2022 Volume 64 Issue 7 Pages 1393
【背景と目的】超音波内視鏡ガイド下穿刺生検(EUS-FNB)の診断能に対する迅速細胞診(Rapid On-site Evaluation:ROSE)の有用性は,ランダム化試験で検討されたことが無い.この試験は,充実性膵病変(Solid Pancreatic Lesions:SPL)におけるEUS-FNBの良悪性診断能においてROSE無しの非劣性を検証することを目的としている.
【方法】非劣性試験(非劣性マージン,5%)は,8カ国・14のセンターで実施された.組織採取を要するSPLの患者は,新規FNB針を使用し,ROSEの有無に関してはランダムに割り当てられた(1:1).ROSEにはタッチインプリント細胞診法を用いた.主要評価項目は良悪性診断能であり,副次評価項目は安全性,コア組織の採取率,検体の品質,および手技時間であった.
【結果】800人の患者が18カ月の期間にわたって無作為化され,771人が解析された(ROSEあり;385人,ROSEなし;386人).診断精度は両群で同等であった(ROSEあり;96.4%,ROSEなし;97.4%,P=.396).ROSE無しの非劣性は,1.0%の絶対リスク差で確認された(片側90%信頼区間,-1.1%から3.1%;非劣性P<.001).安全性および検体品質は,両群で同等であった.組織コア率(70.7%対78.0%,P=.021)はROSE無し群で有意に高く,平均手技時間(17.9±8.8対11.7±6.0分,P<.0001)は有意に短かかった.
【結論】EUS-FNBは,ROSEの有無とは無関係にSPLに対し高い診断精度を示した.新規FNB針を使用する場合,ROSEを常に行うことは推奨されない.
本論文は膵腫瘍に対する新規EUS-FNB穿刺針を使用した際の良悪性診断能におけるROSEの有用性を比較する国際間での多施設ランダム化比較試験である.最終的に771人の患者が無作為に割付けられたうえで穿刺が行われ,ROSE無し群の非劣性が証明されている.また検査時間の短縮,コア組織採取率でもROSE無し群が有意差をもってその有用性を証明された.そのため筆者らは新規FNB針を用いる際にはROSE併用は推奨されないと結論している.ただし,本研究に対しては否定的なコメントも寄せられており,穿刺方法や回数に関する規定が無いこと,腫瘍のサイズや部位における検討が不十分であること,参加施設がエキスパートのみであり,診断能に差が出なかった可能性があることなどが指摘されている.本試験の結果からは,膵充実性病変の良悪性診断において,新規FNB針をエキスパートが用いる場合にはROSEは必ずしも必要では無いということが言えるが,非熟練者が穿刺を行う際や膵鉤部などの穿刺が困難な部位は今後検討の余地があると言うべきであろう.