GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
CAPSULE ENDOSCOPIC SCORING FOR CROHN’S DISEASE IN CLINICAL PRACTICE
Teppei OMORI Miki KOROKUShun MURASUGI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 65 Issue 10 Pages 2202-2216

Details
要旨

クローン病(Crohnʼs disease:CD)は主に小腸と大腸に炎症を繰り返し腸管ダメージが蓄積する慢性進行性破壊性の炎症性疾患である.小腸病変は臨床症状やバイオマーカーに反映しにくいことが経験されるため小腸カプセル内視鏡(Small Bowel Capsule Endoscopy:SBCE)などによる粘膜炎症の評価と定量化は重要である.CDに対するSBCEスコアとして一般的に用いられているものとしてはLewis ScoreとCapsule Endoscopy Crohnʼs Disease Activity Indexがある.スコアはさまざまなエビデンスがあるが,スコアのみで判断すると炎症と狭窄のような器質的変化が混在するCDの病態を見誤る可能性があるため注意が必要である.またレポートで報告する情報としてパテンシーカプセルによる開通性評価判定の有無,腸管手術歴,腸管通過時間を必ず明記し,スコアでは判断しにくい術後吻合部潰瘍や狭窄部位,特徴的な胃病変である竹の節状外観や十二指腸のノッチ様陥凹があればもれなく記載することが望まれる.

Abstract

Crohnʼs disease(CD) is a chronic progressive, destructive inflammatory disease characterized by repeated inflammation and intestinal damage, mainly in the small and large intestines. Assessment and quantification of mucosal inflammation by small bowel capsule endoscopy are important because small bowel lesions are often poorly reflected in clinical symptoms and biomarkers. Lewis Score and the Capsule Endoscopy Crohnʼs Disease Activity Index are commonly used small bowel capsule endoscopy scores for CD. Although extensive evidence is available for these scores, it is important to note that judging by scores alone may lead to a misdiagnosis of the pathophysiology of CD, which comprises inflammation and organic changes such as stenosis. The information reported should include patency capsule evaluation results, history of intestinal surgery, and intestinal transit time. In addition, postoperative anastomotic ulcers and stenosis sites that are difficult to determine based on the score and characteristic gastric lesions such as those with a bamboo-joint appearance and duodenal notch-like depression should be noted without fail.

Ⅰ はじめに

内視鏡で得られた所見をスコア化することは,病態を客観的に把握することや治療効果判定に寄与できると考えられる.初期のクローン病(Crohnʼs disease:CD)における病勢のコントロールは病勢進行リスクの低下と関連していることが明らかになっている 1.このことからCDにおいてもtreat-to-targetアプローチの重要性が指摘されるようになり 2,その中で,内視鏡を用いた疾患活動性の評価と内服治療の調整を組み合わせた治療目標へのアプローチが,予後改善の可能性を高めていることが明らかになっている 3.本稿では小腸カプセル内視鏡(Small Bowel Capsule Endoscopy:SBCE)によるCD小腸病変の評価,特にスコアリングの実際について概説し,SBCEが果たす役割について述べる.

Ⅱ SBCEが適切なCDとは

CDは主に小腸と大腸に炎症を繰り返すことで腸管ダメージが蓄積する慢性進行性破壊性の炎症性疾患である.腸管ダメージの蓄積は狭窄や膿瘍形成などさまざまな合併症を引き起こす 4),5ため,病脳期間が短いうちの診断と適切な治療介入が重要である.特に小腸は約70%の患者において病変が認められる一方で,自覚症状に乏しく,CDの疾患活動性評価であるCrohnʼs Disease Activity Index(CDAI)では正確な評価は困難である.さらにCRPも病勢を反映しにくいことが指摘されており 6,CDの小腸病変の評価には客観的で測定可能なモダリティを用いた評価が重要である.小腸病変に対する内視鏡評価としてはBalloon Assisted Enteroscopy(BAE)を代表とするDevice Assisted Enteroscopy(DAE)とSBCEがある.SBCEは低侵襲に小腸全体を視覚化できる検査法である.本邦の小腸内視鏡診療ガイドラインにおいてSBCEはCDの診断や病状評価・経過観察に有用であるとされている 7.SBCEの特徴は高いsensitivityを有する一方specificityが低い特性があり 8,微細な小腸病変も検出可能である.一方でSBCEの有害事象として,SBCE服用後2週間以上経過しても体外排出せず小腸内に残留する「滞留」がある.病脳期間が長いCDは狭窄を有しやすく,SBCEが滞留するリスクがある.滞留を回避するため,SBCE施行前に同形状のパテンシーカプセル(PillCam Patency Capsule:PC)による腸管開通性評価を行うが,開通性が得られない(既に強い狭窄を有する)CDにはSBCEは不適となる.このためSBCEによるCD小腸病変の評価はすべてのCD患者が対象とはならず,CDの診断時における小腸病変のスクリーニングや腸管ダメージの蓄積が比較的少ない炎症がメインの症例や,腸管術後で狭窄はないが癒着がありBAE挿入が困難なCDが良い適応となると考えられる.さらに,CDにおけるSBCEは,CDの内視鏡像の特徴を理解し,従来の内視鏡検査の経験を持つ消化器内科医が評価すべきであるとされている 9

Ⅲ SBCEの実施におけるポイント

本邦で市販されているSBCEはMedtronic社のPillCam SB3,Olympus社のEC-S10,長瀬産業(CAPSOVISION)のCapsoCam Plusがあるが,2023年現在,クローン病に使用可能なデバイスはPillCam SB3だけであり,EC-S10とCapso Cam Plusは上部および下部消化管検査(内視鏡検査を含む)を行っても原因が特定できない消化管出血を伴う患者にのみ使用可能である.ただしPillCam SB3も狭窄を疑う場合は事前にPCによる開通性評価を行う必要がある.CDが疑われる患者または既知の患者におけるカプセル滞留率は約4~8%であると言われているが,PCによる腸管開通性評価やCross sectional imagingを使用した腸管開通性を評価した研究によりそのリスクは半減している 10),11.しかし本邦において用いられているRadio Frequency Identification(RFID)tagがないPCを用いた全国多施設前向き共同研究において,PCの開通性評価を行った後のSBCE滞留はわずか0.51%であった 12.加えてSBCEが滞留した全例がPCの開通性評価の誤判定であったためPCを用いて正確な開通性評価が行えれば安全にSBCEは可能となると考えられる.SBCEの前処置にはPEG,ジメチコン,腸管運動促進薬などの有効性が報告されているが 9,現在において明確なレジメンはない.

Ⅳ SBCEスコア

CDに対するSBCEスコアとして一般的に用いられているものとしてはLewis Score(LS) 13とCapsule Endoscopy Crohnʼs Disease Activity Index(CECDAI) 14がある.LSとCECDAIは相関性が報告されているが 15)~18,一方で狭窄病変による影響や炎症範囲の要素がスコアに反映されにくいこともあるため注意が必要である 18.このため,筆者らはCDの腸管病変の特徴である炎症と狭窄の要素を明瞭化し,炎症により注目した新たなスコアとしてCrohnʼs Disease Activity in Capsule Endoscopy(CDACE)を提唱した 19.また近年,小児CDを対象としたカプセル内視鏡スコアも提案されている 20Table 1)(Figure 1234).加えて小腸と大腸を一度に観察するカプセル内視鏡検査によるスコアも報告されている 21),22

Table 1 

 

Figure 1 

PillCam SB3読影用ソフトウェアRapid8.3モニター画面.

ルイススコア算出は当てはまる項目をチェックすることで自動的に算出される.画面左下に位置情報やCDACEでも用いる小腸通過割合を示すプログレスインジゲーターがある.右下には読影で選択したサムネイルが一覧で表示される.

Figure 2 

CECDAI:炎症スコアの凡例.

CECDAIは小腸を2分割し前後分位の炎症スコアの最強点を選択する.これに分位の炎症範囲スコアと狭窄スコアを加味して算出する.

Figure 3 

CDACE:炎症スコアの凡例.

CDACEは小腸を4分割し各分位の炎症スコアの最強点を選択する.各分位の炎症スコアを合算し,範囲スコアと狭窄スコアを加味して算出する.

Figure 4 

各スコアにおける狭窄の凡例.

狭窄数,通過の有無でスコアが変化するが,Lewis scoreのみ狭窄部の潰瘍の有無がスコアに影響する.

Lewis Score

Lewis Score(LS)は2008年にGralnekらが報告した,小腸粘膜の炎症性変化をスコア化したものである.絨毛の浮腫状変化,潰瘍,狭窄の3項目をパラメータとしている 13.各項目はそれぞれ定義されており,絨毛の浮腫は絨毛の幅が縦横の高さと同等かより大きい,潰瘍は辺縁が赤色もしくはピンク調の白色もしくは黄色の潰瘍底を有するmucosal break,狭窄はSBCEが通過可能か,単発か複数か,潰瘍を伴っているかで規定されている.LSにおいて原著ではアフタやびらんはスコアから除外するのか,潰瘍に包括するのか言及されていない.スコアは小腸通過時間を三分位に分割し,分位ごとに絨毛の浮腫状変化と潰瘍の数,炎症範囲,大きさを乗算し,最も大きい数値の分位と独立した狭窄のスコアを合算して算出する.潰瘍の数は単発,少数(2~7個),多発(8個以上)で分類され,各分位における範囲は短い(セグメントの<10%),長い(セグメントの11-50%),全体(セグメントの≥50%)と定義されている.SBCEが大腸に到達しない場合は,最後に得られた画像までの小腸通過時間を持ってスコアを算出する.スコア範囲は0から7840である.このスコアはCDのみならず,NSAIDによる薬剤性粘膜傷害など小腸の炎症性変化を評価するために開発された.このためCDに特化したスコアではないと指摘されることが多いが,開発コンセプトの中において終末回腸に病変が多いCDを評価しやすいように三分位を独立して評価できるようにしている.Medtronic社のSBCE解析ソフトウェアであるRAPIDに搭載されているため計算式は煩雑であるが,比較的簡便に算出が可能である(Figure 1).LSの重症度は135未満を正常もしくは臨床的に有意ではない炎症性変化とし,135から790未満を軽症,790以上を中等症から重症の炎症性変化と定義している.

CECDAI

CECDAIは2008年にGalらにより提唱されたCDの小腸病変に対するSBCEのスコアリングである 14.小腸通過時間から小腸を近位および遠位の2つの分位に分割し,A. Inflammation score[0-5],B. Extent score[0-3],C. Stricture score[0-3]を近位・遠位で各々(A×B+C)の計算を行い合算する.SBCEが大腸に到達していない場合は,最後の画像を用いて小腸通過時間を算出する.総スコアは,0~36の範囲となっている.Inflammation scoreは0=病変なし,1=軽度から中等度の浮腫・充血・粘膜脱落,2=重度の浮腫・充血・粘膜脱落,3=出血,滲出液,アフタ,びらん,小潰瘍(<0.5cm),4=中程度の潰瘍(0.5~2cm),偽ポリープ,5=大きい潰瘍(≥2cm)と定義され,分位で認められた最も強い炎症所見を選択する(Figure 2).またExtent scoreは分位内の病変分布において0=病変なし,1=1領域,2=多発(2-3領域),3=びまん性(>3領域)と定義されている.狭窄は0=なし,1=単発で通過,2=多発で通過,3=通過不可能のスコアとなっている(Figure 4).CECDAIは解析ソフトウェアに搭載されていないため,都度計算が必要であるがLSに比べて煩雑ではない.原著において特定の閾値を設定していないが,CECDAIレベルが高いほど粘膜炎症の重篤度が高いことを示している.

その他のSBCEスコア

CDACE

われわれはCDの粘膜炎症の評価に重点をおき,一方でスコア値から狭窄の有無を判別可能な新しいスコアリングシステムであるCDACEを提唱した 19.CDACEは炎症スコア(Location inflammatory score:Li),範囲スコア(Range score:R)そして狭窄スコア(Stenosis score:S)から構成される.SBCE解析ソフトウェアであるRAPIDの進捗表示機能(プログレスインジゲーター)を用いて,小腸のSBCE画像の25%,50%,75%で四分位に分ける.サムネイルはブルーモードや他の方法で撮影することで,容易に認識することができる.CDACEもSBCEが大腸に到達せず検査が終了した場合,最後の小腸画像を小腸の末端とみなしてスコア化する.まず各分位で炎症の重症度を5段階のグレードで評価する:正常粘膜=0,浮腫・赤み=1,びらん・アフタ(<0.5cm)=2,不整・円形潰瘍(0.5~2cm)=3,縦走潰瘍・大潰瘍・敷石状変化=4.これら各四分位のスコアを合計して,炎症部位(Li)スコアを得る(範囲:0~16)(Figure 3).CDACEはCDに特異的にするものであるため,縦走潰瘍や広範囲の潰瘍,敷石状変化に高いスコアが与えられる.範囲(R)スコアは前述の四分位における有所見分位数をカウントし算出する(範囲:0-4).また狭窄(S)スコアは0=なし,1=単発で通過,2=多発で通過,3=通過不可能のスコアとなっている(範囲:0~3)(Figure 4).得られた各アイテムは,以下の計算式に挿入しCDACEを算出する.CDACE=Liスコア×100+Rスコア×10+Sスコア(範囲:0000~1643).CDACEスコアの数値は,小腸の炎症の状態を視覚的に読み取ることができる.具体的には1000と100の位が小腸の炎症の強さ,10の位が小腸の炎症範囲,1の位が狭窄の有無を表現する.さらに,10の位の数値で1000と100の位の数値を除算すると分位の炎症の重症度をある程度把握することができる.例えば,CDACEスコア1642は小腸四分位すべてに縦走潰瘍のような強い炎症があり,SBCEが通過可能な多発狭窄が存在していることを示す.CDACEとLSの相関はSpearmanの順位相関係数でρ=0.737(P<0.0001)であり,CECDAIとの相関はρ=0.915(P<0.0001)であった 19

Capsule endoscopy - Crohnʼs disease(CE-CD)

小児CD患者におけるスコアとしてCE-CDがイタリアのグループより提案された 20.CE-CDは小腸を三分位に分け,各分位を潰瘍数(単発=0,1-3個=1,4-10個=2,≥10個=3)+サイズ(なし=0,アフタ=1,≤画像の1/4=2,≥画像の1/4=3)+病変割合(なし=0,≤10%=1,11-50%=2,≥50%=3)+狭窄(0=なし,1=単発で通過,2=多発で通過,3=通過不可能)を合算で算出する(スコア範囲:0-34).LSおよびCECDAIとそれぞれ中等度(Pearsonʼs r=0.581,P<0.001)および強い(r=0.909,P<0.001)相関性を示した.またPediatric Crohnʼs Disease Activity Index(PCDAI)とCE-CDのスコアの比較ではPCDAI>30である25人中23人(92%)はCE-CD≥13であった.一方,PCDAI<10の132人中35人(26.5%)もCE-CD≥13であった.

カプセル内視鏡を用いた小腸大腸評価

CD患者はileocolonoscpyのみならず,小腸造影やCT enterography, MR enterographyといったCross sectional imagingなど,SBCEを含む複数の診断的評価を受ける必要があることが多い.このため消化管全体を一度で評価できれば,患者と医師の双方にとって魅力的である.近年,CDの小腸と大腸の両方の評価に大腸用カプセル内視鏡を用いた報告がある 21)~24.CECDAIを開発した同グループから小腸スコアに大腸スコアを加えたCECDAIic(Niv score)が提唱された 21.大腸スコアは大腸を通過時間から右側と左側の2つのセグメントに分け,CECDAIと同様にA. Inflammation score[0-5],B. Extent score[0-3],C. Stricture score[0-3]:(A×B+C)の計算を行い,計4セグメントの合算で算出する.

近年PillCam Crohnʼs capsule(PCC)(Medtronic, Dublin, Ireland)が発表された 22.PCCは,長寿命(最大14時間)バッテリーと,フレームレートが調整可能な前後視野角336°のカメラを有しており,専用のソフトウェア(Rapid PillCam Reader v.9.0)による解析で小腸と大腸の両方を評価するpanenteric capsuleである.PillCam Crohnʼs capsule score (Eliakim score)はPCCを用いたスコアでありRapid PillCam Reader v.9.0に組み込まれている 22.小腸三分位,大腸二分位とし,各分位の最も認められる炎症程度(A:0-3),最も重症度の高い炎症程度(B:0-3),炎症範囲(C:0-3)に加えて狭窄程度(D:0-3)を((A+B)×C+D)で求める.EliakimスコアはLewisスコアと良い相関を示している.ただし本邦における大腸用カプセル内視鏡は大腸内視鏡検査が施行困難な場合に保険適応となり,またPCCは未承認医療機器であることを留意されたい.

Ⅴ LSとCECDAIを用いたエビデンス

SBCEスコアを用いた研究はさまざまなものが報告されている.CD疑診例に対してLS≥135をカットオフとした場合の診断の感度,特異性,PPV,NPVがそれぞれ89.5%,78.9%,73.9%,91.8%であり,CD診断精度は83.2%であったと報告している 25.またLSはValidation study 26や,CDの小腸病変の診断,フォローアップ,治療効果判定 25)~29に有用である可能性が指摘されている.さらにLS≥270は,CDに関連した入院の予測因子として同定されており 30,ベースラインのLS≥350は,24カ月間の疾患再燃(baselineのCDAI>70の増加,CDAI>150,治療介入)を予測する 31.また術後のCDに対するSBCEによるモニタリングは独立した主要転帰(CD悪化による入院,再手術,内視鏡拡張術)からの保護因子(HR=0.45,95%CI=0.20-0.96)であることが報告されている 32.CECDAIも評価基準とした粘膜治癒を目標としたprospective studyも報告されている 33.またValidation studyも報告され,各読影者間の相関性は良好であった 34.これらのことからもEuropean Society of Gastrointestinal Endoscopy(ESGE)は,CDの活動性を長期的に評価するために,LSやCECDAIなどの使用を推奨している 8

Ⅵ SBCEスコアにおける課題点

LSとCECDAIは互いに良い相関を示したが 15),35,研究に登録された集団によりLSとCECDAIの相当するスコアはばらつきがあり,LS:135はCECDAI:3.8~7.7,LS:790はCECDAI:5.8~10.3となっている 15)~18.CECDAIは小腸二分位のスコアを合算するが,LSは小腸三分位の最もスコアが高かった一分位のみがスコアに加算されるため,小腸全体の炎症評価が反映しにくい 18.このため三分位すべてのスコアを合算した累積LSはCECDAIとの相関性向上が認められた 15.しかし,この2つのスコアは狭窄が与える影響に大きな違いがある.スコア範囲自体も異なるため,直接的な比較は困難だが,狭窄スコア範囲はLS:0-4800,CECDAI:0-3となっていることを考慮すると,スコア範囲に占める狭窄の影響が大きいことがLSの特徴となる.このため,同じ症例に対して各スコアを計算すると重症度が各スコアによって異なる場合がある 18.したがって単純にスコアのみで判断すると炎症と狭窄のような器質的変化を伴うCDの病態を見誤る可能性があるため注意が必要である.CDACEはより炎症に特化したスコアシステムである一方で,狭窄の判定にも有用であると考えられるが今後のエビデンス集積が求められる 19.SBCEのレポートを作成する際にはスコアのみならず計算式など中途の情報を明確にしておくべきかもしれない.

またSBCEスコアはCDAIやHarvey-Bradshaw Simple Index(HBI)といった臨床的活動度やCRPなどの血清学的バイオマーカーとの相関があまり高くないことが知られている 15),17),36),37.Kopylovらの研究 37は,SBCEが臨床的およびバイオマーカーの寛解期にある患者においても病変を検出する可能性があることを例証していることから,SBCEはより粘膜の炎症を検出することが考えられる.一方,便中カルプロテクチンはLSやCECDAIと中等度の相関があり 15),16,カットオフ値100μg/gはLS≥135の検出予測に有用である可能性が報告されている 38.また新規バイオマーカーのLeucine-Rich Alpha-2 Glycoprotein(LRG)もCD小腸病変の評価に有用であることが報告されている 39)~41.CDAI<150かつCRP<0.5mgdLの臨床的寛解期のCDにおいて,カットオフ値LRG 14μg/mLはLS≥350の感度,特異性,PPV,NPV,精度が100%,80%,41.7%,100%,82.5%であり,LRGは潜在している小腸病変の存在を予測しSBCEを行うサロゲートマーカーになる可能性が示された 42

術後腸管の場合,CDの活動度とは関係の乏しい吻合部上の線状潰瘍の存在(Figure 5)などもスコアに影響を及ぼすと考えられる.各スコアにおいて,吻合部上の線状潰瘍における取り扱いは規定されていないが,周囲粘膜の浮腫上変化やRutgeerts scoreのi2以上の炎症性変化 43が認められる場合には活動性炎症との区別は困難である.それらの場合は臨床症状やLRGなどのバイオマーカーの情報も加味して判断する必要がある.

Figure 5 

術後吻合部.

左図:きれいな吻合部.右図:吻合線上に白苔を伴う潰瘍があるが,周囲に明らかな炎症がなく疾患活動性とは関連が乏しいと判断した.

また日常臨床において,SBCEの「アフタ/びらん」と「潰瘍」の区別が不明確になっている点が挙げられる.よく目にする「SBCEの潰瘍の定義」としては,「ある程度の大きさがあり,辺縁が明瞭な深い粘膜欠損」 44や「辺縁が赤色もしくはピンク調の白色もしくは黄色の潰瘍底を有するmucosal break」 13とされている.SBCEにおけるびらん/潰瘍の定義のコンセンサスステートメント 45ではアフタ性びらんは「周囲粘膜は正常で中心が白く,赤色のハローを伴う上皮層の微小な欠損」,深い潰瘍は「周囲の腫脹・浮腫粘膜と比較して明確な深い白苔を伴う組織の喪失」,その間に表層性潰瘍「白苔を伴う軽度の陥没した組織欠損でアフタ性びらんと深い潰瘍の定義に一致しないもの」とされている.一般的にびらんと潰瘍は欠損する粘膜の深さによって定義されるが,SBCEではその判断は困難であるため診断に個人差が生じている可能性がある.このためCECDAIやCDACEで規定されているような病変の大きさの要素で判断されるのが幾らかの客観性を有すると思われる.5mm以上の小腸潰瘍性病変の存在が予後に影響することなどから 6,個人的には5mm以上のものを潰瘍,5mm未満のものをびらんと判断しているが,議論の余地があり本邦でのコンセンサスを統一する必要があると考えている.なお病変のサイズ測定は,一般的な小腸の内腔直径2.5cmから推察し判断している(Figure 6).

Figure 6 

潰瘍の大きさの推定.

一般的な小腸の直径が2.5cm程度であり,そこから管腔の円周が8cmと仮定すると,大まかな病変の大きさが推定される.ただしSBCEは送気を伴わない腸管観察であり,実際の病変サイズは異なる可能性があることを念頭におく必要がある.

加えてSBCEは大きい病変は視野の問題で把握しづらいことや腸間膜付着側の判断ができないことなどから縦走潰瘍の判断は困難な場合がある.しかし本邦における厚生労働省難病性炎症性腸管障害に関する調査研究班から出されている診断基準 46では,縦走潰瘍は腸管の長軸方向に沿った典型的には4~5cm以上の長さを有する潰瘍であるが,長さは必須ではないとされている(Figure 7).また十二指腸・小腸においてKerckring襞上に輪状に多発する場合があり(Figure 8 47,令和3年度改訂版からSBCEを用いたCDの診断アルゴリズムも提唱されているので参照されたい.その他実臨床において空腸から回腸に移行するに従い,びらん,潰瘍,縦走潰瘍へと進展するTransition of SB lesions(TSL)という傾向があることが指摘されている(Figure 9 48.これらのCDに特徴的なSBCE所見を蓄積することで,より正確な重症度判定に寄与しうるスコアが考案される可能性もある.

Figure 7 

縦走潰瘍.

縦走潰瘍は腸管の長軸方向に沿った潰瘍である.SBCEは大きい病変は1枚の画像では視野の問題で把握しづらいことがあり,画像も連続的に評価する.また管腔の進展が乏しい場合は潰瘍がわかりにくいこともある.

Figure 8 

Kerckring襞上の潰瘍.

十二指腸・小腸においてKerckring襞上に輪状に多発する場合があり,令和3年度改訂版診断基準におけるSBCEを用いたCDの診断アルゴリズムの副所見に挙げられる.

Figure 9 

Transition of SB lesions.

CDでは病変配列にも特徴があり,実臨床において空腸から回腸に移行するに従い,びらん,潰瘍,縦走潰瘍へと進展するTSLが観察されることがある.

【症例提示】

症例:20歳代 男性.

数カ月前に肛門部痛を自覚し他院受診したところ痔瘻の診断を受けた.その後持続する慢性的な腹痛と体重減少を主訴に当院紹介受診した.上部消化管内視鏡検査並びに大腸内視鏡検査を施行したが明らかな異常所見は認められなかった.比較的若い男性であったこと,採血でCRPが0.86mg/dLと軽度上昇していたことからクローン病を疑い小腸病変の検索を目的として,PCを用いて腸管開通性評価を得たのちにSBCEを施行した.

【SBCE所見①】

PCによる開通性評価を得てSBCE施行し,全小腸を観察.腸管手術歴なし.食道通過時間5秒,胃通過時間0分,小腸通過時間4時間8分.十二指腸にはあまり目立たないが,上部空腸から回腸全域にわたりびらんが散在している.終末回腸近くに移行するに従いびらんが大きくなる傾向(TSL)が認められる.終末回腸には縦走潰瘍が認められる(Figure 10).

Figure 10 

治療介入前SBCE.

TSLを伴い,小腸全域にびらんが散見される.また終末回腸には縦走潰瘍が認められる.

Lewis score:(150,150,600)+0=600

CECDAI:(3×3+0)+(5×3+0)=24

CDACE:(2+2+2+4)×100+4×10+0=1040

【SBCE後経過】

SBCEの所見をもとに,シングルバルーン小腸内視鏡検査を施行し小腸型CDの診断に至った.全小腸にわたる広範な消化管病変を有し,回腸には縦走潰瘍を認めた.また痔瘻の経過もあったことから疾患活動性は高いと判断し,生物学的製剤としてAdalimumabによる寛解導入を行った. 投与開始後,自覚症状や炎症マーカーは速やかに改善し臨床的,biomarker寛解を得た.その後もAdalimumabを40mg/eowで維持投与継続し,投与開始後半年後に治療効果判定目的で再度SBCEを行った.

【SBCE所見②】

PCによる開通性評価を得てSBCE施行し,全小腸を観察.食道通過時間1秒,胃通過時間51分,小腸通過時間1時間25分.腸管手術歴なし.小腸全域に認められたびらんはほぼ消失している.中部小腸に単発のびらんを認め,回腸末端に全周性の浮腫状粘膜を認めるが縦走潰瘍は消失している(Figure 11).

Figure 11 

治療介入後SBCE.

Adalimumab投与により臨床症状のみならずSBCE所見も改善した.各種スコアも数値が低下し改善している.

Lewis score:(0,0,8)+0=8

CECDAI:(3×1+0)+(1×1+0)=4

CDACE:(0+2+0+1)×100+2×10+0=320

SBCEでは活動性炎症像を認めず,臨床的寛解も得られていたためAdalimumabの投与継続とし現在も経過観察を行っている.

レポート記載のポイント

筆者らはレポート内の情報としてPC使用の有無,腸管手術歴,腸管通過時間を必ず明記している.またスコアはLS,CECDAI,CDACEを用いているが,スコア結果となった計算式も記載している.このことでスコアを構成している要素が炎症か狭窄かを判断しやすくなる.加えて,スコアでは判断しにくい術後吻合部潰瘍や狭窄部位,TSLの有無を併記することで病態の理解をしやすくしている.これらの結果を踏まえてCD疑い例の場合はCDの診断基準 46に則って確定診断もしくは追加検査,CD確診例であれば治療の継続や治療強化の推奨をコメントしている.

レポート記載において,SBCEはCDの特徴的な胃病変である竹の節状外観(Figure 12)や十二指腸のノッチ様陥凹など(Figure 13)が認められた際には,これらの情報ももれなく記載することでより正確な報告ができる.

Figure 12 

竹の節状外観.

SBCEが胃を通過する時に噴門部付近で撮像されることがある.CDを疑う症例の場合は胃画像も確認することが望ましい.

Figure 13 

十二指腸ノッチ様陥凹.

CDの特徴的な十二指腸病変として撮像される.一般的なNSAIDなどによる薬剤性粘膜傷害では観察されにくい所見である.

Ⅶ おわりに

SBCEによるCDの活動性および重症度の評価のためのスコアの紹介とスコアのエビデンスや課題を提示した.スコアは病態を客観的に表現するために有用な道具であり,治療介入の契機や治療介入後の効果判定などにも用いられるべきである.このため炎症のみならず器質的変化も有するCDに対してのスコアリングは慎重に把握する必要がある.最後に本稿がスコアリング時の備忘録となり活用いただければ幸いである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:大森鉄平(武田薬品工業株式会社)

文 献
 
© 2023 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top