GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF SMALL INTESTINAL LEIOMYOSARCOMA AND COLORECTAL LEIOMYOMA PRESENT AT THE SAME TIME
Ryo NAKANISHI Noriko KINUKAWAHiroki INOUEKouhei MISHIMATakahiro OZAKISatoru ISHIIShouzo MORIAtsuko TSUTSUINobuhiko OKAMOTOKenji OMURA
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2023 Volume 65 Issue 1 Pages 43-48

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要旨

症例は73歳,男性.腹痛を認め来院.腹部造影CT検査で回盲部の腸重積と診断された.内視鏡的に整復後に腹腔鏡下回盲部切除術を施行された.病理結果は小腸平滑筋肉腫による腸重積であった.術後のCSで隆起性病変を認め,内視鏡的粘膜切除術を行ったところ,病理結果は大腸平滑筋腫であった.小腸平滑筋肉腫と大腸平滑筋腫が同時期に存在した症例はこれまでになく,まれであると思われるので報告する.

Abstract

A 73-year-old man was admitted to our hospital with abdominal pain and distension. Abdominal contrast-enhanced computed tomography (CT) showed intestinal intussusception from the cecum to the ascending colon. CT revealed terminal ileum intussusception. After endoscopic repositioning, laparoscopic ileocecal resection was performed. Pathological findings showed intestinal intussusception caused by small intestinal leiomyosarcoma. The postoperative CS revealed an elevated lesion, which was treated by endoscopic mucosal resection. Pathologically, colonic leiomyoma was identified. We report this case since it is rare for both small intestinal leiomyosarcoma and colorectal leiomyoma to occur concurrently.

Ⅰ 緒  言

小腸平滑筋肉腫は,消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)の概念が確立されてからは,それまで平滑筋肉腫と診断されていた多くはGISTと診断されるようになり,平滑筋肉腫はまれな疾患となった 1.さらに平滑筋肉腫と平滑筋腫が同時期に存在した症例報告はない.今回われわれは小腸平滑筋肉腫と大腸平滑筋腫に対し鏡視下手術と大腸内視鏡を用いて治療した症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:73歳男性.

主訴:腹痛.

既往歴:特記すべきことなし.

内服歴:特記すべきことなし.

現病歴:202X年12月23日の夕食後に嘔吐と腹痛および腹部膨満感を認めたため,当院救急外来を受診した.

現症:身長166cm,体重50kg,意識は清明.血圧134/67mmHg,脈拍90/分,整.眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄染なし.腹部は膨満,軟で反跳痛や手術痕は認めなかった.肝,腎,脾は蝕知せず,下腿に浮腫は認めなかった.

臨床検査所見:炎症反応の上昇(WBC 13,400/ul,CRP 1.34mg/dl),軽度の脱水(BUN 35.4mg/dl)を認めた.腫瘍マーカーの上昇は認めなかった(Table 1).

Table 1 

臨床検査所見.

腹部単純X線検査(立位):腹部全体に小腸ガスを認めた.

腹部造影CT検査:回盲部に腸重積の所見を認めた.明らかな腸管壊死や腹腔内遊離ガス像の所見は認めなかった.

以上より回盲部の腸重積症と診断し,緊急でX線透視下大腸内視鏡整復術を試みた.内視鏡を進めると下行結腸に隆起性病変と回盲弁付近に重積した回腸粘膜を認めた(Figure 1).粘膜は高度の浮腫とうっ血を来しており,粘膜面の正確な診断はできず腫瘍性病変の否定はできなかった.送気による完全整復は困難であったが,患者の自覚症状が改善したため処置を終了した.処置後症状が改善したが,その後腹部膨満を再度認めたため,入院5日目に手術加療を行う方針とし,術式は腹腔鏡下回盲部切除術+D3リンパ節郭清術を行った.

Figure 1 

上行結腸に重積した回腸粘膜を認めた.粘膜はうっ血と浮腫を来しており,粘膜面の正確な評価はできなかった.

固定標本の肉眼所見:肉眼所見では重積部分の粘膜は出血と浮腫を伴い,重積部分の口側には20×15×15mmの隆起性病変を認めた(Figure 2).

Figure 2 

固定標本の肉眼所見.

重積による粘膜面の変化(白矢印)と口側に20×15×15mmの隆起性病変を認めた(白矢頭).

病理組織学所見:HE染色では粘膜下層から一部筋層に浸潤する紡錘形腫瘍であり,核の大小不同が強く,しばしば核分裂像が認められた(Figure 3).免疫組織学的には,desminおよびSMA陽性を呈し,c-kit,CD34,S100 proteinは陰性であった.Ki-67 indexは40%と高値であることから小腸平滑筋肉腫と診断された(Figure 4-a,b).口側および肛門側の切離断端は陰性であった.なお明らかなリンパ節転移は認めなかった.

Figure 3 

病理組織像.

筋層・粘膜下層・固有筋層にわたり紡錘形細胞が存在し,細胞密度および異型が高い細胞が比較的多数観察された(HE×400).

Figure 4 

免疫染色像(倍率200倍).

a:Ki-67indexは40%であった.

b:SMAは陽性であった.

臨床経過:後経過良好にて術後11日目に退院した.術後の大腸内視鏡検査では下行結腸に1cm大の隆起性病変を認めた.大きさが10mm以上あることと平滑筋肉腫の術後であったことから腫瘍性病変の可能性を考慮し内視鏡治療を行うこととした.粘膜下に局所注射を行い,組織の浮き上がりが良好であったので内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した(Figure 5).病理組織学検査所見では,上皮に異型は乏しく,上皮下の粘膜筋板に好酸性胞体を持つ異型の乏しい紡錘形細胞が増殖していた(Figure 6).免疫化学染色ではSMAおよびdesmin陽性,S-100 protein,c-kit陽性細胞はわずかであった(Figure 7).細胞異型および密度がともに低く,平滑筋腫と診断された.なお内視鏡治療後の切離断端は,陰性であった.現在術後1年が経過するが平滑筋肉腫および平滑筋腫の明らかな再発なく外来にて経過観察中である.

Figure 5 

大腸内視鏡像.

下行結腸に10mm大の隆起性病変を認めた.

Figure 6 

病理組織像.

粘膜筋板に密度および異型に乏しい紡錘形細胞が増殖していた(HE×100).

Figure 7 

免疫染色像(倍率200倍).

desminは陽性であった.

Ⅲ 考  察

消化管に発生する非上皮性腫瘍または間葉系腫瘍の大部分は,平滑筋腫もしくは平滑筋肉腫と考えられていたが,1996年にRosai 2がGISTの概念を確立し,平滑筋肉腫とされていたものの多くがGISTであると考えられるようになった.平滑筋肉腫は後腹膜や腸間膜などにも発生するが,消化管での発生頻度は胃,小腸,大腸の順に多いとされている 3.同じ間葉系腫瘍であるGISTや神経原生腫瘍との鑑別診断には免疫組織化学染色検査が必須である.まず間葉系腫瘍の中でもGISTのマーカーであるc-kitやCD34が陰性であること,さらに平滑筋細胞由来のマーカーであるα-SMAやdesminが陽性であることが確認できれば,平滑筋腫瘍であると診断することができ,さらに核分裂所見や核異型の程度により悪性度が判断されて平滑筋肉腫の診断に至る 4.平滑筋肉腫は10%前後の症例で所属リンパ節に転移するが,主として血行性転移,中でも肝臓が最多で20~30%程度に認められ,肺,副腎にも転移する 5),6.したがって平滑筋肉腫に対する治療は腫瘍の完全切除が原則でリンパ節郭清はD2程度でよく根治切除が困難な場合は過度の手術は行わないとされる 5),6.自験例は術前診断がついていなかったため,悪性疾患に準じてリンパ節D3郭清を行った.医学中央雑誌を用いて『小腸平滑筋肉腫』をキーワードとし2000~2021年12月の間で検索(会議録を除く)したところ,KIT抗体を用いて小腸平滑筋肉腫と診断された報告は11例あり,自験例を含めて12例のみであった(Table 2 7)~17.そのうち腸重積を契機に診断された報告は,自験例を含め5例 10),12)~14とさらに頻度が少ないが,腸重積症の原因として小腸平滑筋肉腫の存在を考慮することは重要であろう.なお報告例中6例が再発死亡しており,再発病変に対する有効な治療法が確立されていないのが現状である.消化管平滑筋肉腫の予後についての報告は少ないが,Yamamotoら 18は,消化管平滑筋肉腫の5年生存率は51.6%であり,5cm以上の腫瘍径が予後不良因子であると報告している.また,西尾 19),20によれば予後不良因子として遠隔転移の有無,核分裂指数5以上,大腸病変,Ki-67 labelling index 10%以上とされている.自験例はKi-67陽性率が40%であることから慎重な経過観察が必要である.さらに平滑筋肉腫の発生要因として,Li Fraumeni症候群,遺伝性網膜芽細胞腫,神経線維腫症,Gardner症候群といった遺伝性・家族性疾患 21や他の平滑筋肉腫の転移が挙げられるが,自験例では上述のような家族歴はなく,また術前画像検査でも他の病変を疑うような所見は認められなかった.

Table 2 

小腸平滑筋肉腫本邦報告12例.

平滑筋腫と平滑筋肉腫の関係では,子宮平滑筋腫保有者の悪性化は比較的小さな病変でも0.23%の確率で起こるという報告 22),23はあるが,自験例のように小腸平滑筋肉腫と大腸平滑筋腫が同時期に存在し,さらに鏡視下手術と大腸内視鏡を用いて治療した報告は,1985年1月から2021年10月の期間に医学中央雑誌にて『平滑筋肉腫』,『平滑筋腫』をキーワードに,さらにPubMedで『Leiomyosarcoma』,『Leiomyoma』をキーワードに検索したが初めての報告であり,極めてまれであると考える.同時期に存在した小腸平滑筋肉腫と大腸平滑筋腫を治療したことで,今後は①平滑筋肉腫の再発の有無②他臓器の平滑筋腫の有無について画像検索していくことが重要である.しかし平滑筋肉腫および平滑筋腫においては治療後のサーベイランスとして定まったものはない.自験例では小腸平滑筋肉腫のKi-67陽性率が40%であるという予後不良因子があったことから再発の有無を精査するために3カ月ごとの胸腹部CT検査を行っている.またその他の異時性病変の精査のために年1回の上部消化管内視鏡検査と大腸内視鏡検査を行うこととしている.ただし大腸内視鏡検査に関しては,大腸平滑筋腫のEMR後の断端陽性症例が,その後悪性化した報告 23もあるが,平滑筋腫のような大腸粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)は,SMT様の癌,悪性リンパ腫,大腸neuroendocrine tumor,腸重積や出血の原因となっている病変以外の切除の必要はなく経過観察でよいという大腸ポリープ診療ガイドライン2020 24を踏まえた上で検査および治療を行っていくことが重要である.さらに他臓器である小腸の病変検索としては,小腸カプセル内視鏡検査が腫瘍を検索する上で有効であるという報告 25がされているため,今後検討していくべきと考える.

Ⅳ 結  語

小腸平滑筋肉腫と大腸平滑筋腫が同時期に発生した極めてまれな症例を経験した.再発および新規病変の検索のための消化器内視鏡検査を含めた定期的なサーベイランスが重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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