GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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RECURRENT GASTRIC VOLVULUS TREATED WITH ENDOSCOPIC FOUR-POINT GASTROPEXY: A CASE REPORT
Shumpei KITADAYosuke KINOSHITA Atsuki FUKUIYuji KAWATAYoshinori SHIMAMOTOAkinobu MORIGUCHIHiroaki MINAMINOHirokazu YAMAGAMIYasuhiro FUJIWARA
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2022 Volume 64 Issue 9 Pages 1557-1563

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要旨

症例は81歳男性.上腹部痛および嘔吐で当院を受診され,腹部単純CT検査で胃の著明な拡張を認めた.胃管挿入による減圧で症状は改善し,EGDでは通過障害を来す器質的疾患を認めなかった.食事を摂取することにより同症状を繰り返し,腹部単純CT検査で胃軸捻転症と診断した.慢性閉塞性肺疾患による呼吸機能障害のため,標準治療とされている外科手術はリスクが高いと判断し,低侵襲の代替治療法として内視鏡的胃壁4点固定術を施行した.胃軸捻転症に対する内視鏡的胃壁固定術は報告が少なく固定法が確立されていないが,4点固定が再発予防に有用な可能性があると考えられた.

Abstract

An 81-year-old man was admitted to our hospital for evaluation of upper abdominal pain and vomiting. Plain CT on admission revealed dilatation of the stomach. Gastric tube insertion followed by decompression led to improvement in symptoms, and EGD revealed no organic lesion to account for gastrointestinal obstruction. The patient experienced the same symptoms after meals, and we diagnosed gastric volvulus based on plain CT findings. Standard surgical treatment was associated with a high risk in this patient with respiratory dysfunction secondary to chronic obstructive pulmonary disease; therefore, we performed endoscopic four-point gastropexy as a minimally invasive alternative. Few studies have reported endoscopic gastropexy for gastric volvulus, and a definitive fixation method remains unclear. Endoscopic four-point gastropexy may be a useful therapeutic strategy to prevent recurrent gastric volvulus.

Ⅰ 緒  言

胃軸捻転症は,胃の全体,あるいは一部が生理的範囲を超えて捻転し胃内容物の通過障害を来した形態異常である.治療として胃管による減圧,内視鏡的整復および外科的な胃切除術や胃壁固定術などの手術がある.今回われわれは,繰り返す胃軸捻転症に対して,内視鏡的胃壁4点固定術が有効であった1例を経験した.内視鏡的胃壁4点固定術は低侵襲であり,外科手術が困難な場合,有用な代替治療法になり得ると考えたため文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:81歳,男性.

主訴:上腹部痛および嘔吐.

既往歴:65歳 慢性閉塞性肺疾患,70歳 早期胃癌(内視鏡的粘膜下層剝離術),79歳 在宅酸素療法導入,80歳 急性虫垂炎(外科手術).

家族歴:特記事項なし.

現病歴:慢性閉塞性肺疾患の増悪に伴う全身状態の悪化のため,療養型病院に入院中であった.上腹部痛および嘔吐を認めたため,精査加療目的で当院に転院となった.

入院時身体所見:身長165cm,体重38㎏,BMI 14.0,意識清明,血圧118/94mmHg,脈拍86回/分 整,体温37.5℃,SpO2 95%(O2 鼻カヌラ1L).胸部聴診上特記すべき異常所見なし.腹部平坦・やや硬,圧痛なし,腹膜刺激徴候なし,腸蠕動音弱.

入院時血液生化学所見:血液検査では特記すべき異常所見を認めなかった.

入院時腹部単純CT検査:胃の著明な拡張を認めたが,十二指腸から肛門側の腸管拡張を認めなかった.

臨床経過:腫瘍性病変や瘢痕狭窄による通過障害を疑い,胃管を挿入したところ症状は改善し,第2病日に上部消化管内視鏡検査を施行した.粘膜障害はなく,瀑状胃以外の所見を認めず,胃管を抜去し食事を開始した.しかし第12病日に再び嘔吐があり,腹部 CT検査で前回同様に胃の著明な拡張を認めるものの明らかな原因はわからず,対症療法として胃管を挿入し再び減圧を行った.第14病日に上部消化管内視鏡検査と十二指腸造影を施行したが,明らかな通過障害や形態異常を認めなかった.第17病日にも嘔吐があり,再度施行した腹部CT検査では穹窿部から胃体部が著明に拡張し,胃角部を軸に小彎と大彎を結ぶ腸管膜軸性に胃が捻転し,胃前庭部の前面に変位していた(Figure 1-a,b).胃前庭部は虚脱しており,圧排された幽門部が胃体部の背側から十二指腸に連続していることが確認でき,短軸性の胃軸捻転症と診断した(Figure 2).

Figure 1 

腹部単純CT検査(冠状断).

a:胃は著明に拡張し,大彎側(矢印)が小彎側と入れ替わり,右側に位置している.

b:胃前庭部は胃体部の背面に変位し,前庭部は圧排狭窄している(矢印).

Figure 2 

捻転時の胃の模式図.

胃管挿入による減圧で容易に整復されたが再発を繰り返しており,再発予防目的に胃壁固定術などの外科手術について診療科長を含めた消化器内科・外科合同カンファレンスで討議した.慢性閉塞性肺疾患による呼吸機能障害のため,外科手術はリスクが高いと判断し,患者と家族に十分なインフォームドコンセントを得たのちに,低侵襲の代替治療法として内視鏡的胃壁固定術を行う方針とした.

第23病日に鮒田式胃壁固定具Ⅱを用いて内視鏡的胃壁固定術を行った.内視鏡挿入時に胃軸捻転症を認め,X線透視下に捻転解除術を行い(Figure 3),胃前庭部・胃角部・胃体下部・胃体中部の計4点で腹壁と固定した(Figure 4).偶発症を認めずに,第26病日から食事を再開した.その後嘔吐の再燃を認めず,術後14日目に抜糸を行い,転院とした.現在までの501病日,再発なく経過している.

Figure 3 

経鼻内視鏡による胃軸捻転解除術のX線透視所見.

a:内視鏡は胃体部の背側を回り,前庭部の狭窄部を超えて十二指腸に挿入されている.

b:右捻りで捻転解除後.

Figure 4 

胃の捻転軸と胃壁固定の位置関係.

a:胃の捻転軸と胃壁固定部の模式図.

b:臍部を中心とした4点の胃壁固定部.

c:上部消化管内視鏡画像.

Ⅲ 考  察

胃軸捻転症は胃の一部または全体が生理的範囲を超えて捻転し,胃内容の通過障害を来した形態異常を言う.急性型では症状としてBorchardtの三徴 1(①吐物のない嘔吐,②強い心窩部痛と上腹部の膨満,③胃管挿入困難)が典型的であるが,慢性型では無症状のこともある 2.Singletonの分類 3では,捻転軸により長軸性(噴門と幽門を結ぶ臓器軸性)と短軸性(小彎と大彎を結ぶ腸管膜軸性),その混合型に,捻転の方向により前方型,後方型に分けられる.発生原因として,胃を固定する靭帯の弛緩や胃下垂,横隔膜弛緩症,横隔膜ヘルニア,食道裂孔ヘルニア,遊走脾などさまざまな背景疾患が挙げられる 4)~6.成人での発症頻度は0.17%と稀であるが,日常生活動作(activities of daily living:ADL)の低下した難治性神経疾患患者や高齢者での報告例が多く,長期臥床,筋緊張の低下,呑気などの影響の関与が報告されている 2),7)~9

診断において典型例では,単純X線で胃体部,前庭部に対応する2つの鏡面像,消化管造影検査では胃底部の下方偏移,小彎より上方に位置する大彎,食道と大彎の交差,下方に向いた胃幽門部などの所見がみられる.上部消化管内視鏡検査所見として,長軸性の捻転では噴門部と幽門部の狭小化と胃全体の変形と拡張を,短軸性の捻転では噴門部に異常はなく幽門部に捻じれと狭小化がみられる 10.近年ではCT検査の多断面構成画像や3D構築像を用いることで,より詳細な解剖学的偏位を捉えることができ,診断に有用である 11

本症例は,来院時の腹部CT検査では大量の胃内容物のため,胃と十二指腸の詳細な位置関係が把握できなかった.胃管による胃内容物除去後は捻転が解除されてしまい,その後施行した上部消化管内視鏡検査と十二指腸造影でも明らかな通過障害や形態異常を認めなかったために診断に難渋した.診断時の腹部CT検査では初回検査時より胃内容物が少なく,胃体部に圧排されていた前庭部,十二指腸球部が同定できたために診断に至った.初回検査時に胃軸捻転症が疑われるが判然としない場合には,胃管挿入による減圧直後の腹部CT検査や3D構築像が有用な可能性があると考える.

急性期の治療方針としては,胃粘膜壊死・穿孔や大量出血を来した症例では緊急外科手術適応となる 12.保存的加療が可能な場合,第一に胃管を挿入し,血流障害の改善や胃の減圧を図ることで自然整復を試みる.胃管挿入では捻転解除不可能で,かつ噴門部の通過が保たれている場合は内視鏡的整復が考慮される 13.内視鏡的整復は,食道裂孔ヘルニアの有無にかかわらず,捻転部位を越えて十二指腸深部までスコープを挿入し,透視下で確認しながら捻転方向と逆方向にトルクをかけることで整復を行う.食道裂孔ヘルニアを有する症例では,捻転した胃の一部または全体が胸腔内に脱出しており,内視鏡で整復するにはスペースが狭く捻転の解除が困難である場合がある.また,短軸性では比較的容易とされるが,長軸性では十二指腸深部に到達できない症例が多いとの報告がある 7.保存的加療で改善しない症例や,整復後に捻転を繰り返す症例では胃切除術や胃壁固定術などの外科手術が選択される.また,捻転が解除されても26カ月以内に約30%が再発するという報告 14もあり,捻転の再発予防のために外科手術が選択される場合も多い.

胃壁固定術の方法として,開腹手術,腹腔鏡下胃壁固定術や,経皮内視鏡的胃瘻増設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)が報告されている 13.ただしPEGでは造設後に胃瘻部を軸とした捻転が報告されており 5),8),9),11,その有用性は不透明である.高齢者では外科手術はリスクが高いと判断される場合も多く,近年本症例のような内視鏡的胃壁固定術の報告が散見されるようになってきた 15)~17

胃軸捻転症に対する内視鏡的胃壁固定術は,PEGに用いられる胃壁固定具を用いて,ナイロン糸で経皮的に胃壁を腹壁に固定する処置である.本症例では,普段われわれが使用している鮒田式胃壁固定具Ⅱを用いることで,容易に処置を完遂することができた.固定前には胃管や内視鏡的整復により胃を正常位に整復することが必須であり,巨大な食道裂孔ヘルニアを伴い腹腔内に整復できない症例など,整復不可能である場合には適応とならず,外科手術が必要となる.穿刺時の注意点としては,PEGと同様に,内視鏡送気で十分に拡張し,胃と腹壁間に他臓器が介在していないことを透視下,指サイン,透過光で確認し穿刺部位を決定する必要がある 18.術前に捻転整復後の腹部CT所見で解剖学的位置関係が確認できれば,なお望ましいと考えられる.

ただし胃軸捻転症に対する内視鏡的胃壁固定術において,最も重要な要素である固定部位や固定数については一定の見解はない.医学中央雑誌(キーワード 内視鏡,胃壁固定,胃軸捻転),Pubmed(キーワード Gastric Volvulus,Gastropexy,Endoscopic)で2000~2020年に内視鏡的胃壁固定術が施行された症例を検索したところ,4例の報告があった(Table 1 15)~17),19.3例は平均年齢88歳の高齢者で,1例は5歳の小児例であり,本症例と同様にADLや全身状態から外科手術のリスクが高い症例であった.全例短軸性で内視鏡的整復が可能であり,固定部位は胃体中部~前庭部前壁,固定数は2~3点と多点固定されていた.一方,すでに良好な成績が報告されている腹腔鏡下胃壁固定術では,胃底部と横隔膜の固定と胃体部・前庭部と腹壁の固定のいずれか,または併用が行われており,多くが3~5針の固定である 20),21.固定部位に関して,内視鏡でも同様の固定法が可能であれば良好な成績が得られると考えられるが,経皮的に胃底部と横隔膜の固定はアプローチ不可能である.また前庭部~胃体部にかけても,腹腔鏡とは異なり前壁固定しか選択肢がない.そのため内視鏡的に可能な胃壁固定部位は,前庭部~胃体中部までの前壁となる.報告例では,胃壁と腹壁の“点”ではなく“面”での固定を意識し,2カ所以上での固定が推奨されている 5),15),16),21.そこでわれわれは,捻転の機序を考慮し,個々の症例に応じて,捻転軸を跨いだ“面”で両側を固定すること,最も可動性の強い捻転の先進部を固定すること,の2つの要素を満たす固定位置を決定することが重要であると考えた.なおこの理解には,捻転時と整復後の腹部CT検査や上部内視鏡検査所見の比較検討が必須である.本症例では胃底部を先進部,胃角部を軸とした短軸性の胃軸捻転症と判断したため,胃前庭部・胃角部・胃体下部・胃体中部の計4点の“四角の面”で胃壁を固定するという,今までの報告にない新たな試みを行った.

Table 1 

内視鏡的胃壁固定術の報告例.

ナイロン糸の抜糸時期について,通常PEGの際には1週間程度で行われるが,胃壁固定部位の胃壁,腹壁間で癒着が完成するかは定かではない.本症例では2週間後に抜糸を行ったが,21日後や42日後に抜糸した報告があり 15),17,長期間ナイロン糸を留置することで固定部位に炎症・癒着が起こると推測され,抜糸後も固定効果が持続し捻転再発を予防できると考えられた.しかし,固定部の癒着は強固でないと推測されるため,自然にはずれ再発する可能性や,内視鏡検査・処置により癒着が物理的にはずれる可能性もあり注意を要する.その他埋没縫合した報告 16もみられ,感染リスク増加や長期留置の偶発症は不明であり今後の検討が望まれるが,固定という点において確実性の高いよい選択肢になると考えられる.

高齢化が進みより低侵襲な治療が必要とされる中で,胃軸捻転症に対する治療として,本症例のような内視鏡的胃壁4点固定術は,外科手術にかわる有用な治療法になり得ると考えられる.ただし,複数カ所の穿刺による出血や膿瘍形成,結紮部の虚血,大腸などの他臓器穿刺の危険性や,長期的には胃壁の多点固定による胃の排出障害,胃壁固定部に関連した内ヘルニアや再捻転,固定部の癒着剝離といった偶発症も予想されるため,症例の集積および長期的な経過を観察する必要があると考えられる.

Ⅳ 結  語

繰り返す胃軸捻転症に対して,内視鏡的胃壁4点固定術が有効であった1例を経験した.内視鏡的胃壁固定術は低侵襲な代替治療法であり,4点固定が再発予防に有用な可能性があると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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