GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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HOW TO PERFORM ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION (ESD) FOR COLORECTAL NEOPLASIA SAFELY USING A BIPOLAR ESD KNIFE
Hiroyuki TAKAMARU Yutaka SAITO
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2022 Volume 64 Issue 3 Pages 285-295

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要旨

大腸におけるESDでは,大腸は腸管壁が薄いという解剖学的特徴があるため,他部位のESDに比べ安全性,特に穿孔に十分注意する必要がある.バイポーラナイフデバイスであるJet B-knifeはジェット局注機能をもち,ナイフ根部で切開し,ナイフ先端部には電流を生じないように設計されている先端系ナイフである.このため穿孔のリスクが低く安全に切開剝離を施行可能としているが,その特性上,他の先端系ナイフとは多少異なる技術的側面および設定の特徴がある.本稿ではバイポーラデバイス止血鉗子であるTighturnも含め,バイポーラデバイスの使用方法を,ジェネレーターの設定も含め概説する.

Ⅰ はじめに

大腸ESDに用いられているバイポーラデバイスとして,ナイフデバイスではJet B-knife,止血鉗子ではTighturnがある.Jet B-knifeはバイポーラ型の先端系ナイフであるB-knife 1にジェット局注機能を追加した内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)用のデバイスである 2.先端ナイフ長は1.5mmと2.0mmの2種類が存在し(Figure 1),大腸粘膜,大腸粘膜下層および大腸筋層は胃に比べ薄いため,ESDに対しては先端長1.5mmを用いることが多い 3.Jet B-knifeは電流特性として安全に切開剝離が施行可能となるように設計されている 4),5.他のいわゆる先端系ナイフにはモノポーラデバイスが多い.Jet B-knifeは同じ先端系ではあるものの細かな部分で取り扱いや技術的側面がモノポーラデバイスとは異なる.本稿ではバイポーラデバイスを用いて大腸ESDを施行するときのポイントについて概説する.

Figure 1 

バイポーラデバイス Jet B-knifeと接続コードの外観および型番.

大腸ESDにはナイフ長1.5mmのデバイスを用いる.接続コードはコネクタをジェネレーターに接続し,コネクトをナイフデバイスに接続する.

Ⅱ 設定と接続

高周波発生装置(ジェネレーター)との接続は専用コードを用いる.対極板のコードを接続する部分に専用コードの一端(コネクタ:リターン側)を接続する.専用コードのもう一端(コネクタ:アクティブ側)を,ジェネレーターのナイフデバイス接続用コネクタに接続する.ナイフデバイスと専用コードは,「コネクト」部にて接続される(Figure 12).

Figure 2 

バイポーラデバイス Jet B-knifeとジェネレーターとの接続の実際.

Ⅲ Jet B-knifeの電気学的特性

Jet B-knifeは先端ナイフ部がプラス電極,シース先端の銀色部はマイナス電極(グランド)となっている(Figure 3).このため,Jet B-knifeはモノポーラデバイスとは異なり,先端ナイフ部からシースに電流が流れる設計となっている.モノポーラデバイスでは,ナイフ先端から,人体を通って皮膚に貼付された対極版まで電流を通電する必要があるが,Jet B-knifeでは,先端部の電極間にのみ電流を通電するため,比較的低出力で切開剝離が可能である.また,モノポーラデバイスでは,人体にグランドである対極版を貼付し,最終的には粘膜・粘膜下層がグランドと見なされるため,ナイフ先端と粘膜の間が最も電流密度が高くなり,この部位で放電(スパーク)が生じる(Figure 4-a,b 5.モノポーラデバイスでは先端ナイフが粘膜に接触していない状態で切開剝離が可能なのはこのためである.一方,Jet B-knifeは上記のグランドは銀色のシース電極部に相当するため,この部分で最も電流密度が高くなり,放電・切開・剝離を可能としている(Figure 4-c~f 2.言い換えれば,ナイフ根部で切開,凝固を行っており,ナイフ先端での粘膜・筋層に対する電流の影響は極めて少ないため穿孔が起こりにくい設計となっている 2),4.代表的なジェネレーターにおける,当施設で多く用いられている設定をFigure 5に示す.Jet B-knifeは,対極版用のコネクタに専用コードを接続し,シース部のグランド部と回路を組むことでバイポーラ回路を形成していることから,ジェネレーターの接続,および出力設定はモノポーラの設定であることにも注意が必要である(Figure 2Figure 5-c).

Figure 3 

Jet B-knife先端部のシェーマ.

電流は先端ナイフ部(針状電極)から銀色のシース電極に向かって流れる.この電流がジュール熱を生じ,組織破壊による切開剝離を可能としている.

Figure 4 

バイポーラデバイスとモノポーラデバイスのアプローチの違い.

a:モノポーラデバイスの一般的アプローチ.局注された粘膜下層に触れるか触れないかのソフトタッチでアプローチする.

b:モノポーラのため,針状メス部分と剝離組織の最も抵抗が高くなる部分で放電(スパーク)が生じ,切開剝離を行う.

c:バイポーラデバイスでもソフトタッチでのアプローチが重要であるが,針状メス部分は局注された粘膜下層にある程度触れている.

d:針状メス部分とシースグランドの間でスパークが生じ,切開剝離を行う.

e:バイポーラデバイスによる実際のアプローチ画像.

f:赤矢印部分でスパークが発生している.

Figure 5 

バイポーラデバイス用のジェネレーター出力設定例.

a:VIO3用設定.

b:VIO3の写真.

c:モノポーラとして設定されている.

d,e:VIO-300D用設定.同様にモノポーラとして電圧・エフェクトを設定している.

Ⅳ Jet B-knifeの準備とTIPS

大腸ESDにおいても,視野を確保するための先端フードは重要である 6),7.STフードショートタイプ(フードDH-28GR,フードDH-29CR,フードDH-30CR)は突出長を短くし先端開口径を広げ,視認性を向上させたデバイスである.Jet B-knifeの内視鏡の適合鉗子口径は2.8mm以上とされているが,他の先端系デバイスに比較すると若干デバイス径が太く,内視鏡鉗子チャネル内の遊びが少ない.このため,ショートタイプSTフードを併用する場合,フードとナイフが干渉することがある.さらに,スコープとの組み合わせによっては,この干渉によりナイフデバイスをスコープ先端から出すことが困難になることがある.どのような手技でも,内視鏡関連のデバイスを挿入・手技前に内視鏡術者が確認することは基本中の基本ではあるが,Jet B-knifeとショートタイプSTフードを組み合わせて用いる場合は特に念入りに,チャネル通過性が良好であること,およびフードの干渉が無いことを確認することは非常に重要と考えられる(Figure 6).

Figure 6 

ショートタイプSTフードの調整.

a:スコープはGIF-Q260Jを用いている.このスコープはウォータージェットが5時方向,鉗子口は7時方向にある.そのためフードは若干6時方向に偏移させる.

b:ウォータージェットがフードに干渉せず流出可能である.

c,d:Jet B-knifeはスムースに出るが,

e:シースはフード内部ぎりぎりに接していることがわかる(黄色矢印).

Ⅴ Jet B-knifeを用いた操作の実際

プレカットおよびマーキング

大腸ESDの適応となる多くの病変は,比較的境界明瞭であるため,ESDの前にマーキングが必要となる症例はまれである.しかし,S状結腸の屈曲が強い部位や,病変が非常に大きく,一視野で全体像が認識困難な場合には,周囲切開の目標地点にマーキングを置くことで,いわゆる一里塚(マイルストーン)として切開方向の認識が容易となる.その際には例えばVIO-300Dではswift coagulation effect2, 50Wやforced coagulation effect3, 50W,VIO-3ではforced COAG 6.0やspray COAG 4.5を用いてマーキングを行う.Jet B-knifeの先端銀色シース(グランド)が粘膜に近づくか,軽く接触するようにアプローチし,マーキングを施行する.

プレカットにおいては,十分に局注を施行し,膨隆を得ることがJet B-knifeにおいても重要である.Jet B-knifeのナイフ先端部,絶縁体,グランド部を視認し,わずかにグランド部が粘膜に設置するようソフトにアプローチする(Figure 7-a~c).プレカットにはカットモードを用い,1カットする(Figure 7-d).Jet B-knifeのジェット局注は高い性能をもち,ナイフ部を突出したまま,粘膜切開部にシースまでしっかりと挿入し,局注を行うことでさらに膨隆が得られるため,より安全にプレカットの継続が可能である.このとき,誤って切開または凝固ペダルを踏むと,即座に穿孔する危険性があるため最大限の注意が必要である.次に,1カットした粘膜の端にナイフ先端のボール状部分をフックさせる.そのままアングルとトルクを用いて少しずつスライドするよう操作し,プレカットを続ける(Figure 7-f,g).前述のように,Jet B-knifeはより少ない電圧・電流でカットが可能であるものの,モノポーラと比べ,スパークによりジュール熱を発生する(=切開可能な)部位が円周状に広いため(Figure 4-b,d)モノポーラデバイスと比較すると,ゆっくりと切開をすすめる感覚になるのがポイントである.

Figure 7 

バイポーラデバイスによる粘膜切開(プレカット).

a:内視鏡画面でもバイポーラデバイスの白い絶縁体が視認できる(黄色矢印).

b,c,d:プレカット時,絶縁体が粘膜に接触するが(黄色矢印),さらに銀色部分のグランドがわずかに粘膜に接触する程度までナイフを当て,一回カット波にてプレカットを行う.

e:ナイフ先端を出したまま,プレカット部にジェット局注を行い,十分な粘膜下膨隆を得る.

f,g:プレカットした粘膜にナイフ先端を牽引し,ゆっくりと切開を続ける.

プレカット後のトリミング

プレカットの後,フードにて粘膜下層に潜り込み十分な視野を得るために,プレカット部をさらに剝離(トリミング)する.プレカットされた粘膜の直下にナイフ先端のボールをフックさせ,粘膜のすぐ下をなぞるように凝固波を用いてトリミングを行う.このとき,やはりスパーク部位は全周に生じる(Figure 8-c)ため,凝固波のペダルを長く踏むと粘膜が凝固してしまう恐れがある.若干短めに通電し,少しずつ剝離していく.また,モノポーラデバイスと異なり,シースの下部,すなわち筋層に近い部分にもスパークは生じるため,十分に粘膜下層に潜り込んで視野を確保する前の段階では,Jet B-knifeを用いる場合においても慎重に,やや粘膜に近い部分(=筋層から遠ざかる部分)を剝離していくことが安全なESDにつながる.

Figure 8 

プレカット後のトリミング.

a:プレカットされた粘膜をトリミングするため,ショートSTフードを優しく接触させ視野を確保する.

b:粘膜のすぐ下にナイフ先端を接触させるようにアプローチする.

c:トリミング時のナイフと粘膜・粘膜下層のシェーマ.赤色部分でスパークが発生し切開・剝離が行われる.

d:赤矢印方向に,プレカットされた粘膜をなぞる様にナイフをゆっくり動かす.

e:プレカットがトリミングされ,良好な視野が得られた.

粘膜下層剝離

粘膜下層を安全に剝離するためには,内視鏡視野の確保が最も重要である 6.局注による膨隆を押しつぶさないよう,プレカット部にフードを垂直にゆっくりアプローチし,わずかにアップアングル操作を行うことで粘膜下に潜り込む.(Figure 9-a).次に,粘膜と筋層方向を確認する.本症例では色素を混入した局注液を用いており,局注された根膜下層は青色に認識される.アングル操作とトルク操作にてゆっくりスコープを筋層と平行の方向(Figure 9-a 赤矢印)に動かし,ナイフで剝離をすすめていく 7

Figure 9 

粘膜下層剝離.

a:ショートSTフードを用いて粘膜下層を視認する.11時方向が粘膜,5時方向に筋層を認める.青色に視認される局注後の粘膜下層を筋層と平行(赤矢印の方向)にナイフを動かし,剝離を行う.

b:ナイフをアプローチしたところ.

c:剝離中,ナイフを押し当て過ぎないよう,銀色のグランドが粘膜下層直前に位置するようナイフをコントロールする.

d:粘膜下層剝離後.粘膜下局注し,a~cを繰り返す.

剝離は基本的には凝固モードを用い,十分なスペースがあるときにはカット波を用いても良い.カット波での剝離に予想外にスコープが動いてしまう(いわゆるお手つき)場合には穿孔の危険があるため,カット波を用いる場合は視野と剝離方向,スコープ操作性には十分注意する.

このように粘膜剝離を施行し,ある程度すすめた後に,再びジェット局注による粘膜下局注,視野の確保,方向性の確認,剝離を繰り返してESDをすすめていく(Figure 9).

Ⅵ 止血処置

大腸ESDでは経験上,術中出血が問題となる症例は,肛門管に近い症例を除くとそれほど多くない.粘膜下層剝離中に遭遇する比較的細い血管に対しては,例えば,Swift coagulation effect2, 50Wの設定の凝固波を用いてゆっくりとナイフを動かし剝離することで,血管が凝固され出血無く剝離が可能である(Figure 9-c,d).Laterally Spreading Tumor, non-granular type(LST-NG)など比較的血管を多数認める症例や,抗血栓薬内服等の理由により,易出血性と考えられる症例においては,凝固を例えばForced coagulation effect2, 50Wに設定し剝離することで出血の少ないESDが実現できる.出血した場合も,ある程度はJet B-knifeによる止血が可能である.出血点に対して,ナイフ先端は筋層から離れ,銀色のシース部(グランド)とナイフの間に止血点が位置するようにアプローチする.ジェネレーター設定はSwift coagulation またはForced coagulationとし,短めに凝固波を踏み,周囲組織への焼灼のダメージが最小限であることを確認しながら止血を行う.

一方,比較的太い血管を出血させないよう剝離・切離する場合は,血管周囲の結合組織を処理し,血管を露出させる.前述と同様に血管がナイフ先端と銀色のシース部(グランド)の間に位置するようにアプローチし,比較的長めに凝固波を通電することで血管処理が可能である 8.太い血管を安全かつ十分に処理したい場合,豊永らの提唱する1-10モード(Forced coagulation effect1, 10W) 9はJet B-knifeにおいても効果的である.

Jet B-knifeによる止血が困難な太い血管や動脈性出血に対しては,止血鉗子を使用する.壁の薄い大腸ESDではバイポーラデバイスの止血鉗子(Tighturn)が有用である(Figure 10).Tighturnは,Jet B-knifeとは異なり,接続コードはジェネレーターのバイポーラコネクタ部に接続し,設定もバイポーラの設定で焼灼する(Figure 5-a,b 水色の設定欄).VIO系ではバイポーラ用ペダルは独立した青ペダルとなる.バイポーラ止血鉗子の使い方もモノポーラ止血鉗子デバイスとほぼ同様であるが,構造状,鉗子を閉じるときデバイスがスコープチャネルに引き込まれる.止血点を把持するタイミングで1mm程度鉗子を押し出すことで適切な位置での止血部把持が可能となる(Figure 11-a~c).バイポーラ止血鉗子は左右のカップ間に電流が流れるため,強く把持すると左右カップ(=電極)が近づき過ぎて電流がショートし,効率的な止血が得られない.若干ソフトな把持を心がけると,適切な止血が可能となる.バイポーラではモノポーラと比較し出力(ジュール熱)が低い傾向があり,また最新のジェネレーター(VIO3など)ではペダルを踏んでから凝固されるまで若干の時差が生じる機種もあるため,少し長めにバイポーラペダルを踏み,十分気泡が生じ血管・血管内成分が沸騰・凝固されたことを確認すると効率的である(Figure 11-d,e).

Figure 10 

バイポーラ止血鉗子 Tighturnと接続コードの外観および型番.

大腸用の止血にはカップ外径が小さく,下部スコープに適した有効長1,950mmのデバイスを用いる.Jet B-knifeと異なり,接続コードはジェネレーターの「バイポーラ」コネクタ部に接続する.

Figure 11 

バイポーラ止血鉗子による止血.

a:フードを用いて止血点を確認する.

b:止血鉗子にて血管を把持する.

c:視野内の出血が止まることで,適切に止血部位が把持できていることを確認できる.

d:凝固を行う.血管および血管内のタンパク成分が熱凝固されるよう,凝固をかける.十分熱凝固された場合,止血鉗子周囲に泡沫(沸騰と考えて良い)を認める(黄色矢印).

e:血管が凝固され止血が確認できた.

正確に言うと鉗子を閉じたときに生じる先端部長の差分は,Tighturnのカップ開き幅は4mmであるため,120°開くとすると,差分は4÷(2×sin60°)×(1-sin30°)≒1.15[mm]と計算できる.

Ⅶ トラクションデバイスを使用した場合のJet B-knifeの活用

近年では様々なトラクションデバイスが登場し,その使用頻度も高まっている 10),11.留置型のトラクションデバイスや,いわゆる糸付きクリップを用いたトラクションを使用することで安全かつ確実なESDが可能となる 7.トラクションデバイスを使用後,トラクションデバイスを腸管壁から外す必要がある.この方法としては,クリップデバイスを用いて物理的に接続部を切断するなど様々な方法等がある.Jet B-knifeは前述のように先端電極間で熱を発生するので,切断したい部分に電極を当て,凝固波を発生させることでトラクションデバイスを切断することが可能である.モノポーラの場合,電流はかならずグランドである腸管壁に流れるため,モノポーラデバイスによる通電でトラクションデバイスを切断しようとすると腸管を焼灼する可能性が高い.このような理由により,Jet B-knifeはトラクションデバイスの切断においても安全に通電が可能と言える.

Ⅷ おわりに

バイポーラデバイスであるJet B-knifeおよびTighturnについて概説した.Jet B-knifeはナイフ先端部での高周波電流による影響が極めて少なくなる設計により,筋層の薄い大腸においても安全に使用可能なデバイスと言える.一方で電流特性がモノポーラデバイスとは異なるため,その使用技術には若干の差異がある.それぞれのデバイス特性を理解することで安全かつ効率的なESDが可能となると考えられる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:高丸博之(公益財団法人内視鏡医学研究振興財団)

文 献
 
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