2023 Volume 65 Issue 1 Pages 63-75
腺腫性ポリープを内視鏡切除することで将来的に大腸がんの罹患や死亡のリスクを減らすことができるとされており,大腸内視鏡が大腸がん予防のために果たす役割は重要である.また大腸内視鏡がしっかりとその効果を発揮するためには検査の質も求められており,腺腫発見率などの向上は内視鏡医に求められている.一方Post-colonoscopy colorectal cancer(PCCRC)の原因の多くが見逃し病変に起因することを考えると,今後は病変の発見だけでなく,見逃しの要素も考慮されるべきである.光デジタル法による画像強調観察(Imaged-enhanced endoscopy;IEE)はデバイスや染色も不要でボタン操作だけで施行可能である.近年の内視鏡技術の進歩や新たなIEEの開発に伴い,IEE観察が大腸病変の発見や見逃しの防止など拾い上げ診断に有用であることが示されてきている.本稿では大腸ポリープの拾い上げ診断の現状からIEE観察の手順やエビデンスについて述べた.今後もIEE観察も併用した最適な大腸内視鏡の観察方法を模索することが求められている.
Studies report that endoscopic resection of adenomatous polyps lowers the risk of colorectal cancer (CRC) and death. Therefore, colonoscopy plays a key role in preventing CRCs. In addition, high-quality colonoscopy is required to fulfill its role effectively and improve the adenoma detection rate for endoscopists. In contrast, since most post-colonoscopy CRCs (PCCRC) are caused by missed lesions, missed lesions as well as new lesions should be evaluated henceforth. Imaged-enhanced endoscopy (IEE) utilizing the optical digital method can be performed with a single click without using other devices or staining. Recent advances in endoscopic technology and the development of new IEEs have demonstrated the usefulness of IEEs in the detection and prevention of missed lesions in addition to their characterization. In this article, we describe the current state of colorectal polyp detection as well as the procedure and evidence for IEE observation during a colonoscopy. It is necessary to pursue the optimal observation method using IEE.
大腸がんは本邦でも罹患数が1位,死亡数2位であり,世界でもがん疾患の中で大きな割合を占めている.一方,大腸内視鏡を施行し腺腫性ポリープを切除すると,大腸がんの罹患率・死亡率を減少させることが示されている 1),2).大腸がんは早期発見・治療による二次予防効果が現われやすいとされ,予防と死亡率の低下を目的とした大腸内視鏡の役割は非常に重要である.
大腸内視鏡の適応はスクリーニングか,内視鏡切除後のサーベイランスか,血便・腹痛や下痢などの有症状の精査目的に分別される.スクリーニング検査は本邦では便潜血検査による対策型検診で陽性結果となり大腸内視鏡を受けることが多いが,今後は任意型検診として最初から大腸内視鏡を選択することも増加していくと考えられている.一方,サーベイランス検査は腺腫の個数,Advanced Adenoma(径10mm以上の腺腫,病理組織学的にvillousまたはtubulovillous成分を有するもの,high-grade dysplasia)の有無によりサーベイランス間隔が層別化され,2020年に日本消化器内視鏡学会より大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン 3)として発表された.血便や腹痛などの症状がある場合は大腸がんを筆頭とした大腸疾患を罹患している可能性もあるため,早めの検査を考慮する.
大腸がんは今後も生活の欧米化に伴い増加していくと考えられており,その対策は重要な課題であり,内視鏡検査の質と効率を高めることが必須である.そのために今までも前処置の改善,適切な観察時間,先端アタッチメントや広角内視鏡の使用,反転観察など様々な工夫が検討されてきた.本稿ではその方法の1つとして画像強調内視鏡(Imaged-enhanced endoscopy:IEE)を用いた大腸内視鏡の観察の意義や方法につき解説する.
大腸内視鏡検査による大腸ポリープの拾い上げの感度は,大腸がんおよび径10mm以上の腺腫を対象にすると79-100%と高いが,径10mm未満になると75-85%程度まで低くなるとされている 4),5).最近のシステマティックレビューではサイズ別に検討すると径10mm以上で6%,5-10mmで17%,1-5mmで28%が見逃され,また病変別では腺腫で26%,advanced adenomaでも9%が見逃されており,以前の認識からすればより多くの見逃しが起きていることが指摘されている 6).肉眼型では無茎性病変30%,平坦病変34%が見逃されており,有茎性病変の12%と比較し有意に見逃しが多いとされている.
2010年にPost-colonoscopy Colorectal cancer(PCCRC)という概念が提唱され,PCCRCは「大腸がんが検出されなかった大腸内視鏡検査後に発生した大腸がん」に対して用いられるようになった.PCCRCは大腸がん全体の2.9-7.9%を占め,その原因の50-60%程度は見逃し病変に起因するとされ 7),8),他の原因である不完全切除病変や新規発生病変より多いとされており,大腸内視鏡検査の質の評価にはPCCRCを用いることが推奨されている.
大腸内視鏡の拾い上げの診断の質指標(Quality indicator:QI)には腺腫発見率(Adenoma detection rate:ADR)が主に用いられている.ADRは「1回の大腸内視鏡で1個以上の腺腫性ポリープが見つかる割合」である.ADRはPCCRCの減少のみならず 9),大腸がん死亡率減少に関連すると報告されている 10).コホート研究ではADR≧20%以上ある内視鏡医は有意にPCCRCの発生を抑えることができる 11)と報告されている.ADRが1%上がれば,3%の大腸がんのリスク減少,5%の大腸がん死亡率の減少と関連するとされ 9),現在ADRは大腸内視鏡の最も重要でエビデンスのあるQIとされている.
ADRは検査理由や被験者の特性,前処置や内視鏡などの環境要素により変化するため,あくまで指標であるが,症状のない中間リスク群におけるADRで25%(男性≧30%,女性≧20%)が目標として推奨されている 12),13).
ADRは優れたQIとされる一方で,見つかった腺腫の数は考慮されない.そのため一人の患者に腺腫が1個見つかった場合も5個見つかった場合も同じクオリティの内視鏡という評価になってしまう.そのため見つかった腺腫の個数を考慮したthe mean number of adenomas per procedure(MAP)やthe total number of adenoma per colonoscopy(APC),腺腫を認めた患者における1検査当たりの腺腫の数を示すthe total number of adenomas per positive participant(APP),タンデム大腸内視鏡を行い見逃した腺腫の割合を計算する腺腫見逃し率(Adenoma miss rate:AMR)など様々なQIが考案されている(Table 1).しかし現時点で大腸がんの罹患率や死亡率と直接関連すると報告されているのはADRのみであり,他のQIの臨床的意義についてのエビデンスは今後も検討が必要である.
大腸内視鏡におけるquality indicator(QI).
AMRはADRが40%以上と高い優れた内視鏡医の間でも有意な差を認めるとされており 14),20%以上になると報告されている 15),16).AMRと大腸がんの罹患や死亡との直接な関連は報告されていないが,PCCRCの多くが見逃し病変から発生することを考慮するとAMRはなるべく少ない方がいいと考えられる.systematic reviewではタンデム大腸内視鏡における1回目検査のADR,APCとAPPはAMRの独立した予測因子であり,APPはAdvanced adenoma miss rateの唯一の予測因子であったとされた 6).また大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン 3)で,内視鏡切除後のサーベイランス間隔はAdvanced Adenomaと腺腫の個数により決定される.AMRが高い内視鏡では見逃しの個数も増加しており,本来のサーベイランス間隔が誤って長くなっている可能性もあるため,AMRも今後は大腸内視鏡検査において考慮されるべきQIであると考えている.
大腸内視鏡において病変の拾い上げには,被験者,術者,スコープやデバイス等の機器の3つの要素が関わる.被験者側の要素としては腸管洗浄度や蠕動の他に腸管の形状や腹部手術歴や癒着の有無が挙げられる.腸管洗浄に関してはしっかりと全体の粘膜が観察でき,残渣や残液も少ない状態であることが望ましい.白色光観察(white light endoscopy;WLE)でもIEE観察でも前処置が不良な場合は病変検出能が低下してしまう 17)~20)し,AMRに関しても前処置は有意な因子であることが報告されている 6).蠕動が強い場合は襞がくっついたり,管腔をしっかりと拡張してみることが困難になり死角が増加する(Figure 1).そのような場合は可能であればブチルスコポラミン臭化物などの鎮痙薬の投与を考慮するべきである.
横行結腸,3mmの0-Ⅱa病変.蠕動による見え方の変化.
a:病変が襞の肛門側に位置するため,病変全体が視野に入っている.
b:腸管蠕動により病変が襞の裏側に移動し,病変の一部しか見えない.
c:更に移動し病変は襞の裏側へ移動し,完全に死角に入っている.病変を見つけるのは困難である.
術者側の要素としては,術者の経験や知識,観察時間や観察方法,内視鏡操作のテクニックなどが挙げられる.機器の要素としてはスコープの性能(視野角・解像度など),先端アタッチメントなどの補助デバイス,人工知能(Artificial intelligence:AI)があり,IEEもこの中に含まれる.これら3つの要素はいずれも拾い上げに重要である.良いデバイスを使用しても,施行医が熟練者だとしても,前処置が不良であれば満足な結果を得ることは困難であり,いずれが欠けてもならない.拾い上げ診断の質の向上には被験者・術者・機器のすべての要素に留意しなければいけない.
IEE観察はインジゴカルミンやヨード,メチレンブルーなどを用いた色素内視鏡と,機器に装着されたフィルターや技術を用いたNarrow-band imaging(NBI,Olympus Medical Systems)やBlue-laser imaging(BLI,Fujifilm Co.),Linked-color imaging(LCI,Fujifilm Co),i-SCAN(Pentax),Texture and color enhancement imaging(TXI,Olympus Medical Systems)などの光デジタル法に分かれる.光デジタル法は通常光のスペクトルの一部あるいは異なる光源を使用し得られた信号をビデオプロセッサー内で処理を加えて画像強調を行っている.
「大腸ポリープ診療ガイドライン2020(改訂第2版)」 21)には,大腸腫瘍のスクリーニングにおける画像強調観察の位置づけにおいて白色光と同等であると記載されている(BQ2-9).「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」 3)でも大腸内視鏡検査における光デジタル法によるIEE観察について「大腸内視鏡検査において光デジタル法は白色光観察と同等の病変検出能である(推奨の強さ2,エビデンスレベルB)」と記載されている(CQ10).従来のNBI観察(LUCERA260,EXERA2)は白色光と比較し,ADRの改善を認めなかったが,2012年に新たな光源システム(LUCERA ELITE)を使用したNBIは弱点とされた画像の暗さが改善され,画質も向上している.NBI(LUCERA ELITE以降)やBLI,LCIなどの新規モダリティでは病変検出能が向上し,IEE観察が拾い上げ診断に有用である可能性が指摘されている.
NBIは前述したLUCERA ELITEシステムではRCTにてNBIの方がWLEに比較しADRが有意に向上することが示された 18).またmeta-analysisでもNBIはWLEよりも有意に高いADRを示すことが報告された 19).2020年に市販されたEVIS X1では5色LEDの採用により更に明るさが改善され,brightness adjustment imaging with maintenance of contrast(BAI-MAC)機能も搭載されて中遠景の更なる明るさの改善も期待されている.BAI-MACは白色光だけでなくNBI観察でも使用が可能であるため,常時onにしてIEE観察時にも使用することを勧める(Figure 2).またEVIS X1ではNBIに加えて,TXIという新しい技術のIEE機能も搭載されている.TXIは通常光観察で得られる画像に構造・明るさ強調処理を加え,色のコントラストや凹凸を強調したモード2と更に色調強調を追加したモード1がある.TXIは内視鏡医の視認性visibility scoreと色差がWLEに比較し有意に改善すると報告されており 22),病変の検出能が向上する可能性があり,今後の臨床研究による評価が望まれている(Figure 3).
brightness adjustment imaging with maintenance of contrast(BAI-MAC)機能による遠景の明るさの改善.BAC-MAIを使用することで,中遠景の明るさが上昇している.
a:白色光観察,BAI-MAC off.
b:白色光観察,BAI-MAC on.
c:NBI観察,BAI-MAC off.
d:NBI観察,BAI-MAC on.
下行結腸,20mmの0-Ⅱa病変.平坦病変.
a:白色光観察.
b:NBI観察.病変部は褐色調に見え,周囲粘膜との色調差が目立ち視認性が向上する.病変の境界も明瞭になる.
c:TXI1観察.周囲粘膜より淡赤色調に見え,境界の凹凸も明瞭になり,視認性が向上する.周囲粘膜の血管網が病変部で消失し,病変を検出しやすい.
d:TXI2観察.周囲粘膜との色調差はTXI1より目立たないが,境界の凹凸は明瞭になり,視認性が向上する.周囲粘膜の血管網は病変部で消失し,病変を検出しやすい.
BLIはBLIモードとBLI-brightモードに分かれるが,病変の検出という点から考えると,BLI-brightの方が明るいため適していると考えられる.BLIを使用したRCTではADRはWLEと差がないもののAMRが有意に改善した 23)とかMAPがBLI-brightで改善した 24)という報告がある.その後のRCTでBLI-brightを使用してWLEより有意にADRが改善することが報告された 25).
LCIはヘモグロビンに吸収されやすい410nmの短波長狭帯域光(青紫)を強く照射し,粘膜と血管のコントラストを強調するIEE観察である.BLIに比較し全体に色調が異なりWLEに類似しており,全体に明るい画像を得ることが可能であり,病変指摘の向上につながることが期待されている.近年LCIを用いたRCTの結果が報告され,LCI観察によりWLEよりADRが有意に改善することが示された 26)~28).またLCIでAMRも有意に改善することが報告され 20),NBIやBLIと異なる色調で観察可能なLCIの検出における効果が期待されている(Figure 4).
上行結腸,3mmの0-Ⅱa病変.微小平坦病変.
a:白色光観察.
b:BLI-bright観察.病変部は褐色調に見え,周囲粘膜との色調差が目立ち視認性が向上する.
c:LCI観察.病変部は周囲粘膜に比べ淡赤色調に見え,視認性が向上する.周囲粘膜の血管網が目立つようになり,病変部で消失しているのが認識できる.
d:インジゴカルミン色素撒布.コントラスト法により凹凸が明瞭になり,認識しやすくなる.
IEEにおける拾い上げの診断の有用性は視認性の向上に基づいており,死角にあり画面に写っていない病変はIEE観察を行っても見つけることはできない.そのことから考えるとまず重要なのは死角を減らすことである.現在の大腸内視鏡の視野角は180°以下でありどうしても側方には死角ができるし,大腸は結腸襞があるため裏側にも死角ができる.死角を減らすためには内視鏡医の観察技術の向上が必要で,襞裏や屈曲部を意識した観察方法は最も習得すべき技術である.
またIEEでの観察を開始する場合はWLEとの色調の違いに慣れが必要である.IEE観察を開始した初期の時はWLE観察と異なる色調と,病変の見え方の特徴が分からないため逆に見逃しが起こることも考えられる.実際にNBIを用いたスクリーニング検査では経験の差によりADRに有意な差を生じることが報告されており,これはIEE観察に対する慣れや経験によって生じている可能性がある.筆者の経験でもIEE観察を開始した当初は違和感を感じるが,症例を重ねることで慣れると既報のように腺腫や病変検出能の向上が見込まれる.まずは20例程度で実際にIEE観察を行うことを推奨している.
IEE観察が有用な内視鏡医の条件に関しては定まった見解や報告はない.ただ熟練医と非熟練医別に検討すると,非熟練医でIEE観察の方がWLE観察よりADLが高かった報告を複数認める 18),20),24).またわれわれの報告ではWLEにおけるADRとLCIのADRの比はWLE-ADRと強い相関を認めた.つまりADRの低い術者の方がLCI観察でADRの上乗せ効果があるという結果であった.逆にADRが60%を越えるとLCIによる上乗せ効果は認めなかった.この結果から考えるとADRが低い内視鏡医(非熟練医)の方がIEE観察の恩恵を受けることができる可能性があるため,非熟練医ほどIEE観察が有用であり,行うべきと考えている.
実際の観察法について説明する.まずIEE観察の特性をいかすために挿入時からIEEを用いて行う.微小病変や平坦病変など見逃しが起こりそうな時には,挿入時に切除したり,クリスタルバイオレットを少量撒布するなどマーキングを行うことも有用である.また残渣は挿入時になるべく洗浄するように心がけており,消泡剤入りの水を鉗子孔から送水できる機器や内視鏡の前方送水機能を使用して洗浄している.また腸管内の液体も挿入時から吸引を行っている.この際に送気をしすぎると挿入性を損なうこともあるのでCO2送気を用いて,なるべく少量の送気で済むように心がけるのは通常の挿入と同じである.
回腸末端または盲腸まで挿入した後は,前述のように死角を意識して,襞をめくりながら,襞裏や屈曲などの抜けやすい部位などはゆっくり挿入と抜去を繰り返しながら観察する(Figure 5).IEE観察の時はまず全体が映るように少し遠目に見ると色調や凹凸の違いに気づきやすい.病変を疑う場合は近寄り,本当に腫瘍性病変があるのかを確認する(Figure 6).遠目に見た後は,基本通りに円状やらせん状に少し距離を縮めながら内視鏡を抜去する.IEE観察では視界に入ればWLE観察より色調や構造強調により周囲粘膜との見え方の差が大きくなるため,病変の視認は容易になる.また残渣や粘液が病変に付着している場合は付着している部分が特徴的な色調を呈する.NBIやBLIでは赤色調に,LCIでは黄色調になって見える.特にvillous成分を含む腫瘍や鋸歯状病変などは粘液を反映して特徴的な色調を呈する場合が多い.検出した病変はそのままIEEで拡大観察を行い,The Japan NBI Expert Team(JNET)分類を用いて質的診断を行う.
死角をなくす観察方法.肝彎曲.
a:上行結腸からゆっくり抜去していく画面上部は襞の裏が死角となっている.
b:先端アタッチメントを使用して死角となっている襞をめくって観察する.
c~e:めくった襞から少しファイバーを抜きながら死角となっている襞をゆっくりと観察していく.
LCIを用いたIEE観察の手順.
a:盲腸まで挿入し,やや遠景で観察する.
b:上行結腸.遠景で憩室と淡赤色調のポリープが認識できる.
c:近接で観察.憩室の近傍に3mmの0-Ⅱaを認める.
d:BLI拡大観察を施行し,JNET2Aと診断した.
見逃しの原因が死角と視認性の低下であることを考えると,両者に対して対策することで見逃しを防ぐことができると考えるのは自然な流れである.具体的には死角を減らすデバイスであるEndocuffや反転観察とIEE観察を行うことで更なる病変検出の向上と見逃しの低下につながると想像される.最近行われたRCTではEndocuffとLCIを併用すると近位結腸におけるADRやAPCはEndocuff+LCI併用群が,Endocuff単独使用群やLCI単独使用群より高く,WLEに比較して有意に高いと報告された.しかし全体でのADRはADR 35%を越える内視鏡医においては,Endocuff+LCI併用でも改善を認めなかった 29).今後もどの方法が最も病変検出能を上げ,見逃しを防ぐのか,適切な方法を検証していく必要がある.
2019年WHO分類により従来Hyperplastic polypとされていた病変の中でSSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)の特徴である腺底部拡張所見を一腺管でも有する病変をSessile serrated lesion(SSL)として総称するようになった.既報の多くは従来のSSA/Pを対象としており,本来のSSLと記載すると相違が生じる可能性があるが,本稿では同一のものとして扱う.
腺腫性ポリープと同様にSSLもSSL detection rate(SDR)が向上することで,大腸がんの死亡率低下を減らすことができる可能性があると報告されている 30),31).色素内視鏡ではSSLの検出が改善することが報告されているが,IEE観察による検討は近年になり行われている.
SSLではWLEに比較してNBIやLCIによりSSLの視認性が向上すると報告されている 32),33).またTXIでも同様にSSLの視認性はWLEより有意に高く,また色差も大きくなると報告されている.同試験の中ではTXIとNBIの比較も行われているが,visibility scoreは同等で色差はNBIの方が高い傾向にあった 22).同様にLCIとWLE,BLI-bright,BLIを比較するとLCIが最も色差が大きく,WLEに比較して有意に高かった 34).またLCIはBLIに比較してSSLの視認性が有意に改善したという報告がある 33).
しかし実際の臨床試験ではNBIを用いてRCTを行い,WLEと比較したが,SDRは有意差を認めなかった 35),36).一方LCIはRCTでSDRがWLEを上回っていたと報告されている 37).多変量解析ではLCI観察はSSL detectionに関連する因子であったと報告されている.
SSLは大部分が近位結腸に発生し,平坦隆起の形態をしており,周囲の粘膜と色調は同色~淡色粘膜調のことが多い.IEE観察時のSSLの検出にはまず粘液付着に注目する必要がある.前述したようにNBIやBLIでは粘液は赤色調に見えるし,LCIではやや黄色調に見える.またわずかな色調や凹凸の差を認識できることもIEE観察がSSLの検出に有用である要因と考えられる(Figure 7).もう1つIEE観察の際に注目するのは背景粘膜の血管模様である.IEE観察では周囲の正常粘膜の血管網が目立って見える一方,病変部は正常な血管網が消失する.色調や構造の差がわずかでも血管網の違いで病変に気づくこともある.IEE観察で正常血管は見やすくなるため,血管構造に注目することもSSLの検出につながる可能性がある(Figure 8).質的診断の際はSSLの特徴である腺管開口部の拡張を表すdark spotと,特徴的な血管構造(thick and branched vessels(TBVs),dilated and branched vessels(DBVs),varicose microvascular vessels(VMVs))を認めることで診断が可能となる.
上行結腸,4mmの0-Ⅱa病変,SSL.
a:白色光観察.SSLの表面に淡い黄色調の粘液が付着している.
b:LCI観察.SSLの表面に付着した粘液が黄色調になり,周囲粘膜との色調差が強調される.
c:BLI-bright観察.SSLの表面に付着した粘液が赤褐色調になり,周囲粘膜との色調差が強調される.ただ腸液の入った残液も同様に赤褐色調を呈する.
d:BLI拡大観察.開口した腺管開口部であるdark spotが確認できる.蛇行する血管を認め,SSLと診断した.
S状結腸,Ⅱa,10mm,SSL.
a:白色光観察.病変は正色調で,周囲の血管網の淡肌赤色とは色調が異なる.
b:BLI-bright観察.病変は周囲粘膜に比較し淡茶色調を呈し,病変部で血管網が消失している.
c:LCI観察.病変は正色調で血管網を認めない.周囲粘膜は血管網の淡赤色調が強調され,コントラストがつき視認性は向上する.
大腸内視鏡におけるIEE観察は慣れてしまえば有用性を実感できると思われるが,どうしても最初に躊躇しがちである.近年はIEEも改良や開発が進み,明るいNBIやBLI-bright,LCI,TXIなどを用いることで病変の視認性向上が期待されているし,エビデンスも増加してきている.是非熟練医だけでなく,非熟練医こそIEE観察の有用性を勉強し,日常臨床に取り入れることを期待している.また今後も大腸がんの罹患や死亡率の低下という目標にむけて,最適な観察方法を検討していく必要がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし