GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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Endoscopic Submucosal Dissection in Europe:Results of 1000 Neoplastic Lesions From the German Endoscopic Submucosal Dissection Registry 1)/Endoscopic Submucosal Dissection in the West-Making Progress Toward a Promising Future 2).
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2022 Volume 64 Issue 5 Pages 1174-1175

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要旨

【背景と目的】消化管早期癌への内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の有効性は確立されているものの,欧米からの多施設集約データは未だ少ない.今回ドイツにおける多施設前向きESDレジストリーを用いてその有効性を評価した.

【方法】参加20施設,観察期間延べ35カ月,腫瘍性病変1,000件へ施行されたESDを解析した.一括切除,根治切除,再発率(12カ月以内)を主要評価項目とし,参加施設の症例数に応じた評価を行い,非根治切除に相関する危険因子を多変量解析で評価した.

【結果】一括切除,根治切除,再発率はそれぞれ92.4%,72.3%,2.1%であり,合併症発症は8.3%であった.すべての評価項目において,症例数の多い(年間51件以上施行)施設はそれ以外と比べて正の相関関係が認められた.病変の大きさ,T1b病変,年齢,ハイブリッドESDの施行,施設の症例数(年間50件以下)が非根治切除に相関する危険因子であった.

【結論】ドイツで施行されたESDは良好な一括切除率が得られたが根治切除率向上には未だに改良の余地があり,高い技術精度の必要性と病院間による結果の差が示された.

《解説》

本邦発祥でアジア諸国では消化管早期癌病変への標準的内視鏡的治療として広く認知されているESDだが,西欧諸国への導入と普及は当初様々な制約と困難(高い技術力担保の難しさ,長い検査時間と合併症への危惧,緩やかな学習曲線と医療保険不認定)のため遅かったものの,過去10年で著しい前進を果たしている.欧米からのESD集約データは今まで報告が少なかったことが,米国消化器病学会(American Gastroenterological Association:AGA)機関誌である消化器関連トップジャーナルのGastroenterologyに掲載される理由となり 1,本稿共著者の冨澤もAGAから巻頭辞寄稿の依頼を受け,その臨床的意義を解説し同号掲載されている 2のでぜひ参照されたい.

1,000例の内訳は93%が未治療病変で切除範囲平均は4×3cm強,そして45%が下部消化管病変(結腸78例,直腸380例)であった.注目すべき結果は2点あり,1点目は総じて高い一括切除率を得たが根治切除率は日本等からの既報告よりも低かった事.このドイツのデータではhybrid ESD(その多くはESD年間施行数の少ない施設)が11%含まれており,粘膜下層剝離術を完遂していないことに起因する病変取り残しが一つの原因と考えられる.2点目は,その一方で標準的ESDが全例で施行されているESD年間施行数の多い(最低51件以上)施設に限定したデータでは,一括切除率99%と根治切除率85%と,共に日本からのESD部位別既報告 3)~6と同等の成績であった点である.

日本を筆頭にしたアジア諸国でESDを学んだ後に自国での手技普及に務め,その安全性と有効性を欧米からの多施設集約データとして今回示した臨床的意義は大きい.欧米諸国でのESD手技普及は今も現在進行形であるものの,その普及速度と効果・安全性の進展度は目を見張るものがあり,アジアと欧米間のギャップは少しずつではあるが確実に縮まってきている事が今論文のデータからも見て取れる.今後も,日本やアジア諸国でESD手技を習得した欧米諸国の内視鏡医の継続的な努力と共に,ESDの安全で効果的な手技普及が期待される.

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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