GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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EMERGENCY ENDOSCOPIC STONE REMOVAL IN ACUTE CHOLANGITIS AND PANCREATITIS SECONDARY TO AN INCARCERATED PANCREATIC STONE: A CASE REPORT
Hiroki HASHIGUCHI Ryohei KUMANOKeichi YAMADANarika TAKEYAMAToyohiro SAKATAEizaburo OHNO
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2022 Volume 64 Issue 9 Pages 1572-1578

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要旨

症例は73歳男性.主膵管内の膵石を伴うアルコール性慢性膵炎で定期通院中.自宅にて突然,心窩部痛を認め,改善がみられないため当科を受診した.CT検査でVater乳頭部に10mm大の膵石を認め,同部位を閉塞起点とした総胆管および主膵管の拡張を認め,膵石嵌頓による閉塞性黄疸および急性胆管炎,急性膵炎と診断した.緊急ERCPでは乳白色調の膵石が膵管開口部から露出しており,緊急で内視鏡的膵管口切開術およびバルーンカテーテルを用いた膵石除去術を施行したところ症状改善を得た.

Abstract

A 73-year-old man who was regularly followed up for alcoholic chronic pancreatitis accompanied by main pancreatic duct stones presented with sudden-onset persistent epigastric pain while at home. CT revealed a pancreatic stone (10mm) in the papilla of Vater and common bile duct and main pancreatic duct dilatation at the site of the initial obstruction. The patient was diagnosed with obstructive jaundice, acute cholangitis, and acute pancreatitis secondary to an incarcerated pancreatic stone. Immediate ERCP revealed an ivory white pancreatic stone at the pancreatic duct orifice. The patient underwent emergency endoscopic pancreatic sphincterotomy and stone removal using a balloon catheter, which led to symptom resolution.

Ⅰ 緒  言

膵石症は慢性膵炎の非代償期に高頻度にみられる合併症であり,慢性疼痛,膵仮性囊胞,急性膵炎などの有害事象の原因となる 1.これらの予防を目的として膵石除去療法が標準化され,本邦で2014年には膵石症の内視鏡治療ガイドラインが発表されるなど,安全な内視鏡的膵石除去術についてのエビデンス構築が進んでいる 2.しかし現在のところ膵石除去は,主に慢性症状の緩和を目的とし待機的に施行されている.ガイドライン上でも,慢性疼痛を訴える症例について内視鏡治療の適応としているが,同様の処置が緊急で施行されるべきか否かについては言及されていない.今回,Vater乳頭部への膵石嵌頓によって閉塞性黄疸をきたした症例に対し,緊急でパピロトームを用いた内視鏡的膵管口切開術(endoscopic pancreatic sphincterotomy;EPST)およびバルーンカテーテルを用いた膵石除去を行い奏効した症例を経験した.Vater乳頭部に嵌頓した膵石により発症した閉塞性黄疸および急性胆管炎,膵炎症例は比較的稀であり,文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:73歳男性.

主訴:心窩部痛.

既往歴:高血圧症(45歳),前立腺肥大症(60歳),アルコール性慢性膵炎(70歳),膵仮性囊胞(72歳).2020年1月,膵尾部に膵仮性囊胞感染をきたし,胃体上部より超音波内視鏡下膵仮性囊胞ドレナージが施行され,ダブルピッグテイルステントが留置された.

喫煙歴:なし.

飲酒歴:純エタノール換算100g/日×50年,2年前より禁酒.

現病歴:慢性膵炎の経過観察で通院中.2020年10月,経過観察目的に施行した腹部CT検査で膵頭部主膵管内に10mm大の膵石を指摘されていた.膵仮性囊胞ドレナージ術が施行されて以後,急性増悪をきたすことなく,安定した臨床経過を示したため定期通院としていた.2021年7月,急激な心窩部痛を主訴として,発症40時間後に当科外来を受診した.CT検査で過去に指摘されていた膵石のVater乳頭部への移動を認め,総胆管ならびに肝内胆管の拡張を呈し,膵石嵌頓を原因とする閉塞性黄疸および急性胆管炎,急性膵炎と診断した.

理学所見:体温37.6℃,血圧144/92mmHg,脈拍101回/分,眼球結膜軽度黄染,腹部平坦,軟,腸蠕動音は正常,心窩部に強い圧痛を認めた.腹膜刺激徴候は認めなかった.

臨床検査成績(Table 1):白血球数およびCRP,総ビリルビン,肝胆道系酵素,アミラーゼの高値を認めた.

Table 1 

来院時臨床検査成績.

CT検査:Vater乳頭部の主膵管内に類円形の高吸収域を認め,過去の膵頭部主膵管内の膵石と形状が一致した.膵石の尾側主膵管の拡張を認めた(Figure 1-a).総胆管ならびに肝内胆管の拡張,胆囊の腫大を認めた(Figure 1-b).膵石は,経過観察時のCT検査(Figure 1-c)との比較で主乳頭部へ移動していた.膵実質には腫大,濃度不均一化を認めず,また膵周囲に限局しわずかな脂肪織濃度上昇を認めたが,浸出液貯留を認めなかった.過去に総胆管の拡張は指摘されておらず,約4mmであった膵頭部主膵管径は約10mmへ拡張がみられ,尾側主膵管の拡張も明瞭に認められた.

Figure 1 

CT検査画像所見.

a:来院時のCT検査では,Vater乳頭部の主膵管内に10mm大の膵石を認め,嵌頓が疑われた.矢頭に膵石を示す.

b:膵体部および尾部の主膵管に拡張を認めた.総胆管,肝内胆管の拡張,胆囊の腫大を認めた.超音波内視鏡下に留置された(発症18カ月前)膵仮性囊胞ドレナージチューブを矢印に示す.

c:外来通院時(発症9カ月前)のCT検査では,膵石は膵頭部主膵管内に存在していた.

経過:膵石嵌頓を原因とする閉塞性黄疸および急性胆管炎,急性膵炎と診断した.胆管炎としては急性胆管炎・胆囊炎の診療ガイドラインにおける中等症,また膵炎としては発症より時間経過があるなかで予後因子およびCT検査所見のいずれも軽症であったが,膵石嵌頓による急性疼痛が本症例の主病態と判断し,第1病日に緊急で内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を施行した.

ERCP:十二指腸内視鏡を十二指腸下行脚まで挿入し観察をすると,主乳頭は発赤調に緊満し開大し,開口部には乳白色調の膵石が一部露出していた(Figure 2-a).胆汁の排出は認めなかった.嵌頓結石の治療を目的にneedle knifeによるprecut法を検討したが,Vater乳頭を正面視する位置での内視鏡の保持が不安定であり,胆膵管へのカニュレーション,ガイドワイヤー留置下での処置を行う方針とした.先細り型造影カテーテル(PR-110Q-1,オリンパス,東京)を用いて膵管挿管を始めると,挿管操作の途中で膵石が尾側主膵管方向に押し戻され嵌頓が一時的に解除され,無色透明の膵液がみられた.膵管へのガイドワイヤー留置を行うため軽度の膵管造影を施行すると,膵頭部主膵管に10mm大の透亮像を認めた.ガイドワイヤー(VisiGlide2,オリンパス)を膵管内に挿入すると結石によりガイドワイヤーが反転し,ループを形成した状態で主膵管内に進め,ガイドワイヤー誘導下にパピロトーム(CleverCut3V,先端長7mm,刃長25mm,オリンパス)を挿入,EPSTとして高周波装置を用い膵管口を12時~1時方向へ5mm程度小切開した(Figure 2-b).その後,ガイドワイヤーに沿わせたディスポーザブル採石用バスケットカテーテル(Trapezoid RX,Boston Scientific Japan(東京))を愛護的に挿入した後,膵石除去を試みたが,膵石が膵頭部主膵管の屈曲部へ移動したため膵石の把持は不成功となった.ディスポーザブル採石用バルーンカテーテル(Multi-3V Plus,オリンパス)に変更し,主膵管径と合致した11.5mmのバルーン径を選択し,主膵管の走行に沿わせるように牽引し,膵石除去に成功した(Figure 2-b3-a).結石は乳白色調で8mm大,表面微細顆粒状を呈し,硬度の高い膵石であった(Figure 2-c).EPST後の評価として施行した内視鏡的逆行性膵管造影(endoscopic retrograde pancreatography;ERP)では主膵管拡張の改善が認められた.引き続き胆道疾患の評価を目的に施行した胆管造影では総胆管の拡張を認めたものの,閉塞原因となるような狭窄や占拠性病変は認めなかった(Figure 3-b).胆汁の自然流出を認めたが,色調は淡黄色で,この際に胆汁を回収し培養に提出した.共通管付近に明らかな膵胆管合流異常を認めなかった.

Figure 2 

ERCP内視鏡画像.

a:Vater乳頭部は充血していた.膵管口に嵌頓した乳白色調の膵石が一部露出していた.

b:パピロトームを用いた内視鏡的膵管口切開術を施行した.

c:約8mm大,表面微細顆粒状を呈する,膵石が排出された.

Figure 3 

ERCP検査画像所見.

a:内視鏡的膵管口切開術およびバルーンカテーテルによる採石を行った.バルーンによる陰影欠損を矢印,膵石による透亮像を矢頭に示す.

b:内視鏡的逆行性胆道造影では,遠位胆管に閉塞機転は指摘されなかった.

処置後経過:第2病日には腹痛の消失を認めた.第2病日以後の血液検査では肝胆道系酵素およびアミラーゼの低下を認め(Figure 4),第4病日には食事摂取を再開した.第5病日に撮影したCT検査では膵頭部主膵管内に膵石の遺残は確認されなかった.なお,胆汁培養で菌は検出されなかった.第8病日に自宅退院した.退院後,膵石除去後3カ月経過した現在,腹痛の訴えはみられず,再び定期通院中である.

Figure 4 

血液検査経過.

Ⅲ 考  察

慢性膵炎診療において,膵石による膵管内圧上昇を原因とした様々な合併症に遭遇するが,本症例のようにVater乳頭部への膵石嵌頓により閉塞性黄疸および急性胆管炎,膵炎をきたした例は比較的稀である.

膵石症は非代償期の慢性膵炎の中でも主たる合併症の一つであり,臨床的には慢性疼痛,膵仮性囊胞,慢性膵炎の増悪などの原因となり得るのみならず,病理組織学的にも非膵石性の慢性膵炎に比較して膵線維化,実質残存率の低下をもたらし,膵の外分泌機能低下をきたす要因となる 3.膵石に対する内視鏡的治療は,待機的なEPSTが1982年に二村らにより初めて報告されて以降その有用性が報告されてきた 4),5.以後も数多くのエビデンスが蓄積され,2014年にそれらを収載した膵石症の内視鏡治療ガイドラインが発表された 2.ガイドラインにおいては膵石症の内視鏡治療適応として,原則として主膵管または副膵管内に結石が存在し,腹痛を訴える場合に対して推奨度Aとされている.山本らは,パピロトームを用いた膵石に対する安全なEPSTの手技について詳しく解説している 6.内視鏡的膵石除去術は有用な治療法ではあるが,その一方で熟練した術者によるEPST手技においても時に出血,穿孔,急性膵炎など,偶発症を生じる危険性が低くはなく 7,実臨床において膵石症に対しては患者年齢や臨床症状に応じ,より侵襲性の低い膵管ステント留置の定期交換のみを行う場合や,疼痛の程度に応じて無治療経過観察という選択肢も検討した上で治療方針は決定されるべきである.

膵石に対する内視鏡治療は一般に難易度が高く 8),9,EPSTを初めとする内視鏡的膵石除去術は原則として,内視鏡治療ガイドラインに準じた患者の術前検査に続いて施行される待機的手技との位置付けであるため,本症例のように緊急時に行われた報告は多くない 10)~18.緊急処置に際しての標準的手技は先述のガイドライン上で明記されておらず,既報において,膵石嵌頓に対し緊急で外科的にWhipple手術が行われた症例 10のほか,緊急内視鏡治療として内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;ENBD)が施行され,膵石が主膵管内部に移動した後,二期的に機械的砕石器を用いた待機的砕石術が選択された症例も報告されている 11)~14.近年では内視鏡治療としてneedle knifeを用いたprecut法による膵石除去術の有用性が報告されている 15)~18

本症例においても,主乳頭に膵石の嵌頓を確認した時点で,needle knifeを用いたprecut法による内視鏡的治療を検討したが,スコープの適切な保持が困難であったため,EPSTを選択した.Needle knifeによるprecut法はVaradarajuluらの報告により,パピロトームに比して偶発症の発生率が低いことが報告されている 19.またneedle knifeによるprecut法であれば乳頭括約筋の切開を要さず,乳頭部の粘膜切開のみで治療を完結できた可能性がある.一方でprecut法はfree handによる治療手技であるため,ERCPに熟練した施行医または指導医のもと実施されることが望ましい 20.EPSTの手技に関しては,本症例においては胆膵非専門医がERCP手技を施行したため,治療手技としての安定性や膵管ステント留置の可能性も考慮しパピロトームによるEPSTを施行した.しかし本症例は急性胆管炎,急性膵炎の発症を契機に緊急ERCPを施行しており,胆管炎および膵炎の増悪を防止するため,wire-guided cannulation法を用い,膵石採石時においても膵管造影を極力控えるべきであった点,また本症例のパピロトームを用いたEPSTは山本らの報告 6に従い主乳頭膨隆部上縁までの切開を目標に施行したが,バスケットカテーテルを用いた膵石のスムーズな採石を施行するためには切開長が不十分であった点が反省点として挙げられる.

実臨床において,膵石がVater乳頭部へ嵌頓し閉塞性黄疸や急性胆管炎,急性膵炎を呈する症例と遭遇することは比較的稀であるものの,緊急処置として膵石を除去せざるを得ないこともあり,慎重かつ愛護的な操作を常に心掛ける必要があるが,万一処置に難渋した際はEPSTに固執せず急性胆管炎および膵炎の治療を第一目的とした内視鏡的胆道ドレナージおよび膵管ドレナージへ移行するなど,検査状況や患者のバイタルサイン,術者の技量などを多角的に勘案した上で最良の選択を心掛けることが肝要である.

Ⅳ 結  語

膵石嵌頓による閉塞性黄疸および急性胆管炎,急性膵炎に対して緊急内視鏡的膵石除去術を行い,改善し得た症例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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