GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ENDOSCOPIC FINDINGS AND MANAGEMENTS OF IMMUNE CHECKPOINT INHIBITOR-RELATED GASTROINTESTINAL DISORDER
Yasuo HAMAMOTO
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2022 Volume 64 Issue 5 Pages 1083-1088

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要旨

免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor:ICI)は腫瘍細胞に対する免疫反応を活性化することにより抗腫瘍効果を発揮するものであるが,様々な免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)を誘発することが知られている.腸炎は抗CTLA-4抗体によるirAEの中でも頻度が高く,免疫チェックポイント阻害剤同士との併用や他の抗腫瘍薬(殺細胞性抗がん剤,分子標的薬)で頻度や病態が変化するため注意の必要なirAEのひとつとして知られており本項ではこれまでの知見をまとめ概説する.

Abstract

Immune checkpoint inhibitors (ICIs) exert antitumor effects by inducing the immune response to tumor cells; however, this also leads to an increased incidence of immune-related adverse events (irAEs). Enteritis is the most common irAE caused by anti-CTLA-4 antibodies, and its frequency and pathophysiology vary based on the combination of ICIs and other antitumor drugs (cell-mediated anticancer or molecular target drugs). Enteritis is therefore considered an irAE that requires special attention. The following section outlines the recent findings.

Ⅰ はじめに

免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor:ICI)は様々な癌腫においてその有効性を証明し適応範囲を拡大している.これまでにCTLA-4およびPD-1/PD-L1を標的とした薬剤が保険承認となり,いずれも腫瘍細胞に対する免疫反応を活性化することにより抗腫瘍効果を発揮するものであるが,一方で,様々な免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)を誘発することが知られている.腸炎は抗CTLA- 4抗体によるirAEの中でも頻度が高く,免疫チェックポイント阻害剤同士との併用や他の抗腫瘍薬(殺細胞性抗がん剤,分子標的薬)で頻度や病態が変化するため注意の必要なirAEのひとつとして知られている 1)~3.本項ではこれまでの知見をまとめ概説する.

Ⅱ 免疫チェックポイント関連腸炎の特徴

<機序>

irAE腸炎の臨床像や治療反応性にはこれらの炎症性腸疾患に類似した特徴がみられるが,その詳細な発症機序に関しては不明な点が多い.腸管上皮は,管腔内の食餌抗原や腸内細菌などの外的因子に常に暴露されており,その中で複雑な機序を介して免疫寛容状態が維持されている.ICI投与により,これらの免疫寛容状態が破綻することにより腸炎を発症すると考えられている.またICIの中でも抗CTLA-4抗体と抗PD-1/PD-L1抗体ではirAE腸炎の頻度や病態も異なることがわかってきており,その機序の違いについても注目されている 4

<頻度・リスク因子>

irAE腸炎は臨床的に下痢で診断されることがほとんどであるためICI関連の下痢の頻度が重要となる.これまでの報告では抗CTLA-4抗体では23-33%,抗PD-1/PD-L1抗体では11-19%に治療関連の下痢を認め,そのうち3-6%,1-3%にCTCAE Grade3-4に相当する重篤な下痢を合併する症例を認めている.また画像や腹部症状などから腸炎と診断される症例は抗CTLA-4抗体および抗PD-1/PD-L1抗体でそれぞれ8-12%,1-4%に認め,そのうち重症例は7-9%,<1-3%程度と報告されている(Table 1).さらに抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用療法ではさらにリスクは増加し,44-45%に下痢を,12-26%の症例で腸炎を合併し,重症例はそれぞれ9-11%,8-17%と,単剤治療よりも頻度が上昇しており注意が必要である 1),2.irAE腸炎出現の危険因子としては,NSAIDs使用歴や,がん種(悪性黒色腫)などが指摘されている 2

Table 1 

抗CTLA-4抗体と抗PD-1/PD-L1抗体による腸炎の違い(文献より引用).

 irAE腸炎の発症までの期間については抗CTLA-4抗体では1-10回投与後に多いとされ中央値としては初回投与から1カ月程度となる.一方,抗PD-1/PD-L1抗体では抗CTLA-4抗体よりも発現時期が遅く治療開始から2-4カ月後にみられることが多いとされているが1年以上経過した後に発症した症例も報告されている 3),5

<殺細胞性抗がん剤による下痢との違い>

一般的に殺細胞性の抗がん剤による下痢では,イリノテカンのようにコリン様の症状により消化管の副交感神経が刺激され腸管蠕動が亢進することにより発症する早発性の下痢と,薬剤による粘膜障害によって誘発されるような遅発性の下痢にわけられる.早発性下痢は通常一過性であり重篤になることは少ないが遅発性下痢は,重篤な感染症を合併し致死的な症状となる場合がある.遅発性下痢は抗がん剤投与後数日から2週間ほど経過してから発症することが多く,感染症が否定的な場合にはロペラミドなどの止痢剤による対症療法が行われる.腸管粘膜では,抗がん剤やその代謝物により絨毛の萎縮,脱落などの所見が認められる.一方irAE腸炎による下痢ではICIの投与から発症までにはかなりのばらつきがあり治療との関連については判断が難しい場合が存在する.また下痢以外にも腸炎の症状として腹痛,血便などを認めることもあり重篤な症例では穿孔をきたす症例もあり早期の診断,治療が必要である.殺細胞性の抗がん剤による下痢では対症療法で治療されるのに対し,irAE腸炎では重症例では速やかなステロイドなどの免疫抑制剤による治療が必要となる.irAE腸炎では,特徴的な下部消化管内視鏡所見を示すことがあり鑑別に有用と考えられる.なお近年殺細胞性抗がん剤やチロシンキナーゼ阻害剤との併用療法が良好な成績を示し下痢・腸炎の責任薬剤の同定困難になりつつある.殺細胞性抗がん剤による下痢は発症時期が早い(1-2週間で出現),対処療法で症状が徐々に緩和されることなどが鑑別のポイントになる.またチロシンキナーゼ阻害剤に関しては半減期が短い薬剤に関しては休薬により速やかに症状改善することで鑑別することなどが有用である.いずれにしても判断が難しい場合には速やかに内視鏡および組織生検による検討を考慮する必要がある.

Ⅲ 免疫チェックポイント関連腸炎のマネージメント

<irAE腸炎の診断・検査所見>

ICI投与中もしくは投与歴のある患者に,下痢や腹痛など腹部症状を認めた場合には,irAE腸炎の合併を考えなければならない.しかしirAE腸炎の発症時期には幅があり,タイミングのみでの診断は困難なため,感染性腸炎を含めた鑑別診断が最も重要となる.感染性の腸炎の鑑別に特に有用なのが便検査である.通常の便培養検査による細菌性腸炎の鑑別に加え,Clostridium difficille(CD)関連腸炎の鑑別のためCD毒素の確認も推奨されている.実際にわれわれの施設においても,irAE腸炎を疑われた症例でCD毒素陽性となり,バンコマイシンの投与にて症状が軽快した症例を経験している.頻度が非常に少ないと考えられるが,寄生虫感染の鑑別のための虫卵検査も推奨されている.CTや下部消化管内視鏡検査は,腸炎の診断に加え,炎症の範囲や重症度を評価するのにも有用である.CTは内視鏡と比べ簡便であり,患者の状態に関係なく実施可能なため,病変の範囲や穿孔のリスク評価,膿瘍などの合併の鑑別などに有用である.特徴的な所見としては,腸管壁の浮腫,肥厚などが挙げられる.しかし,CTで指摘できるような病変がない場合も多くみられるため,注意が必要である.

irAE腸炎は大腸炎として発症することが多く診断および炎症の重症度の評価目的の下部消化管内視鏡検査が有用である.下部消化管内視鏡所見は,発赤・血管透見の消失・びらん・潰瘍などの所見が認められ(Figure 1),炎症性腸疾患に類似した所見として観察されることが多いとされるが,非特異的な所見のみの場合もあり注意が必要である.潰瘍性変化を半数以上の症例で認めるとされている.潰瘍所見とステロイド抵抗性の関連が報告されており内視鏡検査による評価が治療効果予測にも有用な可能性がある.強い前処置を行わず浣腸程度で検査に踏み切ることが一般的である.大腸炎以外にも,上部消化管や小腸に炎症をきたすことがあり,抗CTLA-4抗体によるirAE腸炎合併症例のうち,12%の症例において大腸炎ではなく小腸炎の所見を認めたとする報告もあるため,症状にあわせて大腸以外の腸管の評価も考慮する必要がある.

Figure 1 

下部消化管内視鏡所見.

内視鏡検査の際に生検を実施することで,病理学的にもirAE腸炎の評価を行うことが可能となる.また10%程度の症例は内視鏡所見の認めない病理所見のみirAE所見がみられるケースが知られている.irAE腸炎の病理所見としては,好中球の浸潤,陰窩膿瘍などの急性炎症所見を認める(Figure 2)のが一般的であり,最近の報告では,抗CTLA-4抗体による腸炎ではCD4陽性T細胞が優位のリンパ球浸潤を認め,抗PD-1抗体による腸炎の場合にはCD8陽性T細胞が優位となる傾向があるとされており,それぞれの発症機序の違いを反映していると考えられる.サイトメガロウィルスが検出されることがあり,病勢と関連している可能性も示唆されているため,感染の有無を確認しておくことが望ましい.

Figure 2 

irAE腸炎の病理所見.

<治療>

irAE腸炎に対する治療は,CTCAEを用いて下痢・腸炎の重症度を評価し,軽症,中等症,重症と大きく3段階にわけて考えられる(Table 2).以下に現在推奨されている治療内容について概説する 6)~9

Table 2 

irAE腸炎の重症度と治療方針(文献より引用).

1.軽症~中等症

排便回数の増加が4回未満であり,その他の腹部症状を伴わないような軽症例では,原因となっているICIを継続したまま対症療法のみで経過をみることが可能である.排便回数が4-6回増加している症例は中等症と判断され,軽症例と同様にロペラミドや適宜補液を行うなどの対症療法で経過をみることも可能であるが,症状が遷延する場合や発熱や脱水,頻脈,血便などの症状を伴う場合には原因となっていると考えられるICIの中止を検討する.

軽症の場合は2週間程度,中等症では3日以上経過しても改善がみられない場合は,速やかにプレドニゾロン0.5-1.0mg/kg/dayでの治療を検討する.ステロイド治療にも反応がみられない場合は重症例に準じた治療へ移行する必要がある.

2.重症例

1日の排便回数が7回以上増加しているような重症例では,直ちにICIを中止しプレドニゾロン1-2mg/kg/dayによる治療を開始する.重症例では腸管穿孔や腹腔内膿瘍を合併し緊急手術が必要になる症例も報告されている.CTによる腹腔内の評価および炎症の範囲を評価することは必須である.下部消化管内視鏡検査による腸管内の評価も重要であり潰瘍形成している症例はステロイド抵抗性の重要な因子と考えられている.ステロイド治療は3-5日程度で効果がみられることが多く,改善がみられた症例では4-12週程度かけて適宜漸減する.一方,ステロイド治療を施行された症例の2割程度ではステロイド抵抗性を示し,そのような症例では速やかに治療の変更を検討する必要がある.

基本的にこのような重症irAE腸炎を合併した症例では,腸炎の回復後も同じICIの再開は推奨されない.抗CTLA-4抗体による重症irAE腸炎合併例では,抗PD-1抗体への切り替えが検討される.

3.ステロイド抵抗性・依存性の症例に対する治療

全例がステロイド治療に反応するわけではなく,またステロイド減量中に再燃するようなステロイド依存性を示す症例もいることが報告されている.このような症例に対し,抗TNF-α抗体であるインフリキシマブが推奨されている.インフリキシマブはクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に対して有効性が証明されており広く使用されているが,irAE腸炎に対してもその有効性が認められている.インフリキシマブ5mg/kgの単回投与で効果がみられ,追加の投与が不要な場合が多いとされているが,症例によっては2週間後の追加投与も考慮される.本邦ではインフリキシマブはirAE腸炎に対する適応はないため,臨床の場面で実際に使用する場合には注意しなければならない.最近の報告で,インフリキシマブの使用により腸炎の回復までの期間が短縮されることが示され,インフリキシマブの適切な使用時期についてもさらなる検討が必要と考えられる.生物製剤に対して抵抗例に対するオプションとして,IL-12/23阻害剤であるUstekinumab 10およびJAK阻害剤であるTofacitinib 11が報告されており今後の検討が必要である.

4.免疫チェックポイント阻害剤再開のポイント

免疫チェックポイント阻害剤後の腸炎が改善した後に再開を考慮するにはいくつかのポイントがある.有害事象とのバランスの考慮が必要であるが,腸炎再燃のリスクはCTLA4阻害剤が特に高い.また必要に応じて生物製剤併用での再開の考慮が必要である.なお積極的に考慮できるケースとしては1)腫瘍量が多い,2)PSが良好である,3)irAEのエピソードが短い,4)ステロイドなどの反応性が良好などが挙げられている 12

Ⅳ まとめ

腸炎はirAEの中でも頻度が多く,ときに重症化・致死的な合併症となる可能性もあり注意が必要である.機序についてはまだ十分に明らかになっているとは言えないのが現状であるが,徐々に新たな知見も報告されるようになってきた.特に腸内細菌との関連については治療開発や予防的な観点からも発展が期待される 13.ICIの重症例では,早期診断,早期の治療介入が重要と考えられているが,インフリキシマブやベドリズマブなど,保険承認されていない薬剤の使用も検討する必要があり,今後ますます専門医との連携や施設としての対応についての準備を進めていく必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:浜本康夫(小野薬品工業株式会社)

文 献
 
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