2022 Volume 64 Issue 6 Pages 1262-1272
近年内視鏡診断の進歩により,十二指腸乳頭部腫瘍の発見機会が増えている.腺腫に対する完全生検および根治を目的とした内視鏡的乳頭切除術が広く行われるようになっている.癌に対する基本治療は外科的手術であるが,近年早期癌に対する内視鏡的乳頭切除術の報告も増えている.しかし術前の早期癌の診断が完全ではなく,術後局所再発の問題などもあり早期癌に対する内視鏡的乳頭切除術は慎重に検討する必要がある.また,起こり得る偶発症について十分に理解し,その予防と対策について熟知しておく必要がある.
In recent years, advances in the endoscopic diagnosis and treatment of pancreaticobiliary diseases have led to the opportunity to detect duodenal ampullary tumors. Endoscopic papillectomy has been widely expanded for the total biopsy and curative treatment of ampullary adenoma. Traditionally, pancreaticoduodenectomy used to be the standard treatment for duodenal ampullary tumors, but reports of endoscopic papillectomy for early ampullary carcinoma have increased recently. However, preoperative diagnosis of early carcinoma is difficult, and postoperative recurrence may occur after an endoscopic papillectomy. Therefore, the indication of endoscopic papillectomy for ampullary carcinoma needs further evaluation. Furthermore, since endoscopic papillectomy carries the risk of possible complications, the endoscopist needs to be familiar with preventive methods and countermeasures for complications, to perform an endoscopic papillectomy efficiently.
十二指腸乳頭部腫瘍は,検診などの上部消化管内視鏡検査の普及により発見される症例が増えている.従来,十二指腸乳頭部腫瘍に対して外科的治療が行われていたが,その侵襲性が問題であった.本邦で1983年に鈴木らが十二指腸乳頭部腫瘍に対する内視鏡的乳頭切除術を報告し 1),近年徐々に多くの施設で行われるようになってきている.さらに2021年4月に内視鏡的乳頭切除術診療ガイドラインが策定され 2),今後増々拡がっていくものと推測される.
十二指腸乳頭部腺腫ではadenoma-carcinoma sequenceからの発癌様式が考えられており,腺腫に対する内視鏡的乳頭切除術は,完全生検および根治目的さらには低侵襲性の観点からも有用と考えられる.癌に対しては根治性の観点から膵頭十二指腸切除術が原則と考えられるが,その侵襲性が高いことから高齢者やハイリスク患者では適応が問題となっていた.内視鏡的乳頭切除術は外科手術に対して低侵襲であることから,近年早期癌に対する適応拡大も検討されている.
早期癌の局所進展度診断には内視鏡診断,超音波内視鏡検査(EUS)や管腔内超音波検査(intraductal ultrasonography:IDUS)が重要な役割を果たしている.しかし施設間で術前診断能に差があることや,長期観察例が少なく再発の問題もあることなどから,早期癌に対する内視鏡的乳頭切除術は十分なコンセンサスが得られていない.本稿では十二指腸乳頭部腫瘍の術前診断および内視鏡的乳頭切除術の適応と実際の手技について述べる.
腫瘍の内視鏡診断は大きさ,形状,色調,表面の性状などの形態学的所見により行うが,乳頭部腫瘍を疑った場合は側視鏡による正面からの観察が必須である.一般に腺腫は白色や褐色調で,乳頭状もしくは粗大結節状隆起を呈するものが多く,赤色調が強いものほど異型度が高く癌を認めることが多い(Figure 1).しかしアルコール多飲者などに多い非腫瘍性の乳頭炎でも赤色調を呈することがあるため注意が必要である.また潰瘍形成,頂部の陥凹や粘膜のひきつれなどは進行癌の所見である.狭帯域光観察(narrow banding imaging:NBI)を併用した拡大内視鏡による診断も試みられているが 3),実際に腫瘍表面の内視鏡所見だけで質的診断を行うのは困難である.
十二指腸乳頭内視鏡像.
a:乳頭部腺腫症例.白色から褐色調の粗大結節状の腫瘍として観察される.
b:乳頭部癌症例.赤色調で頂部に陥凹を伴う易出血性の不整粘膜を認める.
乳頭部癌は胆道癌取扱い規約により,腫瘤型,混在型,潰瘍型に大別され,その他の型として正常型,ポリープ型,特殊型に分類される 4).腫瘤型は乳頭状腺癌や高分化管状腺癌が多く,しばしば腺腫成分の混在が認められることがあり,adenoma-carcinoma sequenceを介した発癌機序が考えられている.また潰瘍型は中分化あるいは低分化型管状腺癌の割合が多く,腺腫成分の混在は稀であり,de novo的発癌機序が考えられている 5).腫瘤型に比べて潰瘍形成型は,浸潤傾向が強くリンパ節転移が多いとされている 6).そのため,潰瘍形成を伴った十二指腸乳頭部腫瘍は内視鏡的乳頭切除術の適応外である.
2.生検診断病理学的診断には内視鏡下生検が必須であるが,乳頭部癌の術前生検正診率は21~90.4%と報告されている 7)~9).当科で2002年から2020年までに十二指腸乳頭部腫瘍に対し内視鏡的乳頭切除術を行った113例の検討では,術前生検正診率は77%で,病理診断不一致例であった26例のうち22例が過小診断であった.乳頭部では細胞異型の異なる病変が領域別に混在して見られ,腺腫と診断されても高頻度に腺腫内の一部に癌が存在すると報告されている 10).また,生検標本では検体自体が小さく,高度異型腺腫と高分化型癌の鑑別が難しい場合があることや,腫瘍が深部になるほど異型度が高度になる傾向があることが指摘されている 11).そのため癌を疑う場合,開口部からの深部生検や非露出型腫瘤では内視鏡的乳頭切開術(EST)を付加した後に腫瘍生検を行うことで診断率が向上する(Figure 2).また,近年では非露出型腫瘍に対する超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)の有用性も報告されている 12).
非露出型腫瘍に対するEST後生検.
a:内視鏡像.
b,c:ESTを行ったところ,易出血性の腫瘤が露出した.
d:露出した腫瘤から生検を行った.
局所進展度診断の観点からEUSの有用性は高く,術前診断で行うべき検査である.EUSでは十二指腸浸潤,膵浸潤の有無と胆管・膵管内進展の有無や周囲リンパ節の評価を行う(Figure 3).T1 stage診断能についてのメタ解析では,EUSの感度・特異度はそれぞれ77%・78%と報告されている 13).症例によってはEUSでOddi筋も描出されるが,実際にはEUSでのOddi筋浸潤の詳細な評価は困難である.進展度診断は十二指腸固有筋層を基準として,腫瘍エコーが十二指腸固有筋層に影響を及ぼしていれば十二指腸浸潤陽性,さらに膵実質内に及んでいれば膵浸潤陽性と判定する(Figure 4-a,b).胆管・膵管内進展は十二指腸固有筋層より膵側の胆管・膵管内の隆起や壁肥厚所見として捉えられる(Figure 4-c,d).EUSの胆管・膵管への進展診断能はそれぞれ86~90%・77~92%と報告されている 14),15).
十二指腸乳頭のEUS像.
a:乳頭部腫瘍の深部に十二指腸筋層が低エコー帯として観察される(矢頭).
b:腫瘍部を確認し徐々にスコープを引くと,左方に胆管(左矢印),右方に膵管(右矢印)が観察される.
EUS像.
a,b:十二指腸筋層を超えて膵への浸潤を認める(矢印).
c:胆管内に隆起を認める(矢頭).
d:膵管内に隆起を認める(矢頭).
IDUSは胆管・膵管内からの超音波断層像が得られ,Oddi筋の描出も可能なことが特徴である.方法としては通常の内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)に引き続いて胆膵管内にガイドワイヤーを留置した後に,ロープウェイ法で細径超音波プローブを挿入し観察する.Oddi筋はプローブ周囲に境界やや不明瞭な低エコー帯として観察される.その外側に十二指腸粘膜下層に相当する高エコー層,さらにその外側に十二指腸固有筋層に相当する低エコー層が観察される(Figure 5-a).腫瘍エコーが十二指腸固有筋層に影響を及ぼしている場合は十二指腸浸潤陽性と判定する(Figure 5-b).また,十二指腸固有筋層レベルより膵側の胆管・膵管内に腫瘍が認められれば,胆管・膵管内進展陽性と判定する.IDUSのT1 stage診断能は80~100%,胆管・膵管への浸潤はそれぞれ90~95%・88~100%と報告されている 14)~17).IDUSの診断能は高いが,ERCP後膵炎のリスクがあるため,ESGEガイドラインでは検査後の膵管ステント留置が推奨されている 18).
IDUS像.
a:プローブ周囲にOddi筋が薄い低エコー帯として観察される(矢頭).その外方には十二指腸筋層が厚みを持った低エコー帯として観察される.
b:腫瘍がOddi筋を超えて進展しているのが観察される.
内視鏡的乳頭切除術は,基本的には腺腫が適応である.内視鏡的乳頭切除術が可能な範囲は十二指腸固有筋層までとされており 19),胆膵管内進展を伴うものは適応外となる.そのため十二指腸固有筋層を超えた進展がなく,胆膵管内進展を伴わない腺腫およびTisが適応となる.
早期癌に対する適応を考えた場合,技術的には局所切除の観点からT1病変が適応となると考えられるが,Oddi筋を超えていない癌でもリンパ管浸潤やリンパ節転移を伴う症例が存在すると報告されており 20),21),T1病変でも完全にリンパ節転移を否定することは困難である.「胆道癌取扱い規約第6版」では,T1は乳頭部粘膜内に留まるT1aとOddi筋に達するT1bに区別されている.Tis~T1aではリンパ節転移を認めないが,T1bではリンパ節転移陽性例を25%に認めたと報告されている 22).理論的にはT1aまでは内視鏡的乳頭切除術の適応と考えられるが,実際には術前の局所画像診断でT1aとT1bを正確に区別するには限界がある.以上より,内視鏡的乳頭切除術の適応は腺腫もしくはTisと考えられるが,Tisは術前での組織診断が困難なこともあり,内視鏡的切除後の病理学的検索で診断されることが多い.
2.実際の手技モニタリングや鎮静については通常のERCPに準じて行う.用いるスコープの鉗子口径は3.7mmでも施行可能だが,止血処置など行う際のクリップ操作性を考慮し,4.2mmの処置用十二指腸スコープを用いるのが望ましい.当科では処置用十二指腸スコープTJF-260VもしくはTJF-290V(オリンパスメディカルシステムズ社製)を用いている.また,COPDの既往がない限りCO2送気で行っている.まずは,十二指腸下行部にスコープを挿入後に,乳頭部を正面視する(Figure 6-a).Pull法で良好な正面視が困難な場合は,Push法での観察を試み正面視を行う.
十二指腸乳頭部腫瘍切除術の実際.
a:乳頭部腫瘍を正面視する.
b:口側隆起にスネアの先端を押し当てる.
c:スコープを徐々に押し込むのと同時に,前後壁側がきちんとスネア内に入るように調節しながらスネアを展開していく.
d:小帯にスネアのシースを押し当てるようにして,十分なマージンを確保しながら絞扼する.
インジゴカルミン散布を行った後に十分に病変の範囲を確認後,スネアリングを行う.スネアは通常のポリペクトミー用のスネアが用いられている 23).スネアについての明確な基準はないが,当科では通常オリンパス社製単線スネアを用いており,腫瘍径が20mm以上の場合は,オリンパス社製スパイラルスネア(SD-230U)を使用している.切除の際は十分なマージンを保った一括切除が基本である.スネアリングには口側(口側隆起)からと,肛門側(小帯)から始める方法があるが,口側からの方が肛門側の腫瘍縁まで視認しやすい.まず,乳頭部をやや見下ろす視野で,口側隆起にスネアの先端を押し当てる(Figure 6-b).その後,前後壁側がきちんとスネア内に入るようにスコープを徐々に押し込むのと同時にスネアを展開し(Figure 6-c),乳頭を見上げる視野で小帯にスネアのシースを押し当てるようにして,十分なマージンを確保しながら絞扼する(Figure 6-d).
切除の際の高周波装置のモードは施設により異なり一定ではない.出血を危惧しEndo cut modeなどの混合波モードを用いている施設もある 24),25).一方,通電時間が長くなると有意に術後膵炎を起こしやすいとの報告もある 26).当科でも初期のころはEndo cut modeを用いていたが,burning effectによる切除検体断端の凝固変性のため組織学的評価が困難になる場合があることや膵実質に対する熱変性,膵管開口部の浮腫による影響を考慮し,現在ではAutocut modeで切除している.IwasakiらはEndo cut modeとAutocut modeのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)を行ったところ,切除検体の組織所見ではEndo cut modeの方が組織挫滅の割合が高かったと報告している(27% vs. 3.3%,P=0.03) 27).特に大きな腫瘍の場合,スパイラルスネアなどの太いスネアを用いEndo cut modeで切除すると通電時間が長くなり,burning effectが強くなるため留意が必要である.
検体回収には把持鉗子や三脚鉗子,回収用ネットなど用いる方法があるが,腸蠕動により肛門側に検体が移動し回収が困難になる場合があるため,切除後は直ぐに回収するのが望ましい.当科では,回収時に切除検体が損傷しないように,回収ネットを用い素早く回収した後に,再度スコープを挿入し出血や穿孔の有無などを確認している(電子動画 1).
電子動画 1
3.偶発症対策検体回収後にスコープを再挿入し切除部の観察を行う.十分な切除範囲と深度で切除できていれば,胆管口と膵管口が確認可能である(Figure 7).内視鏡的乳頭切除術による早期偶発症の発生頻度は6.1~58.3%で,主な内訳と発生頻度は急性膵炎0~23.1%,出血0~21.6%,穿孔0~8.3%,胆道炎0~7.3%と報告されている 2).そのため術者はこれらの偶発症の対策を熟知しておくことが大切である.
乳頭部腫瘍切除後の内視鏡像.
a:左上方に胆管口(矢頭),右下方に膵管口(矢印)が確認される.
b:NBI像.
1)出血対策
乳頭部近傍には後上膵十二指腸動脈の分枝が動脈叢を形成しており血管が豊富であるため,出血に対する予防および対策が大切である.当科では術前から止血剤および制酸剤の投与を行っている.出血に対しては高周波凝固やアルゴンプラズマ凝固法(argon plasma coagulation:APC),止血鉗子を用いた焼灼凝固止血,高張ナトリウム・エピネフリン(hypertonic saline-epinephrine:HSE)局注,クリップ鉗子を用いた止血術などが行われる 28).ごく軽微な出血に対しては,切除面の良好な視野を保つのにボスミン入り冷却水散布も有用である.
切除面肛門側は,後出血も含め出血の頻度が多いとされている 29).術中出血に遭遇すると切除面の視野確保が困難となり,膵胆管開口部の同定も困難となる.そのため当科では術中出血に対する予防として,2009年から切除前に小帯側に少量のHSE局注を行っている(電子動画 2) 30).また,後出血は切除面の肛門側から認めることが多いため,切除後に肛門側をクリップで縫縮することも有用である 29).以前は起上装置の影響でクリップ操作が困難な場合も多かったが,近年発売されたSureClipⓇ(Figure 8)は起上装置の影響を受けにくく,回転や掴み直しも可能な構造を有しており,良好な視野でのクリッピングが可能であり有用である(Figure 9).
電子動画 2
Micro-Tech社製SureClipⓇ.
切除後クリップによる縫縮.
a:乳頭部腫瘍切除後.
b~d:肛門側をクリップにて縫縮.良好な視野でクリッピングが可能である.
e,f:2本目のクリップを追加し縫縮した.
切除後は後出血に対する注意が必要である.切除後の絶食期間についての一定の見解はないが,当科では出血徴候がなければ2日後から流動食を開始し食上げとしている.貧血の進行,BUNの上昇,タール便などの出血徴候が見られた場合は躊躇なく内視鏡による観察を行う.
2)膵炎対策
切除後の膵管口浮腫による膵炎予防の目的で膵管ステントの留置を行う.ASGEガイドラインでも内視鏡的乳頭切除術はERCP後膵炎の高リスク群とされており,膵管ステント留置が推奨されている 31).膵管ステントの種類として,径は3-7Fr,形状はストレートや片側ピッグテール,片側や両側フラップもしくはフラップなしなど多数存在するが,用いるステントの径や長さ,形状などについての明確なコンセンサスはない.当科では,長期留置による膵管上皮の障害やステント閉塞による膵炎を考慮し,自然脱落型7Frストレートの片側フラップを使用している.膵管非癒合症例では術後膵炎の可能性が低いため,膵管ステント留置は不要と考えられる.また,帰室後直ぐにジクロフェナクナトリウム25~50mgの直腸内投与を行い,膵炎予防に努めている.1週間後の観察時に膵管ステントが脱落していない場合は抜去としている.
3)胆管炎対策
胆管炎は発症率が低く重篤となる可能性もほとんどないため,膵炎対策ほど重要視されていない 32).一般的には7~10Frの胆管ステントを留置し,1週間後のsecond look時に抜去する施設が多い.一方,ステント留置は不要との意見もあり,十分なコンセンサスはない.また,切除後にESTを施行し十分に胆管口を開口させる施設もあり,当科でも切除後の胆汁流出の状況によっては,ESTを付加している.
4)穿孔対策
穿孔例の頻度は高くないが,生じた場合は重篤となるため早期発見が大切である.術中に穿孔部が確認された場合は,クリップや留置スネアなどを用い縫縮する 26).また,近年OTSCを用いた縫縮法の有用性も報告されている 33).治療終了時に必ず単純レントゲン撮影を行い後腹膜腔のfree airの有無を確認し,疑わしい場合には腹部CTによる確認を行う.
十二指腸乳頭部腫瘍に対する内視鏡的乳頭切除術の適応と実際の手技について述べた.腺腫に対しては良い適応と考えられるが,癌への適応については現時点では正確な術前診断が十分ではなく,術後再発の問題などもあるため,安易に行うべきではない.また,外科的手術に比べて低侵襲であり,今後も症例数の増加が期待される.より安全に内視鏡的乳頭切除術を行うために,起こり得る偶発症について十分に理解し,その予防と対策について熟知しておく必要がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし