GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ESD FOR MUCOSAL PROLAPSE SYNDROME WITH REPEATED BLEEDING AND SEVERE ANEMIA
Shinya SUTO Manabu SAWAYATetsuya TATSUTAHidezumi KIKUCHIDaisuke CHINDAHirotake SAKURABATatsuya MIKAMISatoko MOROHASHIHiroshi KIJIMAShinsaku FUKUDA
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2023 Volume 65 Issue 1 Pages 49-55

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要旨

症例は19歳男性.動悸,血便を主訴に来院し,Hb 5.2g/dLと重度の貧血を認め入院となった.頻回の鮮血便あり,CSを施行したところ歯状線に接して乳頭状構造を呈する隆起性病変を認め,直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;MPS)が疑われた.精査中も排便時出血が持続したこと,形態から腫瘍性病変の可能性も否定できないことより,同病変に対し準緊急的にESDを施行した.ESD後貧血はみられなくなり,半年後のCSでは再発を認めなかった.ESDは低侵襲で正確に病変切除ができ,MPSの治療に難渋する際に有用と考えられた.

Abstract

A 19-year-old man visited our hospital with palpitations and bloody stools. We performed CS, which revealed a polypoid lesion with papillary structures adjacent to the dentate line. The patient was diagnosed with mucosal prolapse syndrome (MPS). EGD and capsule endoscopy did not reveal the cause of bleeding; therefore, anemia was believed to have been caused by bleeding of MPS. ESD was performed, and his anemia improved after the procedure. A follow-up CS performed six months later showed no recurrence. ESD is considered a minimally invasive treatment to resect refractory MPS. This lesion also had characteristics of cap polyposis, such as hypoproteinemia, white spots, Helicobacter pylori infection, and crypt hyperplasia.

Ⅰ 緒  言

直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;MPS)は,排便時のいきみなどによる直腸の顕在,および潜在粘膜脱出を原因とした粘膜固有層の線維筋症を特徴とする疾患である.1829年Cruveilhierらが良性の直腸潰瘍として最初に報告し,その後1983年du Boulayらは深在性囊胞性大腸炎(localized colitis cystica profunda;CCP)を含め,MPSの呼称を提唱した 1.MPSは様々な形態を呈し,肉眼的に平坦型,隆起型,潰瘍型,CCPに分類される 2.排便時の出血や粘膜脱,肛門痛などの症状を呈するが,排便習慣の改善や緩下剤,繊維質の多い食物の摂取などの保存的治療で70%以上に改善がみられる 3.しかし難治例や腫瘍性病変との鑑別が困難な症例に対しては,外科的手術(直腸固定術や低位前方切除術)が施行されることがあるが,侵襲性が高い.また,経肛門的切除術は比較的侵襲性が低いが,全身麻酔あるいは脊髄くも膜下麻酔を行うため手術室での治療を要し,目視のため切除範囲の決定がやや困難であり切除断端が不明瞭になる可能性がある.これに対し近年,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が有用であったとする報告が散見される 4),5.ESDは一般的な内視鏡室で施行可能であり,詳細な内視鏡観察により切除範囲を正確に設定できる.局所切除することで線維化を伴う瘢痕を形成し,肛門側への粘膜の逸脱を防ぐことができる 4.今回われわれは,重度の貧血を呈する若年の隆起型MPSに対してESDを施行し治癒した1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:19歳,男性.

主訴:動悸,血便.

既往歴:特記すべきことなし.

服薬歴:特記すべきことなし.

現病歴:以前より,排便時にいきみの習慣があった.2019年6月中旬より動悸,血便あり,当院救急外来を受診した.

初診時現症:身長 181cm,体重 106.2kg,血圧 118/61mmHg,脈拍数 100回/分・整,体温 37.4℃,眼球結膜黄疸なし,眼瞼結膜貧血あり,腹部は平坦・軟,圧痛なし.直腸指診では明らかな腫瘤は触知せず,血液の付着は認めなかった.

初診時検査所見:Hb 5.2g/dL,MCV 88.4fl,Fe 15μg/dL,TIBC 396μg/dL,フェリチン 11ng/mLと高度の貧血,TP 6.2g/dL,Alb 3.9g/dLと低蛋白血症を認めた.また腫瘍マーカーは,CEA<0.3ng/mL,CA19-9 4U/mLと正常範囲内であった.

上部消化管内視鏡(EGD):明らかな出血源はみられなかった.胃前庭部に鳥肌胃炎が疑われた.

CS(Figure 1-a,b2-a,b):下部直腸前壁に歯状線に接した20mm大の絨毛状隆起性病変(病変①)と,そのすぐ口側に10mm大の同様の隆起性病変(病変②)を認めた(Figure 1-a,b).両者には白苔が付着し,周囲との境界は不明瞭であり,病変周囲粘膜には一部白斑を伴っていた.また,下Houston弁上に15mm大の粘膜下腫瘍様隆起性病変を認めた(病変③,Figure 2-a).S状結腸以深には他に病変を認めなかった.

Figure 1 

下部直腸の隆起性病変.

a:白色光観察.20mm大の絨毛状隆起性病変(赤枠部,病変①)と,その口側に10mm大の同様の隆起性病変(白枠部,病変②)を認めた.両者の表面には白苔が付着し,周囲との境界は不明瞭であった.

b:インジゴカルミン色素散布像.

Figure 2 

下Houston弁上の粘膜下腫瘍様隆起性病変.

a:下Houston弁上に15mm大の粘膜下腫瘍様隆起を認め,CCPが疑われた.

b:EUS像.第3層に15mm大の低エコー域を認めた(青色矢頭).

超音波内視鏡検査(EUS,20MHz):病変③は,第3層に15mm大の低エコー域を認めた(Figure 2-b).辺縁は整で,周囲との境界は明瞭であった.

経過:入院後,貧血に対して濃厚赤血球を4単位輸血した.病変①,②の生検では粘膜固有層内に線維筋症(fibromuscular obliteration)がみられ,MPSが疑われた.病変③はEUSよりCCPと考えられた.EGDに加えカプセル内視鏡検査で出血の原因となる病変はみられず,入院中に数回の鮮血便があったことから同病変による貧血と考えられた.MPSは少数ではあるが,悪性腫瘍の合併に関する報告がある 6.本症例は内視鏡的にはMPSとして非典型的であり,腫瘍性病変の可能性も完全には否定できず,本人,両親から十分なインフォームド・コンセントを得たうえ,診断・治療目的に内視鏡的切除を行った.切除方法として,病変の一括切除が可能なESDを選択した.

ESD:病変①,②はESDで一括切除した.粘膜下層に高度の線維化がみられたが偶発症なく終了した.ESD終了直後,ESD後潰瘍近傍に治療前には認識できなかった3mm大の発赤調隆起(病変④)を認めた.MPSを疑い,内視鏡的粘膜切除術(EMR)で切除した.

病理組織学的検査所見:病変①,②の切除径は32×19mmであった(Figure 3).大腸粘膜上皮は非腫瘍性で(Figure 4-a),desmin染色,α-SMA染色(Figure 4-b)では,粘膜固有層内に平滑筋の増生を伴う線維筋症がみられ,粘膜脱症候群に合致する所見であった.粘膜表層には線維芽細胞と毛細血管の増生からなる肉芽組織の形成(inflammatory cap polyp)が認められた(Figure 4-c).一部陰窩の過形成がみられた.悪性所見はみられなかった.病変④も同様に線維筋症,肉芽組織を認めMPSと診断された.

Figure 3 

ESD切除標本肉眼像.

黄色矢印で示された方向のルーペ像をFigure 4に示す(赤色矢印,病変①,白色矢印,病変②).

Figure 4 

ESD切除標本病理像.

a:ESD切除標本(病変①,②)HE染色ルーペ像.

b:ESD切除標本(病変①,②)α-SMA染色ルーペ像.粘膜固有層内に線維筋症を認めた.

c:aの青枠部拡大像.線維芽細胞と毛細血管の増生からなる肉芽組織を認めた.

処置後,血便や貧血の進行はなく排便時いきみの習慣を改善するように指導し退院となった.なお鳥肌胃炎がみられ,便中Helicobacter pyloriH. pylori)抗原を検査したところ陽性であったため除菌を行った.半年後のCSでは病変③は残存しているもののESD後潰瘍は瘢痕化しMPSの再発はなく,病変周囲粘膜の白斑は消失していた.血液所見ではHb 15.1mg/dLと貧血はみられず,TP 8.4g/dL,Alb 5.1g/dLと低蛋白血症も改善していた.また,便中H. pylori抗原は陰性となった.術後24カ月も,再出血なく経過している.

Ⅲ 考  察

今回われわれは若年のMPS症例に対し,頻回の血便を伴う重度の貧血に対する早急な治療が必要であること,絨毛状の形態から腫瘍の合併を否定できないことからESDを行い,病変を一括切除した.

2003年から2021年までに,医学中央雑誌で「直腸粘膜脱症候群」,「ESD」をキーワードに検索したところ,6症例の報告を認めた(Table 1).隆起型MPS,CCPに対して症状が強い症例 4,診断目的 7),8,難治例 5,悪性腫瘍の合併 9にESDが施行されていた.いずれの症例でも偶発症はみられなかった.本症例は線維化が強く,出血も多いため粘膜下層の剝離に難渋した.隆起型MPSは粘膜脱による虚血から粘膜の再生を繰り返した結果,高度な線維化を伴う場合が多く,血管も豊富であるため内視鏡治療の難易度が高い.そのため緊急外科手術などの対応が可能な施設で,経験豊富な術者による治療が必要である.また,内視鏡治療後の再発は記載のある5例のうち,1例のみであった 5.MPSに対する外科手術により自覚症状が改善し1年以上症状の再燃がない割合は55~60%(観察期間中央値90カ月) 10と報告される.ESD施行例は観察期間が短く一概には言えないが,難治性MPSの治療として,ESDが選択され得ると考えられた.本症例では活動性出血が続いたため準緊急的にESDを行い24カ月間再発なく経過している.

Table 1 

MPSに対しESDを施行した報告例.

MPSに類似した形態を呈す疾患にcap polyposis(CP)がある.CPは直腸からS状結腸にかけて,半月ひだに沿い輪状に発赤した広基性の多発性炎症性ポリープがみられる疾患である.1985年Williamsらがinflammatory cap polypsとして最初に報告し 11,1993年Campbellらが提唱した 12.血便や下痢を呈し,MPSと臨床的,病理組織学的に共通点も多く,これらの鑑別が問題となる場合がある(Table 2 13),14.本症例は隆起型MPSの所見のみでなく低蛋白血症,病変周囲の白斑,H. pylori感染,病理組織像に陰窩の過形成といったCPでみられる所見を有していた.赤松の報告ではCP12例中9例に中等度から高度の低蛋白血症を認め,うち検査可能であった5例中2例でα1-アンチトリプシンクリアランス試験陽性であった.そのためCPでは病変からの蛋白漏出があるとしている 15.本症例の低蛋白血症は,病変部からの出血や高度貧血の影響が考えられる.病変部からの蛋白漏出の可能性もあるが,それに関しては検索できていない.白斑について,江崎らはMPS10例とCP6例の内視鏡像を検討し,CP全例で白斑がみられたのに対しMPSでは1例も認めず,内視鏡所見での鑑別点の1つとしている 16.白斑は病理組織学的には介在粘膜の泡沫細胞であるが,CPにおいて泡沫細胞が多発する理由は不明である.また,CPは近年H. pylori除菌による治癒が報告されていることより,成因としてH. pylori感染に対する免疫反応による炎症性サイトカインの関与が示唆されている 17.このサイトカインにより大腸粘膜の陰窩が過形成をきたし隆起となり,さらに腸管運動による機械的刺激で炎症性の肉芽も加わり,CPが形成されるとも推察されている 18.本症例はMPSの診断基準を満たすが,CPとの類似点も認めることより,発症にH. pylori感染の影響を受けた可能性もある.本症例は,ESD後に鳥肌胃炎に対する治療としてH. pylori除菌を行っている.現時点でMPSの再発は認めていないが,MPS発症とH. pyloriとの関連の報告はなく,今回の除菌治療がMPSの再発予防に寄与しているかは不明である.

Table 2 

MPSとcap polyposisの臨床的,病理組織学的特徴(斉藤ら 13,八尾ら 14の報告より引用.一部加筆・変更).

また,本症例は術前に重度の貧血を認めたが,ESDおよびH. pylori除菌後に貧血は改善した.日本ヘリコバクター学会によるH. pylori感染の診断と治療のガイドライン(2016改訂版)では,鉄欠乏性貧血に対する除菌療法を強く勧めている 19.機序としてH. pylori感染による鉄吸収の阻害や鉄の収奪などの仮説が挙げられており,鉄欠乏性貧血に対するH. pylori除菌治療により血清Hb値,フェリチン値が改善したという報告がある 20

本症例の貧血は,MPSからの出血に加えてH. pylori感染による鉄欠乏性貧血が関与していた可能性も考えられた.

Ⅳ 結  語

重度の貧血を呈するMPSに対しESDを施行した1例を経験した.継続的に出血をきたすMPSの治療として,ESDは有用であると考えられた.

本論文の要旨は,第165回日本消化器内視鏡学会東北支部例会において発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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