2023 Volume 65 Issue 10 Pages 2194-2199
症例は94歳女性.心窩部痛・下痢を主訴に前医受診し,CTにて上行結腸に壁肥厚を認め当院に紹介となった.大腸閉塞所見を認めたため,閉塞性大腸癌を疑い緊急でCSを行い,上行結腸癌と直腸癌の診断となった.上行結腸癌はスコープ通過不能であり,大腸ステントを留置した.その4日後に再度腹部膨満を認め再腸閉塞が疑われた.CTにて大腸ステント内腔に種子を疑う高吸収異物を認め,ステント閉塞が疑われた.CS下にてステント口側の梅の種子を除去した後,腸閉塞は改善し,待機的な大腸切除を行った.種子などの食餌異物による腸閉塞の報告は散見されるが,留置した大腸ステント内で閉塞した症例は稀であり,文献的考察を加えて報告する.
A 94-year-old woman reported to a neighborhood hospital with a complaint of orbital pain and diarrhea. Abdominal computed tomography showed a thickening of the ascending colon, after which she was referred to our hospital. As colorectal obstruction was noted, obstructive colorectal cancer was suspected and CS was performed urgently; cancer of the ascending colon and rectum was diagnosed. Since the ascending colon cancer was not passable through the scope, a self-expanding metallic stent was inserted into the ascending colon. After four days, the patient developed abdominal distension again and recurrent bowel obstruction was suspected. Abdominal contrast-enhanced computed tomography showed bowel obstruction caused by the impaction of a highly resorbed foreign body, suspected to be a seed, in the stent. The foreign body was removed endoscopically and was identified as a Japanese apricot pit. Bowel obstruction improved and the patient underwent interval resection of the colon.
Although there have been many reports on intestinal obstruction caused by dietary foreign bodies such as seeds, obstruction within an implanted colonic stent is rare, and we report this case along with a review of literature.
閉塞性大腸癌に対して狭窄症状解除目的のステント留置も一般に普及してきている 1)が,Saitoらの報告では術前減圧目的(bridge to Surgery:BTS)の大腸ステント留置時に起こるステント関連偶発症として,穿孔を含む重大な偶発症は1.6%,持続的な結腸閉塞は1.0%,ステントの逸脱は1.3%と報告されており 2),欧州消化器内視鏡学会(European Society of Gastroenterological Endoscopy intestinal Endoscopy:ESGE)ガイドライン2020年版では穿孔率は0~12%,悪性腫瘍の浸潤や糞便のつまりなどによるステント閉塞は3~29%で生じるとされている 3).
また,Matsuzawaらからは短期でのステント関連偶発症として穿孔が2.1%,ステントの逸脱が1.0%,ステント閉塞が0.8%と報告されており 4),ステント留置後の手術待機期間中に偶発症が生じることが懸念される.
種子などの食餌異物による腸閉塞の報告は散見されるが,ステント留置後の食餌性腸閉塞について本邦では報告は稀であり,今回閉塞性大腸癌に対するステント留置後に梅の種子によるステント内閉塞をきたした症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
患者:94歳女性.
主訴:心窩部痛,下痢.
既往歴:10歳頃虫垂炎手術,54歳頃右乳癌に対し乳房全摘術,74歳頃脳梗塞,高血圧.
家族歴:父・弟2名・息子;脳梗塞,母;大腸癌.
現病歴:心窩部痛,下痢を認め,前医にて上部消化管内視鏡が施行されたが慢性胃炎の所見のみであった.血液検査で腫瘍マーカーの上昇及び腹部単純CT検査で上行結腸に壁肥厚を認めたため当院紹介となった.上行結腸癌を疑い,入院しての精査を予定したが,入院待機の間に腹痛を認めたため緊急入院となった.
血液検査所見:血色素量(Hemoglobin)9.5g/dlと貧血を認めた.またがん胎児性抗原(carcinoembryonic antigen)52.4ng/mL,糖鎖抗原(carbohydrate antigen19-9)56.0U/mLと腫瘍マーカーの上昇を認めた.
腹部単純CT検査:上行結腸に長径5cmにわたる全周性の腫瘤状壁肥厚を認め,盲腸の壁内気腫と回腸の拡張を認めた.また,結腸傍リンパ節と中間リンパ節の腫脹を認め,肝S2には35mm大の肝転移が疑われた.
CT検査上,リンパ節転移及び肝転移を伴う上行結腸癌による腸閉塞が疑われた.
明らかな腹膜刺激症状は認めないものの,腹部単純X線検査で小腸鏡面像を認め,大腸閉塞スコア(ColoRectal Obstruction Scoring System:CROSS)で0点と判断し,BTS目的の大腸ステント留置の方針とした.
大腸内視鏡(CS)検査:上行結腸に全周性の2型腫瘍を認めスコープは通過不能であった.(Figure 1,2).内視鏡下,透視下にガイドワイヤーを狭窄部の口側へ挿入し,狭窄部にUncovered Metalic Stent,直径22mm,長径10cmを留置した.ステント留置後に多量の便汁の流出を認めた.

CS上行結腸に全周性2型腫瘍を認める.

CS近接像.
また,下部直腸に2/5周性の2型腫瘍も認め,CS検査上,閉塞性上行結腸癌及び下部直腸癌が疑われた.それらの腫瘍に対し生検病理診断を行ったところ,上行結腸からは高~中分化管状腺癌,下部直腸からは高分化管状腺癌~乳頭状腺癌の診断を得た.
経過:ステント留置後はすみやかに腹痛や腹部膨満症状は改善し翌日より食事を開始し,食事指導は易消化食の全粥までとしていた.しかし,ステント留置4日後に再び腹部膨満が出現し腹部X線検査にて小腸鏡面像を認めた.禁食対応とし,翌日に造影CTを撮影したところ,ステント内部に種子と思われる異物を認め口側腸管の拡張所見を伴っていた(Figure 3).

腹部造影CT(ステント内閉塞時).
上行結腸に留置したステントの拡張は良好であったが内腔に異物を認めており,口側の結腸の拡張を認める.
種子の大きさとステント内腔の大きさから内視鏡的除去ができる可能性が考えられ緊急CS検査を施行したところ,上行結腸のステント内狭窄部口側に黒色異物を認めた(Figure 4).当初は五脚鉗子による把持を試みたが,先端がステントメッシュにひっかかってしまい困難であった.Roth NetⓇ(OLYMPUS社)を使用することで異物を経肛門的に除去することに成功した(Figure 5,6).内視鏡的に摘出した黒色異物は梅の種子であり,長径23mm大であった(Figure 7).異物除去後は腹部膨満感の改善を認め,排便も認めた.詳細に問診を行うと入院前に梅干を食したと話しており,種子をはっきりと飲み込んだ記憶はなかったがその際に種子ごと摂取したと考えられた.また,入院時のCTを改めて見返すと小腸に梅の種を疑う異物を認めていた(Figure 8).

大腸ステント内腔に嵌頓した異物を認める.

異物を回収ネットに納めて回収した.

異物が除去され,閉塞が解除された大腸ステント内腔.

摘出した異物.
内視鏡的に摘出した異物は梅の種子であり,長径23mm大であった.

腹部単純CT(ステント留置前).
小腸内に梅の種子を疑う異物を認めていた.
異物除去後は減圧良好であり,高齢であり肝転移も認めたが2期的な根治手術を希望されたため,大腸ステントの閉塞解除13日後に1期手術目として上行結腸癌及び下部直腸癌に対して腹腔鏡下結腸右半切除術(D3),低位前方切除術(D3),回腸人工肛門・横行結腸粘液瘻造設術を施行した.
最終病理診断:占拠部位A,全周性,type2,68.0×40.0×56.0mm(PM145mm DM79mm),tub1>tub2>muc,pT3,ly0,v2,pN1a(1/30),cM1a(H1),pStageⅣa,占拠部位R,全周性,type 0-Ⅱa,31.0×22.0×4.0mm(PM132mm DM18mm),tub1>tub2>por2,pT2,ly3,v1,pN0(0/7),pStageⅣa.
術後経過:術後は合併症なく経過し,術後15日目に退院となった.肝S2の肝転移巣切除及び人工肛門閉鎖術を予定していたが,本人・家族が手術を希望されなくなり緩和医療を行っていく方針とした.
食餌性腸閉塞は腸閉塞全体の約4%と稀な疾患であり 5),原因食物としてはコンニャクや海藻類,きのこ類,餅などが多く報告されている.本症例のような植物種子は形状が丸く小型であるため腸閉塞の原因になりにくく,食餌性腸閉塞の中の0.32~3.6%とされている 6)が,一方で放射線照射の既往がある症例や腫瘍の存在など消化管狭窄の原因がある場合は閉塞の誘因となりうるという報告もある 7).
医学中央雑誌で1975年から2021年までの期間に,「食餌性イレウス」と「大腸癌」をキーワードとして検索したところ(会議録は除く),大腸癌に伴う食餌性腸閉塞は本邦では自験例を含めて8例目の報告であり,その内ステント内閉塞は海氣らの報告に加えて2例目の報告であった(Table 1) 8)~14).

大腸癌食餌性腸閉塞本邦報告8例のまとめ.
平均年齢は75歳(27~104歳),男女比は5例:3例で,原因食物としては梅の種子は6例,柿の種子が1例,西瓜などの種子が1例であり,梅の種子が多かった.右側左側結腸の比は4例:4例であった.
本疾患の症状については他の腸閉塞と同様に腹部膨満のみであり,特異的なものはない.そのため,診断に際しては異物誤飲についての問診が重要となる.自験例では本人に確認したところ梅干を食していた病歴が聴取できた.
食餌性腸閉塞はコンニャクや海藻類,きのこ類,餅などが報告されており 5),通常種子は丸く小さいため食餌性腸閉塞の原因となりにくいが,大腸ステントの直径は20mm程度であり,本症例のように長径23mm程度の硬い種子はステント内にはまり込みやすいと考えられる.
初診時のCTを見返すとすでに小腸内に異物を認めており,梅の種子を飲み込んでいたと推測された.
そのため,大腸ステントを留置前に腸管内に今後ステント内閉塞を起こしうる種子などの異物がないかCTの確認を行うことが重要であると考えられた.
また,食餌性腸閉塞の原因としては,①精神疾患や認知症などの患者要因,②義歯や胃切除後などの消化機能異常,③腸管狭窄や癒着などによる腸管通過障害,④摂取した食物の要因などに分類されており 5),術前減圧目的や緩和目的での大腸ステント留置が普及してきていることを考慮すると,今後高齢者の種子などの誤飲によりステント留置後の食餌性腸閉塞が増加してくる可能性がある.ステント内腔を考慮すると,食餌性腸閉塞の高リスク群である認知症や義歯を使用している患者ではステント内閉塞をきたす可能性を考慮し,梅などの誤飲する可能性のある種子を含む果実や食餌性腸閉塞の原因として多く報告されているコンニャク,海藻類,きのこ類,餅などの摂取を控え,よく咀嚼して食事をするなどの食事指導が重要である.
また,詳細な問診や腹部CT検査により診断可能なのは13~30%程度であり 15),CTで高吸収値を示す餅や種子などと比較して,椎茸やコンニャクなどは明確に異物として描出されず診断困難であったとされている 16),17).そのため,大腸ステント留置後に再閉塞が疑われた場合にはCT上明らかな異物を認めずとも食餌性腸閉塞も念頭に置き,食事歴などの詳細な問診や内視鏡による大腸ステント内腔の観察も考慮される.
閉塞性大腸癌に対する大腸ステント留置後に食餌性腸閉塞をきたした1例を経験した.ステント留置前のCTにて再閉塞の原因となりうる異物が消化管内にないか確認する必要性があると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし