GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CROHN’S DISEASE: A REVIEW OF DIAGNOSIS AND TREATMENT INCLUDING CURRENT STATUS
Fumihito HIRAI Nobuaki KUNOKoichi ABE
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2022 Volume 64 Issue 7 Pages 1315-1325

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要旨

Crohn病(Crohn’s disease, CD)は本邦で依然増加傾向である.臨床症状や炎症所見などで疑い,各種画像検査や病理組織学的所見で確定診断をする.その過程は以前と大きな変化はないが,カプセル内視鏡やバルーン小腸内視鏡など新たな診断機器の登場で画像検査は多様化している.確定診断や治療選択のための活動性評価や罹患範囲の把握が適正な治療選択の鍵である.CDの内科治療は,栄養療法と薬物療法が中心であるが,近年,生物学的製剤や分子標的薬が複数加わり薬物療法の選択肢は増えている.有効で満足度の高い治療を選択するには患者とのShared decision makingの手法が必要である.さらに現状のCD治療にはTight control,Treat to Targetの実践が求められている.

Abstract

The prevalence of Crohnʼs disease (CD) has been increasing in Japan. If clinicians suspect a case of CD based on clinical symptoms and inflammatory findings on biochemical examination, the final diagnosis is confirmed by various morphological and histopathological findings. Although the process of diagnosis has not changed significantly, it has varied owing to the development of new diagnostic tools such as capsule endoscopy and balloon-assisted small bowel endoscopy. The common treatment options mainly include nutritional therapy and drug therapy. However, in recent years, the number of drug therapy options has increased with the addition of biologics and molecular targeted drugs. Shared decision making with patients is necessary to select effective and satisfactory treatment options. In addition, the current treatment of CD requires tight monitoring or “Treat to Target.”

Ⅰ はじめに

症例数の増加とともに本邦におけるCrohn病(Crohnʼs disease, CD)の診断は洗練されてきている.以前はX線検査が主流であった消化管の画像検査は内視鏡が中心となり,小腸病変に対してはカプセル内視鏡(Capsule endoscopy, CE)やバルーン小腸内視鏡(Balloon-assisted endoscopy, BAE)などの使用頻度も高まっている.また,CT enterography(CTE),MR enterography(MRE)などのCross-sectional imagingを活用する施設も増えてきた.CD診療において画像検査から得られる所見は治療選択に直結しており,罹患部位や活動性の評価が重要である.内科治療は従来の栄養療法主体の戦略から効果的な薬物治療へシフトしている.根本的治療がないCDにおいては長期経過の中で外科手術や入院の回避は重要であるものの,若年者の罹患が多い点からライフイベントの達成などクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上も求められる.このため,一過性な目標ではなく長期の疾患コントロールを意識した治療のあり方が求められている.Tight controlやTreat to Target(T2T)は,そうした観点に即した概念であり,現在では広く認知されている.ただし,CDでは薬物治療のみでは解決し得ない様々な合併症が生じることも稀ではない.狭窄や瘻孔は長期経過の中で避けられないことも少なくなく,こうした腸管合併症には外科的治療や内視鏡的バルーン拡張術などが適用される.本稿ではこれらCDを取りまく現状と課題をふまえて,診断体系についての考え方や鑑別疾患および適切な治療選択のあり方やモニタリング方法,さらに将来的展望について概説する.

Ⅱ クローン病の診断方法と鑑別診断

1)診断アプローチと注意点 1

CDでよく認められる症状は下痢や腹痛である.その他には体重減少,血便,発熱などが高頻度にみられ,腹部症状を欠き不明熱,関節痛などで発症することや肛門病変を唯一の症状として発症することがあり,注意を要する.一般的な検査所見としては,炎症所見高値,血小板増多,貧血,低アルブミン血症などが活動性に応じて認められる.前述した症状に加え,これらの検査所見を認めた場合にはCDを疑い,薬剤使用歴や海外渡航歴などの確認など必要な問診と診察を行い,下部消化管内視鏡検査などの画像検査を進めていく.そして,各種画像検査や組織所見から得た情報を基に診断基準に則って診断を確定する.厚生労働省の難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(以下,研究班)による本邦のCD診断基準では,X線,内視鏡検査を中心とした形態学的所見と病理学的な非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫(以下,肉芽腫)の検出が確定診断の決め手となる.CDに典型的な病変,すなわち縦走潰瘍,敷石像などの主要所見をX線や内視鏡検査で読み取れれば,CDの確定診断が得られる.画像所見で主要所見を欠く場合にも,副所見であるa.消化管の広範囲に認める不整形~類円形潰瘍またはアフタ,b.特徴的な肛門病変と肉芽腫の証明との組み合わせで確診が可能である.したがって,CDを疑った場合には積極的に生検を行う必要がある.また,副所見aとbに加えてc.特徴的な胃・十二指腸病変を認めれば,すなわち副所見をすべて満たした場合もCDの確定が得られる.特徴的な胃・十二指腸病変には,胃上部で主に認められる竹の節状外観(Figure 1-a),十二指腸のノッチ様陥凹,細敷石像,縦列する多発アフタ(Figure 1-b),不整形潰瘍などがある.大腸型CDであっても上部消化管からの生検で肉芽腫を検出することもあり 2,初発のCDでは上部消化管内視鏡は必須である.副所見aに関しては,小腸のカプセル内視鏡による所見も参考となる 3.診断基準の付記事項には“カプセル内視鏡所見では,十二指腸・小腸においてKerckring襞上に輪状に多発する場合もある”と記載されている(Figure 2 1

Figure 1 

クローン病の特徴的な十二指腸病変.

a:胃噴門部から体上部に認める典型的な竹の節状外観.

b:十二指腸第2部に認める縦列傾向のアフタ・びらん.

Figure 2 

カプセル内視鏡所見.

回腸ケルクリング皺壁上のノッチ様所見とびらん.

2)鑑別疾患 1

CDと鑑別すべき疾患には,感染性疾患としてエルシニア腸炎,腸結核,非感染性疾患として潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis, UC),腸型ベーチェット病,リンパ濾胞増殖症,薬剤性大腸炎,家族性地中海熱や非特異性多発性小腸潰瘍症などがある.形態学的所見と病理組織学的所見に加え,細菌学的検査などの検査を適宜追加し,これらの疾患をきちんと鑑別する必要がある.診断が確定しない症例でも時間の経過とともに疾患特異的な所見が現れることや,生検を繰り返すことで組織学的に確定診断されることがあるので,必要な症例では経過観察を十分に行うことも重要である.UCとCDの鑑別困難例はInflammatory bowel disease unclassified(IBDU)として取り扱われる.以前はIndeterminate colitis(IC)と呼ばれていたが,現在では内視鏡や生検所見を含めた臨床像で確定診断が得られない症例をIBDU,術後標本の病理組織学的な検索を行っても確定診断が得られない症例をICとして定義されている 1.IBDUはその後も経過中に半数以上で診断確定することが知られており,一旦IBDUと判断しても内視鏡検査や生検による継続した経過観察が必要である 4)~6.また,IBDUの中に実際には別のカテゴリーの疾患が紛れている可能性もある.家族性地中海熱 7),8や非特異性多発性小腸潰瘍症 9),10は臨床像や形態学的所見がCDと類似することがあるので注意を要する(Figure 3).

Figure 3 

ダブルバルーン小腸内視鏡所見.

非特異性多発性小腸潰瘍症で認めた回腸の境界鮮鋭なテープ状潰瘍.CDの縦走潰瘍と異なり,潰瘍辺縁に隆起の様相がなく,斜走傾向を示している.

3)内視鏡所見の評価方法

粘膜治癒(mucosal healing, MH)はCDとUCの治療目標とされており,内視鏡的評価の重要性は高まっている.CDにはCDAIなど臨床的活動指数も使用されているが,主観的な評価が中心であり臨床試験における有効性や治療効果の評価に支障をきたすことが少なくない 11.こうした事象に対しては炎症の場を直接観察できる内視鏡を活動性評価に加えることが一つの解決策となる 11),12.評価方法には,内視鏡スコアが汎用されているが,CDではCrohnʼs disease endoscopic index of severity(CDEIS) 13,Simple endoscopic score for Crohnʼs disease(SES-CD) 14が知られている.また,術後吻合部の評価方法としてはRutgeerts scoreが用いられる 15.最近MHは内視鏡的寛解(Endoscopic remission, ER)と組織学的治癒(Pathological healing, PH)の両者を含めた用語とされていることもあるが 16)~18,本稿ではMHとERを同列として取り扱いたい.MHの定義は例えばSES-CDでは0-2とすべきとの欧米のエキスパートの意見がある一方で,内視鏡観察部位の限界,スコアの評価者間相違やMH達成の実現性などの理由から臨床試験により異なっているのが現状である(Table 1 12),19)~24.また,SES-CD,CDEISは回結腸内視鏡検査に基づく大腸の活動性評価を主な目的とするスコアであり,これらでは回腸末端以外の小腸の活動性を反映しづらく,小腸病変を十分に加味したスコアとは言い難い.原則的には全小腸を観察可能なCEの評価方法としては腸粘膜の炎症性変化を定量化するLewis score 25,CDの病変に特化したCapsule endoscopy Crohnʼs disease activity index 26が用いられている.また,CTEやMREなどCross-sectional imagingをスコア化し,定量評価する試みもなされているが 27),28,標準化したスコアはないのが現状である.内科治療の進歩とともにMHが現実的な治療目標になっており,大腸や回腸末端の病変に対しては評価方法が確立し,MH達成に関するエビデンスも少なくない.CD患者の8割に認める小腸病変の活動性をどのように評価するかが今後の課題であろう.

Table 1 

生物学的製剤を用いた臨床試験における内視鏡的寛解達成率(クローン病).

Ⅲ クローン病の治療とモニタリング

1)内科治療の実際

現在,CD治療では5-ASA製剤,栄養療法,アザチオプリン,ステロイドなどの既存治療と3種の生物学的製剤,血球成分除去療法などの新規治療が選択可能である.本邦の研究班による治療指針をTable 2に示す 1.活動性別に標準治療が示されており,軽症においては5-ASA製剤,ブデソニドおよび栄養療法が治療の第1選択となる.一方,中等症以上では,全身性ステロイド,抗TNF-α抗体,アザチオプリンなどの免疫調節剤などの薬剤が適応となる.抗TNF-α抗体は症状のみならず,長期的な入院および外科手術の回避,ステロイドフリーの寛解をもたらし,治療目標を粘膜治癒(病変治癒)の達成にまで向上させた極めて効果の高い薬剤として知られている 29),30.現在,中等症以上の他治療無効例,肛門病変,瘻孔合併例などの難治症例に寛解導入療法として広く使用され,寛解導入達成例には通常寛解維持を目的とした継続加療が行われる.本邦で承認されているinfliximab(IFX),adalimumab(ADA)は前者が点滴静注(維持期には5mg/kgの8週間隔),後者が自己注射も可能な皮下注製剤(維持期には40mgの2週間隔)であり,投与の経路や間隔は異なる.ともに長期的には二次無効(Loss of response, LOR)例,不耐症例が少なくなく,臨床的な課題となっている 31),32.LOR例では血中トラフ値の低下や抗薬物抗体産生(検査は本邦では保険未承認)が原因となっていることが多く,IFX,ADAともに増量投与(IFXでは8週毎の10mg/kgもしくは4週毎の5mg/kg投与,ADAでは80mgの隔週投与)が可能となっている(Figure 4 1),33.2017年にはサイトカインのIL-12とIL-23の共通する構成タンパクであるp40に対する抗体製剤であるUstekinumab(UST),2019年には血中のαβ7インテグリンに対する抗体製剤で,血中から腸管への遊走を阻止するVedolizumab(VDZ)が日本を含むグローバルな治験で,臨床的あるいは内視鏡的な有効性が認められ,新たな生物学的製剤として保険承認されている 34)~39.これらの薬剤は生物学的製剤未投与の症例だけでなく,抗TNF-α抗体への副作用やLORなどを示す症例にも有効性が見いだされている 34)~39

Table 2 

令和2年度厚労省研究班のクローン病治療指針(内科).

Figure 4 

ダブルバルーン小腸内視鏡による治療強化前後のクローン病回腸病変.

a:抗TNF-α抗体通常量投与中では回腸に活動性の縦走潰瘍を認めている.

b:倍量投与とした24週後には回腸の縦走潰瘍が瘢痕化(粘膜治癒)している.

優れた効果が期待できる薬剤は増えたものの,個々の症例での最適な治療選択の手段は限られている.Figure 5はCD診断における治療における各治療薬・治療法の位置づけを示したもの(私見)である.Step-up strategyが一般的であるが,長期経過を鑑みた場合のハイリスク因子 40)~43が複数ある場合は,いわゆるTop-down strategyとして治療早期に抗TNF-α抗体や他の生物学的製剤が使用することが推奨されている 44),45.また,瘻孔合併例やその既往がある症例に対しても比較的早期に生物学的製剤が導入される 46.ただし,IFX,ADA,UST,VDZのどの薬剤を第1選択とするかについての十分なエビデンスは存在しない.このため,実臨床での選択は医療者側の意見だけでなく,ライフスタイルや嗜好を含めた患者の意思を反映させるべきであり,Shared decision making(SDM)の手法を取り入れた方針決定が望ましいとされている 47.SDMを実践するには医師や看護師だけでなく,薬剤師,管理栄養士,ソーシャルワーカーなどの多職種でのチーム医療が必要であり,本邦における今後の取り組みが期待される 48),49

Figure 5 

クローン病治療における各治療薬・治療法の位置づけ.

軽症から重症に向かってStep-upする場合の位置づけを中心にピラミッド状に図示した(生物学的製剤については,ほぼ同等の位置づけとしたが,やや重症例に抗TNF-α抗体が使用されることを表している).

GMA: Granulocyte and monocyte adsorption aphersis

2)Treat to Target

今日の慢性疾患に対する診療では,長期的経過や予後の改善のために具体的で妥当性が高い目標に向かって治療を行っていくTreat to Target(T2Tと略される)が一般化している.慢性炎症性疾患では関節リウマチ治療においてこのT2Tの概念がいち早く導入され不可逆的な骨破壊への進行を防ぎ,QOLの向上を目指す戦略がとられている 50.IBDにおいてもこのT2Tの考え方が取り入れられ,腸管障害への進行を未然に防ぐという観点から粘膜治癒などの治療目標が提唱されるようになった 51.欧米のエキスパートによるSTRIDE 2のコンセンサスでは,目標を治療の時相に応じて設定することで,実臨床でのT2Tのあり方がより具現化されている.すなわち,短期の目標としては症状やCRPの改善,中期的にはバイオマーカーの正常化,長期的には粘膜治癒という治療の実践過程が示されている 52.こうしたモニタリング方法が推奨される契機となった臨床試験の一つとして,CALM試験 53がある.PSLで寛解導入されたCD患者を,従来の症状やPSL再投与を目安として治療強化が行われる従来治療とこれらに加え便中カルプロテクチンやCRPの値を参考にして治療強化を行うTight control群の2群に割り付け,その後のMH達成率などのアウトカムを解析した臨床試験である.CALM試験の意義は,Tight controlを行うことによって良い治療アウトカム(MHなど)を達成可能となることを証明したことはもちろん,その後の一定期間目標達成を継続した場合には,治療のStep-downが可能か否かを検証した点にもある 53.ADAを倍量投与となった症例が通常量投与に戻すことが可能となる可能性があり,モニタリングが単に治療強化することだけではなく,場合によってはStep-downすることも可能であることを示している.また,POCER試験 54では,回盲部切除後の吻合部再発に対してのT2Tが検討されている.術後の再発を6カ月後に内視鏡で確認し,活動性病変があれば治療強化するactive care(AC)群と内視鏡を行わずに症状再燃を治療強化の指標としたstandard care(SC)群に振り分け,解析されている.術後18カ月後の内視鏡検査の結果でAC群の方がSC群と比べ有意に内視鏡的再燃が少なかったことから,内視鏡を用いたT2Tが有用であったと結論している 54

IBDの診療にT2Tを取り入れることに異論はないが,そのエビデンスはCALM試験やPOCER試験など限られた対象に対して限定的な期間を解析した結果に基づくことを念頭に入れておく必要がある.すなわち,内視鏡的評価をT2Tにどのように組み込むかは本邦でも欧米でもまだ一定の見解はない.CDの長期的な経過を判断するには,さらに長期の検証が必要であり,また,小腸病変の評価を取り入れたより実地臨床に即したT2Tを構築すべきであろう.

3)内視鏡的バルーン拡張術

CDは発症後,経年的に多くの症例が腸管炎症のみの病態[炎症型,B1(モントリオール分類)]から狭窄型(B2)や穿通型(B3)に進行していくことが知られている 55),56.その結果,腸管狭窄や瘻孔が原因でほとんどのCD症例は長い経過の中で少なくとも一度は腸管に対する外科手術が必要となる 56),57.日本人CD患者における初回手術のリスク因子としては,初発時に高活動性,小腸病変,腸管狭窄,穿孔性合併症,上部消化管病変の存在などが知られている 56.腸管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術(Endoscopic balloon dilation, EBD)は消化管の狭窄解除法として確立した内視鏡治療であり,CDだけでなく各種原因による狭窄病変に広く行われている.CDに対しては,胃・十二指腸,大腸,回盲部切除後の吻合部などに対して行われてきたが,BAEが普及した現在では最も高頻度に認め,長期経過に影響を及ぼす小腸狭窄に対するEBDも一般的な治療手技となっている 58.CDの小腸狭窄に対するEBDの成績については,技術的成功が72-100%,臨床的効果が69-87%と報告されている 59),60.これらは,大腸や回結腸吻合部のEBDとほぼ同等の短期治療成績である.EBDの長期的効果は,累積外科手術回避率や症状再燃率および再拡張率などで解析されていることが多い.小腸狭窄に対するEBDの長期的な有効性の解析は十分ではないが,3年後の累積外科手術回避率が73%,78%との報告がある 59),61.一方,累積非再拡張率は3年で47%であり 61,患者への侵襲や負担を考えると有効性維持や医療経済面での効率性などが本治療の課題であろう.ただし,EBDによって外科手術を長期的に回避できる,あるいは患者にとっての重要なライフイベントを達成させるために一時的に外科手術を回避し得る,など治療的な意義は高いと思われる.

4)今後の展望

CDの治療効果,長期経過の予測に有用な因子については数多く報告されてきた.多くの研究では,遺伝的要素,年齢や人種などの患者背景,罹患部位,病態,臨床的あるいは内視鏡的重症度などについて解析されてきた 40)~43),62),63.これらは治療選択や経過観察の上で,ある程度の有益な情報にはなっている.一方,難治化に関連する因子や治療反応性を的確に予測可能にするバイオマーカーなどの特定には至っていないのが現状である.しかしながら,最近,CDに対するいわゆるProteomicsやPrecision medicineを目指す研究が増えてきている.粘膜トランスクリプトとしては,TNF-α,IL-17a,IL-7 receptor,Oncostatin M(OSM)とそのレセプター(OSMR)などが知られている 64),65.OSMは,抗TNF-α抗体無効例の組織で高発現することがわかっており,生物学的製剤の選択や治療予測因子として期待されている 66.また,血清および粘膜におけるTriggering Receptor Expressed in Myeloid Cells-1(TREM1)のベースラインでの発現は,抗TNF-α抗体に対する反応性の低下を正確に予測するとの報告がある 67),68.腸内細菌叢や腸内真菌叢のプロファイルの相違も注目されており,抗TNF-α抗体の治療効果を左右するといったMicrobiomeに着目した研究が進んでいる 69),70.こうした研究が発展し,癌治療の領域では既に実臨床で取り入れられているPrecision medicineが,IBDの分野でも可能となることが望まれる.

Ⅳ おわりに

CDの診療はまさに日進月歩である.現在の実臨床では,治療決定のプロセスにはSDM,経過観察中のモニタリングにはT2Tなど新しい概念を取り入れることが求められている.これまで積み上げられた確かなエビデンスと診療経験によるコンセンサスを活かすと共に,今後は新たな診療機器やバイオマーカーを組み入れ,これまで以上に洗練された診療の展開が期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:平井郁仁(アッヴィ合同会社,EAファーマ(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),持田製薬(株),ヤンセンファーマ(株),日本イーライリリー(株),あゆみ製薬(株),旭化成メディカル(株),エーザイ(株),大塚製薬(株),キッセイ薬品工業(株),(株)JIMRO,杏林製薬(株),ゼリア新薬工業(株))

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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