GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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USEFULNESS OF RED DICHROMATIC IMAGING FOR COLORECTAL ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION
Ken YAMASHITA Shiro OKAShinji TANAKA
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2022 Volume 64 Issue 5 Pages 1140-1146

Details
要旨

Red Dichromatic Imaging(RDI)は3種類の特定の波長光を照射し,コントラストを形成する新規画像強調内視鏡(Image-enhanced endoscopy:IEE)である.光の強調処理の違いにより3種類のmodeに分けられ,各modeの特性に応じた効果が期待される.大腸ESDではmode1とmode2を状況に応じて使用する.RDIの効果としては,①深部組織の視認性を向上する,②動静脈の鑑別を容易にする,③出血時の迅速な止血を可能にする,④脂肪によるレンズの曇りを改善する,などが挙げられる.術者はRDIの特性を十分に理解し,状況に応じて使用することが望ましい.

Abstract

Red dichromatic imaging (RDI) is a next-generation image-enhancement technique that uses three wavelengths (red, amber, and green). RDI has 3 modes—modes 1 and 2 are used during colorectal endoscopic submucosal dissection (ESD). RDI improves the visibility of blood vessels and tissues, which helps visualize the bleeding point clearly and maintain clear visibility during colorectal ESD with submucosal fatty tissue. The operator should have sufficient understanding of the characteristics of RDI and use it as per the situation.

Ⅰ はじめに

2020年7月に内視鏡システム「EVIS X1」がオリンパス社より発売され,新たな画像強調内視鏡(Image-enhanced endoscopy:IEE)としてRed Dichromatic Imaging(RDI)が搭載された.RDIは試作段階ではDual Red Imaging(DRI)と呼ばれていたモダリティである.RDIは特性の異なる3種類の特定の波長光を照射することで,深部組織のコントラストを形成する 1),2.RDIの有用性は食道・胃・大腸で多数報告されており 3)~17,本項ではRDIの基本原理から各modeの特性,大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)におけるRDIの有用性を中心に解説する.

Ⅱ RDIの原理

RDIは特性の異なる3種類の光を用いて深部組織のコントラストを形成するシステムである.3種類の光とはRed(620-640nm:約1~1.5mmの粘膜深部まで進達し,深部血管や粘膜に関わらず一定の明るさで表示する),Amber(595-610nm:約1~1.5mmの粘膜深部まで進達し,深部血管を表示する),Green(520-550nm:粘膜深部にまで進達せず,表層血管(毛細血管)を表示する)である.そしてスコープ先端からこれらの光が照射され,対象から反射した光がスコープのイメージセンサーに取り込まれ,ビデオシステムセンサーで画像処理される.画像処理される際にどの種類の光を強調処理するかにより,モニターに表示される深部血管の見え方が異なる(Figure 1).

Figure 1 

RDI各modeの画像処理の違い.

Ⅲ RDI各modeの特性

RDIはmodeが3種類存在し,それぞれ特徴的な画像が得られる.Mode1は基本modeであり,深部血管がオレンジ色に描出される 1.出血時に血液は黄色に描出され,術者の心理的負担を軽減する効果がある 2.また,出血部分は周囲と比較して濃いオレンジ色に描出されるため,出血部位をピンポイントで同定可能である 2)~4.これにより胃潰瘍 5・十二指腸潰瘍 6・大腸憩室 7などの消化管出血,ESD時出血 2)~4,経口内視鏡的筋切開術(peroral endoscopic myotomy:POEM)時出血 8,ESD後潰瘍底に残存している露出血管の止血処置 9における有用性が報告されている.さらに脂肪によるレンズの曇りの軽減効果が報告されており,脂肪が豊富な深部大腸ESD時に有用である 10.大腸ESD時のRDIの有用性をTable 1に示す.Mode2はmode1よりも赤味を強調し,深部静脈血管の確認がより容易となっている.特に静脈は赤味が強くなり,オレンジ色の動脈とのコントラストがより強調されるため,mode1で動静脈の判別が難しい場合に有用である 11.ESD初期局注時の深部血管確認,食道静脈瘤の深さ予測,発赤所見の確認に有用であり食道静脈瘤硬化療法の治療成績を向上させることが報告されている 12)~15.Mode3は深部血管を緑色,表層血管を茶色に描出し両血管確認が容易となるため,潰瘍性大腸炎の炎症活動度診断に有用である(Figure 2 16

Table 1 

大腸ESDにおけるRDIの利点.

Figure 2 

RDIのmode3の特徴.

a:通常内視鏡像.潰瘍性大腸炎寛解期の直腸観察.

b:RDI観察像(mode3).深部の血管は緑色に,表層の毛細血管は茶色に描出された.

Ⅳ RDIの大腸ESDにおける実際と有用性

RDIの画像にはある程度慣れが必要であり,最初は必要時にRDIへ切り替えて(mode1あるいはmode2)ESDを施行する方がよい.画像に慣れると常時切り替えた状態でESDも全く問題なく,われわれは原則常時RDIを使用している 17.粘膜局注の際には,RDIを使用して局注針穿刺予定部位に深部血管が存在しないかを確認して穿刺するとよい(Figure 3).これにより局注針穿刺による不要な出血を避けることが可能である.粘膜切開時にもRDIを使用すると深部血管を避けて切開することが可能である.粘膜下層剝離の際,局注液にインジゴカルミンを混注すると,局注された粘膜下層が白色光と比較してRDI下ではより鮮やかな青色に描出される.これにより白色の筋層とのコントラストを形成し,切開ラインの同定が容易となる(Figure 4).粘膜下層剝離中に血管を認めた際に,RDIにより動静脈の判別が容易となる 11.具体的には,酸素飽和度の違いにより動脈はオレンジ色に,静脈はやや赤色に描出される.そのため,静脈,あるいは細い動脈と確認できれば凝固モードでゆっくりと血管を切除すれば,出血をきたさずに切開可能である(Figure 5).一方,太い動脈が確認できれば,予防的止血を行った上で切除する.なお,出血時にRDIを使用すると血液は黄色に描出されるため,術者の心理的負担の軽減効果があり 2,出血点は周囲と比較して濃いオレンジ色に描出されるためピンポイントで止血可能である.これは出血点近傍の血液濃度(ヘモグロビン濃度)が周囲の血液濃度よりも高く,ヘモグロビンによりオレンジの波長が多く吸収されるためである 2)~4

Figure 3 

RDIを用いた大腸ESD局注時の深部血管の観察.

a:RDI観察像(mode2).粘膜下の血管が観察された.

b:血管を避けて局注を施行した.

Figure 4 

RDIを使用するとインジゴカルミンの青色と筋層の白色のコントラストが強調され,剝離ラインの視認性が向上する.

Figure 5 

RDIを用いた粘膜下層の剝離時における血管の観察および予防的止血.

a:通常内視鏡像.粘膜下層に数本の血管束を認めた.

b:RDI観察像(mode2).赤色の静脈,オレンジ色の動脈が判別できる.動脈は細いことが確認できた.

c:凝固モードにてDualKnifeJで慎重に予防止血を行った.

d:出血をきたさず剝離を進めることができた.

病変が深部大腸に存在する場合,特にバウヒン弁上あるいは接している病変は粘膜下層に脂肪織が豊富なため,治療が進むにつれて脂肪がレンズに付着して曇り,視野不良となることをしばしば経験する.この際にRDIへ切り替えればレンズの曇りが軽減され,切開ラインの視認性が向上する(Figure 6).このメカニズムとして,RDIの照明光が長波長を多く含むため表層からの反射光に乏しい低解像画像となり,低解像画像であることがレンズに曇りが生じても術者にその変化を感じにくくするためと考えられている 10.また,白色光で黄色い脂肪はRDIでは白色に視覚化され,鮮明な印象を術者に与えることも視野改善の要因の1つと考えられる 10

Figure 6 

RDIによるレンズの曇り軽減効果.

a:通常内視鏡像.粘膜下層と筋層の境界が不明瞭であった.

b:RDI観察像(mode1).aと同一症例.粘膜下層と筋層の境界の視認性が向上した.

c:通常内視鏡像.レンズの曇りにより視界がやや不良であった.

d:RDI観察像(mode2).cと同一症例.レンズの曇りが軽減された.

Ⅴ おわりに

RDIの基本原理,各modeの特徴,大腸ESD時における実際の活用法と有用性について解説した.RDIは,血管および粘膜下層の視認性向上・出血時の迅速な止血・脂肪によるレンズの曇りを改善し,より安全で効率的な大腸ESDを可能とする.内視鏡システム「EVIS X1」に搭載されたことから今後さらなる普及が予想され,RDIの有用性に関するさらなるエビデンスが構築されることが期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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