GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
ENSURING A SAFER OUTPATIENT SURGERY: IMMEDIATE FOLLOW-UP PROCEDURES AND METHODS OF CLOSURE TO COVER A LARGE DEFECT AFTER COLORECTAL ENDOSCOPIC RESECTION (WITH VIDEOS)
Yuko HIRAGA Chiyuki WATANABE
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML
Supplementary material

2022 Volume 64 Issue 3 Pages 296-312

Details
要旨

大腸EMRは外来で日常的に施行されている内視鏡手術であり,粘膜内(Tis)癌の治療にも有用である.EMRはESDに比べ,時間も費用も通電ダメージも患者にやさしいが,スネアリング時に正常粘膜が全周性に含まれたかどうかの確認と切除深度のコントロールが難しいという欠点がある.その手軽さ故に一度に多数の病変のEMRをすることも多いが,この欠点を踏まえて,一つ一つの病変に対して,スネア切除直後に潰瘍底と潰瘍辺縁の観察をしなければならない.まず潰瘍底の状態を見て,穿孔や出血・露出血管の有無を確認し,次に潰瘍辺縁を残存病変がないか拡大観察で確認することが有用で,わかりにくい時は画像強調や色素撒布も用いる.特に分割EMRの場合には辺縁のみならず分割の継ぎ目も丁寧に観察し,病変の遺残を認めた場合や疑わしい場合は追加治療を行う.後出血リスクのある潰瘍に対してはクリップ閉鎖などの後出血予防が必要であり,通常のクリップ閉鎖が困難な場合も種々の内視鏡的縫縮術が選択可能である.大腸EMR前だけでなく後にも十分な観察と必要な処置を加えることが,外来での安全で堅実な内視鏡治療を行うために必要である.

Ⅰ はじめに

消化管の内視鏡治療は日本のアイデアと努力で進化を続け,技術的難易度が高いため胃に遅れること6年で保険収載された大腸内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)も世界で行われるまでになってきた.今やESD全盛時代ではあるが,大腸腫瘍においては時間と費用にやさしい内視鏡的粘膜切除術(EMR)で治療可能なものが多く,大腸EMRは多くは外来手術として日常的に施行されている.大腸EMRは確実な内視鏡切除生検として,前癌病変である腺腫性ポリープだけでなく粘膜内(Tis)癌の治療にも有効なことは言うまでもない.その手軽さ故に一度に多数の病変のEMR切除をすることも多いが,一つ一つの病変に対して切除前にも切除後にも真摯に向き合うことが,癌治療に携わる内視鏡医として重要である.

Ⅱ EMRと一括切除

「早期大腸癌に対する内視鏡治療適応の原則は一括切除できること」 1.それは内視鏡切除が切除生検(excisional biopsy)の役割も担っており,内視鏡切除後の治療方針の決定(外科的追加腸切除の必要性の判定)に切除標本の緻密な組織学的検索が不可欠 1であり,正確な病理組織診断を得るためには癌病変は一括切除される必要があるからである.

「スネアEMRで一括切除が可能な病変は最大径2cm程度である」 1.ということは径2cmを超える病変や小さくても癌が強く疑われる病変は分割切除になってはいけないからEMRよりESDをすべきということだろうか.大腸ESDの適応はあくまでスネアEMRによる一括切除が困難な早期大腸癌 2であり,EMRが可能かどうかは大きさだけでなく,形態や内視鏡視野上の見え方,成功するための作戦が立てられるか(局注からスネアリングまでイメージできるか)などから判断する.

大腸ポリープ診療ガイドライン 3には「術前診断で腺腫と確信できれば分割EMRを行うことを提案する」と書かれているが,その後に「ただし一般的に分割切除では不完全切除率が高く,局所遺残再発率が高いことに留意する」と続く.大腸癌治療ガイドライン 1にも色素や画像強調を用いた拡大観察やpit pattern診断による詳細な術前診断で癌が疑われる領域が診断可能であれば,それ以外の腺腫部分は分割切除になってもよい(癌の疑い領域が分断されないように計画的に分割切除する),切除後には切除局所を色素撒布・拡大観察も加えて遺残病変の有無を詳細に観察し,粘膜内病変の遺残があれば追加治療(内視鏡的追加切除,ホットバイオプシー,焼灼など)をすればよい,と記載されている.その腫瘍,その患者に対する過不足のない治療を選択・施行することが重要である.

Ⅲ EMRの欠点

ESDと比較したEMRの利点は,処置時間が短い,潰瘍底への通電が少ない,偶発症発生率が低い,ほとんどが日帰り手術で可能,患者負担が少ない(診療報酬が低いのは医療側では欠点か)などメリットが大きい一方で,欠点は,スネア絞扼をした時点で全周に正常粘膜が確実に含まれたかどうか(側方断端陰性になると確信できるか)を見届けることが難しい,スネアで“てるてる坊主”状に縛って切るため病変の辺縁部と中央部で切除する粘膜下層の厚みに差が生じることもあり,切除深度のコントロールが難しいことである.切除範囲や深度をコントロールする方法として周辺切開やトリミングを適宜加えて,precutting EMR 2やhybrid ESD 2へ作戦を変更するという手もあり,スネアの先端が突起付き先端系ナイフになっているもの(SOUTEN;カネカメディックス)も考案されている.しかし,どんなに上手な術者でも,どんなに小さな病変でも,このEMRの欠点を踏まえて対応する必要があり,そして対処も可能である.

Ⅳ 大腸EMR後潰瘍に対する観察のポイントと対応

スネア切除直後にしなければならないことがある.EMR後潰瘍底と潰瘍辺縁の観察である.スネアで絞扼切除した直後の潰瘍底と辺縁粘膜は縮まっており,そのままの状態で観察すると見落としが起こりうるため,適度な送気で潰瘍を平らに伸展させて観察することが大切である.

1.まず,潰瘍底の状態を見る:穿孔がないか確認する(Figure 1
Figure 1 

スネア切除後の穿通と内輪筋切除.

a:EMR後穿通[横行結腸22×20mm大0-Ⅱa病変,切除径28×25mm] 4

切除直後の潰瘍底(左)の縁が白っぽく,一部に脂肪織様の黄色いものを認めた.縮んでいた潰瘍底が少し拡がると黒い穴が見え,穴の奥はフリー腔ではなく結合織で5mm大の穿通(中央)と判断した.切除検体の裏(右)に白色調で光沢のある漿膜が貝柱状に付着していた.

b:EMR後穿通[上行結腸34×31mm大0-Ⅱa病変,切除径41×36mm].

切除直後の潰瘍底(左)が白く熱変性しており,中央に溝を認めた.段差を有する溝状陥凹の底に結合織を認め(中央),切除検体の裏(右)に貝柱状の白色物の付着を認めたことから,6mm大の穿通と判断した.

c:Hybrid-ESDスネア切除による内輪筋切除[下部直腸48×35mm大0-Ⅰs+Ⅱa病変,切除径54×40mm].

切除直後の潰瘍底(左)の中央に白く縁取られた領域を認めた.段差を有し,縦走する線維を認めたことから13mm大の内輪筋切除(中央)と判断した.切除検体の裏(右)に白くザラザラした内輪筋が貝柱状に付着していた.

EMRの術中穿孔率は0.58~0.8% 2とESDの2 ~14% 2と比較し発生率は低いが,ESDのナイフやハサミで切り込んだ切創性穿孔と違って,EMRはスネアリング時に固有筋層を巻き込んで筋層あるいは全層をスネアで切り取った欠損性穿孔となるため,穿孔の面積が大きくなる.125~172人にひとりの割合で誰もが起こす可能性のある偶発症である.

通常,潰瘍底には平らでみずみずしい粘膜下層を認めるはずであるが,潰瘍底に以下を認めた場合は穿孔や穿通,筋層切除を疑う(穿孔と穿通の違いは体腔と自由な交通があるかないか) 2

1)1段深くなっているところ

2)熱変性で白っぽくザラザラしたところ

3)黄色っぽいもの(脂肪織)

4)黒っぽいところ(腸間膜内や腹腔内へ繋がる暗い領域)

判断に迷うときは,切除検体の裏に貝柱状に筋層ないし漿膜が付着していないか確認する.

2.穿孔や穿通,筋層切除が判明した場合は可及的速やかに全力で穿孔部(欠損部)のクリップ閉鎖を行う(Figure 2
Figure 2 

穿孔部(欠損部)のクリップ閉鎖と創部閉鎖(番号はクリッピングの順番).

a:EMR穿通部のクリップ閉鎖と創部閉鎖(Figure 1-a症例) 4

5mm大の穿通部をいきなり狙わず,穿通部近傍の粘膜を合わせるようにクリッピング(Figure 1-a中央,捨て石クリップ①)し,2本目のクリップ(②)で穿通部をとりあえず塞ぐ.潰瘍の端をクリップで縫縮し(③④)辺縁粘膜を寄せやすくした後,穿通部にクリップ(⑤)を追加し完全閉鎖した後で,創部全体もクリップで完全閉鎖した(右:クリップ計12本,所要時間19分).

b:Hybrid-ESD内輪筋切除部のクリップ閉鎖と創部閉鎖(Figure 1-c症例).

脱気気味にしただけで内輪筋欠損部が折り山状となり,クリップ5本(①~⑤)で13mm大の欠損部はほぼ閉鎖可能であった.潰瘍の端に捨て石クリップ(⑥⑧)を置き,両端ファスナー留め(Figure 5)の要領で創部全体もクリップで完全閉鎖した(右下:クリップ計12本,所要時間20分).

欠損部の完全閉鎖が可能であれば絶飲食と抗菌薬投与により手術を回避できる可能性が高いが,完全閉鎖が困難な場合は緊急手術が必要となる 2

欠損部のクリップ閉鎖のコツを以下に挙げる(Figure 3).

Figure 3 

穿孔部(欠損部)のクリップ閉鎖のコツ.

1本目のクリップで,いきなり欠損部の真ん中を狙わず,欠損部の端もしくは欠損部の横の正常な潰瘍底に,捨て石クリップ(赤クリップ)を脱気気味にしながら潰瘍底を肉厚に把持するようにかける(b).欠損部が大きい場合は反対側にも捨て石クリップ(赤クリップ)をかける(c).次に欠損部の中央をクリップで閉じて,とりあえず口を塞いだ(d)後,隙間なくクリップを追加し欠損部を完全に閉鎖する(e).その後,可能な限り周囲粘膜を寄せて創部全体の閉鎖を行う(f).

1)クリップを準備している間に潰瘍周囲に溜まっている水を吸って視野をきれいにする.

こういう時に備えて日頃から治療前に場をきれいにする(水洗後,口側に溜まっている腸液も含めて吸引し,可能であれば病変が水没しない向きへ体位変換する)ことを心がけておく.

★穿孔の場合は,この段階で周りに声をかけ,患者状態の把握(バイタル,腹痛の有無,腹部所見),その記録の開始,ルート確保や抗菌薬点滴を並行して行う.

2)安全な場所でクリップを開き,筋線維に直交する向き,腸管長軸方向にクリップの角度を合わせる.

焦って欠損部を見ながらクリップを鉗子孔から出して開くと,クリップ先端が薄くなっている潰瘍底に刺さったり,穿孔を更に拡大したりすることがあるので,ひと呼吸入れてスペースの広いところでクリップを構える.

3)潰瘍底がピンと張らないよう脱気気味にし,1本目のクリップでいきなり欠損部の真ん中を狙わず,欠損部の端(欠損距離が短いところ)もしくは欠損部の横(正常な潰瘍底)にできるだけ肉厚に筋線維を把持するようにかける(捨て石クリップ Figure 3赤クリップ).

欠損部が大きい場合は反対側の端にも同様にクリップをかける.

4)次に欠損部の中央をクリップで閉じて,とりあえず口を塞ぐ.

捨て石クリップにより欠損部をクリップで無理なく閉じられる幅にしておくことで,1~2本のクリップで口を塞げることが多く,特に穿孔の場合はとりあえず口を塞いで視野を確保し,患者のバイタルや腹痛が悪化しないことを確認する.

★この段階で穿孔の口が塞ぎきれないと判断した場合は,外科医に連絡をとり,可及的に腸管内を吸引しながらスコープを抜去し,緊急で胸腹部CT検査を行う.

5)欠損部の隙間がなくなるまで,クリップを追加し完全に閉鎖する.

時間と共に蠕動などで条件が悪くなることも多いが,口さえ塞がっていれば落ち着いて隙間がなくなるまでクリップを追加するゆとりが生まれる.

6)周囲粘膜を被せるように切除創部全体の縫縮を行う.

筋層欠損部の完全閉鎖を成しえた後,脆弱部を保護するために周囲粘膜を可能な限りクリップで寄せていく.

3.出血点はどこかを確認する(Figure 4
Figure 4 

EMR後出血.

a:噴出性出血[直腸S状部20×10×10mm大0-Ⅰsp病変].

切除した直後から中等量の出血を認め,数十秒後には血柱が上がった.

b:噴出性出血[直腸S状部20×15×10mm大0-Ⅰsp病変].

切除直後,潰瘍中央(緑矢印)から噴出性出血を認めた.最初は気づかなかったが,潰瘍の6時方向(青矢印)からも噴出性出血しており,中央に2本クリッピングした後,6時方向にクリップ1本追加し止血した.

c:拍動性出血[肝彎曲部17×12mm大0-Ⅰs+Ⅱa病変] 4

切除直後,潰瘍中央から拍動性出血を認めた(黄矢印).出血ポイントを見失わないようにし,クリップ1本で止血した.

d:辺縁からの湧出性出血と後出血[回盲弁直上15×13mm大0-Ⅱa病変].

潰瘍辺縁から湧出性出血を認め,クリップ4本で創閉鎖し止血した.2日後,血便を認めたため前処置なしで緊急内視鏡検査を行い,付着していた凝血塊を除去するとクリップは4本とも残存していたが,潰瘍辺縁から湧出性出血を認め,クリップを追加し止血した.

切除直後から大量の出血を認めることはまれで,スネアで切断した血管からの出血は徐々に勢いを増してくる(Figure 4-a).モニターに映る血柱は迫力があるが,直ちにショックや輸血が必要となる量の出血をきたすことはなく,落ち着いて観察すれば,噴出性または拍動性の湧出性出血の場合,出血点を発見することは容易なことが多く,出血点が血液で埋没して見えない時は焦らず体位変換を行う.出血点がわかったら止血の準備をしている間に見失わないように目印などを見つけておく.

止血方法は病変が完全に取り切れたかどうかと出血量で異なる.残存病変がある場合,もしくはその確認ができていない場合の最も手軽な止血方法はスネアの先端での凝固止血(シースからスネアの先端だけわずかに出し,出血点の露出血管に軽く接触させてsoft凝固で通電する)であるが,遅発性穿孔の原因となる過凝固にならないよう,ピンポイントで必要最低限の通電 2を心がける.止血術の鉄則は深追い禁止である.止血鉗子による凝固止血も同様である.出血量が多くなく,追加治療や遺残の有無の観察(後述)の妨げにならない程度であれば,止血術を後回しにしてもよい.見る見る血溜まりができるような出血の時も,たとえ完全止血が得られなくても出血が弱まって追加治療や観察が可能となれば優先させ,その後に止血術を追加する.露出血管が追加治療の邪魔にならない場所にあれば,クリップ止血をすることも多いが,まずは1~2本の最低限のクリップにとどめ,最後に必要があればクリップ止血を追加し,創全体のクリップ閉鎖を行う.また,切除辺縁などからの出血点がはっきりしない湧出性出血の場合はクリップで創閉鎖を行うことで止血することも多い(Figure 4-d).

4.続いて,潰瘍辺縁を見る:病変の残存がないか確認する

どんな小さな病変であっても,スネアリング時に全周に正常粘膜が含まれたかどうか確信がないのに確認しないのは無責任である.burning effectに期待するのも運任せで確実性に欠ける.遺残再発を防ぐためには切除潰瘍辺縁に病変が残っていないことを観察する必要がある.分割切除で不完全切除率,局所再発率が一般的に高い背景には,辺縁や分割の継ぎ目の確認が大きさや視認不良から不確実となっている可能性があり,分割EMRの際に切除後辺縁や潰瘍底を拡大内視鏡観察することで遺残再発率が低下するとの報告もある 2.潰瘍辺縁を全周,特にスネアリング中にスネアが滑った部位,スネアリングがブラインドになった場所,分割切除の継ぎ目は丁寧に,屈曲部やヒダ陰などの見えにくい箇所はスネアのシースなどで押さえ,遺残があるはずだと思って観察する.観察には拡大観察でⅠ型pitかどうかを確認することが有用であり 2,わかりにくい時は画像強調や色素撒布も用いる.病変の遺残を認めた場合や疑わしい場合は追加治療を行えばよい.

5.粘膜内遺残病変に追加治療を行う

遺残の場所と面積,組織回収が必要か否かによって追加治療法を選択する.

1)ある程度の面積が残っている場合や癌の遺残の可能性があり組織回収が必要な場合

追加EMRを行う.必要に応じて局注を追加し,小さなスネアに変更する.

2)スネアが滑ってかからない場合や組織の一部が回収できればよい場合

ホットバイオプシーを行う.

3)辺縁にごくわずかな遺残を認める場合や遺残が疑われる場合

焼灼術を行う.あれば高周波凝固子やアルゴンプラズマ凝固プローブで,なければスネアの先端で焼灼する.

6.後出血予防

EMRの後出血率は1.1~1.7%(58~90人にひとり) 2で,サイズが大きい病変を対象とするESDの0.7~2.8% 2と比較し発生率に大きな差がないのはESDでは剝離時に血管処理を行うからと推察されている.慣習として患者に1~2週間の禁酒や運動制限,長風呂禁止,遠出禁止などを約束させるが,後出血予防策としてどれほど有効なのかのエビデンスはなく,後出血は起こしたというよりは起こってしまうものなのである.

では,真の後出血予防策はあるのか.

1)予防的焼灼術

大腸ESD/EMRガイドライン 2には,径2cm以上の大きな病変を対象にした前向き多施設研究で止血鉗子による予防的焼灼術は後出血率を低下させた(焼灼群5.2%,非焼灼群8%)が有意ではなかったとの報告 5や,径1~2cmのポリープを対象にした単施設ランダム化比較試験でスネア先端での焼灼群とクリップ閉鎖群の比較では予防効果に有意差はなくコストや処置時間を考慮するとスネア先端焼灼法の方がよいとの報告 6が引用されている.

2)予防的クリップ閉鎖

大腸ESD/EMRガイドライン 2には「小病変のEMR後への効果は限定的であるが,大型病変や抗血栓療法施行中の症例などの後出血高危険群において,術後のクリップ閉鎖はある程度有効である(弱く推奨する/提案する,エビデンスレベル弱)」,大腸ポリープ診療ガイドライン 3には「内視鏡的治療後のクリッピングは穿孔の予防および径2cm未満のポリープに対する後出血の予防に対し有効性が確立していない」「今後は小さいポリープに対する内視鏡治療後のクリッピングについては内視鏡的治療後に出血を認めた場合や内視鏡的治療部に露出血管を認めた場合を除き実施しない方向に進むものと考えられる」と記載されている.また,Matsumotoら 7の径2cm以下のポリープを対象(重篤な基礎疾患合併例と術中動脈性出血例は除外)にした多施設共同無作為化比較試験で非クリップ群のクリップ群に対する非劣性が証明され,後出血予防としてのクリップ閉鎖は径2cm以下のポリープに対しては必要ないことが明らかにされた.

3)後出血リスク

大腸ポリープ診療ガイドライン 3には危険率2倍以上の後出血リスク因子として,病変径1cm以上(径3cm以上では30倍),心疾患,慢性腎疾患,抗凝固薬の服用などが挙げられている.径2cm以下のポリープ(重篤な基礎疾患合併例と術中動脈性出血例は除外)における後出血の有意なリスク因子は病変径(1cm以上)であり,非クリップ群においては凝固焼灼の追加(露出血管や静脈性出血に対するスネア先端での焼灼)が有意なリスク因子であった 7

以上から,術中出血例,露出血管を認めた潰瘍底,病変径1cm以上,心疾患や慢性腎疾患患者,抗血栓薬服用者には予防的焼灼術やクリップ閉鎖による後出血予防策を施行すべきであり,個人的には潰瘍底に焼灼を加えると熱変性により後に潰瘍化するため,透析や肝硬変,抗血栓薬服用など出血傾向や凝固能に問題のある患者には焼灼術を行ったとしてもクリップ閉鎖を追加した方がより安全と考える.

Ⅴ 創部縫縮術の実際

私を含め,日本の多くの内視鏡医はクリップ神話を信じて内視鏡治療後のクリッピングをしがちである.しかし,後出血の緊急内視鏡検査時にはクリップが残っているのにその隙間から出血したという現実を目の当たりにすることもあり(Figure 4-d),クリップが万能ではないことには気づいている.付け替えクリップ1個の定価(税別)は¥750~¥975程度でひとりにつき複数個使用することが多く,特定保険医療材料ではないため持ち出しとなるし,時間も手間もかかるが手技料も算定できない.言わば創部縫縮は内視鏡医の善意であり良心であるとともに,何か起こった時のための言い訳や保険的な意味合いも強い.

1.創部縫縮の必要性

創部を完全に縫縮することができれば,薄く脆弱になった創部にかかる物理的負担の軽減や便や細菌の暴露からの保護,創傷治癒の促進 8も期待できる.

EMR後潰瘍の創部縫縮をすべき,個人的な絶対順位は以下の通りである.

1)術中穿孔・穿通および固有筋層欠損・損傷を認めた場合

2)術中出血や潰瘍底に露出血管を認めた場合

3)抗血栓薬服用者

4)透析,肝硬変など出血傾向を有する基礎疾患や心疾患や呼吸器疾患,血糖コントロール不良などで出血や感染に対して予備力が乏しい患者

5)径2cm以上の病変

6)径1cm以上の病変の外来EMR

2.大きな切除後潰瘍のクリップ閉鎖のコツ

クリップ閉鎖が可能な創部の大きさには限界がある.クリップの開き幅は大きくても10~16mm程度であり,普通に考えれば2cm以上の大きな潰瘍は閉鎖できないはずであるが,そうとも言えない.

1)脱気気味にして,片方のクリップの爪を健常粘膜に引っかけて引っ張る

脱気気味にするだけで潰瘍底が折り畳まれてクリップ脚が届きやすくなることがある.潰瘍辺縁の粘膜がピンと張った状態から少し脱気することで粘膜の緊張が緩んで伸びやすくなり,クリップの爪が粘膜に引っかかりやすく引っ張りやすくなる.片方のクリップの爪を健常粘膜に引っかけて引っ張り,もう片方の爪が対岸粘膜に着地するまで引き寄せる.

2)クリップの閉じ方

クリップの両脚が辺縁粘膜に届いたところで,更に少し吸引をかけながらクリップ装置を鉗子口から数mm押し出し,クリップの爪が粘膜をしっかり把持するようにする.クリップを勢いよく閉じるとクリップの爪が滑って捕まえた粘膜が外れてしまうことがあるため,介助者には最初はゆっくり閉じ始めてもらい,最後は素早くクリップを閉じ切ってもらう.また,クリップを閉じた後もクリップがクリップ装置からリリースされたことを確認しながら,ゆっくり鉗子口からクリップ装置を引き抜かないと,折角うまく閉じられたクリップを引きちぎることになりかねない.

3)捨て石クリップ,ファスナー留め(Figure 5電子動画1

Figure 5 

クリップ閉鎖のコツ:ファスナー留め(電子動画1),両端ファスナー留め.

クリップ脚が届きそうにない大きな潰瘍の時は,まず端に健常粘膜を肉厚に把持するように1本目のクリップ(捨て石クリップ,a赤クリップ,g左端)をかける.このクリップで寄せられた粘膜を次のクリップで閉じ,クリップの隣隣と順々にクリップで閉じていくと潰瘍辺縁の端からファスナーを閉めるように次第に潰瘍が閉鎖されていく(ファスナー留め,a~c,g).大きな潰瘍の両端に捨て石クリップを置いて両端から順々に閉じていくという手もある(両端ファスナー留め,d~f).gは20mm越えのEMR後潰瘍に施行した際の内視鏡画像.

電子動画1

クリップ脚が届きそうにない大きな潰瘍の時は,端から攻める.まず潰瘍の端の健常粘膜を肉厚に把持するように捨て石クリップ(Figure 5-a赤クリップ,g左端)をかける.このクリップで寄せられた粘膜を潰瘍辺縁の端から順々にクリップで閉じていくとファスナーを閉めるように次第に潰瘍が閉鎖されていく(ファスナー留め,Figure 5-a~c,g).大きな潰瘍の両端に捨て石クリップを置いて両端から閉じていくという手もある(両端ファスナー留め,Figure 5-d~f).

4)縦留め(Figure 6電子動画2

Figure 6 

クリップ閉鎖のコツ:縦留め(電子動画2 4

縦に開いたクリップの脚が鉗子口に当たるまでスコープ内にクリップを引き込み,クリップ脚がぐらつかないように固定し,クリップの下側の爪を潰瘍肛門側のやや遠めの健常粘膜に当て支点とする(a,d左端).潰瘍にのしかかるようにダウンアングルをゆっくりかけ,クリップの上側の脚が潰瘍の口側粘膜をしっかり捕らえるように吸引とスコープのわずかな捻りで調整し(b),近接した状態のままでクリップを閉じる(c).d(電子動画2)は15mm大のEMR後潰瘍に施行した際の内視鏡画像.

電子動画2

クリップ閉鎖は基本的には潰瘍の短径に合わせて行うが,大きな潰瘍の場合,腸管を折り畳みやすい腸管の長軸方向でクリップを留めた方が粘膜を寄せやすいことがある.縦に開いたクリップの脚が鉗子口に当たるまでスコープ内にクリップを引き込み,クリップ脚がぐらつかないように固定する.クリップの下側の爪を潰瘍肛門側のやや遠めの健常粘膜に当て支点とし(Figure 6-a,d左端),潰瘍にのしかかるようにダウンアングルをゆっくりかけ,クリップの上側の脚が潰瘍の口側粘膜をしっかり捕らえるように吸引とスコープのわずかな捻りで調整し(Figure 6-b),クリップの軸が見えるほどにはクリップを押し出さず,近接した状態のままでクリップを閉じるとクリップ脚の間に粘膜をしっかり挟むことができる(Figure 6-c).

3.どうしても縫縮したい時の縫縮方法

通常のEMR後潰瘍でクリップ閉鎖ができないことは少ない.大きな病変の分割EMRの時や,穿孔・穿通部や止血のクリップが邪魔になる時など,どうしても縫縮したい時こそ通常の方法では困難なことがあるが,簡単に諦めるわけにはいかない.単純なクリップ閉鎖が困難な,主としてESD後の大きな創部を縫縮するために編み出された縫縮方法 9),10には大きく分けて3種類あり,粘膜を何とか引き寄せて粘膜同士をクリップで閉じる方法,潰瘍底をクリップで把持して折り畳むことで粘膜を近づける方法,そして外科の巾着縫合を留置スネアとクリップで行う内視鏡的巾着縫合法 11である.

1)粘膜引き寄せ法(Figure 7

Figure 7 

大きな創部の縫縮方法(粘膜引き寄せ法).

a:2チャンネル内視鏡下巾着縫合術.

b:ループクリップ縫縮法.

c:Mucosal Incision法.

d:Hold-and-drag閉鎖術.

e:糸付きクリップ縫縮法.

f:Clip-on-clip閉鎖法.

クリップの爪を健常粘膜に引っかけて引っ張れる距離は高が知れている.クリップが届く幅まで粘膜を引き寄せるアイデアとして様々な方法が考案され続けており,粘膜を引き寄せて固定した後,近傍からクリップ閉鎖を追加していく.

・2チャンネル内視鏡下巾着縫合術(Matsudaら,2004年)(Figure 7-a

留置スネアと回転クリップを開発したHachisuら(1996年)が考案した,2チャンネルスコープから両者を出して外科の巾着縫合のように創部を絞って縫縮する方法 11を応用し,潰瘍辺縁の口側,肛門側粘膜にクリップで2点固定した留置スネアを絞扼することで粘膜を引き寄せる.2チャンネルスコープを使わずに通常のシングルチャンネルで行う工夫(スコープを一端抜去して留置スネアを把持鉗子でつかんで再挿入する,留置スネアのループだけを先に運んでクリップで固定した後に腸管内で拾って結紮する 12など)も報告されている.

・ループクリップ縫縮法(Sakamotoら,2008年)(Figure 7-b

クリップ脚にナイロンループを取り付けたループクリップを予め作成し,潰瘍辺縁の肛門側粘膜に固定する.2本目のクリップの片脚でそのループを引っかけて引っ張り口側粘膜に固定する.8の字形のダブルループを作成しクリップ脚の間に噛ませることで接着剤不要のmodified double-loop clipを使用するdouble-loop clipsテクニック(Abikoら,2020年)も報告されている 13

・Mucosal Incision法(Otakeら,2012年)(Figure 7-c

向かい合う周辺粘膜にクリップの脚を引っかけるための小さな切れ込みをナイフかスネア先端で数ペア作成する.

・Hold-and-drag閉鎖術(Akimotoら,2016年)(Figure 7-d

つかみ直し機能のあるディスポーザブルクリップで粘膜を把持した状態で対側まで引っ張り,対側粘膜と一緒に把持し直し固定する.

・糸付きクリップ縫縮法(Yahagiら,2016年)(Figure 7-e

クリップに2mのポリエステル糸(3-0)を結び付けた糸付きクリップを予め作成し,潰瘍辺縁の口側粘膜に固定する.2本目のクリップでその糸を跨いで肛門側粘膜に固定し,鉗子孔から出ている糸を引っ張ることで粘膜を引き寄せる.追加クリッピングを行う際にも糸を引っ張ることで正面視しやすくなるメリットもあるが,最後に糸を切断するために内視鏡用鋏鉗子(FS-3L-1;オリンパス)が必ず必要となる.

・Clip-on-clip閉鎖法(Nomuraら,2018年)(Figure 7-f

予め作成しておかなければいけないループクリップの代わりに,潰瘍辺縁の肛門側粘膜に固定した1本目のクリップの柄をわざと2本目のクリップで噛んでclip-on-clipの状態を作り,柄を挟んでできた2本目のクリップ脚の隙間をループ代わりに3本目のクリップで引っかけて引っ張り口側粘膜に固定する.

2)潰瘍底クリップ法(Figure 8

Figure 8 

大きな創部の縫縮方法(潰瘍底クリップ法).

a:double-layer法.

b:Mucosa-submucosaクリップ縫縮法.

クリッピングは粘膜同士でするものという概念を捨て,クリップを潰瘍底にかけることをいとわずにクリッピングしていけば潰瘍底が次第に折り畳まれて,最終的に粘膜同士のクリップ閉鎖が可能となる.

・double-layer法(Tanakaら,2012年)(Figure 8-a

潰瘍底の中央をクリップで把持して折り畳んでいく方法で,潰瘍底を把持するクリップの間隔をあけることで,次の粘膜同士のクリップ閉鎖の邪魔にならないようにする.

・Mucosa-submucosaクリップ縫縮法(Nishizawaら,2018年)(Figure 8-b

潰瘍辺縁粘膜とクリップ脚が届いた潰瘍底を意図的にクリッピングしていく方法で,潰瘍底を手繰り寄せるように折り畳んでいく.

・ガンガンクリップ法(Figure 9

Figure 9 

大きな創部の縫縮方法(ガンガンクリップ法).

S状結腸の60mmを超えるESD後潰瘍の出血した露出血管に対し潰瘍底を厚く把持するようにクリッピングし,その近傍の潰瘍辺縁粘膜と潰瘍底にもクリッピングを行った(a上段).そして両端からファスナー留めを行い,クリップの埋没も気にせず潰瘍底がほぼ見えなくなるまでクリップを打ち足し,クリップ計15本で完全閉鎖した(a下段)(所要時間20分).2カ月後の内視鏡検査時にはクリップはすべて自然脱落し,多方向からのヒダ集中とクリップの影響による小隆起が連なる瘢痕として治癒していたが,10カ月後には瘢痕は平低化していた(b).

私はESD後の大きな潰瘍のほとんどに潰瘍底クリップ法と両端ファスナー留めの組み合わせで創部縫縮を行っている.まず,凝固止血した部位や露出血管,筋層損傷部位を厚く把持するように潰瘍底に数カ所クリッピングし,次にそのクリップ付近の潰瘍辺縁粘膜と潰瘍底を肛門側からでも口側からでもクリッピングをする.そして両端からファスナー留めを試し,粘膜同士のクリッピングを試みてうまくいかなくても創部が一直線にきれいに閉鎖されなくても気にせず,潰瘍底がほぼ見えなくなるまでいろいろな方向からガンガン,クリッピングしていくやり方で,クリップ本数が10本を優に超えることもしばしばある.

潰瘍底,筋層にクリッピングすることに問題はないのかと聞かれることがあるが,穿孔時には以前より行っていることであり最終的に粘膜同士を閉じれば問題ないと考えている.1~2カ月後の内視鏡検査時には壁内に埋没したクリップを見ることはまれで,ほとんどのクリップは自然脱落していることが多い(Figure 9-bFigure 10-b~d).

Figure 10 

内視鏡的巾着縫合法の有効例.

a:盲腸.

バウヒン弁に少しかかる60mm超のESD後潰瘍.潰瘍底の露出血管にクリッピング後,巾着縫合により完全閉鎖した(所要時間10分).(奧のクリップは前医EMR後のもの).

b:歯状線に近い下部直腸.

50mm大のESD後潰瘍.るいそう,透析,シロスタゾール内服あり.大量出血のため前医,周辺切開途中での中止例.潰瘍底の出血した露出血管にクリッピング後,巾着縫合2カ所で完全閉鎖した(所要時間26分).後出血もなく,1カ月後には瘢痕治癒しており,すべてのクリップは自然脱落していた.

c:下部直腸 10

50mm超のESD後潰瘍.穿通枝への予防的凝固止血による筋層の熱変性部位と露出血管6カ所にクリッピング後,巾着縫合で完全閉鎖した(所要時間27分).1カ月後は10mm程度の肉芽組織の端にクリップ1本が残存していたが,2カ月後にはそのクリップも脱落しており面状瘢痕として治癒していた.

d:上行結腸 10

80mm超のESD後潰瘍.潰瘍底の露出血管と筋層損傷部位にクリッピング後,中央部の巾着縫合を行い,両側にクリップを追加し完全閉鎖した(所要時間22分).1年後に残存クリップはなく,縫縮した形のまま瘢痕治癒していた.

3)内視鏡的巾着縫合法

内視鏡的巾着縫合法は,鉗子口が2つある2チャンネルスコープを使って,一方から出した留置スネアを複数のクリップで創部辺縁全周に固定した後,留置スネアを絞扼することで外科の巾着縫合のように創部を絞って縫縮する方法で,1996年にHachisuらが胃腫瘍内視鏡治療後の創縫縮術として報告した 11.このオリジナルの内視鏡的巾着縫合法は,巾着袋の口を閉めるように粘膜を多方向から寄せることができるため,盲腸やバウヒン弁近傍の大きな創部の縫縮に最適なばかりか,クリップ閉鎖が困難な状況(穿孔部閉鎖後など潰瘍底に多数のクリップがかかっている場合や歯状線近傍など)でも部分的に創部周囲粘膜を寄せることが可能(Figure 10)であり,活用範囲の広い縫縮方法である.

しかし,大腸用2チャンネルスコープは非常に特殊なスコープのため,持っている施設は少なく,上部用2チャンネルスコープでさえESD全盛期の今,持っていない施設も多い.通常のシングルチャンネルスコープに簡易外付けチャンネルを取り付けるという方法もあるが,私は通常スコープで内視鏡的巾着縫合法を行う方法を考案 12し,2012年9月より行っている.

・留置スネア付きクリップによる通常スコープでの内視鏡的巾着縫合法(Figure 11電子動画3 12

Figure 11 

留置スネア付きクリップによる通常スコープでの内視鏡的巾着縫合法(電子動画3).

予め作成した留置スネア付きクリップをクリップ装置にセットし,留置スネアをクリップ装置のアウターシース内に格納した状態で鉗子口から挿入し,潰瘍辺縁の口側粘膜にクリップを固定することで留置スネアを創部に運ぶ.その留置スネアを潰瘍の辺縁粘膜数カ所にクリップで固定した後に留置スネアの接続リングをつかんで結紮する.b(電子動画3)は下行結腸の40mm大のEPMR後潰瘍に施行した際の内視鏡画像.

電子動画3

留置スネアのループ先端部とゼオクリップ(ZP-CH;ゼオンメディカル)の脚にある穴を2-0絹糸で結び付けた,留置スネア付きクリップを予め作成しておく.このクリップをクリップ装置にセットし,留置スネアをクリップ装置のアウターシース内に格納した状態で鉗子口から挿入し,潰瘍辺縁の口側粘膜にクリップを固定することで留置スネアを創部に運ぶ.その留置スネアを潰瘍の辺縁粘膜数カ所にクリップで固定した後に留置スネアの接続リングをつかんで結紮する.私はゼオクリップ装置(ゼオンメディカル)の先端部がピンセット様の形状で把持して引き込むことができることに注目し,留置スネアの接続リングを腸管内で拾ってハンドルを絞めることで少しずつだが絞扼可能であることを発見した.しかし,この代用デバイスでは把持して絞める動作を複数回繰り返す必要があり煩雑なため改良型 12も考案したが,本来の結紮装置のフックでも可能との報告もある.

この方法のコツは,留置スネアを絞扼する際に接続リングをつかんだ後,鉗子口内に引き込んでスコープの先端で仮絞めを作りながらストッパーを少しずつ進めて絞扼していくことである.また,留置スネアのループを潰瘍辺縁粘膜に固定していく際のクリップにはゼオクリップをお勧めする.つかみ直し機能はないがゼオクリップの再収納可能な機能を使って,ゼオクリップでループをつかんで目的の場所に運び,そこで再びクリップを出して固定すれば,たとえ留置スネアのループが潰瘍辺縁から離れた場所にあってもクリップ固定が容易となる.

現在,留置スネア(結紮装置;オリンパス)はループを取り付けるリユーザブルタイプは生産終了となり,ループが改良された一体型のディスポーザブルタイプのみとなっているが,ループを外して使用することは可能である.

Ⅵ おわりに

大腸EMRを外来での安全かつ堅実な内視鏡手術とするために,EMR後に何をすべきかについて解説した.以前はハードルが高かったESDが機器の進歩やストラテジーの確立により身近となった今,逆にEMR技術について教わる機会が減ったことは残念なことである.EMRやクリッピングには上手い下手があるが,ちょっとしたコツを教わり試してみることで技を磨けるはずである.

手術創を閉じるという当たり前のことを内視鏡治療後にはやらない,大きくてできないからしないということがずっと疑問だった.内視鏡的縫縮術の更なる進歩とそれに見合う技術料加算が付けば,ほとんどの内視鏡手術が日帰り手術となる日も遠くない.

謝 辞

内視鏡治療のために尽力いただいている当院臨床研究検査科 西阪 隆先生をはじめ病理医の皆様,臨床検査技師の皆様,内視鏡室スタッフの皆様に心より感謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

電子動画1:大きな切除後潰瘍のファスナー留め 10

30mm大のESD後潰瘍端の辺縁粘膜に捨て石クリップを置き,潰瘍の端から順々にクリップで閉じていくと,クリップ計8本で完全閉鎖が可能であった(所要時間9分).

電子動画2:クリップ縦留め(Figure 6-d 4

電子動画3:留置スネア付きクリップによる通常スコープでの内視鏡的巾着縫合法(Figure 11-b).

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top