GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ENDOSCOPIC REMOVAL OF A SLIDING TUBE THAT SLIPPED INTO THE DESCENDING COLON
Miyako TAZAWAHironobu BABAMari KITAMURAAtsushi TAMURAYasuaki NAKAJIMA
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2022 Volume 64 Issue 5 Pages 1133-1137

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要旨

症例は57歳女性.他院で大腸内視鏡検査中に,スライディングチューブが腸管内に滑入し,回収困難となった.当院へ搬送され,精査にて下行結腸脾彎曲部まで滑入したチューブを認めた.透視下に内視鏡とイレウス管,スライディングチューブをもう1本用いることで,滑入したチューブの回収に成功した.治療翌日より食事を開始し,治療2日後に退院した.下行結腸に滑入したスライディングチューブを内視鏡的に回収するには,単純に牽引して回収することは困難で,いくつかの工夫が必要であり,その経験を報告する.

Abstract

The case was a 57-year-old woman. During the colonoscopy at a private practice, a sliding tube accidentally slipped into the colon. The patient was transported to our hospital due to difficulty in removal of the sliding tube. A close examination revealed that the tube slipped into the descending colon. By using an endoscope, an ileus tube, and another sliding tube under X-ray fluoroscopy, we succeeded in removing the tube. The patient started eating the day after the treatment, and she was discharged 2 days after the treatment. Thus, the endoscopic removal of a sliding tube that has slipped into the descending colon was difficult as it cannot simply be pulled out, and some ingenuity was required.

Ⅰ 緒  言

スライディングチューブは主に大腸内視鏡検査における深部挿入時,S状結腸の直線化の維持に用いられる補助用具である 1.過去にも腸管内に滑入した事例が報告されており,内視鏡的に回収できない場合は,手術が必要になることもある 2),3.今回,過去の事例を参考に,下行結腸に滑入したスライディングチューブを内視鏡的に回収した症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:57歳,女性.

主訴:腹部膨満.

既往歴:右鼠径ヘルニア根治術後,帝王切開術後.

現病歴:前医で定期検査の大腸内視鏡検査中,助手が手を離したことによりスライディングチューブが腸管内に誤って滑入した.回収困難となり,前医検査開始から約3時間後に当院へ搬送となった.

現症:体温36.9度.腹部軽度膨満,軟.圧痛なし.

当院初診時血液検査所見:WBC 8,900/μl,CRP 0.02mg/dl.その他は特記事項なし.

腹部単純写真(Figure 1):下行結腸内に滑入したスライディングチューブを認めた.

Figure 1 

腹部単純写真.下行結腸に滑入したスライディングチューブ.

腹骨盤部造影CT検査所見(Figure 2-a~c):下行結腸脾彎曲部まで先進するスライディングチューブを認めた.Free airや腹水は認めなかった.

Figure 2 

腹骨盤部単純CT検査.下行結腸に滑入したスライディングチューブを認める.Free airや腹水は認めなかった.

内視鏡的にチューブ回収を試みることとし,画像検査後,直ちに透視下大腸内視鏡検査を施行した.

透視下大腸内視鏡検査所見(Figure 34):小腸スコープにてスライディングチューブ口側への到達を試みたが,内視鏡とチューブの摩擦が強く,チューブ先端まで到達不能であった.次いで,イレウス管のガイドワイヤーをチューブ口側へ留置し,イレウス管を挿入し,先端バルーンを膨らませ牽引することで抜去を試みたが,直腸近傍でチューブ末端が嵌頓し,腸重積状態となってしまい,回収できなかった.再度小腸スコープを挿入したところ,結腸が短縮され,チューブが若干肛門側へ引き抜かれたことにより,内視鏡をチューブ先端より口側へ挿入することができ,腸管の直線化が完全に可能となった.もう1本のスライディングチューブを連結させ,徐々に引き抜き,直腸内でチューブを触知できたところでペアン鉗子を用いて把持し,回収することに成功した.最後に大腸内視鏡で左側結腸を観察し,一部の粘膜に裂創を認めるも,筋層露出はないことを確認した.

Figure 3 

透視下大腸内視鏡検査.先進させたガイドワイヤーとイレウス管.

Figure 4 

透視下大腸内視鏡検査.もう1本のスライディングチューブを連結させた.

治療後経過:チューブ回収後,発熱や腹痛なく経過した.治療翌日の昼食より食事を開始し,治療2日後に軽快退院となった.

Ⅲ 考  察

医学中央雑誌で,「スライディングチューブ」をキーワードに症例を検索すると,会議録を除いて1973年から2020年に68件の報告があるが,スライディングチューブの腸管内への滑入に関する報告は2件のみであった.江角らの報告によれば医学中央雑誌の検索で認めた2件も含めて,今までで4件の症例が報告されている 2

滑入したスライディングチューブの回収についての希少な報告と,その他の直腸異物を回収した報告からは,滑入したスライディングチューブの回収は,まず経肛門的に非観血的な回収を試みて,回収困難な場合は手術による回収へ移行するのが一般的な治療方針と考えられる 2),4.ただし,腸管穿孔を伴い,特に急性汎発性腹膜炎の状態に至っている症例では,異物の回収のみでは治療として不十分であり,手術治療が第一選択となる 4),5.また,穿孔例では送気により増悪の可能性があり,内視鏡検査は原則禁忌である.

内視鏡による回収を成功し得た中川らの報告 3を参考に,自験例でも内視鏡的にチューブを回収できた要点は以下の3点にあると考える.まず,スライディングチューブを引き抜く際は,チューブから肛門にかけて結腸が直線化され,たわみのない状態を維持する必要がある.たわみがある状態で引き抜こうとすると,チューブの肛門側縁を起点として重積を起こし,抜去が困難となる.中川らの報告を参考に,さらに別のスライディングチューブを滑入したチューブの末端に連結させることによって,直線化を維持することができた.2点目はどのように滑入したチューブを肛門側に牽引するかということである.中川らは,内視鏡に装着したバルーンを拡張させ,チューブに圧着させることで,牽引に成功しているが,自験例ではバルーンとチューブの摩擦が弱く,チューブを牽引してくることができなかった.また,内視鏡の先端をチューブの先端から出して引っかけようと試みたが,脾彎曲部の腸管の屈曲により,当初内視鏡の先端をチューブの口側まで挿入することもできなかった.そこで,一度イレウス管のガイドワイヤーを先進させ,イレウス管を挿入し,イレウス管のバルーンをチューブ先端で拡張させ,イレウス管ごとチューブを引き抜くことで,肛門側にチューブを牽引することができた.さらにこの操作は腸管の短縮にも効果的で,直線化にも寄与したと考えられた.3点目は中川らの報告 3からも推察されるように,滑入して直腸内に留まっている,すなわち肛門から触知できる位置にあるチューブでも,経肛門的に引き出そうとすると,さらに奥に滑入してしまう可能性があることを認識しておくことである.これは江角らの報告 2からも示唆されており,自験例では触知できる位置まで牽引したチューブをペアン鉗子で確実に把持することで,再度口側に滑入しないよう注意を払った.

異物がスネアやバルーンで牽引できる形状であれば,内視鏡的な回収も考慮され得る 5と言われており,さらに本症例のように長く大きな異物においても,腸管を直線化したり,肛門付近で異物を滑らないように把持したりという工夫を施すことで,内視鏡的な異物回収が可能となると考えられる.回収中に腸管粘膜が損傷される可能性は多分にあり内視鏡中に穿孔を来した場合や,処置時間が長時間に及んで患者の負担が大きくなってきた場合は,腰椎麻酔や全身麻酔下での回収に移行することが望ましいと考えられる.

スライディングチューブを使用する際は,助手がチューブを決して離さないことが肝要だが,万一スライディングチューブが滑入してしまった際は,内視鏡的な回収を試みてみる価値があると考えられた.

Ⅳ 結  語

スライディングチューブが誤って滑入してしまった場合,いくつかの要点を念頭において処置に臨むことで,内視鏡を用いて経肛門的に回収できる可能性がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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