GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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PERCUTANEOUS ENDOSCOPIC GASTROSTOMY: PLACEMENT, PERIOPERATIVE EVALUATION, AND MANAGEMENT
Kohei YAMANOUCHI Furitsu SHIMADAShotaro NAKAMURA
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2022 Volume 64 Issue 9 Pages 1588-1595

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要旨

経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)は経口摂取の困難な患者にとって有益な治療である一方,対象となる患者は全身状態が悪く,重篤な基礎疾患を有することがある.偶発症のない,安全なPEG造設を行うためには,PEG適応の判断を含めた十分な術前評価が重要である.加えて,術前評価で得られた情報を基に,造設方法の選択(Pull/Push法もしくはIntroducer法),周術期管理の方法を事前に検討しておく.基礎疾患として循環器疾患を有する患者は抗血栓薬を内服していることが多いため,出血予防のための処置を考慮する.神経疾患,慢性呼吸器疾患の患者は禁忌,注意とされる前処置薬の投与を避け,各病態に応じた酸素投与法の検討,鎮静薬,鎮痛薬の可否を判断する.また,帰室後も早期に異常を察知するためのモニタリングを継続することが望ましい.

本稿ではPEGの手技の実際とともに,周術期リスクマネジメントに必要な評価項目について述べる.

Abstract

Percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG) is a beneficial treatment for patients with dysphagia and those having difficulty with oral nutrition ingestion. In addition, these patients may have poor general condition or serious underlying diseases such as cardiovascular disease, chronic respiratory illness, and neurological disorder. Preoperative risk evaluation of patients who receive PEG is important to reduce minor, as well as major, adverse events. Based on this evaluation, the appropriate gastrostomy tube placement method (i.e., pull/push method or introducer method) and managing the perioperative period in advance should both be considered. In this article, the techniques for PEG and preoperative risk management are described.

Ⅰ はじめに

経口摂取が困難な患者にとって,経腸的栄養や内服薬投与を行うためのアクセスを得ることは重要である.経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)は,長期的かつ,安定的にこれらの投与ルートを確保することが可能であり,現在本邦において多くの施設で施行されている手技である.PEGは造設することができれば安全かつ十分な栄養を長期間にわたり提供することが可能となるが,造設時のトラブルは決して少なくない 1.さらに,入院患者においては経鼻胃管と比較してPEGのほうが偶発症の頻度,重症度とも有意に高いことが報告されており 2,PEGを施行する場合は,患者の全身状態や処置のメリット,デメリット等を十分検討した上で行う必要がある.本稿ではPEGの概要に加え,周術期の注意点についても考察する.

Ⅱ 日本におけるPEGの現状

高齢化の急速な進行に伴い,要介護高齢者の数は増加しており,脳血管障害後遺症,パーキンソン病などの神経変性疾患,認知症などにより経口摂取が困難な状態にある高齢者の数も増加傾向にある.そのような患者が介護保険施設や在宅療養に移行するにあたってPEGが選択されるケースが多いのが現状である.しかし,胃瘻に関する2014年度診療報酬改定が開示され 3,PEGを取り巻く環境が大きく変化した.すなわち,①診療報酬の引き下げで不必要なPEG患者数増加を抑制する,②術前に嚥下機能評価を行った上でPEG造設術を行うことを基本とする,③経口摂取回復率の基準を示すことで,PEG後も経口摂取への回復を積極的に促す,といった方向性が示され,漫然とPEG造設を行うことに歯止めをかける内容であった.そのような背景を反映してか,社会医療診療行為別調査の医科診療の集計結果を用いてPEG造設術実施件数の経年変化をみてみると,2015年から2020年の間は頭打ちもしくは減少傾向にあるといえる(Figure 1 4

Figure 1 

施設基準適合別の胃瘻造設術施行件数の推移.

出典:厚生労働省 社会医療診療行為別調査 4

Ⅲ PEGの適応・禁忌

PEGの適応となる疾患は様々であるが,消化器内視鏡ガイドライン第3版 5では,PEGの適応として,嚥下・摂食障害による摂食困難,繰り返す誤嚥性肺炎の予防,炎症性腸疾患の経腸栄養のルート,消化管狭窄に対する減圧治療などが記載されている.一般的な医学的条件としては,①生命予後が1カ月以上,②PEGに耐えられる全身状態,③経腸栄養を行う期間が4週間以上必要な場合である.PEGの禁忌については,施行を避けるべき絶対的禁忌と,適切な対策を講じることで施行可能な場合がある相対的禁忌が挙げられる.詳細な分類についてはガイドライン 5を参照されたい.

Ⅳ 手技の分類

a.Pull/Push法

体外から経皮的に胃内にガイドワイヤーを挿入し,このガイドワイヤーを内視鏡下に把持した後,経口的に体外に引き出し,ガイドワイヤーを経由して胃瘻カテーテルを経口的に造設する方法である.Pull/Push法はカテーテルの誘導方法の違いはあるが,いずれも口腔,咽頭を経由した造設方法である(Figure 2-a).

Figure 2 

PEG造設方法の分類.

a:Pull/Push法.

b:Introducer法.

b.Introducer法

留置するカテーテルが口腔咽頭を経由せず,体表から腹壁を経て胃内に誘導される造設法である(Figure 2-b).Introducer法はシースを介して13~15Frのバルーン・チューブ型カテーテルを留置するIntroducer原法,ガイドワイヤー下にダイレーターを用いて穿刺部を拡張後,より太径(20~24Fr)のバンパー・ボタン型カテーテルを留置するIntroducer変法に細分類される.Pull/Push法と異なり,手技の性質上胃壁固定は必須であるため,胃壁固定を含めた十分なスペースが腹壁側,胃壁側に必要である.

Ⅴ 手技の実際

a.術前評価

PEG造設術を行うにあたって,現在治療中の疾患の確認を行う.特に術後合併症のリスクが高いとされる併存疾患のある高齢者,感染症の合併,誤嚥性肺炎の既往がある患者には注意が必要である 6.腹部手術歴(特に食道,胃)の既往,口腔咽頭,食道,胃などの悪性腫瘍の有無,内服薬(抗血栓薬,糖尿病治療薬,神経疾患治療薬など)も事前に確認しておく.術前に必要な検査,評価項目に関しての詳細をTable 1に示す.

Table 1 

PEG造設に必要な術前評価項目.

b.スコープの選択

PEG造設時のスコープ挿入に関しては,経口的に挿入する方法と,細径内視鏡を用いた経鼻挿入法に分けられる.操作性や内視鏡のコシを用いた胃の変位といった観点からは通常径内視鏡を用いた経口挿入に利点があるが,呼吸・循環動態への影響の軽減や,誤嚥などの偶発症減少を期待して経鼻内視鏡を使用するケースも多い.また,開口障害や消化管狭窄のため細径内視鏡でなければ対処できない場合もあり,それぞれの患者の病態に応じた適切なスコープ選択が必要である.

c.穿刺部位の選択

まず造設前の視診にて,V-Pシャントカテーテルの有無や手術痕,皮膚の深い皺やくぼみがないか確認する.その後,胃内腔側から指圧迫サイン(finger indentation sign)(Figure 3-a,b),腹壁側から透過光サイン(transillumination sign)(Figure 3-c),が確認できる部位を同定する.腹壁での穿刺位置は左季肋部で臍より上方,腹直筋上あるいは正中上が良いとされる.正中より右側での穿刺では下大静脈,腎静脈,肝臓への穿刺リスクがあるので避けるべきである 9.肋骨弓や剣状突起に近接していると外部ストッパーで疼痛や潰瘍形成が起こりやすいため2cm程度距離をとるのが良い 10.胃内での穿刺部位は胃体部前壁が良いとされ,胃角部は内部ストッパーによる接触性潰瘍,大彎側は血管損傷による出血,幽門前庭部ではチューブによる幽門閉塞のリスクがあり,避けるべきである.

Figure 3 

穿刺部位の確認.

a:腹壁圧迫前.

b:Finger indentation sign.

c:Transillumination sign.

d.Pull/Push法による造設手技

局所麻酔剤をPEG造設部位に局注し(Figure 4-a),メスを用いて約1cm程度の十分な皮膚切開を加え,鉗子を用いて皮下組織を剝離する.そこにシース付き穿刺針を用いて胃内に穿刺し,シースより胃内に挿入したループワイヤーを内視鏡下にスネアで把持した後,口腔外に引き出す(Figure 4-b,e).胃瘻カテーテルとループワイヤーを連結させ(Figure 4-c),腹壁切開部のループワイヤーを徐々に引き出し,胃瘻カテーテルの内部ストッパーが口腔内,食道を経由して胃内に留置される(Figure 4-d,f).穿刺時に出血がみられた場合や出血リスクの高い症例に関しては,ガーゼや付属のスペーサーを創部と外部ストッパーの間に挟み込み,創部圧迫を図る(Figure 4-d).創部圧迫を行った場合は瘻孔部の阻血を回避するため,翌日には圧迫を解除する.

Figure 4 

Safety PEG Kitを用いたPull法によるPEG造設.

a:造設部位への局所麻酔.

b:穿刺針のシースにループワイヤーを挿入.

c:胃瘻カテーテルとループワイヤーを連結.

d:外部ストッパーを固定.

e:ループワイヤーをスネアで把持.

f:内部ストッパーの位置確認.

e.Introducer法による造設手技

局所麻酔剤を局注後,胃壁固定具を用いて2カ所胃壁固定を行う(Figure 5-a,d).皮膚切開後,トロカール針を胃内に挿入する(Figure 5-b,e).その際に胃壁固定糸を引っ張り上げる(カウンタートラクションをかける)とスムーズな穿刺が可能となる.トロカール内針を抜去後,残った外筒シースに胃瘻カテーテルを挿入し,内部固定バルーンに注水する.外筒シースをピールアウェイし,胃瘻カテーテルの外部ストッパー位置を調整する(Figure 5-c,f).

Figure 5 

イントリーフPEGキットを用いたIntroducer法によるPEG造設.

a:胃壁固定具の穿刺.

b:トロカール針の穿刺.

c:胃瘻カテーテルの固定.

d:胃壁固定具の穿刺(胃内).

e:トロカール針の穿刺(胃内).

f:胃瘻カテーテルの固定(胃内).

Ⅵ 鎮静薬,鎮痛薬使用時の注意点

PEG造設は長時間の内視鏡検査を伴うことや,チューブ留置の過程から患者側に苦痛を強いる処置といえ,その苦痛とストレスを緩和する目的で鎮痛薬,鎮静薬を使用することは有用である 11.その一方で,PEG造設が望まれる症例は高齢者が多く,しばしば神経疾患,誤嚥性肺炎を含む慢性呼吸器疾患,循環器疾患を合併しており,偶発症の観点からこれらの薬剤を使用すべきか判断に悩むケースが存在する.そのため,鎮静薬使用については,臓器への負担や内服薬剤との相互作用などを考慮し,個々のケースにおいて使用が適切か熟慮の上施行する必要がある.PEG造設時の薬剤使用時の注意点を以下にまとめる.

① 内視鏡施行中の心肺イベントが致死的偶発症として最も重要であることが示されており 12,処置の際は末梢ルートの確保を行った上で,心電図,パルスオキシメーター,血圧計を装着し,継時的にモニタリングを行う.

② 鎮静薬,鎮痛薬使用時に循環障害や低酸素血症が出現する可能性があるため,酸素投与や救急カートはすぐに使用できるように準備しておく.酸素投与法に関しては,筋萎縮性側索硬化症患者や呼吸不全合併筋ジストロフィー患者に対してNPPV(non-invasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気)を併用することで安全にPEG造設が可能であったとする報告 13),14があり,患者の呼吸機能や病態に応じてあらかじめどのような酸素投与方法が適切か判断しておくことが重要である.特に重篤な神経疾患や呼吸器疾患を持つ患者の場合は,当該疾患の専門医の立ち会いを依頼し,同席の上処置を行うことが望ましい.

③ 鎮静薬,鎮痛薬の選択については,投与時のミスを予防するため施設によって使い慣れた薬剤を使用するのが良いと思われるが,薬剤毎の特性を理解しておくことは重要である.本邦では経口的な内視鏡治療にベンゾジアゼピン系薬剤が広く使用されている.ミダゾラムはジアゼパムと比較し,半減期が短い,血管炎減少,健忘が少ないなどの利点はあるが 15,ベンゾジアゼピン系薬剤の特徴として呼吸抑制が用量依存性に生じやすいため注意が必要である.また,呼吸抑制はオピオイド系鎮痛薬と相互的,相乗的に作用するため,癌性疼痛でこれらの薬剤を使用している患者は低用量で使用する.覚醒の早さを期待して,90歳以上の高齢者や慢性呼吸不全の患者に対してPEG造設時にプロポフォールを少量ボーラス投与する有用性,安全性を示した報告 16),17や,重症筋無力症患者の内視鏡治療時に,筋弛緩作用を有しないデクスメデトミジンを使用することで良好な鎮静下に処置を行えたとする報告 18もあり,各患者の病態に応じた薬剤の選択,使用が望ましい.Table 2に各鎮静薬,鎮痛薬の特徴と注意点についてまとめた.

Table 2 

PEG時に使用される鎮静薬,鎮痛薬の特徴と注意点 11

④ 治療後は患者の意識レベル,呼吸動態,酸素飽和度,循環動態,活動状態(運動機能)を評価した上で,病棟への帰室を判断すべきである 11.当院ではAldreteスコア 19を用いて退出可能か医師,看護師それぞれで評価を行い,評価内容を診療録に記録するようにしている.また帰室可能と判断した場合であっても,ベンゾジアゼピン拮抗薬としてフルマゼニルを使用した場合は,帰室先で再鎮静が生じることがある.担当スタッフにその可能性について必ず伝え,帰室後もしばらくモニタリングを継続する.

Ⅶ おわりに

PEGは内視鏡検査が可能な一般医療機関で広く施行されている手技である.その一方でPEGの対象となりうる高齢人口の増加,抗血栓薬治療の拡がりなどの影響で,偶発症リスクの高い症例が増加していくことが予想される.そのような患者にひとたび出血,腹膜炎,ショックといった偶発症が生じた場合,致死的経過をたどる可能性があること 20に対して細心の注意を払う必要がある.PEGの適応を考える場合は,患者の全身状態,基礎疾患などを基に適切な造設方法,周術期管理を総合的に判断することが重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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