GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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STATUS OF THE USE OF “TIME OUT” JUST BEFORE PROCEDURE AND “DISCHARGE CRITERIA” AFTER PROCEDURE WITH SEDATION, AS PERIOPERATIVE MANAGEMENT OF ESOPHAGOGASTRODUODENOSCOPY
Atsushi IMAGAWAMitsuhiro FUJISHIROTomoki MICHIDAYuji MIZOKAMI
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2022 Volume 64 Issue 4 Pages 1039-1047

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要旨

【背景・目的】EGDの周術期管理においてタイムアウト及び鎮静後の帰宅判定基準はどの程度普及しているか不明である.本研究の目的はその導入の実態を明らかにすることである.

【方法】国内の内視鏡医にアンケート調査を依頼した.

【結果】66施設より回答を得た.タイムアウトは61%(40施設)ですでに導入されていた.確認事項(項目)は6割以上の施設で患者氏名・検査内容・抗血栓薬・アレルギー・基礎疾患を採用していた.一方,帰宅判定基準は65%(43施設)で導入されていたが,いずれの検討も施設ごとに基準が様々で統一されていなかった.

【結論】EGDにおけるタイムアウト及び鎮静後の帰宅判定基準は普及しつつあるが,全国的に統一された基準の作成が望ましいと思われた.

Ⅰ 緒  言

2014年度に「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」が改訂され,胃内視鏡検診は,胃X線検診と共に対策型検診・任意型検診の新たな方法として推奨された 1),2.それに伴い,検診及び通常診療における上部消化管内視鏡検査(以下EGD)の検査数は増加し,今後も件数が増えることが予測される 3),4.内視鏡検診では初めてEGDを受ける場合も多く,事前準備や検査時・検査後の注意点などの説明に時間を要する.また通常診療でのEGDの場合は嘔吐反射や不安の軽減のため,鎮静薬使用のリクエストが増えてきている.さらに,高齢患者の場合は基礎疾患や抗血栓薬の有無などリスク管理のために確認すべき項目が増えている.一方,検査医の立場からは萎縮性胃炎による早期胃癌の発見だけでなく,Helicobacter pylori(以下H. pylori)陰性胃癌,A型胃炎など詳細な画像観察が求められる状況も増えてきており,鎮静薬を用いて落ち着いた状況で検査を行う方が,病変の発見に有効だったとの報告もある 5.いずれにせよ医師・内視鏡室のスタッフにとって,周術期管理における負担が増大しているのは明らかである.これらの負担を減ずることを目的に,さらに安全性を保ちつつ,効率の良い周術期管理を行うためにタイムアウトと鎮静後の帰宅判定基準が注目されている 6),7.複雑な手技である内視鏡的粘膜下層剝離術(以下ESD)や胆道系のドレナージ術の場合,検査前確認事項としてすでにタイムアウトが浸透しているが 8,一般的なEGDの場合にはどの程度浸透しているか明らかになっていない.また,外来診療における鎮静薬を用いたEGDの場合,検査中は検査医もスタッフも慎重な観察を行っているものの,検査後の患者観察は主に,内視鏡スタッフが対応している場合がほとんどであり,医師の帰宅指示や帰宅可能と判定する基準は統一されていない 9.以上の点から,今回,EGDにおけるタイムアウトの普及状況,また鎮静薬を用いた場合の帰宅判定基準の状況についてアンケート調査を行った.

Ⅱ 対象と方法

日本消化器内視鏡学会の指導施設を中心とした2つの研究グループ(Fight-Japan:発起人 藤城光弘,2015年より年に2回開催,MADOWAZU group:発起人 今川敦,間部克裕,2010年より年に2回開催,COVID-19感染の拡大により休止中.共に消化器内視鏡診療における臨床研究を立ち上げるための研究グループ)に参加している105施設(日本消化器内視鏡学会指導施設94施設)にアンケート調査を依頼した.依頼施設の内訳は大学病院43施設・がんセンターなどのがん専門病院5施設・一般市中病院46施設・診療所10施設であり,方法は2019年8月から9月にEメールにて依頼し66施設(回答率:63%,大学病院・がんセンター系列:28施設,一般市中病院:31施設,診療所:7施設)から回答が得られた.アンケート内容は以下のごとくである(Figure 1).

Figure 1 

アンケート調査内容.

1.基本事項:年間のEGD件数

2.タイムアウト:導入状況,確認事項(項目)

3.鎮静:鎮静状況,主に使用する薬剤,リカバリールームの有無及びスタッフの状況

4.鎮静薬使用後の帰宅判定基準:導入状況,内容,有効性

Ⅲ 結  果

1.基本事項(Figure 2
Figure 2 

年間のEGD件数.n=66.

アンケートの参加施設は年間EGD件数1,000件以上が94%(62施設)(内訳:1,000-4,999件が24施設,5,000件以上が38施設)とEGD件数が多い施設が中心であった.

2.タイムアウト(Figure 34
Figure 3 

タイムアウト導入状況.n=66.

Figure 4 

タイムアウトでの確認事項(項目).n=43(今後導入予定3施設を含む).

EGDにおけるタイムアウトは約6割(61%,40施設)ですでに導入していた.タイムアウトの確認事項(項目)は各施設様々であったが,7割以上の施設で「患者氏名」,「検査内容」,「抗血栓薬の有無」を,6割以上の施設で「アレルギーの有無」「基礎疾患の内容」を確認していた.それ以外は「年齢」,「同意書の確認」,「検査開始時間」の頻度が多かった.なお,今回の検討では一般的なEGDによる周術期管理が対象であったため,治療内視鏡や手術で確認すべき術者名,検査(治療)予定時間などは項目に含まなかった.その他の項目については自由記載欄を設置し,一部の施設では「H. pylori感染状況」,「患者ID」,「生検の可否」,「前回検査内容」,「内服薬(降圧薬・胃酸分泌抑制薬)の確認」などの項目も認めた.

3.鎮静(Figure 5678
Figure 5 

鎮静の頻度.n=66.

Figure 6 

主に使用する鎮静薬.n=66.

Figure 7 

リカバリールームの有無.n=66.

Figure 8 

検査後鎮静患者を観察する専任者の有無.n=66.

鎮静薬の使用頻度は様々ではあったが,EGD症例の60%前後以上に鎮静薬を使用している施設を41%(27施設)に認めた.鎮静薬を全く使用しない施設(診療所)を1施設認めたが,ほとんどの施設で鎮静薬は使用されていた.主に使用する薬剤(1剤のみ回答)はミダゾラムが全体の74%に認め最も頻度が多かったが,プロポフォールを導入している施設も5%(3施設)認めた.検査後の鎮静患者の観察にリカバリールームを設置しているのは86%(57施設)で,他は内科外来等での対応であった.一方,専任のスタッフが観察を行っているのは29%(19施設)にとどまり,ほとんどが他の業務と兼任していた.

4.鎮静使用後の帰宅判定基準(Figure 91011
Figure 9 

帰宅判定基準の使用.n=66.

Figure 10 

帰宅判定基準の種類.n=43.

Figure 11 

帰宅判定基準の有効性.n=43.

鎮静薬を用いたEGD後の帰宅判定基準は65%(43施設)で導入されていた.基準となるスコアは『自院独自スコア』が43施設中44%(19施設)で最も多く,次いで日本消化器内視鏡技師会で作成された『麻酔回復スコア』 10が40%(17施設)で使用されていた.その他は『(M)PADSS:(Modified)Post-anesthesia discharge scoring system』 11)~13が4施設,『Aldreteスコア』 14が3施設で使用されていた.『自院独自スコア』は麻酔科医の協力や他のスコアを参考に作成されているケースがほとんどであった.帰宅判定基準を導入している43施設のうち81%(35施設)で帰宅判定基準が有効であると回答があった.

Ⅳ 考  察

タイムアウトはもともと外科領域での術前の休止(surgical pause)といわれ,チームメンバー同士の明確なコミュニケーションを図り,「部位間違い」や「患者間違い」を防ぐために導入された.『WHOの安全な手術のためのガイドライン2009』では皮膚切開を行う直前の短い期間(1分以内)に,手術チームの全メンバー(執刀医,麻酔科医,看護師,すべての関係者)が,①患者が正しい患者であること,②予定手術部位と予定手術内容を口頭で確認するものとされている.本来タイムアウトはチェックリストの中の一つと考えられている 15.チェックリストは麻酔導入前(サインイン),皮膚切開前(タイムアウト),患者退出前(サインアウト)の3段階に分けられる.同意書や感染症の確認は麻酔導入前のチェック(サインイン)に含まれるため,皮膚切開前(タイムアウト)はシンプルなものが望ましいと考える.今回の結果ではEGDにおけるタイムアウトの項目(確認事項)は施設ごとに様々な回答があり,項目数も内容も統一されていなかった.EGDにおけるタイムアウトは6割以上の施設が採用していた「患者氏名」,「検査内容」,「抗血栓薬の有無」,「アレルギーの有無」「基礎疾患の内容」を最低限の確認項目とし,検査数が多い施設においては患者誤認の防止のため「ID」や「生年月日」などの追加,さらに検査の侵襲の程度によって確認事項(項目)が追加される必要があるだろう.スコープ挿入直前のタイムアウトを導入して習慣にすることにより,最終的には内視鏡スタッフ・医師の負担を軽減させ,検査の安全性を保つことが期待される.

鎮静後の帰宅判定基準は内視鏡技師会で作成された『麻酔回復スコア』(Figure 12)が最もわかりやすく,全国に浸透していた.しかしながら,本スコアは疼痛,悪心嘔吐に関する項目がなく,海外では一般的ではない.海外で使用されているスコアは『Aldreteスコア』,『PADSS』(Figure 13),及び『MPADSS』などがあるが,『Aldreteスコア』は術後回復室から病棟やリカバリー室への退出基準になるため,本来の使い方とは異なる.経口摂取の評価が可能な点から当院では『PADSS』を採用しているが,『MPADSS』と共に出血の項目が含まれ,実際はポリープ切除の可能性のある下部消化管内視鏡検査での使用報告にとどまる 16.いずれも類似の基準が混在しており,今後は国内で国際基準に則った統一した基準を作成することが望ましい.

Figure 12 

麻酔回復スコア(10点満点で完全回復と判断).内視鏡看護記録実践ガイド2013年版より改変.

Figure 13 

PADSS; Post-anesthesia discharge scoring system 10点満点(9点以上で帰宅可能).

今回の検討では,鎮静薬の内容・頻度・鎮静患者の観察状況に関しても同時に検討した.主たる使用薬剤はミダゾラムの頻度が高く,2016年に報告された第6回全国調査報告(2008年から2012年)での鎮静薬の頻度と比較しても 17,ミダゾラムの使用頻度(47.6%)がかなり増加していることが判明した.検査後の患者観察に関してはリカバリールームの確保はできているものの,専任のスタッフが確保しにくい状況も明らかになった.この点に関しては今後の内視鏡検査における安全性確保のため,各施設での努力を期待したい.

今回の調査では大学病院やがんセンター,多数の検査数を行っている先進的な施設からの回答が多かったため,6割以上の施設でタイムアウト及び鎮静後の帰宅判定基準が導入されていた.ただ一般市中病院や診療所における現状は十分に把握できておらず,より多施設を対象とした追跡調査が必要と思われる.さらに検査や治療手技により,観察対象や必要とされる検討項目が異なるため,その点を考慮した追加検討が行われることが望まれる.

Ⅴ 結  語

EGD検査時の確認事項や鎮静薬を用いた検査後の患者観察など様々な業務が増えており,スタッフへの負担が増えてきている.一方で,通常のEGDにおいても,しっかりした安全性を保つことは重要である.負担を軽減し,安全性を高めるために,周術期管理の一つとしてタイムアウト及び鎮静後の帰宅判定基準は確実に普及しつつある.しかしながら,その内容は統一されておらず,スタッフが使用しやすい,全国的に統一された基準の作成が望ましいと思われた.

謝 辞

本稿のアンケート調査にご協力いただいた先生方に謝意を表します.なお,本研究内容は日本消化器内視鏡学会附置研究会として承認を受けていた(その後,関連研究会として継続中),内視鏡検査・周術期管理の標準化に向けた研究会(第5回2020年11月8日開催)で発表した内容をもとに作成したものである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:藤城光弘(HOYAペンタックス,フジフイルム,オリンパス)

文 献
 
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