GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SURVEILLANCE FOR THE DETECTION OF EARLY-STAGE PANCREATIC CANCER IN INDIVIDUALS WITH RISK FOR FAMILIAL PANCREATIC CANCER AND HEREDITARY PANCREATIC CANCER SYNDROME
Susumu HIJIOKA Chigusa MORIZANEYutaka SAITO
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2022 Volume 64 Issue 5 Pages 1089-1098

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要旨

膵癌の高リスク群として,家族歴に膵癌家族歴や家族性膵癌が,遺伝疾患の中に,遺伝性膵炎,遺伝性膵癌症候群があげられる.家族性膵癌家系は第一度近親者内に2人(一対)以上の膵癌患者がいる家系と定義されている.これら,リスクを有する個人に対して,膵癌を早期に発見するサーベイランスが世界的に取り組まれている.特に米国を中心としたCancer of the Pancreas Screening(CAPS)ではEUS,MRIを主軸としたサーベイランスの方針であり,世界的にも同様の方法が多く,様々な有用性の報告がなされている.

日本においてもエキスパート・コンセンサスによるステートメントが出され,また多施設前向き介入研究も開始されている.

Abstract

The high-risk groups for pancreatic cancer include those with a history of pancreatic cancer, familial pancreatic cancer, hereditary pancreatitis, or hereditary pancreatic cancer syndrome. Familial pancreatic cancer is defined as having a history of two or more first-degree relatives with pancreatic cancer. Surveillances for the early detection of pancreatic cancer in individuals at risk are being conducted worldwide. In particular, the Cancer of the Pancreas Screening (CAPS), which is mainly conducted in the United States, has a policy of surveillance based on endoscopic ultrasonography (EUS) and magnetic resonance imaging (MRI). There are many similar methods available worldwide with various reports on their usefulness.

In Japan, expert consensus statements have been issued and multicenter prospective intervention studies have been initiated.

Ⅰ はじめに

膵癌の治療としては,切除が唯一治癒の期待できる治療であるが,切除可能例は2~30%程度と極めて少なく,極めて予後不良の疾患である.切除率の向上,すなわち切除可能な段階で診断できる例を増やすことが,膵癌の生存率を改善させる有効な手段となるが,切除可能な段階で診断するには,膵癌を発症する高リスク群に対してサーベイランスすることが有効と考えられる.膵癌患者の3~10%は膵癌の家族歴があり 1,膵癌の高リスク群として,家族歴に膵癌家族歴や家族性膵癌が,遺伝疾患の中に,遺伝性膵炎,遺伝性膵癌症候群があげられている(Table 1).

Table 1 

膵癌高危険度群(日本膵臓学会:膵癌診療ガイドライン2019年版).

また近年,germline BRCA遺伝子変異を有する進行膵癌患者に対するプラチナ療法後の維持療法としてPARP(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ)阻害薬の有効性が示され 22020年12月には本邦においても保険適用となった.これに伴いgermline BRCA遺伝子異常を調べるBRACAnalysisも保険適用となった.このため,膵癌においても遺伝性疾患に関する注目が集まり,膵癌患者を有する血縁者の不安も高まっている現状にある.

本総説では,膵癌の高リスク群の中でも,家族性膵癌家系ならびに遺伝性膵癌症候群に着目し,この膵癌高リスクを有する個人に対する膵癌早期発見に向けた消化器内視鏡医が知っておくべき最新の知見と世界および日本の動向を概説する.

Ⅱ 家族性膵癌家系ならびに遺伝性膵癌症候群の概念・定義

一般的に悪性腫瘍は,散発性に発生するものがほとんどだが,一部に生殖細胞系列の病的変異による遺伝性腫瘍も存在し,膵癌においても例外ではない.

膵癌診療ガイドライン2019版 3によれば,膵癌のリスク因子として,生活習慣(糖尿病,肥満),膵疾患(慢性膵炎,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;IPMN),膵嚢胞),嗜好(喫煙,飲酒),職業に加えて,家族歴(膵癌家族歴,家族性膵癌),遺伝性膵炎そして遺伝性膵癌症候群(遺伝性乳癌卵巣癌症候群,Peutz-Jeghers症候群,家族性異型多発母斑黒色腫症候群,遺伝性非ポリポーシス大腸癌,家族性大腸腺腫ポリポーシス)があげられている.実際,全膵癌の約10%が家族歴を背景に発症すると報告されている 4)~7

膵癌は家系内発症が認められることが知られており,特に,第一度近親者内に2人(一対)以上の膵癌患者がいる場合,その家系を家族性膵癌家系と定義されている 8),9.ただし,これは広義であり,狭義にはそれらから既知の遺伝性腫瘍症候群が原因を除いたものとされている 10),11.また家族性膵癌家系から膵癌患者が発生した場合,その膵癌を家族性膵癌と呼ぶ 8),9.家族性膵癌の主たる責任遺伝子は未だ十分解明されていない.

遺伝性腫瘍症候群とは,生殖細胞系列の遺伝子異常を有し,生まれながらにがんを発症しやすい体質を持っている個人の病態(体質)を指す.中でも,遺伝性膵炎(PRSS1SPINK1遺伝子異常),Peutz-Jeghers症候群(STK11遺伝子異常),家族性異型多発母斑黒色腫症候群(CDKN2A/p16遺伝子異常),遺伝性乳癌卵巣癌症候群(BRCA遺伝子異常),遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)(MLH1MSH2MSH6PMS2遺伝子異常)などの遺伝性腫瘍は,膵癌の発症率が高いことが知られており,これらは遺伝性膵癌症候群とも呼称されている.

Ⅲ 疫  学

米国での家族性膵腫瘍レジストリ研究(National Familial Pancreatic Tumor Registry;NFPTR)では,838家系5,179人の疫学調査から,米国の地域がん登録制度によるSurveillance,Epidemiology and End Results(SEER)databaseと比較して,家族性膵癌家系では,膵癌発症の標準化罹患比(standardized incidence ratio;SIR)が9.0倍(95%信頼区間(confidence interval;CI),4.5~16.1)であることが示された 9.さらに,第一度近親者内に膵癌罹患者が3人以上いる場合の膵癌発症リスクは32倍(95% CI,10.4~74.7),2人の場合は6.4倍(95% CI,1.8~16.4),1人では4.5倍(95% CI,0.54~16.3)となると報告された(Table 2 9),12

Table 2 

家族性膵癌家系における膵癌発生のリスク.

また,Bruneらは,NFPTRに登録された個人を解析し,家族性膵癌家系では50歳未満の若年発症の近親者を持つ個人の膵癌発症のリスクが9.3倍に上昇し,若年発症の近親者のいない個人の6.3倍と比較して高いことを報告した 12

本邦における家族性膵癌の頻度はMatsubayashiら,Takaiらの調査によれば,膵癌全体の6.9-7.3%で第一度近親者内に膵癌の家族歴があったと報告しており 13),14この頻度は欧米とほぼ同様である.Matsubayashiら,Inoueら 13),15は膵癌の家族歴を有する場合の膵癌発症のオッズ比(Odds ratio;OR)を調査し,それぞれ2.5(95% CI,1.37~4.38),2.1(95% CI,1.01~4.33)と報告している.

遺伝性膵癌症候群における膵癌発症のリスクは各遺伝子異常によって異なる.特にSTK11(Peutz-Jeghers症候群) 16PRSS1(遺伝性膵炎),CDKN2A/p16(家族性異型多発母斑黒色腫症候群) 17の生殖細胞系列の遺伝子異常を有する者は,膵癌の相対危険度が非常に高く,各々の一般人口集団に対する標準化罹患比(standardized incidence ratio;SIR)は,各々,132,53,13-38であり,注意が必要である(Table 3).

Table 3 

遺伝性膵癌症候群の原因遺伝子と膵癌発生のリスク.

Ⅳ 病因と診断

Ⅳ-1 家族性膵癌の病因と診断

広義の家族性膵癌においてはBRCA2,BRCA1,PALB2,CDKN2A,PRSS1,STK11,CHEK2,ATM,MLH1,MSH2,MSH6,PMS2などの遺伝性膵癌症候群と言われる生殖細胞異常が報告されている.しかし生殖細胞系遺伝子に病的バリアントが確認される症例は家族性膵癌全体の20%以下 14),18とされ遺伝的浸透率は高くない.このため,家族性膵癌の主たる責任遺伝子は他にあると考えられているが,まだ十分には解明されていない.

家族性膵癌と散発性膵癌の腫瘍細胞の遺伝子解析では,両者はKRAS,p16/CDKN2A,TP53,SMAD4など共通したsomaticな遺伝子変異を同程度に有し,エピジェネティックな変化もほぼ変わらなかった 19との報告がある.また,膵癌の発生部位,症状,画像的所見,膵癌ステージ,病理所見にも有意な差は認めないとされる 20.このため,家族歴以外から家族性膵癌を疑うことは困難と考えられる.

家族性膵癌と診断した場合,その患者の治療方針に関係するだけでなく,その近親者を膵癌発症の高リスクであることついての説明も考慮すべきである.特に,家族性膵癌の家系で50歳未満の若年発症者がいる場合,膵癌罹患リスクはさらに上昇する 12ことが判明しており,さらには世代が進むにつれて膵癌発症年齢が若年化する,いわゆる促進現象 21も認められることもあり,注意が必要である.しかしながら,sensitiveな問題も孕んでおり,必要に応じて遺伝カウンセラーなどとも連携しながら説明を行うことが肝要と考える.

Ⅳ-2 遺伝性膵癌症候群の病因と診断

遺伝性膵癌症候群の原因遺伝子はTable 3に示すものが同定され,遺伝形式は常染色体優性遺伝である.各原因遺伝子によって膵癌発症の相対危険度は異なる.Peutz‒Jeghers 症候群のSTK11が最も高くSIRが132であり,生涯リスクは50歳で5%,70歳で17%と高率であり,膵癌の平均発症年齢は41-52歳とされる.このため本邦のPeutz-Jeghers症候群診療ガイドラインでは,膵臓癌のサーベイランスについて,30歳から1~2年間隔で磁気共鳴胆管膵管造影(magnetic resonancecholangio pancreatography;MRCP)または超音波内視鏡検査(EUS)が推奨されている.STK11に次いで,遺伝性膵炎のPRSS1が53~87倍 22と続く.一般的に知名度の高い遺伝性乳癌卵巣癌症候群のBRCA2は,2.3-10倍とそれほど高値ではない 23)~25.膵癌全体の中でBRCA2遺伝子異常は約2%,BRCA1遺伝子異常は1%以下とされる 26.家族性膵癌でのBRCAの頻度はBRCA1/2異常は17%に見られ 23),27,このうちBRCA2が5-10%とされ,BRCA1は1%程度と少ない 28.また,BRCA2遺伝子異常保持者における膵癌の生涯リスクは5~10%である 26BRCA1遺伝子変異保持者は膵癌の発症リスクが2~4倍に高くなるとされている 26MLH1,MSH2,MSH6,PMS2の遺伝子異常が原因である遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC/Lynch症候群)は膵癌の生涯リスクは3.7%とされる 6),29

遺伝性膵癌症候群の多くは常染色体優性遺伝で,これらの疾患と診断された本人およびその近親者は,膵癌発生についても慎重なスクリーニングが勧められる.遺伝学的検査は通常,対象者の血液を採取して実施するが,その位置付けは通常の血液検査とは大きく異なり,遺伝カウンセリングのプロセスの一つとして実施する 30.このため,臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどの専門家によって実施することが望ましく,必要に応じて,体制が整備された施設に紹介する必要がある.

Ⅴ 膵癌の早期発見を目指した高リスク群のサーベイランス~世界の動向~

米国Johns Hopkins Universityでは,1994年にHrubanら 31が中心となって,世界で最も早く家族性膵癌登録制度(National Familial Pancreatic Tumor Registry:NFPTR)を設立し,家族性膵癌家系や遺伝性膵癌症候群家系が登録されるようになった.それに続いて,英国Liverpool Universityで,1997年にEuropean Registry of Hereditary Pancreatitis and Familial Pancreas Cancer(EUROPAC) 32が,ドイツでは1999年にGerman National Case Collection for Familial Pancreatic Carcinoma(FaPaCa) 33の登録が開始された.NFPTRは,その充実したデータベースや検体を利用して,家族性膵癌家系の膵癌発症に関連する生殖細胞系列遺伝了変異の解明も進めてきた 34)~36.この解析により家族性膵癌においては20%程度の症例で様々な種類の生殖細胞系列遺伝子変異を認めることが示されている.

家族性膵癌家系や関連する生殖細胞系列遺伝子変異の理解が進むのと同時に,Johns Hopkins大学ではNFPTRと連携して膵癌の早期診断を目的としたスクリーニング研究であるCancer of the Pancreas Screening(CAPS)試験がCantoとGogginsらを中心に2001年から開始された 8.CantoらはCAPS試験の中で膵癌高リスク群におけるスクリーニングの画像モダリティを比較検討し,初回検査で216例中の92例(43%)において嚢胞性病変を主とする膵病変を認めたことや,CT,MRI,EUSのmodality別の比較では膵病変の同定率は各々,11%,33%,43%であり,膵スクリーニングにおけるMRIとEUSの有用性を示した 37

さらに,2011年にJohns Hopkins大学のよびかけにより,世界10カ国から49名の専門家を集めたCAPS Consortiumの会議が米国ボルチモアで開催された 38.この会議で,膵癌の早期診断を目的としたサーベイランスのコンセンサスガイドラインを2013年に報告した 38.このCAPS Consortiumの会議は2018年にも開催され,2020年にCAPS改訂版のガイドラインを報告している 39.この,2020年度版CAPS Consortiumガイドラインでは参加した各分野の専門家計76名の75%以上の同意をもってコンセンサスが形成され,計55項目で声明が出された.

まず,サーベイランスの目的は「高異型度の前癌病変とT1N0M0の膵癌の同定」であり,当初のガイドラインから引き継がれた.また,サーベイランスの対象は膵癌高リスク群であり,具体的には①Peutz-Jeghers症候群の全患者,②CDKN2A/p16の生殖細胞系列遺伝子変異保持者, ③1人以上の第1度近親者に膵癌の家族歴があるBRCA2,BRCA1,PALB2,ATM,MLH1,MSH2,MSH6の生殖細胞系列遺伝子変異保持者,④1人以上の第一度近親者と1人以上の第二度近親者に膵癌の家族歴がある個人,をあげている.サーベイランス開始年齢に関しては,家族性膵癌家系からの膵癌発生の平均年齢は68歳で家族歴のない膵癌の発症年齢と変わらないこと 12,家族性膵癌家系での膵癌診断率は65歳を越える個人で最も高かったとの報告 40,家族性膵癌家系のサーベイランスにおいても50歳以下での有意な異常所見(膵癌,膵上皮内腫瘍性病変(pancreatic intra‒epithelial neoplasia;PanIN)-3,high grade IPMN)は,全体の異常所見の中の,わずか3%に過ぎなかったとの報告もあり,50歳以上を基本としている.しかし,今回の改訂で,Peutz-Jeghers症候群(STK11遺伝子異常),familial atypical multiple molemelanoma(FAMMM)(CDKN2A/p16遺伝子異常),遺伝性膵炎(PRSS1)の生殖細胞系列の遺伝子異常を有する個人は,膵癌の相対危険度が非常に高く,推奨開始年齢がこれまでの50歳から40歳に引き下げられた.また,BRCA2,ATM,PALB2/BRCA1,MLH1/MSH2の生殖細胞系列の遺伝子異常を有する個人は,推奨開始年齢が50歳から45歳もしくは40歳に引き下げられた.

サーベイランスで用いる画像モダリティは微小病変や膵嚢胞の検出力が優れている点と放射線被曝の問題からEUS,MRIを一貫して推奨している.これは欧州においても共通の認識となっている 41.早期診断においては膵癌の前癌病変である膵臓上皮内腫瘍(pancreatic intraepithelial neoplasia;PanIN)を示唆する非特異的な膵実質変化をEUSで捉えることが重要と強調している 42),43.家族性腫瘍症例の中には,Li‒Fraumeni症候群など,放射線曝露による二次性癌発生リスクがあるため単なるサーベイランス目的の放射線検査は避けるべきという考えによるものである 44BRCA遺伝子異常でもわずかながら検査被曝によると思われる乳癌発生頻度の上昇が認められており(BRCA1:<2%,BRCA2:<4%) 45,リスクベネフィットバランスを考慮して,若年期からの被曝を伴うサーベイランスは避けるべきと考えられている 46

膵癌高リスク群に対するサーベイランスの間隔に関しては,今回の改訂で詳細なフローチャートが示された(Figure 1).膵嚢胞は,嚢胞自体のmalignant potentialは低いが,膵癌発症のリスク因子であると考えられており,IPMN/MCN国際診療ガイドライン 47にほぼ準じて作成されている.すなわち,worrisome featuresなどの異常所見を認めなければ年1回,異常所見を伴う場合には6カ月ごと,特に5mm未満の充実性病変や5~9rnmの主膵管拡張を認める場合には3カ月ごとを推奨している.手術適応についても膵癌高リスク群ではない通常リスクの個人と同じ手術適応とすることが明言されており,IPMN/MCN国際診療ガイドライン 47と同様である.

Figure 1 

膵癌高リスク群に対するサーベイランスのフローチャート(文献39より引用改訂).

CAPS Consortiumの膵癌高リスク群に対するサーベイランスのフローチャートを示す.

EUS:endoscopic ultrasound. WF:worrisome features. FNA:fine-needle aspiration.

このCAPSによるサーベイランス研究のupdate(ハイリスク因子を有する354名を中央値5.6年間サーベイランスを施行した結果)が2018年に報告された 48.24例(7%)が腫瘍性病変(14例が通常型膵癌,10例が高悪性度異形成(High Grade Dysplasia;HGD))として発見され,1.6%/年の発生率であった.サーベイランス中に発見された10例中9例の膵癌は切除可能であったという素晴らしい報告であった.

Ⅵ 膵癌の早期発見を目指した高リスク群のサーベイランス~日本の動向~

本邦においても,2013年に日本膵臓学会は家族性膵癌レジストリ委員会(委員長:高折恭一先生)を設置し,「日本膵臓学会家族性膵癌登録制度」(略称JFPCR)の運用を開始した〔 http://jfpcr.com 49

現在では,京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの全面的な協力を得て,全国の登録施設でオンライン登録が可能となっている.もともと家族性膵癌登録制度は,それ自体の疫学研究としての意義も大きいが,登録制度を基盤として種々の附随研究を促進することも一つの大きな目的である(Figure 2).特に,膵癌早期発見のための取り組みは重要な柱である.

Figure 2 

家族制膵癌登録制度の真の目的.

家族性膵癌登録制度は,膵癌罹患のリスクが高い家系の同定,早期発見の開発,発癌の原因遺伝子の解明,治療開発など,様々な研究開発の土台となり得る.

JFPCRでは,研究への参加の際に,家族性膵癌の疾患概念について説明するため,参加者の家族が膵癌発症の高リスクにあることに対し不安を感じるケースが多い.早期発見の手法が確立していないため,エビデンスに基づいた方針を提示することは不可能であるが,目前にいる不安を抱えた個人に,臨床の現場でどのように回答すべきか,といった喫緊の課題を解決するために,「膵癌早期発見のためのサーベイランスに関する研究」(班長:北野雅之先生)のコンセンサスミーティングで議論を重ね,①膵癌高危険群の定義,②膵癌高危険群の初回検査法,③膵癌高危険群の経過観察法,に関する22のステートメントを日本膵臓学会評議員による賛否の投票を行い,75%以上の合意が得られた21のステートメントをエキスパート・コンセンサスとして報告した 50),51

これらは実臨床において,非常に有益と考えるが,未発症の膵癌高リスク家族性膵癌家系に対して,経過観察の画像検査は保険診療では認められていないこと,切除可能な段階で診断できる例を増やすことの有用性は示唆されているものの,サーベイランスが生存率の改善につながるかどうかは,十分なエビデンスがないことが課題として残される.

またこのようなサーベイランス自体で精神的不安を引き起こすことも問題点としてあげられている 52),53

このため,前向き臨床試験での評価が必要との判断のもと,全国多施設前向き介入研究として,家族性膵がん家系ならびに遺伝性膵癌症候群を有する個人に対するサーベイランス研究(Diamond study)が2020年6月より開始された(研究代表者:奥坂拓志先生).2021年11月現在,全国51施設が参加している.主たる目的は,サーベイランス介入を行うことが,膵癌早期診断に有望であるかを前向き介入研究により明らかにすることであり,サーベイランスの介入により発見された膵癌患者のうち,切除可能膵癌患者の割合(全フォローアップ中に発見された切除可能膵癌患者数/発見された全膵癌患者数)をPrimary endpointとしている.画像モダリティとしては,CAPSに倣い微小病変の検出力が優れているEUSと非侵襲的で放射線被曝がないMRI/MRCPを用い,6カ月ごとに最長15年間,交互に検査を行う(Figure 3).適格規準は,CAPSとほぼ同じで(Table 4)予定登録数は400例,予定登録期間は10年間である.

Figure 3 

Diamond studyのフローチャート.

初回登録時に腫瘍マーカー(CEA,CA19-9),アミラーゼを含む血液検査および,MRI(T1/T2/DWI/MRCP)とEUSの両者を行い,膵病変の有無を確認する.異常なしもしくは経過観察可能な膵疾患と判断した場合には経過観察のサーベイランスとして,6カ月ごとに血液検査に加え,MRI→EUS→MRIと交互に行っていく.

Table 4 

Diamond studyの対象者全体の適格規準.

膵癌発生リスクが,SIR5倍以上と,30倍以上に想定される個人をそれぞれ,膵癌高リスク群,膵癌超高リスク群に分けた.適格規準自体はCAPSと同様である.

家族性膵がん家系ならびに遺伝性膵癌症候群を有する個人に対するサーベイランスの有用性を証明し,サーベイランス検査を保険診療として導入することを最大の目標としている.

Ⅶ まとめ

家族性膵癌の概念が浸透し,膵癌発症の高リスク群の存在が認知されるようになるに従い,膵癌早期発見に対する医療ニーズが高まっている.特に,EUS,MRCPを中心としたサーベイランスが世界的にも主流であり,現時点では効率的と考えられている.

また,本邦で家族性膵癌登録制度が設立され医療者のみならず,一般のかたにも家族性膵癌疾患概念が浸透してきたことは非常に有益である.

今後,日本においてもDiamond studyにより,家族性膵がん家系ならびに遺伝性膵癌症候群を有する個人の膵癌を早期に発見することができれば,膵癌の予後改善に向け大きな前進であると考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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