GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ESOPHAGEAL CARCINOSARCOMA THAT HAD BEEN RAPIDLY GROWING FOR A MONTH
Taku MIZUTANI Takashi IBUKATakao MIWAYukari UNOKoji YAMASHITAJun TAKADAMasaya KUBOTAHiroyasu SAKAIYohei SHIRAKAMIMasahito SHIMIZU
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2022 Volume 64 Issue 5 Pages 1106-1111

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要旨

症例は62歳男性.前医にて検診目的に上部消化管内視鏡を施行され,中部胸部食道に6mm大の隆起を伴う平坦病変を指摘された.Squamous cell carcinomaの病理診断で,精査加療目的に当科紹介となった.精査から35日後に治療目的を前提に内視鏡検査を施行したところ,腫瘍は20mm大に増大していた.内視鏡的粘膜下層剝離術で一括切除したところ,病理所見はcacinosarcomaの診断であった.1カ月という短い期間で著明に増大した食道癌肉腫の1例を経験した.小径で食道癌肉腫が発見されることはまれであるが,白苔で覆われる食道隆起病変で平坦病変が付随するような場合には本疾患を鑑別に挙げる必要がある.

Abstract

A 62 year-old man underwent a gastroscopy for the purpose of an annual checkup. A 6-mm protrusion lesion in the middle of his thoracic esophagus was detected, and biopsy revealed squamous cell carcinoma. For endoscopic therapy, he was referred to our hospital. About one month later, we tried to operate via endoscopic submucosal resection (ESD) and discovered that the protrusion had enlarged remarkably by 20mm. ESD was still carried out and the pathological evaluation confirmed esophageal carcinosarcoma. In general, carcinosarcomas are detected when the tumor grows considerably large; at this point, the patient will likely experience chest discomfort or dysphagia. In this case report, however, the protrusion was considerably smaller and the patient had no complaints, but the tumor had been growing rapidly for about a month already. It is unusual to detect carcinosarcomas that are small in size, but we should anticipate this disease when we observe a protrusion lesion with fur in the esophagus.

Ⅰ 緒  言

食道癌肉腫は食道原発悪性腫瘍の0.2-2.8%に見られる比較的まれな腫瘍である 1.癌肉腫は特徴的な内視鏡所見を呈するが,その肉眼的形態の変化についての報告は少ない.今回われわれは約1カ月という短い期間で急速に増大した食道癌肉腫の1例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:62歳,男性.

主訴:無症状.

既往歴:萎縮性胃炎,Helicobacter pylori除菌後.

現病歴:検診目的に近医にて上部消化管内視鏡検査を施行したところ,切歯より30cmに小隆起とその周囲に広がる不整粘膜を指摘された(Figure 1).小隆起,周囲不整粘膜よりそれぞれ生検が施行され,病理結果は小隆起部では壊死組織を伴った肉芽組織,周囲不整粘膜はSquamous cell carcinomaと診断された.精査加療目的に当科紹介となった.

Figure 1 

前医での白色光内視鏡所見.

切歯より30cmに6mm大の0-Ⅰs部分を認め,その周囲に15mm大の発赤調0-Ⅱb部分を認めた.

生活歴:飲酒なし,喫煙20本/日.

家族歴:特記事項なし.

初診時現症:身長167.4cm,体重70.7kg,体温36.9度,脈拍71回/分,血圧125/78mmHg,結膜に明らかな貧血,黄染は認めず,頸部リンパ節の腫脹は認めず.胸腹部の聴診,触診で明らかな異常所見は認めなかった.

入院時検査所見:TP 6.9g/dL,Alb 4.4mg/dL,ALP 231IU/L,AST 20IU/L,ALT 22IU/L,LDH 210IU/L,BUN 13.5mg/dL,Cre 0.79mg/dL,CRP 0.08mg/L,Na 138mmol/mL,K 101mmol/mL,Cl 4.9mmol/mL,CEA 7.2ng/mL,CA19-9 16.7U/mL,WBC 9,210/uL,RBC 531×104/uL,Hb 16.5g/dL,Plt 26.9×104/uL,APTT 42.7秒,PT 33.6秒,24%.

血液検査所見:貧血認めず,腫瘍マーカーはCEA 7.2ng/mlと軽度上昇していた.心電図:正常洞調律,明らかなST以上なし,胸部Xp:心胸郭比47%,CPA sharp,肺野 清.

上部消化管内視鏡検査(前医内視鏡から20日後):背景にまだら食道は認めなかった.切歯より30cmに0-Ⅱb+Ⅰs病変を認め,病変は6mm大の0-Ⅰs部と,その周囲の15mm大の発赤調の0-Ⅱb部で構成されていた(Figure 2).Narrow Band Image with Magnificant enhance(NBI-ME)観察で病変は全体的にBrownish areaとして観察された.0-Ⅰs部分は全体が白苔で覆われて血管構造は視認困難であり,0-Ⅱb部分ではループ形成を保った蛇行した血管を認めB1血管と診断した(Figure 3).ヨード染色では病変全体が不染であった.病理結果でSCCを認めていたため,生検は施行しなかった.

Figure 2 

白色光内視鏡所見(前医検査から20日後).

前医の検査と同様の所見を認めた.0-Ⅰs部分に著しいサイズ変化は認めなかった.

Figure 3 

NBI-ME内視鏡所見.

病変の0-Ⅰs部(左図),0-Ⅱb部(右図)それぞれの拡大観察像.0-Ⅰs部は白苔に覆われ,血管構造は観察困難.0-Ⅱb部ではB1血管が観察された.

FDG-PET所見:病変部を含め食道に明らかな異常集積は認めず,また転移を示唆するような他部位への高集積も認めなかった.

以上の結果から表在型食道癌に矛盾しない所見と考え,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)施行する方針とした.

ESD施行時内視鏡所見(前回内視鏡検査より35日後):切歯より30cmに病変を認めたが,6mm大の0-Ⅰs部は20mm大の0-Ⅰsp型の腫瘤に増大していた.周辺部には前回と同様0-Ⅱb部を認め,著明なサイズの変化は認めなかった(Figure 4).NBI-ME観察では前回と同様0-Ⅰsp部分の表面には白苔を認め,フードを用いて白苔を剝離すると拡張した血管を認めた(Figure 5).周辺部の0-Ⅱb部分ではB1血管を認めた.超音波内視鏡検査(EUS)施行すると,0-Ⅰsp部分は均一な高エコーとして描出され,明らかな固有筋層への浸潤は認めなかった(Figure 6).EUS所見から深達度はわずかにSMに浸潤している可能性が考えられたが,一括切除可能と判断し,診断を兼ねて予定通りESDを施行する方針とした.

Figure 4 

ESD施行時内視鏡所見(白色光観察).

切歯より30cmに20mm大の亜有茎性0-Ⅰsp+0-Ⅱb病変を認めた.

Figure 5 

ESD施行時内視鏡所見(NBI-ME観察).

隆起部の白苔を剝離させると,拡張した血管構造を認めた.

Figure 6 

EUS所見.

隆起部は均一な高エコー領域として描出された.茎部では明らかな固有筋層への浸潤は認めなかった.

ESDは先端ナイフ長1.5mmのDualKnifeJTM(KD-255Q オリンパス株式会社)を用いて施行し,一括切除可能であった.剝離の際粘膜下層の線維化は軽度で,出血は少量であった.明らかな筋層損傷は認めなかった.

病理結果:切除径35mm×33mm,病変径22 mm×20mm.[pType0-Ⅰsp+Ⅱb,carcinosarcoma,pT1b-SM1(180μm),ly0,v0,pHM0,pVM0]と診断された.0-Ⅱb部は中分化から低分化相当のsquamous cell carcinomaを認め,0-Ⅰsp部では粘膜固有層に異型紡錘形細胞や多核巨細胞が線維化性・粘液浮腫状の基質に増殖し,一部で両腫瘍成分が移行していた(Figure 7).免疫染色では0-Ⅱb部ではAE1/AE3(+),p63(+),vimentin(-)で,0-Ⅰsp部ではAE1/AE3(weakly +),p63(focal +),vimentin(+)でp-53はびまん性に強陽性であった.以上よりcarcinosarcomaと診断した.深達度は0-Ⅱb部でLPM,0-Ⅰsp部でSM1(180um)であり,先進部はsarcoma成分であった.深部断端,水平断端は陰性で,脈管侵襲は陰性であった.

Figure 7 

病理組織像.

H.E.染色(左:×75,右:×400).0-Ⅱb領域は低~中分化のSquamous cell carcinomaを認め,0-Ⅰsp領域では粘膜固有層で異型紡錘形細胞や多核巨細胞の増殖を認めた.

経過:追加治療が必要と判断し,当院外科と相談し胸腔鏡下食道亜全摘術施術+3領域郭清施行.標本病理では明らかな遺残組織は認めず,リンパ節転移は陰性であった.術後3年が経過しているが,再発所見は認めていない.

Ⅲ 考  察

食道癌肉腫は食道原発悪性腫瘍の0.2-2.8%に見られる比較的まれな腫瘍とされている 1.発症は50-60歳代の男性に多く,胸部中部食道に好発するとされる 2),3

本疾患の典型的な内視鏡像は,連続する平坦陥凹病変を伴った明瞭な隆起性病変である.隆起病変部の表面は比較的平滑で比較的厚い白苔で覆われており,中心陥凹は伴わないことが多い.基部は比較的細く,しばしば有茎性と表現される.このような形態からポリープ状,もしくはソーセージ状の隆起と表現されることもある 4)~6.本症例においてESD施行時の内視鏡像は食道癌肉腫に典型的な所見であったが,術前検査では隆起部が小径であり,診断が困難であった.しかし後方視的に検討すれば,白苔で覆われた隆起部分を認めたこと,基部に連続して平坦病変を認めたことなどは肉腫成分と癌腫成分を見ているものであり,食道癌肉腫を想定させるものであった.

本病態のEUS所見について述べた文献は少ないが,柴田らは肉腫部分が粘膜筋板に由来した平滑筋腫様のEUS像を呈することを報告している 7.本症例において0-Ⅰsp部分はやや高エコーとして描出されており,既報とは異なった.このようなEUS所見となった原因は不明確ではあるが,0-Ⅰsp部分の病理所見において間葉系細胞由来の組織と扁平上皮細胞由来の組織が混在しており,この腫瘍内の組織の不均一性が高エコーを呈する要因となったのかもしれない 8

組織学的には間葉性性格を有した紡錘形,または多形性腫瘍細胞を伴う癌腫,また腫瘍性の骨・軟骨形成を示す腫瘍をまとめて癌肉腫と定義されている 9.本病態は肉腫成分と上皮性の癌腫成分の双方で構成されており,隆起性病変のほとんどが肉腫様成分であること,茎部や基部に存在する癌腫成分は表在癌ということから,もともとは表在型癌腫に肉腫様化生が起こり,この肉腫様成分のみが非常に急速に内腔に向かってポリープ状に増大したものと推察されている 10),11.このように本病態は2つの成分で構成されているため,確定診断には癌腫成分と肉腫成分の双方を的確に採取する必要がある.

一般的に隆起病変は急速に内腔方向に発育するため,通常の扁平上皮癌と比較して早期に嚥下障害などの症状が発症することが多く,発見時の70%程度がSMまでの浸潤であるという報告もある 2),12.しかしそのような早期発見例でも脈管侵襲を認める頻度が高いとされており 2),13,標準治療として外科的切除が選択されることが多い 14)~16.生存期間に関して大規模な検討はないが,既報からは全生存率は3年:44.6-62.8%,5年生存率22.4- 48%とされる 17

医学中央雑誌にて「食道癌肉腫」,「増大」をキーワードとして検索すると,16例の報告を認めるが,そのうち観察期間とサイズ変化について記載されているものは自験例を合わせて6例を認めた(Table 1 18)~22.ほとんどが数カ月の間で2倍以上に増大しており,食道癌肉腫の発育の速さが窺われる.いずれの症例も増大した部位は発育速度の速いとされる肉腫様部分であり,本症例も癌腫成分で構成された0-Ⅱb部分のサイズが著変しないのに対して,肉腫様成分で構成された0-Ⅰsp部分が著明に増大していた.

Table 1 

観察期間中に増大した食道癌肉腫の症例報告.

本疾患の鑑別診断として,内視鏡像からは食道扁平上皮癌,類基底細胞癌,未分化癌,無色素性悪性黒色腫や,pyrogenic granulomaなどが挙げられ,EUS所見からは,平滑筋腫,神経内分泌腫瘍,pyrogenic granulomaが鑑別に挙げられた.本症例ではESD施行時に腫瘍の急速な増大を認め上記のように他疾患も鑑別に挙がったが,一括切除が期待できたため予定通りESDを施行した.しかし,結果的には本症例は非治癒切除であり,本例のように術前より内視鏡上典型的な食道扁平上皮癌ではなく,経過の中で急速に増大傾向を示している場合には他疾患を考慮して鑑別診断を確実に行い,治療方針を再検討することが重要と考えられる.

小径で発見される食道癌肉腫の報告は少ないが,白苔で覆われる食道隆起病変で平坦病変が付随するような場合には,本疾患も鑑別に挙げる必要がある.

Ⅳ 結  語

小径で発見され,その後急速に増大した食道癌肉腫の1例を経験し,その内視鏡的変化を報告した.本例は食道癌肉腫の増大前後の内視鏡所見を観察することができた貴重な1例であったと考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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