GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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LONG-TERM OUTCOMES OF ENDOSCOPIC BALLOON DILATION FOR INTESTINAL STRICTURES IN PATIENTS WITH CROHN’S DISEASE DURING MAINTENANCE TREATMENT WITH ANTI-TUMOR NECROSIS FACTOR ALPHA ANTIBODIES
Teruyuki TAKEDA Masahiro KISHINoritaka TAKATSUYasumichi TAKADATsuyoshi BEPPUMasaki MIYAOKATakashi HISABEToshiharu UEKIHisatomi ARIMAFumihito HIRAIKenshi YAO
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2023 Volume 65 Issue 1 Pages 76-86

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要旨

【背景と目的】維持療法として抗TNF-α抗体(anti-tumor necrosis factor alpha antibodies:anti-TNF)投与中のクローン病(Crohnʼs Disease:CD)患者の腸管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)の有用性は明らかではない.そこで,われわれは,anti-TNF投与中のCD患者の腸管狭窄に対するEBDの長期的な有用性と安全性を調査した.

【方法】2008年から2017年までの期間,anti-TNFを維持投与したCD患者のうち,EBDを施行し,6カ月以上経過を追えた症例を対象とした.主要評価項目は累積手術回避率とした.主な副次的評価項目は,技術的成功率,再EBD施行率,外科手術に影響したリスク因子,安全性とした.

【結果】解析対象は,72例のCD患者であった.EBD後の観察期間の中央値は50カ月であった.技術的成功率は67%であった.累積手術回避率は,3年で81.1%,5年で73.5%であった.再EBD施行率は74%であった.多変量解析の結果より,16歳以下の若年発症者(HR 3.69;95% CI,1.36-10.01;p=0.011)が外科手術のリスク因子と判明した.外科手術を要する重篤な合併症は3例で認めた.

【結語】anti-TNF維持投与中の腸管狭窄を有するCD患者において,EBDは短期的に有効かつ安全で,長期的にも有用な治療であった.

Abstract

Background and aims: Efficacy of endoscopic balloon dilation (EBD) for intestinal strictures in patients with Crohnʼs disease (CD) receiving anti-tumor necrosis factor alpha antibodies (anti-TNF) as maintenance therapy is unclear. We investigated the long-term efficacy and safety of EBD for intestinal strictures in patients with CD receiving anti-TNF.

Methods: We retrospectively analyzed data from patients with CD who received anti-TNF as maintenance therapy from 2008 to 2017, underwent EBD, and were followed up for ≥ 6 months. The primary endpoint was the cumulative surgery-free rate. The main secondary endpoints were technical success, repeat EBD rate, risk factors affecting surgical outcomes, and safety.

Results: Seventy-two patients with CD were assessed. The median observation period after EBD was 50 months. The technical success rate was 67%. The 3 - and 5 -year cumulative surgery-free rates were 81.1% and 73.5%, respectively. The repeat EBD rate was 74%. Multivariable analyses showed that risk factors affecting surgical outcomes were age at disease onset ≤16 years (hazard ratio 3.69; 95% confidence interval 1.36-10.01; P = 0.011). Serious complications requiring surgery developed in three patients.

Conclusions: Endoscopic balloon dilation was an effective and safe short-term treatment and a useful long-term treatment for CD patients with intestinal strictures receiving anti-TNF as maintenance therapy.

Ⅰ 序  文

クローン病(Crohnʼs Disease:CD)は,原因不明の慢性炎症性腸疾患である.経過とともに病状は進行し,狭窄・瘻孔・膿瘍などの腸管合併症を高率に伴うことが知られている 1.中でも,炎症性・線維性に大別される狭窄は,5年で12-35%,10年で32-37%と経年的に高率に合併する 2)~4.炎症性狭窄の治療には,ステロイドや抗TNF-α抗体(anti-tumor necrosis factor alpha antibodies:anti-TNF)や他の生物学的製剤が使用され 5)~7,一方,高度な線維性狭窄の治療には,内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)や狭窄形成術を含む外科手術が選択される.外科手術は,臨床効果,再手術率,再手術までの期間などの点でEBDより優れているが 8,侵襲が高く術後再発を少なからず認め,結果的に再狭窄を生じることがある 9.それゆえ,再狭窄による頻回の外科手術は,クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の低下や短腸症候群のリスクとなる.EBDは,適応を満たしたCD患者の腸管狭窄に対し,確立した治療である 10.したがって,EBDは,anti-TNF投与中で,治療が必要な線維性狭窄を有する患者に有用であると予測される 11.しかしながら,これまでanti-TNF投与後の狭窄に対するEBDの有用性については,少数例を検討した報告しかなく,明確な有用性のエビデンスは存在しない 12.そこで,本研究では,anti-TNF投与中に腸管狭窄を認めたCD患者に対するEBDの長期的な有用性と安全性を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ 方  法

倫理的なステートメント

すべての手技は,人の実験を担当する機関と国の委員会の倫理基準に従って行われ,1964年のヘルシンキ宣言とその後のバージョンに準拠した.本研究は福岡大学の倫理審査委員会に申請し,承認を得た(IRB承認番号:C20-01-003).インフォームドコンセントは施設のウェブサイトで,オプトアウトを通して行われた 13

対象症例

2008年1月から2017年12月までの期間,当院受診歴のある連続した患者のうち,CDのデータベースと診療録を用い遡及的にスクリーニングした結果,1,066例のCD患者を抽出した.なお,対象の組み入れを2008年からとした理由は,本邦において,CDに対しinfliximab(IFX)の維持投与が2007年11月に承認されたためである.組み入れ基準は,維持療法として承認されているanti-TNF,すなわちIFX,IFX biosimilar及びadalimumab(ADA)を投与している患者,十二指腸を除く小腸,及び大腸に内視鏡(最小径 9.2mm)が通過しない狭窄を有する患者,狭窄症状を有する,もしくは口側腸管の拡張を伴う無症状の高度な狭窄を有する患者,EBD施行後6カ月以上経過を追えた患者,EBDの適応(狭窄長≦5cm,瘻孔や膿瘍のない狭窄,深い潰瘍のない狭窄,高度の屈曲のない狭窄)を満たす患者とした.除外基準は,挿入困難例,癌性狭窄例,anti-TNF導入前にEBD施行歴のある症例,2008年以前に初回EBDを施行した症例とした.

内視鏡的バルーン拡張術

EBD施行前に,狭窄の特徴や数,瘻孔や膿瘍の有無を評価するために,少なくとも一つ以上の画像検査と内視鏡検査を施行した.内視鏡検査のスコープはダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon endoscopes:DBE,EN-450 T5 or EN-580T;Fujifilm Medical Co.,Tokyo,Japan)と大腸内視鏡(PCF-P240AI,PCF-Q260AI,or PCF-PQ260I;Olympus Corporation,Tokyo,Japan)を使用した.EBDは,TTS(through-the-scope)バルーンカテーテル(CRETM;Boston Scientific Corporation,Marlborough,MA,USA)を使用し,既報の手技を用いて施行した(Figure 1 14.送気にはCO2を使用した 15.多発狭窄を有する症例に関しては,基本的に適応があるすべての狭窄に対しEBDを施行した.なお,通常,初回EBD後,少なくとも1年以内に,DBEやその他の画像モダリティーを用い,狭窄部位の確認を行っている.

Figure 1 

EBD手技.

a:浅い潰瘍を伴う回腸狭窄.

b:EBD中の内視鏡像;狭窄部は線維化により白く描出されている.

c:EBD後の内視鏡像;狭窄部が拡張している.

d:EBD中の透視画像.

EBD, endoscopic balloon dilation.

研究デザインとアウトカム評価

本研究は,単施設,レトロスペクティブ,コホート研究である.主要評価項目は,anti-TNF維持投与中のCD患者におけるEBDによる累積手術回避率とした.なお,主要評価項目の解析は,患者ベースで検討した.副次的評価項目は,技術的成功率,再EBD施行率,狭窄部位別の手術回避率,単変量・多変量解析を用いた外科手術に影響したリスク因子,患者背景別の手術回避率,安全性,追加治療の頻度とした.なお,追加治療とは,anti-TNFの増量,変更,別の生物学的製剤への変更,免疫調節薬の追加と定義した.技術的成功は,EBD後に内視鏡スコープが狭窄部を通過することと定義した 16.狭窄部への内視鏡の通過は,容易でわかりやすく,短期成功のシンプルな定義であるが,EBDが施行可能であった場合,手術回避の可能性が残されている 17)~19.EBD施行医は,穿孔のリスクのため,狭窄部への無理な内視鏡挿入を避ける傾向にある.そのため,われわれは手術回避率の長期分析に内視鏡が通過しなかった症例,すなわち技術的不成功例も検討に加えた.再EBDは,狭窄症状の再燃した症例,フォローアップ内視鏡時に内視鏡の通過できない狭窄を有する症例を対象とした.狭窄部位別の手術回避率は,1.小腸,2.大腸,3.回腸-回腸吻合部,4.大腸-大腸吻合部・回結腸吻合部,5.異なる部位での多発狭窄(例:小腸と回結腸吻合部)に分類し検討した.追加治療の頻度は,最終観察日までに外科手術を行わなかった症例を対象とした.安全性は,症例別,内視鏡施行別に分析した.

統計解析

データの表示には中央値と四分位範囲(interquartile ranges:IQRs)を用いた.累積手術回避率の解析にはカプランマイヤー法を使用した.コックス回帰比例ハザード分析を用い,外科手術に影響を及ぼすリスク因子を同定するため単変量,多変量解析を行い,有意差を認めた因子については,ログランク検定を用い作図した.狭窄部位別の手術回避率については,ログランク検定を用いた.統計解析にはIBM SPSS software,version 21(IBM Corporation,Armonk,NY,USA)を使用した.p<0.05を統計学的有意差ありと判定した.

Ⅲ 結  果

患者と狭窄の特徴

Figure 2に研究のフローチャートを示す.72例の患者を本研究の解析対象に用いた.対象の背景をTable 1に示す.52例(72%)の患者が腸管狭窄に伴う腹部症状を有していた.残りの20例(28%)の患者は無症状であり,そのうち,活動期(IOIBDスコア≧2かつ,赤沈もしくはCRPが異常値)である患者は,10%(2/20)であった.13例(18%)はanti-TNF投与開始前に狭窄を認めなかった.そのうち,6例は内視鏡検査でEBDを必要とする狭窄がなく,7例は外科手術後すぐanti-TNFを導入していた.anti-TNF投与開始から初回EBDまでの期間の中央値は15カ月(IQR,4-43カ月)であった.Table 2に狭窄の特徴を示す.多発狭窄を有する患者のうち,11例は2個,1例は3個,1例は6個の狭窄を有していた.Table 3はEBD手技の詳細を示す.使用した内視鏡はDBEが58例(81%),大腸内視鏡が14例(19%)であった.アプローチについては,経口的が8例(11%),経肛門的が64例(89%)であった.治療に用いたバルーンについては,12-15 TTSバルーンを38%(34/90),15-18 TTSバルーンを61%(55/90),18-20 TTSバルーンを1%(1/90)に使用していた.内視鏡手技の平均時間は66分であった.

Figure 2 

フローチャート.

CD, Crohnʼs disease; EBD, endoscopic balloon dilation; anti-TNF, anti-tumor necrosis factor alpha antibodies.

Table 1 

ベースラインの患者背景(n=72).

Table 2 

狭窄の特徴(n=72).

Table 3 

EBD手技の詳細.

累積手術回避率

観察期間の中央値は50カ月(IQR,32-81カ月)であった.初回EBD施行後の累積手術回避率は,3年で81.1%,5年で73.5%であった(Figure 3).外科手術を要したのは合計19例であり,そのうち3例は内視鏡施行中の穿孔のため緊急手術を要した(1例は再EBD施行時に).残りの16例の内訳は,腸閉塞が5例,狭窄症状の再燃が5例,挿入困難が1例,患者の希望(頻回のEBDを必要としたため)が1例,瘻孔が2例,大腸病変の悪化が1例,EBDと関連のない回腸穿孔が1例であった.初回EBDから外科手術までの平均期間は27カ月であった.

Figure 3 

初回EBD後の累積手術回避率(n=72).

累積手術回避率は3年で81.1%,5年で73.5%であった.初回EBD後の観察期間の中央値は50カ月であった(IQR;32-81カ月).

EBD, endoscopic balloon dilation; IQR, interquartile range.

技術的成功

技術的成功率は,症例別では67%(48/72),狭窄数別では73%(66/90)であった.さらに,有症状者における症状改善率は,77%(40/52)であった.EBD後に内視鏡通過が可能であった有症状者のうち,75%(24/32)に症状の改善が見られた.

再EBD施行率

経過中,72例のうち,53例(74%)に再EBDが施行されていた.累積再EBD施行率は1年で49%,3年で73%であった.53例中,狭窄症状のために再EBDを施行した患者は30例,画像検査で再狭窄を認め予防的な拡張を施行した患者は23例であった.

狭窄部位別の手術回避率

狭窄部位別では,各群において手術回避率に統計学的な有意差はなかったものの(Figure S1),小腸のde novo狭窄における5年後の手術回避率は,他の部位と比べ62.8%と低かった.

外科手術に影響するリスク因子

発症年齢が16歳以下の症例は,単変量解析において,統計学的有意差をもって手術率が高かった(Table 4).アザチオプリン/6-メルカプトプリンや成分栄養(≧900kcal)のような併用療法は,手術回避とは関連がなかった.多変量解析より,発症年齢が16歳以下の症例(hazard ratio,3.69;95% confidence interval,1.36-10.01;p=0.011)が,外科手術に影響する独立したリスク因子であった(Table 5).発症年齢別の手術回避率を,カプランマイヤー曲線を用いFigure 4に示す.

Table 4 

患者背景別の手術回避率(単変量解析).

Table 5 

患者背景別の手術回避率(多変量解析).

Figure 4 

発症年齢16歳以下(n=15;点線)と17歳以上(n=57,実線)における手術回避率.Log-rank test:p=0.003.

安全性

重篤な合併症については,穿孔を3例に認めたが,穿孔部を含めた腸管切除術を行い,回復した.穿孔の頻度は,症例別では3/72(4.2%),手技別では3/290(1.0%)であった.穿孔理由は,1例はEBDが原因であった.残りの2例は挿入手技に関するもので,いずれも回腸の縦走潰瘍が存在する部位であった.その他,輸血を要する出血や,長期入院を必要とする重篤な合併症は認めなかった.

追加治療

外科手術を行わなかった53症のうち,25例(47%)に薬剤の追加・変更を行った(観察期間の中央値:66カ月,IQR,38-84カ月).その内容は,アザチオプリン/6-メルカプトプリンを追加した症例が15例,投与しているanti-TNFを倍量もしくは投与期間を短縮した症例が13例,IFXからADAへ変更した症例が2例,ustekinumabへと変更した症例が2例,治験薬であるmirikizumab(抗IL-23p19抗体製剤)へ変更した症例が1例であった(重複含む).追加治療の理由は,二次無効が12例,EBD時の活動性潰瘍が12例,皮膚症状が1例であった.追加治療を受けた患者のうち,21例が再EBDを施行し,その多くの症例(18例)が追加治療後にも再EBDを施行した.残りの3例は,追加治療前に何度か再EBDを施行したが,追加治療開始時にはすでに狭窄は改善していた.

Ⅳ 考  察

本研究において,anti-TNF維持投与中のCD患者の狭窄に対する初回EBD施行後の手術回避率は,3年で81.1%,5年で73.5%であった.この結果から,EBDの長期成績は良好であり,EBDはanti-TNFに抵抗性の線維性狭窄に適応があり,手技が成功すれば,高い効果が得られることが示された.

われわれの知る限り,本研究はanti-TNF投与中に認めた腸管狭窄に対するEBDの有用性について,最も長期間の検討を行った最大の研究である.以前の研究と比べ,多数例かつ長期間フォローアップし,IFXだけでなくADAも使用した患者も含んでいる 12.したがって,本研究の結果はCD診療における狭窄症例へのアプローチ方法の一端を明らかにしていることから,臨床的な意義が高いと考えられる.また,本研究の対象には既報とは異なり,回結腸吻合部,終末回腸,大腸の狭窄例だけでなく,小腸狭窄例も含んでいる 20.CD患者では,小腸狭窄は閉塞症状が出現することが多く,外科手術の主要な原因となる.実際,本研究では,小腸のde novo狭窄を有する患者が多数存在し,同部位で外科手術を必要とする患者の頻度は,他部位に狭窄を有する患者よりも高かった.長期的な臨床経過の中で,外科手術が必要となる症例が多いCDの自然史を考慮すると,小腸狭窄に対するEBDは,外科手術を回避でき,患者の予後とQOLをより良くする可能性が示唆される.

EBDの長期成績に関して,これまでに報告されたシステマティックレビューで,Hassanらは,観察期間33カ月で手術回避率58% 21,Bettenworthらは24カ月で57.1%と報告している 19.本研究の結果はこれら既報と比較し,かなり良好な成績であった.理由としては,第一に狭窄合併をより早期に診断し,より早期に治療を行ったことが,良好な長期成績に繋がったと考えられる.第二に,EBD施行後の患者を注意深くモニタリングし,必要があれば,薬剤の追加・変更や,再EBDを施行した.内視鏡が通過しない場合には,狭窄症状がなくても予防的な拡張術を行った.すなわち,EBD後のきめ細かいトータルケアが既報と比較しより高い手術回避率に繋がった可能性がある.本研究では,薬物療法だけで再EBDを回避できた患者はいなかった.したがって,薬物療法とEBDの併用は,線維性要素をある程度持つ狭窄に対し効果的であると考えられた.

腸管狭窄に対する初回EBD後に外科手術に影響したリスクについて,既報では,de novo狭窄,4cmを超える狭窄,拡張径,Rutgeerts score,瘻孔,喫煙,多発狭窄,EBDの間隔などがリスク因子であると報告されている 19),21)~31.本研究では,発症年齢16歳以下が,EBD後に外科手術に影響する独立したリスク因子であった.若年発症はCD患者の予後不良因子の一つである 32)~34.本研究では,若年発症がanti-TNFを含む薬物治療への抵抗性,早い段階での高度狭窄の合併の要因であったかもしれない.若年者の長期成績は,treat-to-target strategyによる疾患活動性のtight controlにより改善しうる.よって,EBDは発症年齢によって制限されるべきものではなく,病型,疾患活動性,社会的状況,患者の意向などにより個別化した治療がそれぞれの患者に適応されるべきである.一般的に,大腸や回結腸吻合部のEBDに対する研究は,対象として多発狭窄を有する患者が少ない.一方,小腸狭窄に対するEBDに関しては,Nishidaらは,多発狭窄がリスク因子であると報告している 30.本研究の多変量解析では,多発狭窄は外科手術のリスク因子となる傾向にあり,また,多発狭窄を有する患者の92%に小腸狭窄を有しており,先行研究の結果と一致する.

低侵襲治療であるEBDにおける合併症の頻度は,適応を考慮する上で重要である.本研究におけるEBD施行時の穿孔の頻度は,既報とほぼ同等であり,安全性は許容範囲内であった.

本研究にはいくつかの限界がある.第一に,単施設後向き研究であり,リクルートバイアスがある可能性がある.当院は,日本で比較的多数のCD患者を診療している施設であり,小腸内視鏡のエキスパートも多数存在する.したがって,EBDの適応がある場合,できるだけ長期に外科手術を回避することを目的に,腸管狭窄に対するEBDを汎用している.しかし,日本でも,すべての施設が同様の治療戦略を実践できるわけではない.本研究結果の妥当性を確認するためには,多施設前向きコホート研究が必要である.第二に,本研究は,anti-TNFのみの使用例を対象にした検討であり,その他の分子標的薬を投与しているCD患者については検討されていない.抗IL-12,23抗体であるustekinumabや,抗αβ7インテグリン抗体であるvedolizumab投与中の患者におけるEBDの有用性は検討されておらず,今後これらの分子標的薬投与中のCD患者に対するEBDの有用性の検討が課題として残されている.

結論として,anti-TNF投与中に増悪した,あるいは新規に出現した腸管狭窄を有するCD患者に対して,EBDは安全に施行可能であり,長期的にも有用であることが示唆された.このような状況の症例に対して,EBDは,一つの治療選択肢として考慮すべき低侵襲治療である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:平井郁仁はアッヴィ合同会社,EAファーマ,ヤンセンファーマ,持田製薬,武田薬品,田辺三菱製薬より講演料を受け取っている.

資金情報:本研究は,公的,営利的,非営利的な資金提供機関からの助成を受けていない.

補足資料

Figure S1 狭窄部位別の手術回避率(小腸 n=44,大腸 n=5,回腸-回腸吻合部 n=12,大腸-大腸吻合部または回結腸吻合部 n=7,異なる部位での多発狭窄 n=4).

Footnotes

本論文はDigestive Endoscopy(2022)34, 517-25に掲載された「Long-term outcomes of endoscopic balloon dilation for intestinal strictures in patients with Crohnʼs disease during maintenance treatment with anti-tumor necrosis factor alpha antibodies」の第2出版物(Second Publication)であり,Digestive Endoscopy誌の編集委員会の許可を得ている.

文 献
 
© 2023 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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