空腸の盲端に拡張が残存し,内部に残渣を認めたため,経胃的と同様の手技でPS(Through & PassⓇ Double PigtailTM;7 Fr,ループ間7cm,ガデリウス・メディカル)を留置し,黄緑色調の混濁した排液を確認した(Figure 4,5).入院第9病日のEUS-TD施行直後より腹部膨満と心窩部痛は消失した.なお,入院第22病日には総ビリルビン値は正常化した.その後,入院第26病日に嘔吐が出現し,腹部CT検査により腫瘍の十二指腸浸潤によるgastric outlet obstructionと診断した.消化管ステント留置術の方針とし,十二指腸下行脚に金属ステント(Niti-S胃十二指腸用コンビステント,22mm,8cm,Taewoong Medical社,Gimpo,韓国)を留置した(Figure 6).十二指腸ステントの留置後は固形物摂取が可能となった.
腹部単純X線検査所見.
EUSガイド下胆管胃吻合術によりプラスチックステント(Through & PassⓇ TYPE ITTM;7 Fr,有効長15cm)を留置した.
超音波内視鏡およびEUSガイド下経消化管的ドレナージ所見.
a:挙上空腸の盲端の拡張と内部に残渣を認めた.
b:十二指腸球部からプラスチックステント(Through & PassⓇ Double PigtailTM;7 Fr,ループ間7cm)を留置し,緑黄色の混濁した排液を確認した.
腹部単純X線検査所見およびシェーマ.
EUSガイド下経消化管的ドレナージにより追加留置したプラスチックステント(Through & PassⓇ Double PigtailTM;7 Fr,ループ間7cm)を胃体中部大彎と十二指腸球部から各々留置した.
腹部単純X線検査所見.
入院第29病日に十二指腸ステント(Niti-S胃十二指腸用コンビステント,22mm,8cm,矢印)を留置し,第42病日に挙上空腸に金属ステント(BONASTENT;10mm,6cm,矢頭)を追加留置した.
入院第40病日頃より発熱を認め,腹部CT検査で挙上空腸盲端部の拡張再燃を認めた.ドレナージの強化が必要と考え,再度当院倫理委員会の迅速審査を経て,金属ステント留置を行う方針とした.入院第42病日にフルカバータイプの金属ステント(BONASTENT;10mm径,6cm,Standard Sci Tech社,Seoul,韓国)をPSの脇から追加留置した.治療後より腹部症状が改善し全身状態も良好となったため,翌月からゲムシタビン塩酸塩(Gemcitabine hydrocholoride:GEM)単剤(1,500mg/body)による二次化学療法を導入し,退院した.GEM単剤2コース終了時点で進行の判定となり,以降はbest supportive careの方針となった.退院2カ月後から発熱,3カ月後には黄疸が出現し,腹部CT検査によりEUS-HGSのPS閉塞が確認され,当科再入院の上で同型のPSの交換を行い(Through & PassⓇ TYPE ITTM;7 Fr,有効長14cm,ガデリウス・メディカル),入院第4病日には退院とした.退院3カ月後,全身状態が悪化し,永眠された.
進行胆囊癌の外科治療成績は不良であり,腹腔鏡下胆囊切除後のpT2・pT3胆囊癌のうち約47%で再発を認めたとの報告があり 6),特に,本例のようなTstageが高い症例は外科切除率や切除後の5年生存率とも低く,予後不良である 7)~10).小腸閉塞を呈した場合,嘔気や嘔吐,疝痛といった特徴的な症状や腹部膨満,圧痛を認める.癌再発に伴う小腸閉塞に対する外科的介入は,症状緩和はおろか生存率の改善も乏しい 1)~3).R0切除が難しく再発率の高い胆道癌において,再発に伴う挙上空腸の閉塞は想定されうる病態であるが,有効な治療法の報告は少ないのが現状である.
このような外科的介入が困難な例に対し,内視鏡的ドレナージは有効な可能性がある.本例では治療方針に関して利点,欠点を患者,家族に説明し選択していただいた.EUS-HGSの利点としては完全内瘻化が可能であること,EUS-TDの利点として腸液喪失がないことを説明した.EUS-HGSの欠点としては胆汁の腹腔内への漏出,EUS-TDの欠点としてはステントの迷入,逸脱や腸液の腹腔内への漏出,金属ステントによる腸管穿孔といったリスクがあることを説明した.
閉塞性黄疸に対する治療としてEUS-HGSを選択された.また,小腸閉塞に対してもEUS-TDを選択され,いずれも良好なドレナージ効果が得られた.医学中央雑誌とPubMedにより2000年10月~2020年10月までの期間中,小腸閉塞(small bowel obstruction)とEUS下経消化管ドレナージ(EUS-TD),ないしgastrojejunostomyやgastroenterostomyをキーワードに検索を行ったところ,輸入脚症候群や胃・膵・胆道癌によるgastric outlet obstructionに対する内視鏡的ドレナージ・バイパス術の報告は散見された 11)~13)が,同様の症例の報告はなかった.
なお,本例はEUS-HGS,EUS-TDの初回ドレナージとしてPSを用いた.本邦の診療ガイドライン 13)ではEUS-HGSに際して,PSではステントに沿って瘻孔からの胆汁漏をきたす危険性があるためカバー付き金属ステントの使用が推奨されてきたが,近年,EUS-HGS専用のPSの有用性が報告されつつある 14).専用PSは細径であることから瘻孔拡張が最低限で済むこと,留置後の胆汁漏出の可能性が低いこと,肝内胆管枝を閉塞させないといった利点がある.金属ステントと比較してPSの長期開存は望めないが,瘻孔形成後に抜去交換は可能であり,症例に応じて金属ステントへの変更を考慮するといった方針も許容できる.本例ではEUS-HGSとしてPSの留置を行い,逸脱や胆汁漏といった合併症は生じなかった.また,両葉のドレナージ効果も得られた.EUS-TDとしてはまずはPSの留置を行い,追加留置の際に金属ステントを用いた.金属ステント留置に伴い逸脱や迷入の偶発症のリスクがあるが,本例はPSによる瘻孔形成した後に金属ステントの追加留置を行うことで逸脱や迷入はきたさなかった.金属ステントの先端による腸管損傷や穿孔のリスクも考慮されたが,リスクも説明した上でドレナージ効率の改善を図るため金属ステントを留置することを患者が希望し,当院倫理委員会の同意を得た.
なお,小腸閉塞に対しても同様にPSを用いたが,約2カ月で閉塞が生じており,こちらに対しては満足すべき結果は得られなかった.腸管内の残渣が多い場合にはPSの短期閉塞が懸念されるため,初回留置時より金属ステントの使用が望ましいと考えられる.近年,小腸閉塞の病態の1つである輸入脚症候群に対して管腔と管腔を引き寄せ,瘻孔を作成するという新たな処置具である内腔対向金属ステント(lumen-apposing metallic stent:LAMS)を用いた EUS-guided gastrojejunostomyの有用性が報告がされている 15).本例のような病態に対しても,保険適応が得られたならば非常に有用な治療法となる可能性がある.
本例は複雑な病態に対してEUSガイド下ドレナージを駆使して外瘻を回避し,閉塞までの3カ月間を自宅で生活することが可能であった.
胆囊管癌術後再発による閉塞性黄疸および空腸閉塞に対し,EUS-HGSおよびEUS-TDが有用であり,外瘻に比しQOLの向上が得られた1例を経験した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし