GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TWO CASES OF EXTREME HYPERMAGNESEMIA AFTER BOWEL PREPARATION WITH MAGNESIUM CITRATE FOR COLONOSCOPY
Noriyuki IMAZUShin FUJIOKAYasuharu OKAMOTOHiroyuki MASUHARAYuta FUYUNOAtsushi HIRANOJunji UMENOTomohiko MORIYAMATakehiro TORISU
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2022 Volume 64 Issue 9 Pages 1564-1571

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要旨

クエン酸マグネシウム(Mg)製剤による大腸内視鏡前処置後に著明な高Mg血症を生じた2例を経験した.両症例とも前処置前には腎障害を認めず,大腸癌による腸管切除歴を有していた.発症時,症例1は直腸吻合部付近の便塊貯留による糞便性腸閉塞を,症例2はS状結腸に吻合部狭窄による通過障害を認めていた.それぞれ全身管理のもとで用手摘便とバルーン拡張にて閉塞を解除することで病状の改善が得られた.潜在的に腸管通過障害を有する被験者では,腎機能に関わらずMg製剤を用いた前処置による高Mg血症の出現に十分注意する必要があると考えられた.

Abstract

Two cases of extreme hypermagnesemia occurred after administration of bowel preparation with magnesium citrate for colonoscopy. Neither patient had renal dysfunction but both had a history of bowel resection for treatment of colorectal cancer. Each patient presented with bowel obstruction secondary to fecal impaction at the rectal anastomosis or severe anastomotic stricture at the sigmoid colon. The hypermagnesemia improved in each with the successful release of the bowel obstruction by digital disimpaction or balloon dilation under systemic management. In a patient with a possible intestinal obstruction, the risk of hypermagnesemia incidence with bowel preparation with magnesium products should be considered regardless of renal function.

Ⅰ 緒  言

緩下剤として頻用されるマグネシウム(Mg)製剤はこれまで比較的安全な薬剤とされてきたが,近年,腎不全患者および潜在的に腎機能が低下した高齢者における高Mg血症のリスクが知られるようになり,慎重な投与が求められている.今回われわれは,腎障害を認めないにも関わらず,大腸内視鏡の前処置目的にクエン酸Mg製剤を服用した後に著明な高Mg血症を生じた2例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

<症例1>患者:77歳女性.

主訴:嘔吐,全身倦怠感,起立困難.

既往歴:脂質異常症,直腸S状結腸部癌低位前方切除術後.

生活歴:機会飲酒.20本/日×24年間の喫煙歴あり.

内服薬:ロスバスタチン2.5mg.

現病歴:2013年に直腸S状結腸部癌に対して低位前方切除術を受けており,吻合部の狭小化を指摘されていたが便通異常は自覚していなかった(Figure 1).術後内視鏡にて盲腸に側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor:LST)を認めたため,内視鏡治療目的に2017年7月に当科入院となった.入院当日,大腸内視鏡検査前処置としてクエン酸Mg34g含有高張液250mlを服用した.その後排便なく,翌日未明(内服11時間後)より複数回の嘔吐,全身倦怠感,起立困難が出現した.

Figure 1 

症例1.入院前の大腸内視鏡所見.

直腸吻合部に管腔狭小化を認めるが,内視鏡は通過可能であった.

現症:意識 JCS 0,体温 36.2℃,血圧 83/44 mmHg,脈拍 101bpm,SpO2 98%.心音・呼吸音に異常なし.腹部は膨隆,腸蠕動音低下あり,圧痛なし.四肢冷感あり,麻痺なし.

血液検査所見:(入院時,クエン酸Mg内服前)生化学検査にてBUN 16mg/dl,Cre 0.56mg/dl,eGFR 78ml/min/1.73m2と明らかな腎障害は認めず,Mgは2.4mg/dlと基準範囲内であった.

(発症時)BUN 15mg/dl,Cre 0.50mg/dl.Mgは13.7mg/dlと著明に上昇していた.

12誘導心電図:PR延長やQT延長,QRS開大などの心電図異常は認めなかった.

画像検査所見:立位腹部単純X線にて鏡面像を認めた.腹部CTにて直腸吻合部付近に便塊と口側結腸~小腸に腸液貯留を認め,糞便性腸閉塞の所見であった(Figure 2-a,b).

Figure 2 

症例1.腹部単純CT検査所見.

a:軸位断.結腸内に多量の腸液貯留を認める.

b:冠状断.直腸吻合部(矢印部)に便塊を認める.

経過(Figure 3):入院時Mg値は正常域であったことより,クエン酸Mg内服を契機とした急性高Mg血症と診断した.さらに,直腸吻合部への便塊貯留による糞便性腸閉塞を認め,発症要因として内服したクエン酸Mgの腸管からの排泄障害の関与が疑われた.用手摘便を行ったところ,複数回にわたり多量の水様便が排泄された.高Mg血症に関しては緊急透析も検討したが,Mgの経肛門的排泄による血清Mgの低下が期待されたこと,呼吸筋麻痺や心電図変化を認めず循環動態も安定していたことから,厳重なモニタリング下に細胞外液の点滴による保存的加療を開始した.また,発症翌日の血液検査にてCRP 20.6mg/dlと上昇していたため,腸管からのbacterial translocationを懸念してセフトリアキソンの経静脈投与を開始した.発症6日後にはMg値は1.9mg/dlと改善し,CRP 0.87mg/dlと炎症反応も改善した.発症9日後,ポリエチレングリコール製剤による前処置の上で施行した全大腸内視鏡では,直腸吻合部は管腔狭小化を認めるものの内視鏡の通過は可能であった.横行結腸からS状結腸にかけて,縦走潰瘍を伴う発赤浮腫状粘膜を認め,閉塞性大腸炎と診断した(Figure 4).右側大腸には炎症所見を認めず,盲腸LSTに対して内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行い,発症15日後に自宅退院となった.

Figure 3 

症例1.経過表.

Mg: magnesium, CTRX: ceftriaxone.

Figure 4 

症例1.発症9日後の大腸内視鏡所見.

横行結腸からS状結腸にかけて縦走潰瘍を伴う発赤浮腫状粘膜を認める(図は下行結腸).

<症例2>患者:70歳女性.

主訴:全身倦怠感,起立困難,腹痛.

既往歴:S状結腸軸捻転症,S状結腸癌S状結腸切除術後,パーキンソン病.

生活歴:飲酒歴,喫煙歴なし.

内服薬:酸化マグネシウム 990mg,セレギニン塩酸塩 2.5mg,大建中湯 7.5g,レボドパ・カルビドパ配合錠 100mg.

現病歴:2012年にS状結腸癌に対してS状結腸切除術後.2017年6月の大腸内視鏡検査にて吻合部狭窄を認め,内視鏡的バルーン拡張術が行われた.2018年4月より排便困難感が出現したため,再度拡張術目的に当科入院となった.入院時点では排便停止はなく,クエン酸Mg34g含有高張液250mlを服用したが,翌日未明(10時間後)に全身倦怠感,起立困難,血圧低下が出現した.

現症:意識 JCS 0,体温 36.2℃,血圧 85/56 mmHg,脈拍 82bpm,SpO2 95%.心音・呼吸音に異常なし.腹部は軟,腸蠕動音は正常,左下腹部に圧痛あり.四肢筋力低下,両側膝蓋腱反射およびアキレス腱反射の減弱あり.

血液検査所見:(入院時,クエン酸Mg内服前)生化学検査にてBUN 15mg/dl,Cre 0.65mg/dl,eGFR 68ml/min/1.73m2と明らかな腎障害は認めず,Mgは2.4mg/dlと基準範囲内であった.

(発症時)BUN 29mg/dl,Cre 1.13mg/dlと腎障害を認めた.血清Mg値は10.6mg/dlと著明に上昇していた.また,WBC 5,420/μl,好中球 85.5%,CRP 5.8mg/dlと炎症反応の亢進を認めた.

12誘導心電図:PR延長やQT延長,QRS開大などの心電図異常は認めなかった.

大腸内視鏡検査所見(発症9時間後):S状結腸吻合部に高度狭窄を認めたため(Figure 5-a),拡張用バルーン(BD-420X-1555:オリンパスメディカルシステムズ社製)にて13.5mm,3分間拡張を行い,スコープ通過が可能となった.狭窄部の口側腸管は拡張し,多量の泥状便が貯留していた.観察可能であった一部の粘膜には発赤と白苔の付着を認めた(Figure 5-b).

Figure 5 

症例2.発症9時間後の大腸内視鏡所見.

a:S状結腸術後吻合部に高度狭窄を認める.

b:吻合部口側の粘膜面には発赤と白苔の付着を認める.

経過(Figure 6):症例1と同様にクエン酸Mg製剤内服を契機とした急性高Mg血症と診断した.尿量測定を行いながら細胞外液の点滴とともにフロセミドのボーラスおよび持続投与を開始したところ,筋力低下,腱反射消失といった神経筋症状は速やかに改善し,血圧も上昇した.クエン酸Mgの腸管貯留による高Mg血症の遷延が懸念され,症例1の経験より吻合部狭窄の解除による経肛門的排泄が有効と考えられたため,発症同日夕に内視鏡的バルーン拡張術を行った.その後も厳重なモニタリング下に保存的加療を継続し,呼吸筋麻痺や心電図変化等の重篤な合併症を認めず,発症2日後のMg値は2.3mg/dlと基準値まで低下した.発症翌日にCRP 21.5mg/dlと上昇したため腹部CTを撮像したところ,横行結腸から下行結腸まで壁肥厚を認めた(Figure 7).内視鏡所見も加味して閉塞性大腸炎と診断し,セフトリアキソンの経静脈投与を行った.炎症反応は次第に改善し,常用薬の酸化マグネシウムを中止の上で発症11日後に自宅退院となった.

Figure 6 

症例2.経過表.

Mg: magnesium, CTRX: ceftriaxone.

Figure 7 

症例2.腹部単純CT検査所見(発症翌日).

冠状断.下行結腸に壁肥厚を認める.

Ⅲ 考  察

クエン酸Mg製剤は大腸内視鏡検査の他,大腸X線検査や腹部外科手術前の前処置として広く用いられる塩類下剤であり,大腸内視鏡検査前処置として用いる際は検査前日に高張液を服用する方法,あるいは検査当日に等張液を服用する方法が一般的である.ポリエチレングリコール電解質溶液と比較し,本邦で販売されているクエン酸Mg製剤は柑橘系の味であり受容性が優れていると報告されている 1.当院では,便秘症や過去の検査歴から検査当日の前処置のみでは腸管洗浄効果が不十分と予測される患者を対象として,検査前日にクエン酸Mg製剤高張液を追加服用している.

前処置として服用したクエン酸Mgの一部は小腸から吸収されるが,腎障害を有さない被験者ではクエン酸Mg製剤服用前後での血清Mg値の変動は許容範囲であり安全に使用可能であることが報告されている 1),2.一方で,腎障害を有する被験者への投与は,血中へ吸収されたMgの排泄遅延により高Mg血症のリスクが高くなるため禁忌とされている.高Mg血症の症状は血清中のMg濃度にある程度依存することが知られており,5~8mg/dlでは血圧低下,悪心,嘔吐,顔面紅潮,尿閉,イレウス,9~12mg/dlでは深部腱反射消失,傾眠,15mg/dl以上では呼吸抑制,四肢麻痺,完全房室ブロック,20mg/dl以上では心停止が生じる 3.しかし,いずれも高Mg血症に特異的な症状ではないため,診断には臨床症状に加えて既往歴,服薬歴から積極的に本症を疑い,Mg値を測定する必要がある.自験例では2例とも全身倦怠感,起立困難,血圧低下を認め,また,症例2では四肢筋力低下や腱反射消失を一過性に認めた.これらは腸閉塞よりも高Mg血症に起因する症状がより疑われた.

自験例は2例とも前処置前の血液検査では腎障害を認めなかったにも関わらず,クエン酸Mg製剤の服用後に急激な高Mg血症を生じた.両症例の共通点として大腸切除術後吻合部の狭小化があり,同部位で通過障害を生じていた.高Mg血症の発症機序として,クエン酸Mgが腸管内へ多量に滞留することにより腎排泄許容量以上のMgが急激に血中へ吸収されたことが予想された.また,2例とも閉塞性大腸炎を併発していたが,潰瘍や出血,炎症などの消化管病変が存在する場合には消化管粘膜からの吸収率が上昇することが報告されている 4.さらに,高Mg血症による腸管蠕動の抑制が麻痺性イレウスの誘因となることも知られており 5,実際,症例1では腸蠕動音が明らかに低下していた.これらの機序を鑑みると,腸閉塞に続発した閉塞性大腸炎や麻痺性イレウスが高Mg血症のさらなる増悪因子となった可能性も推察された.医学中央雑誌にて「高マグネシウム血症」「クエン酸マグネシウム」,PubMedにて「hypermagnesemia」「magnesium citrate」をキーワードに各種前処置としてクエン酸Mg製剤服用後に高Mg血症を発症した症例を検索したところ(1983年1月~2020年12月,会議録は除く),自験例を含めて11例が報告されていた(Table 1 3),6)~13.いずれも66歳以上の高齢者であり,9例は女性であった.さらに,7例は前処置前に腎障害を指摘されておらず,多くの症例で便秘や腫瘍,癒着による腸閉塞を併発していた.症例1は吻合部に若干の狭小化はあるものの便通異常はなく腸閉塞の予見は容易ではないと思われたが,症例2は過去の拡張術の既往や排便困難感を生じていたことを考慮するとクエン酸Mg製剤による前処置は避けるべきであったと思われ,反省すべき症例であった.前処置にクエン酸Mg製剤を用いる際は,腎機能のみではなく年齢,性別や日常的な便秘の有無,腹部手術歴の有無や消化管通過障害の有無にも注意を払う必要があることを認識しておくべきである.

Table 1 

クエン酸マグネシウム製剤服用例における高Mg血症の報告例(自験例含む).

高Mg血症の治療は,Mg摂取中止に加えて大量輸液と利尿薬投与を原則とする.重症例では血液透析による血中のMg除去が有効であり,Gibneyらは,血液透析の導入基準としての血清Mg濃度を4mmol/L(≒9.7mg/dl)としている 14.また,循環動態が不安定な場合には持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)が考慮される.しかし,通常の血液透析と比較してCHDFではMgの低下は緩徐であるため,緊急性が高い症例では可能な限り通常の血液透析を選択すべきと考えられる 15.自験例は2例ともGibneyらが提唱する血液透析導入の基準となる血清Mg値を上回っていた.しかし,いずれの症例も前処置前の腎機能は正常であり尿中排泄が期待されたこと,腸管閉塞が速やかに解除され滞留したMgの自然排泄が期待されたことから,大量輸液や利尿薬による保存的加療を選択した.ただし,先述の通り重度の高Mg血症は呼吸抑制や心停止を引き起こし得る危険な病態であるため,保存的加療を行う際も緊急血液透析が行える体制下において全身状態の厳重なモニタリングが必要である.その上で,Mg製剤服用に伴う高Mg血症が腸閉塞に起因している場合には,閉塞機転の速やかな解除は考慮すべき治療選択肢と考えられた.

Ⅳ 結  語

大腸内視鏡の前処置薬にてクエン酸Mg製剤を服用し,高Mg血症を生じた2例を経験した.腸管切除歴などにより腸管通過障害の可能性を有する被験者へのMg製剤を用いた前処置に際しては,腎機能に関わらず高Mg血症の出現に十分注意するとともに,発症時には迅速な対応が必要と考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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