GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
DISTANCE ESTIMATION ACCURACY OF A NOVEL THREE-DIMENSIONAL ENDOLUMINAL ENDOSCOPIC SYSTEM
Manabu HARADA Ryoichi YAMAKAWAKunihiro KAWAUCHISatoru NYUZUKIMasaya IWATA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 64 Issue 3 Pages 277-283

Details
要旨

【目的】立体感や距離感の認識における3D内視鏡の有用性を検討する.

【方法】12名の術者が30mm,50mm,100mmの距離からテーブルに立てた70mmの鍋ネジを把持鉗子で掴めるか最大5回まで繰り返した.①初回の成功率②5回以内の成功率を,2D内視鏡を施行した2D群と3D内視鏡を使用した3D群で比較検討した.

【結果】初回の成功率は,30mm(2D群8.3%,3D群50.0%),50mm(2D群0%,3D群54.5%),100mm(2D群0%,3D群36.4%)であった.5回以内の成功率は,30mm(2D群75.0%,3D群100%),50mm(2D群63.6%,3D群100%),100mm(2D群45.5%,3D群90.9%)であった.いずれも3D群で成功率は高い傾向であり,50mmの距離における初回成功率は3D群で有意に高かった(P<0.05).

【結論】3D内視鏡は立体感や距離感の認識において2D内視鏡より有用な可能性があると考えられた.

Ⅰ 緒  言

テレビや映画など様々な分野で3D画像が使用される機会が増えてきたが,上部消化管内視鏡検査において従来用いられる内視鏡画像は2次元画像であり,立体感がないため距離を正確に認識することは困難である.

オリンパス株式会社より3D内視鏡(GIF-Y0080,Figure 1)が開発され,まだ開発段階ではあるが3D画像により立体感をより正確に認識することが可能になると期待される.GIF-Y0080は先端外径12.2mm,挿入部最大径14.1mm,鉗子チャンネル径2.8mm,の仕様となっており,内視鏡の先端に右眼用と左眼用の2つのカメラを搭載することで3D観察が可能となっている(Figure 2).右眼画像と左眼画像が画像処理装置で合成され,3Dモニターに映し出される.観察者はモニターの正面で3D眼鏡をかけて観察することで立体観察が可能となる(Figure 3).

Figure 1 

3D内視鏡システムGIF-Y0080(オリンパス株式会社).

Figure 2 

GIF-Y0080の先端画像.

3D観察を可能とするため,内視鏡の先端に右眼用と左眼用の2つのカメラが搭載されている.

Figure 3 

3D内視鏡システムによる立体観察.

観察者は専用モニターの正面で3D眼鏡をかけて観察することで立体観察が可能となる.

立体感や距離感の認識における3D内視鏡の有用性を検討する.

Ⅱ 対象・方法

テーブルの上に70mmの鍋ネジを内視鏡の先端から30mm,50mm,100mmの位置に立て,内視鏡医5名,初学者7名(医師3名,看護師4名)の計12名の術者がそれぞれの距離から正確に把持鉗子で掴めるかどうか2D内視鏡,3D内視鏡の順番で最大5回まで繰り返した(Figure 4).①初回の成功率②5回以内での成功率(5回実施して1度でも成功した術者の割合),について2D内視鏡を用いた2D群と3D内視鏡を用いた3D群との両群で比較検討した.2群間の比較検討においては,Chi square testを用いて,P<0.05を有意差ありとした.なお,50mmと100mmの距離では内視鏡医1名の術者が立体観察をできず11名での施行となった.

Figure 4 

100mmからの距離.

テーブルの上に70mmの鍋ネジを立て,12名の術者(内視鏡医5名,初学者7名)が正確に把持鉗子で掴めるかどうか最大5回まで繰り返した.

3D観察専用のモニターと眼鏡がない状況では,左眼用と右眼用の2画像を横に並べて,裸眼で立体視する裸眼立体視法を行うことで立体画像を観察することができる(Figure 56).

Figure 5 

50mmの距離.

左眼用と右眼用の2画像を横に並べて,裸眼で立体視する裸眼立体視法を行うことで立体観察することができる.

a:左眼用写真.

b:右眼用写真.

Figure 6 

50mmの距離.

初回の成功率は3D群で有意に高く,5回以内での成功率は3D群で高い傾向であった.

a:左眼用写真.

b:右眼用写真.

Ⅲ 結  果

30mm,50mm,100mmの距離における初回および5回以内での成功率をTable 1に示す.

Table 1 

30mm,50mm,100mmの距離における初回および5回以内での成功率.

30mmの距離における初回の成功率は2D群8.3 %(内視鏡医0%,初学者14.3%),3D群50%(内視鏡医60%,初学者42.9%),5回以内での成功率は2D群75%(内視鏡医80%,初学者71.4%),3D群100%(内視鏡医100%,初学者100%)であった.初回施行時および5回以内での成功率は,両群間で有意差は認められなかったが内視鏡医と初学者ともにいずれも3D群で高い傾向であった.

50mmの距離における初回の成功率は2D群0%(内視鏡医0%,初学者0%),3D群54.5%(内視鏡医50%,初学者57.1%),5回以内での成功率は2D群63.6%(内視鏡医50%,初学者71.4%),3D群100%(内視鏡医100%,初学者100%)であった.初回の成功率は3D群で有意に高く(P<0.05),5回以内での成功率でも3D群で高い傾向が認められた.

100mmの距離における初回の成功率は2D群0 %(内視鏡医0%,初学者0%),3D群36.4%(内視鏡医25%,初学者42.9%),5回以内での成功率は2D群45.5%(内視鏡医0%,初学者71.4%),3D群90.9%(内視鏡医100%,初学者85.7%)であった.初回施行時および5回以内での成功率は,両群間で有意差は認められなかったがいずれも3D群で高い傾向であった.

Ⅳ 考  察

鏡視下手術の分野においては,従来使用されている2次元腹腔鏡観察では解剖学的知識や経験などから奥行きの判断をしているため,複雑な手術操作では安全性や確実性の点で問題となることがある 1.そのため,初心者でも深度感覚を術者に正確に伝えることでより安全に手術を行えるようにと,1990年代から3次元視硬性内視鏡の開発が行われるようになった 2),3.その後,3Dシステムは各外科領域の内視鏡手術において実際の臨床の場でも使用されるようになり 4)~6,大内田ら 7は200症例以上の使用経験からその有用性や安全性を報告している.

上部消化管内視鏡の分野においては,1970年に筒井ら 8により立体胃カメラを使用した胃内病変の立体観察について報告されている.その後ステレオ式電子内視鏡が試作され 9,三次元データの計測における有用性も報告されたが 10),11,現在に至るまで実際の臨床の場で実用化されていない.

筆者らは2010年から通常内視鏡画像を使用し,非リアルタイムで3D画像を作製し観察を行い,その有用性を検討し報告してきた 12)~15.内視鏡検査時にわずかに離れた位置から撮影した2枚の狭帯域光観察(Narrow band imaging:NBI)拡大画像を用いて,2次元射影変換の公式を用いて補正して得られた画像を裸眼立体視法とアナグリフ法により立体観察を行った 16.3D画像の観察は2D画像では気づきにくい凹凸を容易に指摘することができ,リアルタイムに3D画像を得ることができる3D内視鏡の開発を期待していたが,このたびGIF-Y0080を使用する機会が得られた.

本検討において3D内視鏡を実際に使用したところ,実際に目標物を把持することができた成功率は,いずれも3D内視鏡を使用したケースの方が好成績であった.従来の2D内視鏡を用いた場合,目標物まで比較的近いと思われる30mmの距離においても初回で正確に把持することができたのは12人中わずか1名(8.3%)であった.また,内視鏡医と初学者との比較では,内視鏡医が初学者より成功率が高かったのは30mmの距離での5回以内の成功率のみであり,2D画像では例え近い距離であっても正確な距離は把握しにくく,内視鏡経験を重ねたとしても立体的な距離を正確に認識することは困難である可能性が示唆された.

臨床における3D内視鏡の有用性としては,2D内視鏡使用時と比較してより正確に立体感を認識できることから,例えば内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)など治療の場面においてより速く正確に処置を行うことができる可能性が考えられ,実際に鏡視下手術の分野では3D内視鏡使用時に有意に手術時間が短縮したという報告が認められる 17)~19.同様に軟性鏡においても3D内視鏡を用いることで処置がスムーズになることが期待され,ESD施行時には奥行き感覚が強調されることで安全に施行できるとの報告が認められ 20),21,Higuchiら 22は特に経験の少ない研修生においては技術的エラーを減らし安全性が向上すると報告している.筆者らは3D内視鏡を用いて早期胃癌5例に対して実際にESDを施行し,立体情報を得られることで特に見下ろしでの処置において3D内視鏡の有用性が高いと報告したが 23,経験症例は少なく内視鏡治療における3D内視鏡の有用性に関して今後さらなる検討が必要と考えられる.

診断の場面においては,病変の範囲診断や凹凸形態の認識における3D内視鏡の有用性の報告がみられ 24,野村ら 25),26は病変範囲と病変認識の確信度の評価における3D内視鏡の有用性について報告している.3D内視鏡は診断や治療など広い範囲で有用性は高いと考えられ,今後さらなる検討を重ねることで実際の臨床の場で普及されることが期待される.

一方で今回使用したGIF-Y0080の問題点としては,①モニターの正面に立っていないと十分な3D観察ができないこと,②個人差があるが3D画像に慣れていないと眼が疲れやすいこと,などが挙げられた.本検討では距離によっては立体観察ができなかった術者がいたため,実際の臨床の場面で立体観察ができないケースがどの程度あるかは検討が必要と考えられる.また,GIF-Y0080は先端外径12.2mm,挿入部最大径14.1mmと径が太めであり,臨床で使用する際には挿入時の苦痛が強い可能性や処置時における操作性の悪さなどは課題になると思われ,さらなる改良が必要と感じられた.

Ⅴ 結  論

3D内視鏡は立体感や距離感の認識において有用性が高い可能性があると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top