2022 Volume 64 Issue 5 Pages 1118-1124
症例は53歳の男性.S状結腸憩室炎によるS状結腸膀胱瘻に対してS状結腸切除術及び一時的な双孔式回腸人工肛門造設術を施行した.術後5カ月に人工肛門閉鎖を考慮した下部内視鏡検査にて吻合部に完全閉塞を認めた.手術も考慮したが,侵襲が低い内視鏡治療を選択し,双方向的(経肛門及び経人工肛門)アプローチによる内視鏡的切開・拡張術を施行し腸管穿孔すること無く再疎通が得られ,その後回腸人工肛門閉鎖術を施行した.吻合部完全閉塞に対して双方向的アプローチによる内視鏡的切開・拡張術は低侵襲かつ有効な治療法と考えられた.
A 53-year-old man underwent sigmoidectomy with diverting loop ileostomy for sigmoid-vesical fistula owing to diverticulitis of the sigmoid colon. After 5 months, ileostomy closure was scheduled; however, preoperative endoscopic examination revealed complete anastomotic obstruction. Although surgery was considered, minimally invasive endoscopic treatment was deliberated. Endoscopic incision and balloon dilatation using trans-ileostomic and anal endoscopes were successfully performed without intestinal perforation, and the patient underwent successful ileostomy closure. The combined antegrade-retrograde endoscopic rendezvous technique for complete occlusion of the anastomotic site appears to be a minimally invasive and effective treatment method.
大腸切除後の合併症の一つに吻合部狭窄が挙げられる.縫合不全や一時的人工肛門造設による便の通過が無いとまれではあるが完全閉塞を来すことがある.完全閉塞の場合一般的に手術が検討されるが,内視鏡的切開・拡張術の報告も散見される.今回われわれは,双方向的アプローチ(経肛門及び経人工肛門)による内視鏡を併用することで腸管穿孔を来すこと無く吻合部完全閉塞に対する治療が可能であったため,文献的考察を加えて報告する.
患者:53歳男性.
主訴:下腹部痛.
既往歴・家族歴:特記事項なし.
現病歴:当科受診約3カ月前より蓄尿時下腹部痛を自覚したため近医泌尿器科を受診し,慢性前立腺炎と診断され投薬治療を受けるも改善せず当科受診となった.CT検査を施行したところS状結腸に憩室炎の所見を認め,膀胱に近接していた.炎症反応が軽度であったため抗生剤内服投与にて経過観察としたが左下腹部痛の増強を認めたため初診から3日後に入院加療とした.入院時の造影CT検査ではS状結腸の壁肥厚及び周囲への炎症波及,近接する膀胱の壁肥厚所見を認めた.入院後の下部内視鏡検査では,S状結腸に憩室が多発しており粘膜は浮腫状で発赤,びらんを認めた.抗生剤点滴投与にて改善し入院から6日後に退院となった.その約1カ月後に糞尿,気尿を認め再受診となり造影CT検査ではS状結腸近傍の膀胱内にair densityを認めた.S状結腸膀胱瘻の可能性を考え泌尿器科にて膀胱鏡検査を施行したところ,膀胱後壁に発赤を認め瘻孔が疑われた.注腸造影検査ではS状結腸に多発する憩室を認めたが明らかな膀胱瘻の所見を認めなかった.しかし,S状結腸膀胱瘻を疑い初診から約2カ月後に手術を施行した.術中所見では,S状結腸は膀胱に強固に癒着しておりS状結腸膀胱瘻として矛盾しなかった.S状結腸切除術及び膀胱部分切除術を施行したがS状結腸吻合後のリークテストにてエアーリークを認めたため吻合部の補強をしたが,吻合部に緊張がかかっていたため一時的な双孔式回腸人工肛門造設術も追加した.術後約5カ月後に回腸人工肛門閉鎖を考慮した下部内視鏡検査及び下部消化管造影検査を施行したが,吻合部は完全に閉塞していた(Figure 1).通常なら手術による再吻合が検討されるがより低侵襲な内視鏡下での治療を考え,双方向的アプローチ(経肛門及び経人工肛門)による内視鏡を併用した吻合部拡張による再疎通を試みる方針とし入院となった.
下部内視鏡検査(a)及び下部消化管造影検査(b)にて吻合部に完全閉塞を認めた.
入院時検査所見:血液,生化学検査上異常なし.
入院後経過:透視下で経肛門及び経人工肛門内視鏡が一直線上になるのを確認し(Figure 2),経肛門内視鏡の光源を経人工肛門内視鏡にて腸管中央に確認しながら,経肛門内視鏡からstapleの中心の瘢痕部に穿刺針(26GスーパーグリップⓇオマージュⓇ;TOP製)を刺してピンホールの穴を空けた(Figure 3).経人工肛門内視鏡から内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)用造影カテーテル(先端3.5FrディスポーザブルカニューラV-System;Olympus製)を用いて造影し穿孔の無いことを確認した.経肛門内視鏡からピンホールを通して口側腸管にガイドワイヤーを留置し拡張バルーン(CRETMPRO GI Wireguided;Boston Scientific製)にて12mmまで吻合部拡張を施行した(Figure 4-a,b).透視下で切痕が無くなるのを確認し,再度造影にて口側と肛門側腸管が交通し穿孔の無いことも確認した(Figure 4-c).透視下での切痕の形状から推測するに,閉塞長は最大約4mm程度と思われた.約1週間後に下部内視鏡検査にて吻合部に狭窄を認めたためバルーン拡張(16mm)を施行し,初回吻合部拡張から約1カ月後に回腸人工肛門閉鎖術を施行した.術後約2週目に再度下部内視鏡下にバルーン拡張(18mm)を施行したが,初回拡張から約2カ月,4カ月目の下部内視鏡検査では狭窄は認めず(Figure 5),1年以上経過する現在も狭窄症状を認めていない.
透視下で経肛門及び経人工肛門内視鏡が一直線上になるのを確認した.
経肛門内視鏡の光源を経人工肛門内視鏡にて腸管中央に確認しながら(a),経肛門内視鏡からstapleの中心の瘢痕部に穿刺針を刺してピンホールの穴を空けた(b).
内視鏡的吻合部拡張術:拡張バルーン(12mm)にて吻合部拡張を施行した(a,b).透視下でnotchが無くなるのを確認し,造影にて口側と肛門側腸管が交通し穿孔の無いことも確認した(c).
初回拡張から4カ月目の下部内視鏡検査では狭窄を認めなかった.
大腸切除後の合併症の一つに吻合部狭窄があるが,吻合部狭窄の危険因子として,肥満,膿瘍,敗血症,放射線照射,縫合不全,骨盤内感染などが挙げられる 1).手術操作による吻合部狭窄の原因として藤本らは,①吻合部への過度の補強,②腸管のねじれや吻合部の緊張,③吻合部の血腫形成,④吻合器のサイズが不適切,⑤アンビル抜去時の吻合部の損傷,⑥縫合不全後の瘢痕性狭窄などを挙げている 2).本症例は,①リークテストにてエアーリークを認め,②吻合部の補強施行,③吻合部に緊張がかかっており,また,回腸人工肛門によりイレウス症状が生じず狭窄の発見が遅れたため完全閉塞に至った可能性が考えられた.
吻合部狭窄に対する治療は内視鏡的治療と外科的治療が挙げられるが,低侵襲な内視鏡的治療が第一選択となる.内視鏡的治療には,内腔膨張法と高周波切開法がある 3).内腔膨張法には硬性ブジーとバルーンダイレーターによるものが挙げられるが,現在では後者によるものが一般的である.バルーンダイレーターには,over the wire technique(OTW)とthrough the scope technique(TTS)の2種類があるが,内視鏡下に直接観察しながら拡張が可能であるTTSが一般的に多く用いられている.バルーン拡張術の利点は,①低侵襲である,②内視鏡下に観察しながら手技が施行できる,③透視下でガイドワイヤーを利用しバルーンを狭窄部に挿入可能である,④繰り返し施行できる,⑤外来での施行も可能である,などが挙げられる 4).その他,高周波にて狭窄部を放射状に切開しバルーン拡張術と併用する方法 5),レーザーによる切開 6),transanal endoscopic microsurgery(TEM)による切開拡張 7),STENO-CUTTERを用いた方法 8)などの報告がある.
縫合不全や一時的人工肛門造設による便の通過が無いとまれではあるが完全閉塞を来すことがあり完全閉塞の場合一般的に手術が検討されるが,内視鏡的切開・拡張術の報告も散見される.過去の大腸術後吻合部完全閉塞症例の報告は,医学中央雑誌(1983-2019)にて6例の報告 9)~13),PubMed(1983-2019)にて9例の報告 14)~22)があるのみである(Table 1).人工肛門造設術が加えられたのは,自験例含めた16例中14例(87.5%),手術から閉塞診断までの期間は記載の無かった1例を除き平均4.4カ月(2-9カ月)であった.
内視鏡的治療が奏効した大腸術後吻合部完全閉塞症例.
双方向的アプローチによる治療を試みたのが自験例含めた16例中5例(31.3%)であり,古田らは口側腸管に挿入したバルーン付き十二指腸ゾンデを使用し造影剤及び空気にて口側腸管を描出することで口側と肛門側腸管の直線化をはかり経肛門内視鏡を用いての切開・拡張術を施行した 10).Kaushikらは自験例同様の双方向的アプローチにて切開・拡張術を施行した 22).AlbertsmeierらはCTガイド下に経人工肛門,経肛門内視鏡を用いて切開・拡張術を施行し 18),SanaeiらはEUSガイド下に経人工肛門,経肛門内視鏡を用いて切開・ステント挿入術を施行した 15).口側・肛門側腸管をいかに穿孔させずに開通させるために,同じ双方向的アプローチといえど様々な方法が試みられている.もちろん,人工肛門造設が無いと双方向的アプローチは不可能であるが人工肛門造設がなされている場合,双方向的アプローチを治療選択肢にいれるべきと思われる.
初回治療後の狭窄に対して追加治療を必要とした症例は自験例含め16例中6例(37.5%) 9)~13)であったが,最終的に再狭窄を呈した症例は認めなかった.
植村らは,頻回の治療に抵抗性の高度狭窄症例に対してITナイフによる切開法が有効であると報告している 12).バルーン拡張術と比較した場合の利点として,①高度狭窄や屈曲のため遠位腸管の視野がとりにくい症例にも対応できること,②施行時の疼痛が無いこと,③再狭窄や追加治療の頻度が少なく患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上につながることが考えられると述べている.問題点としては,①ITナイフは狭窄治療に対して保険適応が無いこと,②内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)後の肥厚性狭窄など狭窄長の長い狭窄に対しては切開が困難な可能性があることを挙げている.
バルーン拡張術を施行した場合,2度,3度と拡張が必要になる場合があるが,ではなぜバルーン拡張後に再狭窄を呈するのであろうか.考えられる原因として,①狭窄長,②臓器の種類,③拡張が不十分,④瘢痕化の強さなど個人差,⑤狭窄の成因などが挙げられるが,これについては更なる検討が必要と思われる.自験例はバルーン拡張のみで改善したが,治療に難渋した場合ITナイフなど他の治療法を検討した可能性がある.初回治療からITナイフを検討しなかった理由としては,筆者自身がESDに精通しておらずITナイフを使用した経験が無かったため,より簡便なバルーン拡張術を選択した.
閉塞後の処置は狭窄と比べて難渋することを考えると閉塞ではなく狭窄の段階で治療するためには,狭窄症状が無くても上述のリスクファクターや狭窄となる原因項目に当てはまる場合,術後1~2カ月目に下部内視鏡検査を施行し吻合部の状態を確認すべきと考えられた.
S状結腸切除後吻合部完全閉塞に対して,双方向的アプローチ(経肛門及び経人工肛門)による内視鏡を併用することで腸管穿孔を来すこと無く吻合部完全閉塞に対する治療が可能であったため,文献的考察を加えて報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし