GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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DEPTH DIAGNOSIS OF EARLY COLORECTAL CANCER: MAGNIFYING CHROMOENDOSCOPY OR IMAGE ENHANCED ENDOSCOPY WITH MAGNIFICATION?
Hiroaki IKEMATSU Tatsuro MURANOKensuke SHINMURA
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2022 Volume 64 Issue 9 Pages 1596-1606

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要旨

早期大腸癌における深達度診断は,内視鏡的切除と外科的腸切除の治療選択のために非常に重要である.いくつかの画像診断の中で,われわれは拡大内視鏡を使用して粘膜表面層の所見を細かく観察することにより病変を診断する.色素を用いた拡大色素内視鏡検査は,pit構造を評価することを可能にする.拡大色素内視鏡検査によるpit pattern分類が提案され,現在大腸病変の標準的な診断基準として広く使用されている.一方,Narrow band imaging(NBI)に代表される画像強調内視鏡検査は,染色無しに表面構造および血管所見の視覚性を向上させるために開発された.日本の大腸内視鏡専門医によって行われた多施設共同研究により,拡大併用画像強調内視鏡を用いたThe Japan NBI Expert Team(JNET)分類が作成された.本総説では,色素拡大内視鏡と拡大併用画像強調内視鏡に着目して,pit pattern分類とJNET分類の概要を示し,関連した文献のレビューをすることにより,早期大腸病変の深達度診断の正解率について検討することを目的とした.どちらの分類も,90%近くの高い正診率であった.拡大併用画像強調内視鏡は,色素散布無しに病変を診断できるため,理想的なモダリティーである.しかし,JNET分類 Type 2B病変の診断能力は不十分であり,色素拡大内視鏡を加味する必要がある.各モダリティーの欠点を補うためにも,両方のモダリティーを適切に使用し病変を診断することにより,より正確な診断が可能となる.

Abstract

Depth diagnosis is extremely crucial in making a treatment choice between endoscopic resection and surgery in the early stages of cancers. Among several imaging modalities, we use magnifying endoscopy to diagnose lesions by close observation of the findings at mucosal surface layer. In combination with topical staining, magnifying endoscopy enables us to assess the definite pit structure, which referred to as magnifying chromoendoscopy (MCE). The pit pattern classification by MCE was proposed and is now widely accepted as the standard diagnostic criteria for colorectal lesions. Meanwhile, image enhanced endoscopy (IEE) represented by narrow-band imaging was developed to improve the visibility of surface and vascular findings without dyeing. Recent collaborative work performed by endoscopic experts in Japan yielded the unified diagnostic criteria, the Japan NBI Expert Team (JNET) classification, based on the findings of IEE with magnification. In this review, focusing on MCE and IEE with magnification, we aimed to give an outline of the pit pattern classification and the JNET classification, and further discuss their accuracy rate of depth diagnosis of early colorectal lesions by performing a review of the related literature. Both modalities have a high accuracy rate of nearly 90% for depth diagnosis. IEE with magnification is an ideal modality because it helps observe lesions without dye spraying; however, lesions with JNET type 2B have an inadequate diagnostic ability, which should be complemented by MCE. We conclude that accurate diagnosis is possible by examining lesions using both modalities properly to overcome the limitations of each modality.

Ⅰ 序  文

大腸癌は,世界におけるがん死亡の主要原因の1つである 1.腺腫性病変の内視鏡的切除を行う大腸内視鏡検査による大腸癌スクリーニング検査は,大腸癌による死亡率低下と関連することが示されている 2.そこで,大腸内視鏡検査の増加により,大腸病変は早期に発見されることが多くなっている.大腸内視鏡検査の役割は,大腸病変の早期発見に加え,治療方針を決定するための早期大腸病変の正確な診断である.粘膜内大腸癌,腺腫やSessile serrated lesion(SSL)などの病変は,リンパ節転移などの局所外転移の可能性がないため,内視鏡治療の絶対的適応である 3.一方,粘膜下層浸潤癌では,リンパ節転移の可能性が10%程度あるため,外科的腸切除が推奨される 4)~8.病理所見を詳細に検討したところ,①低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌,②粘膜下浸潤の深さが1,000μm以上,③脈管侵襲陽性,④簇出グレード2または3の所見がない粘膜下層浸潤大腸癌は,リンパ節転移のリスクが極めて低いと考えられ,内視鏡治療の適応とされている 9)~12.したがって,粘膜内腫瘍または粘膜下層軽度浸潤(T1a)大腸癌と,粘膜下層深部浸潤(T1b)大腸癌を区別する内視鏡診断は,適切な治療法を選択するために必須のプロセスである.

内視鏡の様々な技術的進歩の中で,拡大内視鏡は消化器腫瘍の定量的および定性的診断に大きな影響を与えた.拡大内視鏡による大腸粘膜の観察は,1978年に多田らによって初めて報告された 13.大腸病変の鑑別診断に有用とされたが,内視鏡システムが手動操作のファイバースコープであり,拡大操作が非常に困難であり,直腸S状結腸での使用に限定されていたため,広く使用されることはなかった.1990年代,大腸病変の微小癌や早期の扁平・陥凹癌の診断に対し電子スコープが多く使われるようになった.1993年,工藤らが全大腸に挿入可能な拡大ビデオ内視鏡を報告した.この成果が,日本の大腸内視鏡医を未踏の内視鏡診断領域へと導いた 14

大腸粘膜の表面微細構造は,切除された標本の立体顕微鏡観察から様々なタイプのpit patternが存在することが示された 15.その後,色素を局所的に散布し,拡大内視鏡を用いることでpit pattern観察が可能となり(色素拡大内視鏡),病理所見との関連性が報告され,pit patternによる深達度診断は,白色光観察より正確であった.しかし,この観察方法は,色素を散布する時間と労力がかかるという制限がある.一方,2000年代に入り,Narrow band imaging(NBI)に代表される画像強調内視鏡が開発され,色素散布無しで病変表面の毛細血管を観察することが可能となった.その後,拡大内視鏡を併用した画像強調内視鏡が,血管所見に基づく大腸病変の診断に有用であることが多くの研究により報告され,拡大併用画像強調内視鏡が色素拡大内視鏡に置き換えられるかどうかの議論がされてきた.

本総説では,色素拡大内視鏡および拡大併用画像強調内視鏡による大腸早期病変の深達度診断分類とその精度を報告した文献をレビューし,色素拡大内視鏡および拡大併用画像強調内視鏡を使用する現在の深度診断戦略を提示する.

Ⅱ 拡大内視鏡を用いたpit pattern分類

Pit pattern分類とは工藤らが提唱した大腸病変に対する内視鏡的診断法である 15),16.Pitとは大腸病変の腺管の形態を表している.Pitは拡大内視鏡を使用した上でインジゴカルミン(0.4%)を用いたコントラスト法やクリスタルバイオレットを用いた染色法(0.05%)を組み合わせることで観察可能である.インジゴカルミン色素は,pitや溝内に貯留するため,pit構造の認識や病変の肉眼型を強調することができる.一方,クリスタルバイオレット染色は,pitそのものを染色するのではなく,pitの周囲の組織を染色するため,pitの視認性を高めることができる 16.Pit pattern分類は,サブカテゴリーを含めて以下の8種類に分類され,質的診断・深達度診断が可能である(Figure 1).Ⅰ型pitは円形のpit(正常pit),Ⅱ型pitは星芒状様のpit,ⅢS型pitは小型の類円形のpit(正常pitより小さい),ⅢL型pitは丸みを帯びた管状のpit(正常pitより大きい),Ⅳ型pitは樹枝状または脳回状のpitとして観察される.Ⅰ型pitとⅡ型pitは組織学的に非腫瘍性変化とされ,Ⅲ-Ⅳ型pitは組織学的に腫瘍性変化を示すとされる.ⅤI型pitはさらにⅤI型軽度不整とⅤI型高度不整の2つのサブカテゴリーに分類される.ⅤI型軽度不整はⅢL,ⅢS,Ⅳ型pitの不規則な配列と大小不同で表され,組織学的に腺腫-cT1a癌と考えられている.ⅤI型高度不整はpitの内腔狭小,辺縁不整,輪郭不明瞭,stromal areaの染色性の低下や消失,およびscratch signによって特徴づけられる.ⅤN型pitはpit構造が完全に破壊されている無構造領域として観察される 16)~19.現在,cT1b癌の診断には,ⅤI型高度不整とⅤN型pitが重要な指標とされている.

Figure 1 

Pit pattern分類.

Ⅲ Ⅴ型pit pattern分類の重要性と歴史

工藤らが初めてpit pattern分類を報告した論文では,現在のⅤ型pitの定義とは異なり,Ⅴ型pitは無構造pitのみとされていた 14.彼らはⅤ型pitを有する癌の50%がpT1癌であったと報告している.加藤らは,この初期の分類を用いて大規模コホート研究を行い,pit pattern分類の診断能について報告した 20.彼らは,Ⅴ型pitをT1癌の予測指標とした場合,感度,特異度,正診率はそれぞれ42%,99%,85%であったと報告している.工藤らや藤井らはさらにⅤ型pitをⅤI型pit(不規則pit)とⅤN型pit(無構造pit)に分類した.ⅤI型pitを呈する病変は高度異型腺腫-T1a癌が多く(63.5~95%),ⅤN型pitを呈する病変はT1bが多い(65.6~83%)と報告した 21),22.ⅤI型pitとⅤN型pitをさらに分類することで,T1b癌の診断精度が向上することが示唆されたため,日本ではⅤ型pitのサブ分類とpitの所見について多くの議論が行われ,最終的に現在のpit pattern分類となった 16),23)~26

Ⅳ Pit pattern分類による深達度診断

Pit pattern分類による大腸病変の深達度診断についての報告をTable 1にまとめ検討した.

Table 1 

Pit pattern分類の診断能.

工藤らは,T1b癌を予測する指標としてⅤI型高度不整とⅤN型pitを用いた場合のT1b癌の鑑別能について報告した.感度,特異度,正診率,陽性適中率(Positive predictive value:PPV),陰性適中率(Negative predictive value:NPV)はそれぞれ75.3%,97.6%,93.8%,87.0%,95.0%であった 27.また,海外の多施設共同研究において,Zhangらは同様の検討を行い,感度,特異度,正診率,PPV,NPVは,それぞれ,94.1%,93.6%,92.9%,86.5%,97.3%であったと報告している 28.また,内視鏡未経験者における上記評価も行い,それぞれ80.0%,74.0%,75.8%,57.7%,89.3%という結果であった.本研究ではpit pattern分類を用いた深達度診断には十分な経験が必要であることが指摘されている.

一方藤井らは,ⅤI高度不整とⅤNの所見にdemarcated areaを加えたinvasive patternを提唱している 22),29.Demarcated areaとは,陥凹面,結節,発赤など形態的に異なる腺管構造の中で明確に可視化される領域と定義される.この領域は,サイズでは定義されていない.松田らは,多施設共同研究においてinvasive patternの有効性を報告している 29.T1b癌を予測する指標としてinvasive patternを用いた場合,感度,特異度,正診率,PPV,NPVは,それぞれ85.6%,99.4%,98.8%,86.5%,99.4%であった.また本研究では,肉眼型別のpT1b癌に対するinvasive/non-invasive patternの診断感度に言及し,隆起性病変は,平坦病変や陥凹病変に比べて診断感度が低いと報告している.また,肉眼型別の診断能を検討した研究も複数あり,同様の結果が報告されている 18),30

Pit pattern分類については,いくつかの制限がある.第一に,ⅤI型高度不整の基準には上記の5項目があげられるが,この5項目のうちどれが最も重要か,いくつの項目を満たすべきか,pitの不規則性とはどの程度を表すのかなど主観的な要素が多い.次に,pit pattern分類は,粘液付着や内視鏡との接触による出血の影響を受けやすい.そのため,pit pattern分類の判断を誤ってしまう可能性がある.よって大腸病変の診断には,粘液を丁寧に洗浄しnon-traumatic catheter(オリンパス株式会社,東京都)を用いて病変部を観察することが必要である 22

Ⅴ 拡大併用画像強調内視鏡によるJNET分類

NBIは,オリンパス社により開発された世界初の画像強調イメージングであり,血液中のヘモグロビンに吸収されやすい2つの波長(青色光:390~445nm,緑色光:530~550nm)を光源として用いている.NBIと拡大内視鏡を併用することにより,大腸腫瘍の粘膜表層の血管構造や表面構造の鮮明な観察が可能となった.2006年,佐野らがNBI拡大観察による血管構造所見に基づいた診断分類を初めて提案し,2010年われわれは,同分類が大腸癌の深達度診断に有用であることを報告した 31.また,和田らや斎藤らからも,同様に血管構造に着目した独自の診断分類が提唱され,深達度診断への有用性が報告されている 32),33.さらにその後,血管構造だけではなく腺管開口部や腺窩辺縁上皮の表面構造の所見をも含めた診断分類が提案されるようになった 34.一方,これら複数の診断分類が報告されたことにより,類似の所見に対する名称の違いや表面構造を診断に加味すべきかどうかなどの問題が浮き彫りとなった.この問題を解決するため,本邦の大腸内視鏡専門医を中心とするThe Japan NBI Expert Team(JNET)が2011年に結成され,2015年には,統一的なNBI拡大内視鏡分類であるJNET分類が発表された 35.JNET分類は血管構造所見と表面構造所見の両方を評価項目として採用し,Type 1,Type 2A,Type 2BおよびType 3の4型に分類される(Figure 2).JNET Type 1は,規則的な暗色/白色点のある,または周囲の正常粘膜と類似の表面構造と肉眼では認識できない血管が特徴である.JNET Type 2Aは均一な血管構造と表面構造と定義され,一方JNET Type 2Bは口径不同で不均一な分布の血管構造と不整または不明瞭な表面構造を持つと定義される.JNET Type 3は,疎血管領域,太い血管途絶,無構造領域のいずれかを呈しているものと定義されている.JNET分類の各Type別の予想組織型は,Type 1は過形成性ポリープまたはSSL,Type 2Aは腺腫または低異型度癌(Tis癌),Type 2Bは高異型度癌または粘膜下層軽度浸潤癌(Tis癌またはT1a癌),Type 3は粘膜下層深部浸潤癌(T1b癌)である.以後,複数の施設からJNET分類を用いた大腸腫瘍に対する質的量的診断の有用性が報告されている 36)~39

Figure 2 

JNET分類.

Ⅵ JNET分類を用いた深達度診断

大腸癌の深達度診断においては,前述のとおり,粘膜内癌(Tis癌)またはT1a癌とT1b癌の鑑別診断が重要である.そのため,JNET分類を用いた深達度診断においては,これらの組織に対応するJNET Type 2A,2B,3の診断精度が重要な鍵となる.われわれはJNET分類の診断能を検証したこれまでの報告を検討し,Type 2A,2B,3のそれぞれの予想組織型に対する陽性的中率をTable 2にまとめた.Type 2AとType 3の陽性的中率はほぼすべての報告で90%以上と良好な診断成績であった.特に,Type 2Aと診断された病変にはT1b癌はほとんど認められず(1.0%未満),これらの病変は粘膜内腫瘍として内視鏡的切除が選択可能であることが示された.また,感度が低いという問題はあるものの,Type 3と診断できる病変は,T1b癌として根治手術で治療を行うべきである.一方,Type 2Bの陽性的中率はType 2AやType 3ほど高くはなく,平均して40~50%程度であった.実際,Type 2Bと診断された病変の10~20%は切除後に病理学的にT1b癌であることが判明しており,Type 2Bの深達度診断能が不十分であることが示唆されている.以上より,JNET分類は大腸癌の深達度診断に有用であり,治療方針決定に寄与すると考えられるが,Type 2BはT1a癌もT1b癌も含まれ,Type 3もすべてT1b癌でない.したがって,Type 2Bや低確信度のType 3と診断される病変に対しては,より正確な深達度診断のためにpit pattern診断を加味することが重要である.

Table 2 

各論文におけるJNET分類別の陽性的中率.

JNET分類はもともとNBI所見に基づいて作成されたが,昨今では,NBI以外の画像強調イメージングによるJNET診断が注目されている.われわれは,450nmの白色用レーザーと表層血管観察に適した410nmの狭帯域短波光レーザーを用いた,富士フイルム社製のblue laser imaging(BLI)を用いた拡大観察において,NBIを用いた観察と比較してJNET診断能に有意な差がないことを報告した 40.Huangらも同様に,BLI拡大観察を用いたJNET診断の有用性を示している 41.さらに吉田らは,BLI拡大観察による深達度診断成績はNBI拡大観察の成績と同等であることを報告している 42.これらの知見は,JNET分類の有用性を,NBIのみならず他の画像強調機能を有した拡大観察に応用できうることを示唆している.2017年,レーザー方式の代わりに4つの発光ダイオード(Light-emitting diode:LED)光を光源とするBLIが富士フイルム社から欧米で発売された.吉田らは最近,LED内視鏡を用いた近接観察によりレーザー内視鏡を用いた拡大観察と同等のJNET診断能が得られることを報告した 43.レーザー内視鏡を用いた拡大観察の方が高い確信度が得られていたことから,LED内視鏡に拡大観察を併用することで同様の確信度の高い診断能が得られると期待されている.

画像強調内視鏡のメリットは色素散布をすることなく,白色光観察に引きつづいて精度の高い深達度診断ができることである.一方,デメリットは診断体系が拡大内視鏡観察を前提としていることといえる.拡大内視鏡観察が一般的でない欧米では,NBIを用いた非拡大観察の診断分類であるNICE分類(NBI International Colorectal Endoscopic classification)が採用されている 44.しかし,岩館らは,NBI併用の拡大観察は,非拡大観察と比較して深達度診断の精度が有意に高く,さらに確信度が高いことを報告し,拡大内視鏡観察の普及の必要性を示唆している 37.オリンパス社は最近,被写界深度拡大技術およびdual-focus機能を搭載した大腸内視鏡(CF-EZ1500)を開発し,比較的容易に100倍までの拡大観察が可能となった.将来的には,拡大内視鏡観察によるJNET診断,それに基づく大腸癌の深達度診断が欧米で普及することが予想される.

Ⅶ 色素拡大内視鏡と拡大併用画像強調内視鏡の関係

深達度診断の精度は,色素拡大内視鏡と拡大併用画像強調内視鏡のどちらかで個別に検証されているが,両モダリティーを比較した文献もいくつかある.坂本らは,JNET分類が提案される前に,拡大NBI分類(広島,佐野,昭和ら)とpit pattern分類の浸潤深さの診断精度の違いをROC曲線解析で評価している 45.Pit pattern分類のROC曲線下面積は,深達度浸潤に対して有意に高い診断精度を示した(pit pattern 0.88,NBI 0.83,P=.013).彼らは,拡大NBI分類よりもpit patternは,深達度診断の最も信頼性の高いモダリティーであり,第一選択とすべきであると結論づけた.前述したように,日本ではJNET type 2B病変はpT1b癌の可能性があるため,拡大併用画像強調内視鏡でJNET type 2Bと診断された癌疑い病変には,クリスタルバイオレット染色が推奨されている 38.細谷らは,JNET type 2B病変をpit pattern分類で層別化することにより,不必要な外科的腸切除を減らすことを提案している 46.非Ⅴ型,ⅤI型軽度不整,ⅤI型高度不整またはⅤN型のpit patternを有するJNET 2B病変のpT1b癌の確率は,それぞれ4.3%,16.6%,76.0%であった.ⅤI high grade / ⅤN pit patternのないJNET type 2B病変は,内視鏡的切除に適していると考えられるとした.以上より,私たちが推奨する診断から治療までの戦略をFigure 3に示す.

Figure 3 

色素拡大内視鏡と拡大併用画像強調内視鏡を用いた推奨される診断から治療までの戦略.

*JNET Type 1病変でSSLと診断された場合は,内視鏡治療を行う.

**信頼度が低く診断されたJNET Type 3 病変は,pit pattern診断を追加する.

Ⅷ 超音波内視鏡と超拡大内視鏡による深達度診断

拡大内視鏡診断の制限として,色素拡大内視鏡も画像強調内視鏡も,病変表面の所見を診断し,浸潤の深さを推定する診断であることがあげられる.したがって,深部所見を画像化することが理想的であり,超音波内視鏡はその可能性がある.超音波内視鏡を用いた深達度診断の報告や色素拡大内視鏡との比較研究は数多くあるが,その多くは両モダリティーの正診率に差があることが報告されていない 47)~51.したがって,拡大内視鏡は通常使用されている大腸内視鏡で診断できるため,現状では拡大内視鏡による深達度診断で十分であると考えられる.

近年では,最大520倍まで拡大でき,生体内の腫瘍細胞を生きたまま観察できる超拡大内視鏡が開発された 52.工藤らは,不明瞭な腺形成と歪んだ核の凝集をT1b癌の指標として分類し(EC3),その感度と特異度はそれぞれ90.1%と99.2%と報告されている.生検を行わずに細胞を診断でき,精度も高いため,非常に有用な内視鏡である.しかし,病変表面の細胞を診断するため,深達度診断の深さを推測する診断であるという点で,色素拡大内視鏡と拡大併用画像強調内視鏡と同じである.その有用性を示す報告はまだ少ないので,今後の検討が必要である.

Ⅸ 自動診断

すべての内視鏡医が,pit pattern分類やJNET分類などの統一された分類に従って一貫した診断を行うことが重要である.Pit pattern分類の観察者間一致率については,いくつかの研究が報告されている 53),54.Huangらは,専門家間で0.716という高いカッパー値を報告した.一方,Zanoniらは,非専門家間でのカッパー値は0.561と低く,特に深達度診断に重要なtype Ⅴ pit patternのカッパー値は0.33と極めて低いと報告している.したがって,一定の学習が必要である.

近年,この制限を解消するために,pit pattern分類やJNET分類を用いた自動診断が検討され,専門家と同等の診断能力を有する自動診断が実現できることが報告されている 55)~58.大腸病変の特徴づけのためのコンピュータ支援診断は,すでに実臨床で実用化されているが 59),60,深達度診断はまだ検討段階である.人工知能(Artificial intelligence:AI)技術は急速に発展しており,大腸病変の深達度診断においても,早期の自動診断の実現が期待されている.

Ⅹ 結  語

これまで,大腸癌の深達度診断において,色素拡大内視鏡は拡大併用画像強調内視鏡よりも優れていた.しかし,色素散布を必要としない利便性を考慮すると,拡大併用画像強調内視鏡を先行させ,色素拡大内視鏡を必要とする病変を絞り込むことができる.将来的には,AIを用いた自動診断の開発が期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 265-73に掲載された「Depth diagnosis of early colorectal cancer: Magnifying chromoendoscopy or image enhanced endoscopy with magnification?」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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